腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「それがよ、さっきの山峰と網倉の接触なんだがよ、網倉が狙ってやったことなんだよ」
龍園はそう言ってくる。やはり山峰の大怪我の責任を網倉に押し付けるつもりなのだろう。
「適当な事を言わないでよ!」
「煩えぞ。自分の非を棚上げすんな」
網倉の叫びを龍園が一蹴するが、お前が言うなよと思った俺は間違いないだろう。
「済まんが詳しく聞かせてくれ」
「お前もレースを見たと思うが、網倉は走ってる途中にチラチラ見てただろ?」
「ああ。怪しかった動きだったし覚えてる」
「あれは山峰を負傷させる為にタイミングを見計らっていて、山峰によれば倒れた瞬間に「絶対にBクラスに戻るから」って網倉に言われたらしい」
「私はそんな事言ってない!山峰さんが私を何回も呼んだから振り向いたのに嘘はやめてよ!」
龍園と網倉の意見は正反対だが、あのレースを見るとどっちの言い分も理に適っている。
しかし離れている場所から見ていた俺達には実際の話はわからない。まさに悪魔の証明だ。
しかしこうなると網倉が不利だ。山峰は網倉より運動能力があるはずだが負傷している。
日本は弱者救済の強い国でこの学校もそうだろう。意図的な事故という可能性が少しでもあるなら審議に入れるし、怪我をして推薦競技に出れない山峰が僅かに有利になるだろう。
「そんな感じで俺としてはCクラスに落とし前をつけて貰いたいんだが、網倉は自分の非を認めないんだよ」
龍園はため息を吐きながら両手を横に振る。その仕草は無関係の俺からしてもウザいので当事者の網倉からしたら相当だろうな。
「そんで俺としては生徒会に訴えようか悩んだが、手打ち料として100万ポイントを提案したタイミングでお前が来たんだよ。で?払うのか?」
案の定網倉は龍園に詰め寄ろうとするが、一之瀬がそれを手で制して龍園と向かい合う。
「麻子ちゃんはそういうことを絶対にしない。だから手打ち料を払うつもりはないよ」
「自分のクラスメイトだから庇うよな。けどこっちとしては推薦種目に出場する山峰を怪我させられておきながら、はいそうですかって訳にはいかないんだよ。要するに不幸な事故だから諦めろってことだよな?」
「残念だけどそうかな。私は今回の件はBクラスが起こした意図的な事故だと思うからBクラスの要求は呑まない」
流石しょっちゅう龍園と揉めてるだけあり、一之瀬は引く様子はない。
「あくまでも非を認めないか。だったら出るところに出て審判を下して貰おうぜ」
審判となると生徒会か。
「待て龍園。それは反対だ。一之瀬は生徒会に所属しているが、相手の土俵で戦うのは悪手だ」
龍園からは「俺の意見に反対しろ」って命令を受けたが、その命令が無くても生徒会に持ち込むのはリスクが大き過ぎる。
「いやいや。確かに私は生徒会に所属してるけど、堀北会長達はそういった問題に私情は挟まないよ」
「絶対とは言い切れないだろ。普段一緒に仕事をしている一之瀬がいるクラスの問題を審査する時、無意識のうちに一之瀬がいるクラスに味方する可能性もある」
俺も龍園と無関係の人間なら、龍園の罠と疑っている自信がある。
「加えて以前俺達は訴えを起こして取り下げた経験もあるし、普段からトラブルを起こしてるウチのクラスが不利だから反対だ」
正直言って生徒会に問題を持ち込んだら勝ち筋が見えない。
「なるほどな。確かにお前の言うことは一理あるが、訴えはする。泣き寝入りなんてしたら、Cクラスは今後つけ上がるだろうからな」
「っ……!さっきから聞いてれば私が悪いみたいに……!良いよ!審議で戦うから訴えたかったら訴えなよ!」
龍園の悪意に網倉は審議で戦う事を宣言する。
「麻子ちゃん落ち着いて。挑発に乗っちゃダメ」
「大丈夫だよ!私は絶対にしてないって自信があるし、寧ろ審議で勝ってBクラスを叩くチャンスだよ!」
一之瀬の注意に網倉は強気で反論する。瞬間、龍園の目が一瞬だけかかったと言ったような気がする。
そこまで話していると保健室のドアが開いたので横を見れば、生徒会書記の橘先輩がいた。
「失礼します。ちょうど今審議という言葉が聞こえましたが、問題でもありましたか?」
「ああ。ちょうど良かった。実はだな……」
龍園は橘先輩に説明するが、お前は敬語を使えや。
事情を聞いた橘先輩は頷く。
「お話はわかりました。一先ずは訴えを申請しておきます。詳しい話は体育祭が終わるまでに決めますので、体育祭が終わり次第担任の先生の指示に従ってください」
「ああ」
「わかりました」
龍園と一之瀬が頷くと橘先輩は何処かにメールをしてから保健室を後にする。
「さて、もうすぐ昼休みも終わりだし俺はもう行くが、お前らの卑劣な行いは裁かれる事を楽しみにするぜ」
「随分自信があるんだね」
「当然だろ。悪いのは網倉なんだから」
悪いのは龍園なのに、当たり前のように自分が悪くないと言う時点で相当な悪だろ。まあそれをどうこう言うつもりはない。
既に賽は投げられたからな。まあ龍園の自信からして勝つ算段があるのだろう信じよう。
龍園の理不尽な言葉に網倉は龍園に詰め寄ろうとするが、一之瀬が止めて、網倉を連れながら出て行く。Cクラスの連中は1学期も龍園と揉めたようだが、一之瀬は大変そうだな。
そう思いながら周りを見回すが、保険医が見当たらない。多分打ち合わせか救護テントにいるのかもしれないので治療は諦めることにした。
「で?勝算はあるのか?」
保健室を後にしながらそう尋ねる。あそこまで自信があるなら勝算もあるのだろうが正直不安だ。
「ああ、ある」
「証人を利用するという選択肢なら櫛田がいる時点で悪手だぞ」
証人と呼ばれるなら網倉と山峰が走っている時に近くで走っていた生徒だ。
そしてその生徒は4人いる。Aクラスの生徒が2人、ウチとDクラスが1人ずつだ。しかし証人となればウチのクラスから証人を出すのは無理なので実質3人だ。
Aクラスの2人と口裏を合わせて、「網倉が「絶対にBクラスに戻るから」と言っていた」と証言しても、櫛田が否定すれば勝ち目は殆どなくなる。ただでさえウチとAクラスは同盟を結んでいて、発言力は高くないのだから。
しかも櫛田は人気者だから発言力が高いし。まあ本当の性格は知らないが。もし普段の櫛田が素ならDクラスにいるなんてあり得ないし。
まあそれはともかく、それでも尚勝ち目があると言うって事は、生徒会に賄賂でもしたか?堀北会長あたりは受け取らないだろうが、南雲副会長あたりは受け取りそうだし。
「安心しろ。向こうが審議に応じた時点で勝ちは確定した。寧ろCクラスの立場を弱らせるチャンスでもある」
……まあ本人がそう言うなら信じてみよう。
どうせしくじっても俺に罰が来ることはないだろうからな。それなら何の問題はない。
俺は龍園に頷きながらグラウンドに向かう。推薦競技も頑張らないといけないからな……
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