パーティのリーダーであり、勇者であるアリスと、戦力の要であるさくやがふたりして、遊び人のアヴァに正座をさせられていた。
「まったく、今から大事を行おうという時にあんたらは!」
「すみません」
2人の声が揃う。
「せっかくアタシがこれから戦う相手を見てきたから教えてあげようと思ったのに」
「何、お前がか?」
「なによ」
「信じられない」
「アリスまで!?」
「いつでもどこでも、それこそ戦闘中にさえ遊ぶお前が、そんな仕事をしてくるとは」
…
ロマリア王の依頼で、王冠を取り戻すために盗賊のカンダタとその一味との戦闘中の事である。
「アヴァ、援護しろ!」
そう指示を受けるや否や、アヴァはカンダタの子分と鍔迫り合っているさくやの後ろに回り込んだ。
「カンチョーーーーッ!!!!!」
…
「お前と刺し違えようかと思ったわ」
「カンダタもちょっと引いてたね」
「アタシは遊び人なの。だから遊ぶ事がアタシの戦いなのよ!」
戦いと言う言葉を聞き、さくやはある問いをアヴァに投げかけた。
「さっき、アリスと話をしてた時少しだけお前の話が出たんだが、お前、魔法は使わないのか?」
アヴァは急に真顔になり、どことなく物憂げに黙った。
アヴァことアヴカリは元々イシスの踊り子なのであるが、その地でその名を授かる事は、それ自体がイシスの大いなる力を継承した証となるのである。
アヴァをパーティのメンバーに推薦したのはそれに興味を持ったさくやなのである。
しかし、その力とその源がどれほど恐ろしいものであるかを一行はこの先知っていく事になるのであるが、それはまた別の話である。
「そんな事はどうでもいいのよ!」
この話題が出るとアヴァはいつもこのように強引にはぐらかして来た。
「…そうだな。で、どんなやつらだった?」
アヴァはフッと鼻で笑い、
「話にならないわ」
「そんなに弱そうな相t…」
「全然アタシの好みじゃないんだもの」
「もう足をくずしてもいいか?」
…
…
…
結局のところ、アヴァからは何も情報を聞き出す事は出来なかった。一緒にいた僧侶のアンが、相手の人数が3人である事や背格好などを話したが、さくやは結局自分で見に行く事にした。
さくやとしては、アンの情報から、気になる事があったのだ。
アリーナに続く通路に、ちょうど3人はいた。
アンのおかげで、名前まで知る事が出来ている。
(まずは…戦士か。鎧でがっちりと身を固めている男はエルロイというらしい。身長は190~200といったところか…背中にはエルロイの身長に近いほど巨大な斧を携えている。
一見迫力があるが、あれなら間合いに入ってしまえば勝てる。
そういえば、ある文献で、自分より遥かにデカイ斧を持った戦士が、相手が間合いに入ってきたところを一瞬で薙ぎ払うという記述があった。しかし、どうみても奴がそんな力量があるとは思えない。
それにしても戦士か。同じ戦士として意識しないでもないが…)
さくやはアヴァの言葉を思い出した。
(フッ、わたしの好みでもないな)
さくやは2人目に視線を移した。
(こいつは本当に話にならない。風貌からして武道家か。こいつがワロスとかいう奴だな。身長には恵まれているようで、180cmほどと見受けるが、なぜこんなにクネクネなんだ?ダンサーなのか?いや、それはダンサーに失礼だし、それならうちのアヴァの方が見応えが…)
さくやは一度咳払いをした。
(大体顔が気に食わない。こんな→(´Д`)顔して、一体どこを…)
目線の先を追った。
そしてさくやは目を剥いた。
(…これだ。アンは言っていた。自分よりも幼い子が混じっている。正直者のアンの言うことを疑う事は普段ないのだが、にわかに信じられなかった。なぜだ。無理矢理か?何か理由があるのか? 名前を「ルナ」というらしいこの子は、確かに12、3歳ぐらいにしか見えず、わたしよりも頭ひとつ分ほど小さい。銀色の髪に緑色の瞳、ヒラヒラの服はエジンベアの古い人形を思わせる)
さくやはルナに声をかけようとした。
「おい、きm「チミかわいいねぇ、オレといっしょにお話しない?ハアハア」
ワロスがタバコの灰を落としながら、ルナという名の少女に近づいた。
(コイツ…!)
「チミ萌えだからさ、オレがあの2人倒して、チミにわざと負けてあげるよ。オレの連れにはさ、チミに賭けるように言っておくから、そのお金でデートしよ。そうしよ…」
さくやはキレた。
「おい、お前!」
「あ?」
ルナはてけてけと走ってどこかに行ってしまった。
「あ!…おい、おまいがちょっかい出すから、あの子逃げちゃったじゃないか!」
ワロスはさくやに詰め寄り抗議した。
すると、さくやはエルロイを少しでも品定めした事を棚に上げ、
「うるさい。それはこっちの台詞だ。大体対戦相手をナンパするなど、キサマそれでも闘士か?」
「ハァ?テメェなにえらそうに…あれ?なんだ、あんたもなかなかかわいいじゃないか(ハァハァ)」
「だまれゲスが」
「なんだとテメェ!」
ワロスはさくやの一言で沸点に達し、さくやのの腹に拳を見舞ったが、さくやははそれを指1本で受け止めた。
「は!?」
「別にキサマに腹を殴られても痛くもかゆくもないだろうが、キサマの汚い拳で殴られたら、腹がかわいそうだからな」
「テメェ…」
ワロスは憎々しげに拳を下ろした。
「けっ!ジッパーごときが偉そうによ」
「なっ…!」
「おまいジッパーだろ、わかってんだぜ」
ジッパーとは、ジパングの民に対する蔑称である。古来より、サマンオサとジパングはなんらかの理由により国家間同士良好な関係を保っていたが、サマンオサ王の豹変以来、サマンオサとジパングは反目状態に入って、現在はいつ戦争になってもおかしくない状態であるのだが、その状況の下、サマンオサの中でもジパングを敵視する者は、ジパング人をジッパーと呼ぶ様になった。
ワロスの言葉に、さくやの感情は怒りへと急変した。
さくやは過去、西洋の剣術に憧れジパングを出たものの、西洋剣術の迫力と、ジパングという東洋の民族とロマリアやエジンベアなどの西洋人の骨格や身体能力の差を思い知らされ、その上、エジンベアは差別が酷く、やれ田舎者だ、格下だと見下され、ついに自分がジパング人である事にもコンプレックスを抱くようになったのだが、エジンベアには、それでも自分を認めてくれる戦士達が僅かながらいた。それどころか、自分がジパングの民族である事に誇りさえ持てるように導いてくれるような者達との出会いがあったのであり、今では西洋の剣士でありながら、ジパングの民として、そしてジパングそのものを誇りに思って剣を振るっているのだが、ワロスの言葉は、その経緯と、自らのふるさとそのものを踏みにじられた様にさくやには思え、いくら剣が強くとも、未だ齢17の少女には、それを流すだけの心の丈夫さを持ち合わせていなかった。
「殺す!お前だけは、わたしが!!」
「ハァ?殺すとか」
「お前は知らないだろうがな、このゲームは最後の1人になるまで闘う殺し合いなんだ!例え最後まで勝ち残っても、最後には白くてバカでかい動く石像みたいなバケモノが現れて、結局最後の1人も殺されるんだよ!キサマが例え最後まで勝ち残ったとしても、その白いバケモノにお前のそのクネクネした身体を捻り切られてしまうんだ!ざまみろっ!」
「なんだあ?大体、あんたはなんでこのゲームに出るんだよ。どうせ金が欲しいんだろ?」
「お前と一緒にするな!わたしの昔の仲間が、その白いバケモノに殺されてるんだ!わたしは、そのバケモノをぶち殺しに来たんだよ!!」
「フハハハハハハ!」
さくやがワロスに詰め寄りがなっていると、突然エルロイが高笑いをしだした。
「黙って聞いておれば、あの白い怪物を倒すだと?その小さな身体で」
さくやはハッと我に返りつつ、エルロイに答えた。
「あんたこそ、そのデカイ獲物で怪物を倒す事は出来ないぞ。わたしに葬られるんだからな」
「ふん、威勢のいい小娘め。やってみるがいい」
さくやは覚悟を決めた。あの少女が気の毒に思っていたが、参加するなら同じ闘士。死んでもらう、と。
そして定刻となった。