腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「……なるほど。由比ヶ浜さんに絡まれるとは八幡君も災難でしたね」
特別棟裏にある中庭にて、俺はひよりと一緒に有栖が用意したシートに座って、遅くなった理由を説明すると有栖は納得したように頷く。有栖も由比ヶ浜にイラついているようでさっきまでの怒りは見えなくなった。
「加えて中学時代の話をすれば遅れても仕方ないですが、椎名さんは少々攻め過ぎでは?八幡君は私のものですよ」
そう言いながら有栖は俺の右腕に抱きつくが、俺はお前のものじゃないからな?
「違います。八幡君は私のもので、私は八幡君のものです」
ひよりは対抗するように俺の左腕に抱きつく。2人が抱きつくことにより温もりが伝わってくるが、ひよりの方が柔らかく感じる。まあ口にしたら有栖がブチ切れそうだから言わないけど。
「と、とりあえず飯を食おうぜ。腹が減って仕方ないしご馳走になるぞ」
「……まあ良いでしょう。どうぞ召し上がってください」
有栖が不満そうに言いながらも了承するので、俺は有栖が用意した弁当箱を開ける。
中には鮭の切り身にマッシュポテト、筑前煮にローストビーフなど和洋折衷な料理が並んでいた。
「美味そうだな」
「そう言ってくれて嬉しいです……私の想いを込めてましたので」
最後の一言だけを耳元で囁く有栖だが、今のは破壊力が半端ない。普段の姿とはギャップ差があり可愛過ぎる。
「そ、そうか……頂きます」
「「頂きます」」
俺に続いて、2人も挨拶をして食べ始めるが、先程の有栖の爆弾発言により恥ずかしくて味が余り認識できない。
しかしそれでも旨味を感じるので平常時なら相当美味いだろうな。
そう思いながらも俺は夢中で食べ続けるが、終盤になると羞恥心が無くなってきたからか一層旨味を感じて最高の食事となった。
「ご馳走さまでした」
「美味しかったですか?」
「最高だった。可能なら毎日食いたい」
俺も自炊をしているが、有栖の弁当と比べたら内容はかなり劣っていると思う。
「八幡君が望むなら毎日……それこそ卒業してから、仕事に就いてからも作りますよ」
有栖は珍しくモジモジしながらそんな事を言ってくるが、それはつまり「八幡君」ひより?
いきなり呼ばれたので見てみるとひよりはジト目で俺を見ている。
「私も八幡君にお弁当を作りますから食べてください」
「あ、ああ……」
予想以上に強い口調に気圧されてしまう。ひよりってあんなに強い口調になれるんだな……というか有栖のジト目が痛い。俺にどうしろと?
「あ、ご飯粒が付いてますよ」
ちゅっ
言うや否やひよりは顔を近づけてきて、唇の端についているご飯粒を唇で取ってきたので、思わず振り向く。そこには舌を出してご飯粒を見せつけているひよりがいて、そのまま舌を口の中に入れる。
「ふふっ……」
蠱惑的に笑うひよりは凄くエロく、ぶっちゃけムラっとしかけるが、背後からプレッシャーを感じて煩悩が無くなる。
「八幡君。少しよろしいでしょうか?」
「は、はい」
ひよりから目を逸らし有栖を見ると、額に青筋を浮かばせながら笑う有栖がいた。ハッキリ言ってメチャクチャ怖い。
「改めて聞きますが、お弁当はまた食べたいですか?」
「え?あ、ああ。また食べたい」
予想外の質問だが正直に答える。
「それは結構。では契約は成立したので、報酬を要求します……」
有栖はそう言って恥ずかしそうにしながらも目を瞑り、唇を突き出してくる。
これはつまり報酬としてキスを寄越せってことだろう。しかも契約は成立したと言ってる。
契約内容を聞いてないから無効だ、という選択肢もないわけじゃないが、有栖の性格上それは認めないだろう。
すると今度はひよりが俺の服を引っ張ってくる。
「八幡君、さっきは坂柳さんが介入しましたが、あの時の続きを……」
ひよりも同じように目を瞑って唇を突き出してくる。同時に冷や汗が流れることを自覚する。
キスすること自体はそこまで問題じゃない。恥ずかしいが既に何度も経験してるからな。
問題は順番だ。多分後にキスをした方は「何故自分が後なのか」と聞いてくる可能性が高い。正直言ってそれが一番厄介だ。
しかし拒否したらしたで更に面倒な事になるだろう。有栖あたりは第三者がいる場所でねだってくるかもしれない。目的のためなら手段を選ばない一面もあるからな。
俺は悩んでしまうが、2人はお構いなく顔を近づけてくる。早くしないと面倒な事になるのは明白だ。
「……よしっ」
覚悟を決めた俺はひよりの方に身体を向けてそのままキスをする。
「ふふっ、八幡君からは初めてですね……」
ひよりは幸せそうに微笑む。そんな風に笑われるとこっちも幸せな気分になる。
しかしそんな幸せは逆サイドからのプレッシャーにより一瞬で吹き飛んでしまう。
逆サイドを見れば不機嫌全開の有栖がいた。
「幸せそうで何よりですが、何故椎名さんからなんですか?」
「いや、元々ひよりとやろうとした際に有栖がやってきたし、先にやろうとしたひよりからと思っただけだ」
「……そうですか。まあ他意はなさそうなので良しとしましょう。それよりも私にもお願いします」
言いながら再度目を瞑り唇を突き出してくる。ここで拒否したら絶対面倒な事になるのは明白なので、俺は有栖に近寄り触れるだけのキスをする。
「んっ……身体が温かくなります……」
有栖は幸せ全開な表情で微笑みを浮かべている。普段は冷たい表情が多いのでギャップを感じるな。
「そりゃ良かった。それにしても結構疲れたが、推薦種目がキツイな」
9種目は強制参加であるし、棒倒しでは人間ミサイルになったし、騎馬戦では須藤の突進を受けたし、200メートル走では巻き添えを食らって転倒するなど中々ハードであった。
「仕方ありませんよ。まあ八幡君は昼休み終盤に面倒事に巻き込まれますので30分くらい横になって休んでください」
有栖は意味深な言葉を言ってくる。どうやら龍園と何らかの悪巧みをしているのだろうな。
何にせよ疲れてるのは事実だし休ませて貰うか。
「じゃあお言葉に甘えて」
言いながらシートに寝転がる。すると有栖が俺の正面に抱きつき、一拍おいてひよりが俺の背中に抱きつく。
「お前ら、恥ずかしいから離れてくれないか?」
「「嫌です」」
2人は即答して抱きしめる力を強める。自室で2人と寝るのは慣れてるが、屋外で寝るのは初めてだ。
というかマジでどうしよう。2人は間違いなく俺に好意を持っているだろう。しかしどちらか片方しか選べない。
これが龍園なら2人まとめて自分の女にするだろうが、俺にはそんな甲斐性はないからな。
(ま、今はどうこう考えても意味ないし、休むとしよう)
焦って変な答えを出すより、じっくりと考えるのが最善だからな。
そう思いながら俺は横向きの身体を、仰向けにして両手を2人の枕にする。
両サイドを見ると2人は優しく微笑んでくれて由比ヶ浜との一件で溜まったストレスが解消しているのが理解出来る。
そうやって暫くの間、2人に挟まれながら休んでいるとポケットの携帯が鳴り出す。どうやら休憩の時間は終わりのようだ。
携帯を取り出してみると龍園からで「今すぐ保健室に来い。ただし俺がいることを知らないフリをして、怪我をしたからって理由で来い」と書かれていた。
「すまんがちょっと行ってくる」
「はい。気をつけてください」
「頑張ってくださいね」
2人から激励を受けた俺は身体を起こし、靴を履いて保健室がある校舎に向かう。が、途中でわざと転んで、足から血を流し保健室に行く言い訳を作る。
足に痛みを感じながらも保健室に着いたのでドアを開ける。
「失礼します」
するとそこにいたのは龍園、龍園の向かい側に一之瀬と網倉がいて3人の奥にあるベッドに山峰が寝ていた。
物凄く面倒な予感がしてきた。
「失礼しました」
「おいおい。酷い怪我をしてんだし帰んなよ。その傷もCクラスの連中にやられたのか?」
「だから!私がやったように言うのはやめてよね!」
「落ち着いて麻子ちゃん。私は信じてるから」
龍園の笑いに網倉が怒りを露わにしながら叫ぶ。この時点で何があったわかった。
「ついさっき石段に躓いて転んだんだよ。んで保健室に来たんだが、Cクラスの連中にやられたってのはどういう意味だ?」
とりあえず今から保健室を出るまでは言われたように龍園に反抗的な態度を取るように心掛けるように考えていると……
「それがよ、さっきの山峰と網倉の接触なんだがよ、網倉が狙ってやったことなんだよ」
龍園が薄い笑みを浮かべながらそう告げる。
大体予想通りだな、うん。
読者の皆さんは森の声を聞いた事がありますか?
-
はい。
-
いいえ