孤軍奮闘はいつものことだが、今回ばかりは逃げ遅れたと実感する。最善手は乃払膜が俺を無視することを祈るのみ。
「これであらかた片付いたとはいえ、一人逃れるとは極みにはまだまだ遠い。
やはり、まだ赤が足りないか。だがそれも今回手に入った・・・」
乃払膜が俺の方を向きつつも何やら技術者のようにぶつぶつと検討を始め出した。
今のうちなら逃げられないか?
俺は鬼の影に沿ってゆっくりと這うように逃走しようとする。
「レアでは無かったが評価サンプルとしては得がたき者。連れて帰るか決めるまで勝手に帰って貰っては困るぞ」
ちっ無視はしてくれないようだ。評価サンプルとして持ち帰るだと、どうやらまごまごしていると碌な未来が待ってないようだ。
とはいえ相手の魔の正体も今一分からず対抗策は隠れるのみ。潮目を掴むためにも目が駄目なら耳で情報を稼ぐしかない。
はてさて野郎とのおしゃべり乗ってくれるか?
いや中性的が意見なので男と決まったわけじゃ無いが、何となく口調がおっさん臭いので。
「お前、魔術師と名乗っていたな。これはお前の魔術という奴なのか?」
正直魔法だろうが魔術だろうが超能力だろうが、俺には区別無く等しくチートにしか思えない。
運動能力、顔、健康度、頭脳と人の世界は全く平等じゃ無い、それが生物が生き残る為の多様性確保の為とはいえ、底辺に据えられた方はたまったもんじゃ無い。なのにこれにチートまで加わるとあれば、人生投げ出したくなるぜ。
「ふむ、我が魔術に抗った褒美だ。少し語ってやろう」
「其奴はどうも」
意外と口が軽い。強者故の奢りか、技術者故に誇りたいのか。
どちらもありそうだが、僅かに後者に比重あり。どんなに凄い技術を開発しても自慢する相手がいなければ普通の人は達成感を感じられない。そういった意味では孤高に上を目指すほどには達観してない。
付け込むとしたらその自尊心をどう擽るかか。
「サンプルよ、ガラスに光を選別する機能を持たせるコーティングという技術を知っているか?」
人をサンプル呼ばわりかよ。
これでも理工学系の端くれだ。その程度知っている。
ガラスの上に性質の光の透し方が異なる僅かナノメートルオーダーの薄い膜を一層から何百層と重ねることにより、望みの光を反射させたり透過させたりする技術。身近では眼鏡の映り込み防止なんかに使われているな」
「うむ、よく勉強している。最近の学生の割には関心だな。
なら光が波であることも知っているな」
「当然だ。光の性質は波の間隔で表現され、赤が約800nm青が約400nmと数値で表現できる」
人によっては青にも紫にも見えるかも知れない色調も数値で表せば間違いはない。数字は嘘を付かなくていい。