パーティー
女勇者・アリス(16)
女戦士・さくや(17)
女遊び人・アヴカリ(15)
女僧侶・アン(14)
ここはサマンオサの地下闘技場
その賭け試合にパーティの女戦士さくやが出場するため、さくやはその準備のために控え室に入り、パーティのリーダーである女勇者アリスもそれに付き添った。
「さくや、どうしてもやるの?」
「ああ、あのエルフは人間に心を開く数少ない理解者であり、戦友だった」
…
サマンオサ国王の人格が変わったと言われ出した頃、街の地下で行われていたモンスター格闘場は人間を賭けの対象とするものへと変わった。
アリス一行は、その真偽を確かめるために地下闘技場へ訪れていた。観客がどよめいている。ロマリアの格闘場もあまり良い雰囲気ではないが、サマンオサのそれは全く次元が違った。還元金への欲望、そして闘士達の死への好奇心で、もはや人の顔をしていない者共の塊だった。
定刻となると、会場が急に沸き立った。
アリーナで炎による派手な演出と、この世のものとは思えないほど卑猥な衣装の踊り子による演舞により彩られ、もはや悪魔の儀式の様でさえあった。
一連の演出の後、司会による説明が行われた。
なにやらデモンストレーションが行われるらしい。このデモンストレーションは、つまり闘技場側による虐殺ショーであった。
観客の歓声の中、最初にアリーナに入場したのは、両手足を枷で繋がれ、看守2人に引っ張って来られた、一途纏わぬ女のエルフであった。
そのエルフは長身で、褐色の肌に腰のあたりまで届くブロンドの髪を携えた、高貴なる戦闘部族を思わせる風貌であった。
看守により枷が外され、剣だけを持たされると、2人の看守は去り、エルフだけがアリーナに残された。エルフが入場した入り口の反対側は重い扉に閉ざされていたが、ゆっくりと扉が開くと、その暗い部屋の奥から現れたのは、まるで石膏で作られたような、無機質で、それでいて人の様な動きをする真っ白な大男であった。
エルフは自分の1.5倍ほどの背丈の男を見上げると、恐怖と絶望に一瞬剣を落としたが、慌てて拾い上げ、男に剣先を向け構えた。
観客席から、やれ「殺せ」だの「犯せ」だのと喧しく飛び交う声の下、剣を持つ手は小刻みに震えていたが、気丈な目をキッと向け、口を固く結び、剣先を男の心臓に向け体勢を整え、意を決し、男の心臓目掛けて一足飛びで突き込んだ。
しかし、剣は折れた。
剣先は確かに男の胸を捉えたが、剣が男の胸を裂く事はなく、逆に岩にでも叩きつけたように折れてしまった。
エルフは完全に戦意を喪失し、顔から毅然とした表情も消え失せ、ポカンとあいた口は恐怖で震えていた。
大男はエルフの顔を掴むと、そのまま自らの顔よりも高い位置に持ち上げた。
エルフは自らの顔を掴んでいる手を引き剥がそうとその腕を掴み足をジタバタさせながら抵抗するが、大男は全く意に介さず、反対側の拳を固く握り、まるで弓を引く様に引き絞ると、エルフの鳩尾をめがけて拳を放った。
放たれた拳は大きな乳房に隠れた鳩尾へやや下から侵入すると、まるで水袋が破裂した様な音と共に、エルフが一瞬身体を硬直させると、エルフの口から噴き出した血が掴んだ手の間から勢いよく溢れた。背中の肉がぶくりと盛り上がり、次いでその肉が弾け飛び、その中央から血と肉片のこびり付いた拳がぬめりと浮き上がってきた。
エルフは血を噴き続け、まるで尻尾を切られたトカゲのように四肢を痙攣させていたが、やがて動かなくなると、大男は拳を抜き、その肢体を地面に投げ出した。
腹に大きな穴を開け、大の字に倒れ白目を剥いたエルフの亡骸をもはや見向きもせず、その巨体の主は頑丈な扉の向こうに戻って行った。
アリスが青い顔で目を見開き両手で口を押さえる中、会場の群衆の歓声は最高潮に達した。
…
そしてさくやは知った。このゲームで勝ち残った最後のひとりは、白い巨人と最後に戦わせられ、そして餌食になる。ならば、さくやがそのゲームに出る事であの大男と戦い、仇を討つと決意した。
あの白い巨人と戦うと言う事は、他の闘士の命を奪うという事でもあるのだが、さくやはそれ以上に、かつての戦友の仇討ちをする事に固執した。
さくやはこれからの戦いのため、剣の点検をしていた。さくやのこれまでの人生を共にして来た剣の輝きと、その主人であるさくやのしなやかな肉体がアリスの瞳に映し出されていた。
「どうした?」
アリスの視線に気づいたさくやが作業の手を止めず、視線をアリスに移し尋ねた。
「ねぇ、そのおなか、さわっていい?」
さくやの作業の手が止まり、今度は顔ごとアリスに向けた。
「何?」
「あ、ご、ごめんね! 前からその、かっこいいって思ってたの。それ」
アリスが視線をさくやの腹部に落とす。
ジパングを出て以来、戦いの中で鍛え上げられたその身体は、いくつかのコンプレックスを残しつつ、戦う者として見事に完成されていたが、特に際立っていたのはその腹部であった。
胸の下から臍の拳ひとつかふたつほど下まで作り込まれた6つに割れた筋肉はまるで恐竜を思わせる重厚さを見せながらも、未だ齢17としての、女性的な妖艶さを放っていた。
さくやはひとつ、おおきく瞬きして、
「…少しだけなら」
アリスの手がそっとさくやの腹部にふれる。
さくやはその小さく白い手を見る度に、自分の凡庸さに心を痛めていた。
なんて白く小さな手なのか。これでどうやって自分と同じような剣を振り回せるのかと思って来たが、それが勇者であるが故に精霊から与えられた力なのだと解ると、どうしても嫉ましく思えてしまうのだ。
アリスは興味深かそうに、そしてほのかに頬を赤らめつつ、さくやの腹にその手を這わせていた。最初は手のひらで腹全体をそっとなでていたかと思ったら、今度は腹筋のラインに沿って指を走らせる。そしてまた手のひらでなでる。それを繰り返していた。
さくやはここで、アリスに挑戦めいた事をしてみたくなった。
「アリス」
「え?」
「殴ってみろ」
「…はい?」
「わたしのこの腹に、力の限り拳を叩き込めと言ってる」
アリスは一瞬ぽかんと口を開けた。
そして今度ははっきりと頬を赤く染めて、目を逸らし手をもじもじとさせた。
「あ、でもボク、そんな趣味ないし…」
アリスがとんでもない勘違いをしている事に、さくやは気がついた。
「違う! そういう事じゃなくて!」
さくやは告白した。
「わたしは、パーティの中で1番凡庸だ」
「そんなこと…」
「アリスはあのオルテガの娘で、精霊の声を直接聞いた、他の誰よりも特別な存在だ。アヴァは普段は遊んでばかりだが、あいつは底知れない叡智と力を隠し持っている事をわたしは知ってる。僧侶のアンはまだ未熟だが、魔力のポテンシャルはアリスに勝るとも劣らない」
「さく…」
「たが、わたしにもこれまで培ってきた戦士としての純粋な力と誇りはあるんだ。その力だけは、勇者の力をもってしても砕けないところを見せたい」
アリスはそこまで聞くと、すっと立ち上がり、さくやの側に立った。
「さくや、ボクがさくやを仲間にしたのは、力とかじゃないよ。この人なら絶対、最後まで一緒に戦ってくれるって思ったからだよ」
アリスはさくやの手をとり、自らの前に立たせた。
「さくやがそこまで言うなら…本当にいいの?」
実のところ、さくやは少し照れていた。
この流れで、一体これから何をしようと言うのか。しかし、ここでやめるのもやはり変だ。
さくやは腹でゆっくりと、静かに呼吸した。
「手加減はするな」
アリスは思い切り腰を捻り、右手でグーを作ると、さくやのみぞおちとヘソの間に狙いを定め、戦闘さながらに打ち込んだ。
ばちっと大きな音が部屋を支配したが、さくやの割れた腹はアリスの拳の侵入を許可しなかった。
さくやは見落としていた。そして気づいた。
アリスの力は精霊によるもの。しかしそれは、魔物と戦う時などにのみ与えられるものであるので、今こんな実験をしてもなんの意味もないのだ。
さくやはここで奇妙な事に気がついた。アリスがさくやの腹に打ち込んだ拳をいつまでたっても引こうとしないのだ。
アリスの顔はボーッとしていた。
ほのかに頬を赤く染めつつ、拳をゆるめるや、手のひらを腹に這わせながら、こう呟いていた。
「あのエルフの最期…もし、さくやがあの怪物に負けたら…」
アリスはそのままゆっくりとさくやの胸にまで滑りこませた。
「あっ…!?」
さくやが驚きながらも頬を赤く染め、どうしようかと途方に暮れかけた時、アリスはここでようやく我に返った。
「あ、ごめん」
手が胸に入ったまま。
ここで勢いよくドアが開き、 遊び人のアヴァが入ってきた。
「おいーっす! 準備は進んでるー??」
そして、さくやにとって一番言われたくない相手に言われたくない事をがなられた。
「な、なにしてんじゃアンタら!!?」