ワロスを たおした! さ
くやの こうげき!
エルロイを たおした!
ルナの こうげき!
つうこんの いちげき! ←今ここ
どれほどそうしていたかと言うと、10秒も経っていない。
敵の膝蹴りを腹に受け、脂汗を噴き出し、涎を垂らしてうずくまるという経験を、さくやはこれまでした事がなかったので、さくやには、これが永遠にも近いものに感じられた。
なぜならば、敵の目の前でその様な姿を晒せば、その時点でとどめを刺されるからである。
ルナがそうしないのは、そうしない事が、ルナの戦い方であって、つまり、自分は玩具の様に弄ばれているのだという事をさくやは感じ取っていた。
さくやは落とした剣を握り、起き上がりざまルナに向けて斬り上げるが、ルナはそれを避け、さくやの頬を殴打した。ルナの攻撃は兜に阻まれ、ダメージは軽減されたが、さくやは大きくよろめくも踏み止まり、ルナに向き直ると、ルナによる剣がさくやの喉元に突きつけられた。
「くっ…!」
さくやはそこから一瞬でルナの後ろに回り込んだ。
つもりであったが、回り込んだ先にあるはずのルナの背中はなく、さくやの眼前には、アリーナの地面と観客席が広がるばかりであった。
次の瞬間、さくやは強い衝撃を背中に受けた。
ルナの両足による飛び蹴りがさくやの背中を捉えたのだった。
「かはぁ!」
さくやはアリーナの地面に擦れ込むように倒れるも、そこから立ち上がったところにルナの拳がさくやの腹に重く、そして深く叩き込まれた。
「うっ…!」
腹部への鈍痛により内側に向いた両膝が笑い、そしてその膝を折りかけるが、踏み止まってルナに顔を上げると、再びルナの剣がさくやの喉元に突きつけられた。
「ま、待て…!」
さくやの手のひらが、「待った」と言わんばかりにルナへと向けられた。
「ちょっとお姉さんとお話をしないか?いや、聞きたい事があるんだ」
「ナンダーコラー」
「イノチゴイシテンジャネーヨー」
「ミグルシーゾー」
「オメガワロス」
「HAHAHAHAHAHAHA」
観客席から飛んでくるヤジを、さくやは全て無視した。
「さっき、キミと対峙した時、いつぞや白い怪物と闘ったエルフと同じ気分を味わった気がした。キミは、あの白い怪物と何か関係があるのか?それとも、キミがあの怪物自身…?」
無機質な表情だったルナは口だけで笑顔を作った。
「さすが勇者一行の戦士様ですこと」
「何!?」
なんとルナは、勇者一行の存在と、今相手をしている人物がそのメンバーのひとりである事を知っていた。
「でも、あたくしがあの白い怪物本人ではなくてよ。あの怪物はあたくしが造って、あたくしが動かしていたのだから」
「キミが?」
ルナがゆっくり小さく頷くその隙に、さくやは自身の喉元に突きつけられた剣を弾き、距離を取った。
「キミは一体何だ?」
ルナの話は、次のような事であった。
ルナはサマンオサ国王が豹変して以来、国王直々に抜擢された上級騎士であると同時に、国王の妾である。
ルナには生まれつき、この地を司る神ラーの力が宿っていたが、幼少期にそれを周りに見せたばかりに、忌むべき存在として避けられていた。
この地はルビス信仰の伝来以降、それまでこの地に根付いていたラーという神は国の南の地に隔離されたという歴史がある。つまり、ラーはサマンオサにとっての邪神とされたのだ。
そういうわけで、周りの人間はその様な神の力を持ったルナを邪神の子として忌み嫌い、孤独な日々を過ごして来たのであるが、サマンオサ国王が豹変し、再びラーが国の祭神とされたのと同時に、国王はルナを迎え入れ、ルナに力の使い方を教え、ルナを疎んで来た人間達を皆殺しにさせた。
闘技場の白い巨人は、ルナがラーの力を行使し作り上げ、そしてルナの意思で動かしていたものであった。
ルナがアリスを勇者と認識したのは、ラーに与えられた叡智によるもので、この闘技場に自ら出場したのは、アリス一行のひとりであるさくやをその手にかける事が、自分を大事にしてくれる国王の喜びとなる事を、直感的に悟ったためである。
さくやは、国王が大事にしているのはルナではなく、ルナの持っているその力を利用するために、ルナの機嫌を取っているに過ぎない事を洞察した。幼い頃から周りから疎まれ、今なお国王に利用されているだけの不幸な少女を、かわいそうだとさくやは思わなかった。
ルナは国王の権威を笠に着て、この闘技場で殺しを楽しんでいたのだ。過去にどの様な事情があろうと、この子は、あの怪物を使って、かつての戦友を殺した。さくやにとって、ルナと決着をつける事は、旧友の仇を討つ事と同じなのである。そしてさくやには、それとはまた別の感情が起こっていた。
「ルナ、ゲームの前にキミに話しかけていた、ワロスとかいう変態にも言った事なんだが、わたしは既成概念によって人を計ったり、裁いたりする事が許せない人間なんだ。だから、キミをそんな理由で酷い目に遭わせるような人間も私は大嫌いだ。しかし…」
さくやはそれまで穏やかに話していたが、顔つきがみるみる険しくなっていった。
「私が嫌いなものは、まだあるんだ」
さくやは剣を握る手に力を無駄に込めていた。
「それはなぁ」
さくやはキッと目に力を込め歯を噛み締めると、弾ける様に叫んだ。
「選ばれし者だか与えられた力だか知らないが、キミみたいな小さくて可愛らしい子が、理不尽に強い事なんだよぉ!」
「えー…」
さくやのこの言い分が、ルナに向けてのみならず、アリスのそれに対する感情を孕んでいる事を、アリスは読み取った。
「ふざけるな!それじゃあこの10年来、人魔物問わず斬り続け、死線を潜り抜けて来た、わたしのこれまではなんだったのさ!?」
さくやの目にうっすらと涙が浮かんでいた。
「さくや…」
さくやの心中を按じるアリス。
「さくや泣いちょる」
新しい発見に昂るアヴァ。
「落ち着いてください…」
祈るアン。
さくやは言いたい事をぶち撒けて、荒くなった息を少しずつ整えると、
「ふ、ふふふ…」
今度は込み上げるように笑った。
「ははははは!」
会場がどよめく。
「わたしは、なにもない人間だ。わたしのいるパーティーの中でわたしだけが、特別なものがない」
「…」
「わたしはこのゲーム開始前に、勇者であるアリスと力比べをした。特別な力などなにもないわたしでも、戦士としての、ただの人間としての純粋な力で、その力にも負けないというところを試したかった」
ここでアヴァはハッとした。
「アリスの勇者としての力は、その力を行使するべき時にしか発動しない。わたしは戦士として、勇者としてのアリスに挑戦出来ない事を残念に思った」
さくやは続けた。
「だが、ここに来て、神の力を持った者に挑戦出来る事を、いち戦士として嬉しく思うよ」
さくやは側頭部の割れた兜に手をかけた。
「わたしはキミに、わたしのなかに流れる血と、勇者のパーティーの一員としての誇りにかけて、挑戦する」
さくやは兜を外し、仁王の如き出立ちをもって名乗った。
「わたしはジパングの戦士、さくやだ!」
会場が、先程までとは違うどよめき方をした。
サマンオサは現在、ジパングと険悪な状態にあり、それはサマンオサの国民にも大きく影響を与えているため、さくやの名乗りにより、それまでの観客席のムードが一気に殺伐としたものへと変わった。
アヴァは、その事とは無関係に、さくやをこのゲームに出した事を後悔していた。さくやがどれほど戦士として強くても、その力をもって挑むには、相手の力の背後にあるものが、途方もなく大きく、恐ろしいものである事をアヴァもまた自身の持つ力によって理解していた。
「たとえ与えられた力なくとも、民族の誇りにかけて、貴様を倒す!」
さくやは半分砕けた兜をルナの額に投げつけると、ルナの額から一筋の血が垂れて落ちた。
気がつけば、ルナの固く握られた拳がさくやの腹部のちょうど真ん中に打ち込まれていた。
一瞬…唐突…どの言葉も当てはまらないような、言うなれば、一瞬前までの時空が切り取られたとしか思えないような出来事に、さくやはキョトンとし、自分が口の端から涎をこぼしている事にも気づいていなかった。
「ん、あ…え?」
次の瞬間、さくやの腹がクレーターの様に陥没し、背中が一瞬大きく膨れ上がった。この時さくやは、はらわたの全てが背中の内壁に叩きつけられたような激しい衝撃と苦痛に襲われていた。
「ぐぇお!!」
さくやはそのまま尻もちをつくと、絞るような声を出し腹を抱え、全身で地面を掻き毟るようにのたうった。
「あたくしの顔にキズをつけて…そのお礼をさし上げる」
ルナはさくやを仰向けに押さえ付け、馬乗りになると、思い切り右腕を振り上げ、拳を固く握り、さくやの左胸に打ち下ろした。左胸のアーマーは砕け、そこから抑えられていた乳房がこぼれ、ひときわ大きな乳輪を覗かせた。
さくやにとって、自身の大きな乳輪は身体的コンプレックスのひとつであった。これまでの戦いの最中、鎧が砕けたり、はじめから半裸で戦いに出る事もあったさくやにとって、女としての隠しどころを晒す事には抵抗はないのであるが、この大きな乳輪を見られる事には、例え女性に対しても引け目を抱くという矛盾を抱えていた。
さらに右腕を振り上げ、今度は鳩尾目掛けて振り下ろした。
「うっ…」
さくやの顔が青ざめ、半分白目を剥き、次いで咳込み出した。
ルナはその拳を引き抜く事をせず、じわじわと深くさくやの鳩尾に沈めていった。さくやはルナの手首を両手で掴み、引き抜こうとするが、びくともしない。身をよじろうとするも、ほぼ完全に釘付けでただ苦しみを受け入れるしかない。
「げふっ!…うぅっ、がほっ!」
ルナはその状態のまま、さくやの胸のアーマーに手をかけた。
「苦しいでしょう。楽にしてあげるわ」
ルナが何事か唱えると、アーマーは光の粒子となり崩れ去った。
「あなたにこれをしてもいいのよ」
さくやは一瞬背筋が凍る思いがした。
「でもダメよ。あなたはじわじわと惨たらしく死ぬの」
ルナは鳩尾から拳を引き抜くと、再び振りかぶった。
「ま、待て…!」
ルナはニタリと笑った。
「ダメよ。おなかに穴をあけてあげるわ」
ルナの拳はさくやの上腹部を捕えると、ドプンと音を立てた。作り込まれた腹筋を容易く潰し、腹肉越しに胃を圧迫すると、さくやは大きく目を開き、一瞬身体を痙攣させつつ胸をのけ反らせると、遂に嘔吐した。
「うっ…ぐおおぅっ…!…うぶぇ!」
腹部に拳を突き立てられ、地面に釘付けにされながらも、その身体はあっちに捩り、こっちに捩り、懸命に逃れる動作をした。ルナは、拳をさらに腹の奥へ押し込めた、。
「うぶっ…うぼえぇぇ…えボ…」
ルナが腹の奥で拳を捏ねるようにしてはにじる度に、さくやは胃の内容物を噴き出し、それは地面にビチャビチャと流れ落ちた。
ルナは右手を引き抜くと、左手を固く握り、さくやの脇腹に打ち込んだ。そして引き抜き、右手でヘソの上に叩き込む。
ルナはそうやって、さくやの腹部に拳を打ち込み続けた。
やがて観客席も静まりかえって、ドチッドチッと拳が腹を打ち抉る音だけがアリーナを支配した。
観客席が静まりかえっているのは、光景の残酷さに気が引けているのではなく、歓声を上げるほどの興奮を通り越している結果であった。
ほんの一部、さくやの仲間を除いては。
さくやはルナの拳が打ち込まれるたびに、これまで築き上げてきた自分自身を明確に否定されているような感覚に陥り、再び涙を流した。
「ダメよアリス!」
さくやの救出にアリーナへ飛び込もうとするアリスをアヴァが制止した。
「だって、さくやが死んじゃう…!」
「殺されるわよ。あの子にじゃなく、ここの得体の知れない警備に!」
「さくやを見殺しにするぐらいなら、その方が…!」
「耐えて!あなたは、この世界を支配するバラモスを倒すという使命があるの。ここで死んではならないのよ!?」
「でも…だって…さくやぁ…!」
アリーナでは、未だルナによるリンチが続いていた。さくやの目にすでに光はなく、口の端からは未だ胃液が流れて続けていた。
ルナは攻撃の手を唐突に止めると、さくやの頬をペチペチと叩いた。
「ふふっ、圧倒的な力の差で負けて、これから死ぬ気分はどう?」
ルナはさくやの乳頭を捏ねくり出した。
そして自身の衣服に手を当て呪文を唱え、衣服を光の粒子とすると、ルナは一糸纏わぬ姿となった。
「ふふふっ、あなたを徹底的に穢して、その身体をぶち抜いて殺してあげるわ」
ルナはさくやの身体に馬乗り体勢から、自らの幼く細身の太腿をさくやの腰回りに擦り付けると、身体から熱を発し、喘ぎ声を洩らした。
「…あっ…はうっ…」
そしてルナは、まるで蛇の様にさくやに絡みつき、自らの頭部をさくやのお腹に埋め、その鼓動を感じ取った。
「あなたはこれから雌としての卑しい姿を衆目に晒して、快楽の沼に堕ちて、身も心も穢れきったとき、あたくしにこのおなかを突き破られて死ぬの」
そしてルナはじりじりとさくやの身体を這ってのぼって唇に迫った。
「さようなら。勇敢な戦士様」
2人の顔がいよいよ触れるほどの距離まで近づくと、さくやの目が一瞬で蘇った。
「ぷっ!」
さくやは口からどくばりをルナの目に飛ばしたのだ。針はルナの片目の瞳に深く突き刺さった。
「ああああ!!!」
ルナは片目を両手で押さえ、さくやから離れた。
「キミみたいな娘は…相手が瀕死になると…大体性行為に及んでくる…」
さくやはそう言いながら、必死に立ち上がろうとした。
「いけませんなぁ…貴方のような年端もいかないお嬢さんが、そんなエッチなのは…うっ…くふっ!」
さくやは未だ苦しみつつも、とうとう立ち上がった。
「それに口調まで貴婦人らしくなくなったんじゃないのかな?」
「く、くそぉ!」
ルナは血の流れ続ける片目を押さえながら、鬼の様な形相でさくやを睨みつけた。
「決着をつけるぞ!」