腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
昼休みになったので俺はひよりの元に向かう。ひよりも俺に気付いて微笑みを浮かべながら近寄ってくる。
「お疲れ様です八幡君。昼食はどこで食べますか?」
「そうだな……ん?メールだ」
ポケットから電子音が聞こえてきたので携帯を取り出して見てみると有栖からで「昼食ですが、特別棟裏にある中庭で一緒に食べましょう。お待ちしています」と書かれていたので、ひよりに見せると小さく頷く。
「どうやら昼食はそこで食べるようですね。行きましょうか」
ひよりが俺の腕に抱きついて歩き始めるので俺もそれに続く。もうひよりが腕に抱きつくことについては何も言わない。言っても上目遣いされたら拒否出来ないし、ひよりの日記を見てからはひよりのおねだりに拒否出来なくなっている。
特別棟の方に向かうと、ワゴン車がいて生徒に弁当を配布している。何でも今日一日限定で外部の業者が無料で配給するらしく、多くの生徒が集まっている。特にDクラスなんかは由比ヶ浜の所為でポイントを殆ど持ってないので顕著だ。
と、ここで弁当を受け取った面子の中で由比ヶ浜がいて、こっちに気付いて近寄ってくる。休み時間なのに疲れる気配しかしないな……
「ヒッキー!何してんだし!」
やっぱり来やがったよ。頭が痛くなってきたよ。
「何してるも何も昼飯を食べに行くだけだ」
「そういう意味じゃなくて!何であたしに謝らないで呑気に女子と過ごしてるの?!本っ当キモい!」
ヤバい、マジでぶん殴りたい。
「何について謝れってんだよ?」
「はぁ?!そんなこともわかんないの?!ゆきのんを殴ったことやあたし達のクラスポイントをズルして奪ったことに決まってんじゃん!」
「雪ノ下さんの件については兎も角、クラスポイントについては貴女が八幡君を階段から落とした事が原因では?」
と、ここでひよりが怒りを滲ませながらそう返す。同感だな。雪ノ下の鳩尾に拳を叩き込んだ件についてはやり過ぎと自覚はあるが、クラスポイントについては由比ヶ浜が1番悪いだろう。
「部外者は黙っててよ!ヒッキーを階段から落としたのはヒッキーがゆきのんを殴ったからあたしは悪くない!それなのに学校はあたしを1番の悪者にするし、ヒッキーがなんかズルしたんでしょ!」
もう退学覚悟で半殺しにして良いか?
そこまで考えている時だった。
「ちょっといい加減にしてくれない?」
金髪ギャル……確か軽井沢恵だったか?……が呆れ顔をしながら俺の前に立ち、由比ヶ浜と向き合う。
「2人の関係はどうでもいいけどさ、由比ヶ浜さんが喚くとクラスの皆に迷惑がかかるから比企谷君に関わらないで欲しいんだけど」
軽井沢はそう言ってくるが、ギャルの見た目に反してマトモな感性を持っているようで安心した。
「けいけいは関係ないじゃん!人の気持ちを考えられないヒッキーにはあたし達に謝らせないといけないんだから引っ込んでてよ!」
「だったらまず退学回避の為にプライベートポイントを出したあたし達に謝ってよ。後けいけいって呼ぶのやめて?嫌がってるあたしの気持ちも考えて」
軽井沢の呆れた声に由比ヶ浜は言葉を詰まらせてしまう。ごもっともな意見に黙らせることが出来たかと思えば……
「も、もう終わったことじゃん!大体あの時だって、テスト前にヒッキーやあのチビに集中力を奪われたから赤点を取っただけで悪いのはヒッキーやチビだよ!」
うわコイツ。助けて貰っておきながらそんなセリフを吐くとかマジで終わってんな。周りにいる人間も信じられないって表情を浮かべてるし。
「はぁ〜、もう頭が痛くなってきた。比企谷君って中学から大変だったんだね」
軽井沢が同情の眼差しで俺を見てくる。大抵由比ヶ浜と話した人間は俺に同情の眼差しを向けてくるんだよなぁ。
「残念だがな」
「とりあえず由比ヶ浜さんはあたしが止めとくから、行った方がいいよ。由比ヶ浜さんは絶対に引かないだろうから」
「恩に着る」
「失礼します」
俺とひよりは軽井沢に頭を下げて歩き出す。それに対して由比ヶ浜は詰め寄ろうとするが軽井沢が止めに入る。
「ちょっと邪魔しないでよ!ヒッキーとの話の邪魔すんなし!」
「だったら由比ヶ浜さんはクラスの邪魔しないでくれない?」
そんなやりとりを背後から聴きながら俺達は距離を取る。同時に頭の痛みがマシになってくる。マジでありがとうございます。見た目からしてビッチかと思ったが、予想よりも優しいことに驚いたわ。
「疲れた……」
「お疲れ様です。八幡君は大変ですね」
「雪ノ下がいない分マシだ」
多分体力が限界に来て、どこかで休んでいるのだろうが、それが幸いした。
「それにしても八幡君は中学時代に彼女と何があったんですか?」
そういや有栖には話していたが、ひよりには話してなかったな。
「実はだな……」
そう前置きして俺は歩きながら全て話す。内容が内容だから余り話したくはないが、話さないと由比ヶ浜が変なことを吹き込む可能性があるからな。
やむなく話すと、ひよりは途中までは頷きながら聞いていたが、嘘告白について話すと悲しそうな眼差しで見てきて、すごく罪悪感が湧いてくるが、何とか話す。
「って、感じだな」
「……そうですか。私はその場に居なかったし、もう終わった事だからどうこう言いません。けど赤の他人の恋愛事情に踏み込み過ぎるのはもうやめてくださいね。誰の為にもなりません」
「ああ」
ごもっともだ。アドバイス程度ならまだしも、振られないように動くってのは逸脱した行為だ。それでありながら動いた俺には反省点がある。
しかし反省点があるのは認めるが、雪ノ下と由比ヶ浜の態度については納得出来ない。やり方を否定するだけなら兎も角、謝れ謝れ喚くのは気に入らない。何故お前らに謝る必要があるんだって話だ。
「それに……これは完全に私情を挟んでいるので不快に思うかもしれないですが、こ……告白は私以外にはしないで欲しいです」
ひよりは真っ赤になってそう言ってくる。ひよりの日記を見たり、何回も唇同士のキスをしている事からひよりに好意を持たれている事はわかってはいたが、ハッキリ言われると結構来るものがある。
「わ、わかった。嘘告白はもうしない……」
「……約束ですよ」
ひよりは艶のある眼差しで俺を見てくる。そんなひよりを見るとYes以外の選択肢は無かった。
そしてひよりの唇をつい魅入ってしまう。既に何度も重ねた唇だが、見慣れる気がしない。
暫くすりとひよりが恥ずかしそうな仕草を見せる。
「は、八幡君……そ、そんなに唇が気になりますか?でしたら……良いですよ」
ひよりは目を瞑って唇を突き出してくる。不味い、ひよりからキスされたことはあるが俺からキスしたことはない。しかけたことは何回かあるけど。
けどひよりな良いと言うなら良いんじゃ「おやおや随分とお熱いですね」こ、この声は……
どうしたものかと悩んでいる時に穏やかな声が聞こえてきたので横を見ると……
「来るのが遅いので迎えに来たのですが、どういうことでしょうか?」
有栖がニッコリと笑っていた。ただし額に青筋を浮かばせながら。
俺は即座に有栖に対する言い訳を考え始めるのだった。
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