エルロイが あらわれた!
ワロスが あらわれた!
定刻となると、あの身の毛のよだつオープニングの中、出場者の4人は看守に連れられ、アリーナに四角を結ぶ配置に立たされた。さくやから見て、正面にエルロイ、右側にワロス、左側にルナ。ワロスやルナまでの距離は約30mほどであった。
さくやは相手を見渡し、戦略を練っていた。
(1番強そうなエルロイを先にやるか、いや、ワロスはきっとまっ先にわたしに襲い掛かってくる。それを退けてからの方がいいか…)
その時、さくやはエルロイと目が合った。
エルロイはさくやにジッと視線を送っていたが、その眼球の向きをワロスに移した。
さくやは理解した。
(ワロスを先にしとめろと。わたしにワロスの始末を譲ってくれると言うのだな?)
「アーッヒャヒャヒャヒャ(゚∀゚)チミたちがゴミのようだ!」
この時、誰も不気味に微笑んでいるルナの顔を見た者はいなかった。
そして、ゲーム開始の銅鑼が鳴った。
「ヒィィィヤッハァァァァ!!!!!」
さくやの予想通り、ワロスはさくやに向かって行った。
「さっき言った事、覚えているだろうな」
「オレは武道家だぜぇ!?動きのとれぇ戦士なんか、オレの相手じゃねえんだよお!」
ワロスはさくやに向かいドドドドと砂埃を上げながら突進し、そして拳を振るった。
「オラァ正拳突きだー!」
しかしワロスの拳が届く前に、さくやはワロスの視界から消えていた。
「ハァ!?おい、どこだ!逃げたか!?」
「こっちだ」
ワロスは自分の真後ろから届くさくやの声を聞いた。
「後ろか!?」
しかし、既に声の方向からさくやは消えていた。
「こっちか!?」
ワロスはあちこち見回したが、どこを向いてもさくやを見つけ出す事は出来なかった。
「どうなってんだ!?」
さくやの声は相変わらず、ワロスの後方から届いた。
「わたしの戦闘スタイルは、すばやさと旋回力を駆使する戦闘術だ」
さくやはワロスが振り向く度に、ワロスの後方に回り込んでいたのだ。
「な、なまいきな!戦士のくせに!」
さくやはワロスの真後ろに迫り、後頭部付近から語りかける様に言った。
「わたしはね、戦士だから動きが遅いとか、武道家には速さで勝てないとか、種族がどうとか、そういう既成概念で計られるのが大嫌いなんだ」
「う、うるせーーーー!!!」
ワロスは後頭部でさくやの顔面を打つと、さくやの動きが一瞬止まった隙に、さくやの方に向き直った。
「もう許さんぞこのチン◯スが!オレサマの重い突きでハラワタぬち撒けろや!」
ワロスはさくやの腹を拳で突き上げた。しかしワロスがさくやの腹を打つ事は、素人が空気の詰まったタイヤを殴るようなものであった。
「うちの大将の方がよほど気合の入った突きを打つな」
さくやは自身の腹に打ち込まれているワロスの手首を掴むと、思い切り力を込めて握り潰した。
「ギャアア!!」
すかさずさくやはワロスの股間を蹴り上げて睾丸を潰すと、ワロスは泡を噴いて転げ回った。
「最後まで生きていられたらトドメを刺しに来てやる」
さくやはエルロイと対峙した。
エルロイは既に戦斧をを両手で構え、いつでも薙ぎ払える体勢を取っていた。
「あんた、意外に頭が回るな。我々を戦力分析をもって測りながら体勢を整えるために、わたしをワロスにけしかけたのだろう?」
「女戦士だてらにあの身のこなしは恐れ入ったが、見切ったぞ」
「見切った? わたしはまだ剣も抜いていないが」
「全て見るまでわからん者に戦場を生き抜く事は出来ん。そうだろう」
「おもしろい事を言う奴だ」
さくやはゆっくりと剣を鞘から引き抜いてゆく。闘技場の灯りはその刃を照らし、白銀の光へと創り変えられたるその輝きは、この世のものと違う、東洋の果てに存在しうる神秘的な世界をその場に演出させていた。
エルロイがその光景に見惚れながらも、いつでも迎え撃たんと構えがやや前傾となったその瞬間、さくやは途中まで引き抜いていた剣を突然シャッと納め、盾に仕込んだアサシンダガーをエルロイの顔面に一直線に飛ばした。
エルロイは咄嗟に顔を伏せ、ダガーは兜によって弾かれたが、さくやが間合いを詰めるには十分であった。
「ぬおおおぉぉぉぉ!!!」
エルロイは雄叫びを上げながら戦斧をさくやに振り下ろしたが、さくやはそれをくぐり、エルロイの胴を斬った。
しかし、さくやの一撃はエルロイの鎧によって阻まれ、致命傷を負わせる事は出来なかった。
「おのれ、姑息な手を!」
「姑息?わたしが剣のみで打ち合う聖徒のような剣士にでも見えたのか?」
さくやはエルロイに向き直った。
「戦いにおいては手段は選ばず、情けもかけない。それはあの少女も例外ではない」
「ぬう…!」
エルロイは戦斧を持ち直し、今度は横薙ぎに払うと、さくやはそれを跳び越え、エルロイの真上を通過し、そのままエルロイの背後に落下すると、縦に回転しつつエルロイの背中を斬り裂き、剣についた血を振り払いながら着地した。
「ぐおお!」
さくやはエルロイに剣先を向け、言い放った。
「見切ったぞ」
さくやはさきほどの言葉をそのままエルロイに返した。
「お、おのれぇ!」
「無駄だ。初撃を外した時点で、その戦斧はもうわたしには通用しない」
エルロイは構わず、再び戦斧を横薙ぎに払ったが、さくやは向かってくる戦斧の柄を斬った。
「ぬお!?し、しまった!」
「威勢がいいだけなのは、あんたの方だったな」
「無礼な!愚弄するか!!」
エルロイは残った柄の尖端で、さくやに突きを放った。さくやはそれを盾で受けるが、その衝撃はさくやの想像以上のものであった。
「くっ…!」
よく見れば柄の尖端は敵を突くには良い形で、それはスライムの頭にも似ていた。物々しく銅色に輝くそれは、扱う者の技量によって、人体を貫く事も可能とする形を取っていた。
今度はさくやの心臓を目掛け突きを放つが、さくやはそれを避け、槍のようなそれを脇で絡めとるが、力の差で推し解かれ、エルロイは得物を横に薙ぐと、さくやはそれを盾で受けるが、衝撃により吹き飛ばされた。
「ぐああ!」
さくやはズサリと地面を滑ると、エルロイはそこに追い討ちをかけた。地面に這うさくやに得物の尖端を突き立てるも、さくやはそれを避けつつ起き上がり、エルロイに向かい剣を振り上げたところに、エルロイの拳がさくやの腹部に叩き込まれた。
「うっ…かはっ…!」
さくやはエルロイの粘土を固めたような重い拳を腹に受け、一瞬目をみ開き涎を散らした。
エルロイはこの機を逃さんと得物を構え、さくやの胸部に突き出すも、さくやは剣を振るい、エルロイの親指を切り落とした。
「ぐおお!」
エルロイは得物を持っていられなくなり、地面に落とした。
「はぁ…はぁ…やるじゃないか。だか、その手じゃもう戦士として生きられないし」
さくやは言葉を言い終わらないうちにエルロイの足元に滑り込み、足をかけてエルロイを前方に転ばせると、エルロイは正面から地面に叩きつけられた。
「ぬああああ!!」
さくやは立ち上がり、エルロイの横に立つと、エルロイの首に剣を突き立てた。
「お前の命もこれまでだ」
さくやは剣を引き抜くと、その血を一振りで払い飛ばした。
(さて、いよいよあの子だ)
ルナの方に視線を送った時、さくやは動けなくなってしまった。
ゲームの直前には見せなかった不気味な笑みはどこか無機質であり、少女を纏う深い黒の様な金色を孕んだオーラは、さくやに激しい戦慄を覚えさせた。
(なんだ、あれは…いやだ、怖い、この場に居たくな…)
さくやは激しく首を横に振り、正気を保った。
(おちつけ、相手をよく見ろ)
少女に向ける剣を持つ手は震えながらも、覇気を込めた視線を少女に送り、体勢を整える。
ここでさくやは気がついた。
自分の今の姿が、白い巨人と対峙した時のエルフと重なったのだ。
(まさか…)
少女はスッと右手を天にかざしなにやら呪文の様なものを唱えると、ルナの右手に光が集まり、それはやがて剣の形に姿を変えていき、光は弾け、本物の剣と化した。
「ふふふふふふ」
さくやは完全に冷静さを失っていた。さくやはなんの計略もなく、ルナに斬りかかっていった。
さくやの剣はいとも簡単に受け流され、ルナはスッと剣を振り上げると、さくやの身体に振り下ろした。
さくやは咄嗟に盾で受けるも、その盾は紙を切る様に裂かれ、盾を持っていた腕に傷を負った。
さくやは顔をしかめつつもルナに向き直った瞬間、ルナの膝がさくやの上腹部を捉え、ずぼりと深く入り込んだ。
さくやは無意識にルナから視線を外して自らの腹部を見ると、ルナという少女の膝を丸ごと胸の下に迎え込んでいるかの様子が瞳に映り、腹部など最早ないかの様であった。
さくやは全身から脂汗を噴き出し、小刻みに震え、口を楕円に開くと、下唇の真ん中から涎を垂らし、全身の力が抜けて剣を落とした。
ルナが膝を腹から抜くと、さくやはその場にペタンとへたり込み、腹を抱えて呻き声を上げた。
「う…ぐっ…ふうぅぅ…」
会場は意外な展開によるどよめきと歓声が入り交じった。