アリス「え、えっちなのはダメだよぉ////」
ルナは両手を斜め下に広げると、その手のひらから剣を出現させた。
「じっくり遊んでから殺してあげようと思ったけど、もう気が変わった!じわじわと切り刻んで、八裂きにしてやるわ!」
ルナは両手の剣でさくやに襲いかかった。
(なっちゃいない)
さくやはルナの剣を避けた。ルナはなおも襲いかかる。
(全然、なっちゃいない)
さくやはルナによる追撃を躱すと、ありったけの力を込めた拳を、ルナのお腹に叩き込んだ。
「ゲボォ!」
ルナは口と鼻から反吐を流し、両手の剣を落として、地面に撒き散らされた自らの、どことなく甘ったる気な吐瀉物に膝をついた。
ゲーム開始前にケーキでも食べていたのかも知れない。
「そんな片目で剣を振るって、わたしに勝てると思うな」
「よ、よくも…!」
この間にも、さくやのどくばりによって、目から血が流れ続けていたが、ルナは自らの目に刺さった針を引き抜いた。
「キアリー!」
「なんだと!!!?」
ルナが解毒の呪文を唱えると、ルナの目から毒による出血が止まった。
「な、あ…」
「ベホ…「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
さくやは絶叫し、左手でルナの口を掴むように塞いだ。
ここでベホマを唱えられたらおしまいだ。そう感じたさくやは我を忘れてそのままアリーナの壁まで突っ込み、ルナを叩きつけた。
「ン!!」
後頭部を打ちつけられたルナは、衝撃と痛みで口を塞がれながらも悲鳴を上げた。
「うわあああ!!」
さくやはなおも叫び、右手の拳を固め、そしてルナの腹部を突き上げた。
「グも!…ン!……ンン!…」
ルナのおなかから拳を引き抜くと、ふたたび引き絞り、ずしりと重い拳を叩き込んだ。
「ンむンン!」
両手でさくやの左手を掴み、必死に抵抗するルナのおなかになおも拳を叩き入れると、ベキリという音が鈍く響き、それはルナのあばらが折れた音に違いなかった。
ルナは目を大きく開き、身を震わせた。
「ンン……ン…ン…!」
さくやの攻撃は執拗を極め、その残酷さはこの観客席の一部からさえ抗議の声が上がるほどであった。
ルナの両足はぱたぱたと痙攣し、小水を垂れ、眉をしかめた目に涙を流して、まるで懇願するような眼差しをさくやに向けていた。
ルナは、これまで自らの被造物を通して闘技場の挑戦者に対してしてきた事の報いを、今その身をもって受けていた。
さくやの渾身のいちげきがルナのみぞおちに叩き込まれると、ルナの口を抑えているさくやの左手の隙間から、真っ赤な液体が溢れた。
ルナが血を吐いたのである。
さくやはそれでもなお追撃を加えるために右手を引き絞る。
「やめてさくや!!」
アリスがさくやに向かい叫ぶと、さくやはハッと我に返り、すんでのところでさくやの拳が止まった。
「その子、見て!」
アリスの言葉に、さくやは改めて目の前を見遣った。
さくやが自らの左手で掴んでいたのは、その手を両手で掴み、足から痙攣を起こし身を震わせて小水を垂れ流し、潰れていない方の目からは涙を流して、口から血を吐いた少女の裸体であった。
さらにその身体は、みぞおちとあばらと下腹が陥没しており、それはさくや自身がルナの内臓を潰し、肋骨を砕いた証であった。
さくやは思わず手を離すと、ルナはアリーナの壁からずり落ちて、尻もちをついた。
「はっ…はあっ…!」
眉をしかめ、血のこびり付いた口を大きく開けて、まるで締め付けられているような呼吸を繰り返していた。
当初さくやに絶望にも似た恐怖を与え、散々苦しめてきた少女は、今やさくや以上の醜態でアリーナの端に凭れかかっていた。
さくやはそんなルナの姿を憐むでもなく、我を忘てルナにした事を省みるでもなく、ただアリスに… … …
「ルカニ!」
さくやの手から逃れたルナはさくやに対し、守備力を下げる呪文を唱え、さくやがハッとした時にはルナは飛び起きて、さくやの腹に拳を突き入れていた。
「……!」
身体がズタズタになった少女の拳は、さくやの腹部を貫く事はできなかったが、それでもその衝撃はさくやの腸を裂き、拳は背骨近くまで届き、背中に不自然な丘をつくった。
「おぐっ……うごぉ…!ごふっ!」
さくやは血を吐き出し、ルナの腕を赤く染めた。
「死ねええぇぇぇ!!」
さくやは、このまま突き破ってやるとばかりに力を込めるルナを左腕で抱き寄せて密着し、右手のグローブを噛んで引き外すと、その小指に半透明で鋭いものが光った。
さくやは普段から、己の武装を全て解除された時のために、右手の小指の爪を鋭利な刃物の様に研いでいた。
さくやはその爪をルナの背中の心臓の位置に当てがうと、一気に押し込んだ。
「あ!」
ルナは、大きく身体をのけぞらせると、やがて小刻みに痙攣を始めた。
さくやの腹に押し込まれていた拳も、もはや解けて力なく垂れ下がり、息も徐々に浅くなってゆく。
トクリ、トクリとルナの身体に血液を送り続けていた心臓がやがて最後の役目を終えると、空を見つめていた少女の瞳から光が消失し、身体から完全に力を失い、さくやにその身を任せた。
さくやはルナの背中から小指を引き抜き、その身を放すと、ルナの身体はするりと崩れ落ちた。
「はあ…はあ…」
さくやは目が半開きとなりながら、浅い息を絶え絶えにしていたが、やがてそのまま仰向けに倒れた。
観客席からは様々な声が上がったが、さくやにはどうでも良い事であった。
さくやがアリスの方に目を向けると、そこには顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らして、アヴァに抱きしめられているその姿があった。
「よかったね…本当によかったね…!」
アヴァによるその言葉に、アリスは言葉で返す事は出来なかったが、息も忘れるような嗚咽によって、それに応えた。
さくやはそれを見届けると、虚空を見つめ、呟いた。
「仇は、討ったぞ…」
さくやはゆっくりと目を閉じた。