腐り目、実力至上主義の学校に入るってよ 作:トラファルガー
「ふふふふふっ……私の所有物に手を出すとは良い度胸ですね椎名さん」
グラウンドの中央にて八幡にキスをするひよりを見た有栖は低い声を出しながら、額に青筋を浮かばせ、目元をピクピクさせて、唇を噛み締め、杖を握り締めていた。
自分のお気に入りの存在に堂々と手を出す宣言をして、あろうことかキスをしたひよりに有栖は嫉妬を剥き出しにする。
「……良いでしょう。八幡君が誰のものであるかハッキリとさせようじゃありませんか」
有栖の低い声にAクラスの生徒は震え上がり、神室真澄は愚痴に付き合わされることを確信してため息を吐くのだった。
「ようバカップル。随分と幸せそうだな」
龍園がそれはそれは楽しそうに笑いながら迎えてくる。他の生徒もジロジロ俺を見てくる。
ひよりのお題が承認されて2着となったので俺はキスをやめてゴール組の所に戻るが、その際にひよりが艶のある眼差しで見てから手を握ってきたのだ。
結果として手を繋ぎながら待機場所に向かって今に至る。最初はやんわりと拒否しようとしたが、ひよりが物凄く悲しそうな表情になって罪悪感が湧いてきたので拒否しないで手を繋ぎながら歩いている。
そして待機場所に着いたら案の定、龍園がからかってきた。からかってくるのは予想していたが、予想以上に恥ずかしい。
しかも……
「はい。こうやって手を繋ぐと幸せです……」
隣でひよりは幸せオーラを全開にぽわぽわしている。クソ可愛いが、一目につく場所ではやめて欲しいのが本音だ。
「ならずっとそうしてな(坂柳がどんだけキレるか楽しみだな)」
何か龍園の奴、最後だけ小声だったが、絶対に碌な内容じゃないだろうな。
そう思う中、ひよりは俺の手を離すことなく待機地点に座るのでやむなくひよりの隣に座る。
そして2年生の借り物競争を見ていると急に寒気を感じたので、寒気のした方向を見ると……
(あ、有栖……)
有栖がAクラステントにて満面の笑みを浮かべながらもドス黒いオーラを出して俺の手を見ている。余りのオーラに彼女のクラスメイトは有栖から距離を取っている。
すると……
「ふふっ……」
有栖のオーラを感じたひよりは俺の腕に抱きついて、柔らかな感触を伝えながら有栖に微笑みを浮かべる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッッ!
それにより有栖のオーラが増す。先程、龍園と綾小路によってブチ切れた星之宮先生のオーラと同等のものだ。俺、体育祭が終わったら真嶋先生と三途の川を渡るかもしれない。1人じゃ心細いけど、2人なら多少緊張が解けるかもしれないな。
内心冷や汗をダラダラ流しながら競技を見ていると3年の借り物競争も終わり、俺達は退場するが立ち上がってもひよりは俺の腕に抱きついたままで、有栖はドス黒いオーラを撒き散らしている。
「くくくっ、随分と大胆になったじゃねぇか」
グラウンドから退場すると龍園はそれはそれは楽しそうに笑いながら話しかけてくる。マジでぶっ飛ばしたい。
「坂柳が大胆に攻めましたから遅れを取れません」
その言葉に俺は有栖からキスをされた事を思い出して恥ずかしくなってしまう。2人からキスをされた事はあるが、今までは寮の自室だったが今回は全校生徒の前だからな。今後全校生徒は俺を有栖とひよりが取り合っていると思うのだろう。
そう思うと精神的な疲れが増してくるな。平穏な学園生活はもう送れないし……
俺はため息を吐きながらBクラスのテントに戻るのだった。
10分後……
『そこまで!1年生女子の部はBクラスの勝利です』
四方綱引きにてBクラスの勝利が告げられてウチのクラスからは歓声が上がる。
推薦種目である四方綱引きの1年生の部は男女共にウチのクラスが勝った。男子の方では怪力無双のアルベルトがいるし、アルベルトと戦えそうな高円寺はサボった上に須藤が居ないからな。
女子については障害物競走でCクラスの網倉とのトラブルで怪我をした山峰を抜きにして戦ったが、ウチのクラスの女子は選手以外にも腕力の高い女子が多かったので勝ちを得れた。
結果としてウチのクラスは1年生の中ではかなり稼げた。白組として判断したら負けは確定で100ポイント引かれるだろうが、このまま順調なら学年1位を取れて被害は最小限になるだろう。
そして四方綱引きは3年生からやったので、1年生は最後にやった為……
『続いて男女混合二人三脚です。参加者は入場ゲートに向かってください』
そんなアナウンスが流れる。
「では八幡君。行きましょうか」
ひよりは俺の腕に抱きついてくる。俺はひよりとペアを組んで参加するが、ひよりは嬉しそうだ。
「おいおい。競技中はイチャイチャするなよ」
龍園が嫌そうな表情を浮かべている伊吹と一緒にいる。元々龍園は山峰と組む予定だったが、伊吹を代理にしたようだ。
「しねぇよ」
そう返しながら入場ゲートに向かうと1年生は大分集まっている。メンバーを見れば中々面白い組み合わせがチラホラ見える。で、俺が並んだ列には……
神室と橋本のAクラス側近コンビ
一之瀬と柴田のCクラスリーダーと学年最優秀選手候補のコンビ
俺の協力者たる綾小路と綾小路の手駒の軽井沢の暗躍コンビ
って感じだ。これは上位入りは難しいな。
というか参加表を見た時から思ったが綾小路と軽井沢をコンビにした理由わからん。
軽井沢が綾小路の協力者である事は綾小路から聞いているが、もしかして体育祭でペアを組んだ事をキッカケにして、今後誰かに見られても怪しまれないようにする為か?
そう思いながら俺は綾小路に裏で組んでいるとは思われないように話しかける。
「よう。お前綾小路だったよな?さっきの賞味期限切れ発言は笑わせて貰ったぜ。お前からしたら1位を逃して残念だったな」
その言葉に一部の生徒が噴き出すがアレはマジで笑えた。何せ龍園が賞味期限が近いものとして星之宮先生を選んだかと思ったら、堂々と賞味期限切れだと異議を唱えたからな。
「全くだ。アレが通ったのは今でも納得出来ない」
「綾小路君。それ以上は言わない方がいいよ。星之宮先生が凄い目で見ているよ」
一之瀬が指差した方向にはボロ雑巾みたいな真嶋先生の胸倉を掴み、鬼の形相の星之瀬先生がいる。手に赤い色が見えたような気がするが、突っ込まない。
そして前にいる龍園が笑いながら中指を突き立てると更に醜い表情になり、真嶋先生の胸倉を掴む腕がガタガタと揺れる。一番の被害者は真嶋先生だな。
「ま、終わっちまったものは仕方ない。にしても軽井沢とは予想外のペアだな。軽井沢は平田と組むと思った」
「足の速さが違い過ぎるからよ。き……こほんっ。色々な人と試したら綾小路君とは足の速さも近くて息が合ったから」
そんな風に言ってくるが、今何か言おうとして言い直さなかったか?
気になったが人が多いので後で綾小路に聞いてみるか。
そう思いながら俺達はグラウンドに入り待機位置に移動する。最初は1年生からであり、龍園と伊吹もスタート位置に立つ。
パァンッ
ピストル音が鳴り、一斉に走り出す。
龍園と伊吹は中々の速さで進み、2位となる。即席のペアにしては良い結果だろう。
問題は俺達だ。一生懸命に練習したとはいえ、向こうも同じだから厳しい戦いになるのは間違いない。
一度深呼吸をしてからひよりと足を結び、スタート位置にて構えを見せる。
パァンッ
ピストル音が鳴り一斉に走り出す。
「1、2、1、2、1、2……」
焦らずに一歩進む。足に痛みは走らずに済むがポテンシャルの低さによって遅れている。
橋本&神室ペアと一之瀬&柴田ペアが1位争いをして、俺&ひよりペアと綾小路&軽井沢ペアが3メートルくらい遅れて3位争いをしている。
そして俺達が半分くらい進んだ時だった。突如、そこそこ大きな地震が起こり、俺達は揺れてバランスを崩してしまう。
幸い転ばずには済んだが、前の2ペアはバランスを崩した際にぶつかって転んで絡み合っている。今が最大のチャンスだ。
「行くぞひより」
「はい!」
「あたし達も抜くわよきよか……綾小路君!」
横から軽井沢の声が聞こえてくるが今綾小路を名前呼びしかけてたな。お前らってそんな関係か?
疑問に思いながらも着実に進み、起きるのに四苦八苦している4人を抜き去り、綾小路ペアと並びながら進み……
「やった!勝ちましたよ八幡君!」
最後の最後にギリギリで抜いて1位となる。これは大金星だろうな。
「そうだな。運が良くてラッキーだった」
「はい。ですが、八幡君と1位を取れて良かったです……んっ……」
ちゅっ……
ひよりは俺にキスをしてくる。
『キャァァァァァァァァァァァァッ!』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッッ!
それに伴い、ゴール付近からは歓声が上がり、有栖から再度ドス黒いオーラが噴き荒れる。
(どうにも今回の体育祭は肉体的よりも精神的に疲れるな……)
俺は嬉しそうに微笑むひよりを見ながらそう思うのだった。
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