「そこまでは本で勉強すれば誰でも知ることの出来る知識とはいえ偉いぞ。我と最低限の話をする資格はあるようだな。
なら特別に我が悟った真理を語って聞かせよう」
「真理。それは非情に興味深いな」
「ほう、真理を聞いて今までにない真摯な口調を感じたぞ。
なら傾聴せよ。
人の感情も波なのだよ」
「ほう」
「音や光と同じ波、少しずつ波長がずれて連なる波の集合体。
憎しみから波長が変わっていき、やがて愛の波長に変わる」
パンと両手を合わせて掌を左右に広げていく。
怒りの波長とか彼奴とは波長が合うとか言う慣用句もある。人の感情を波長で表現するのはそう珍しいことじゃない。
だが此奴は魔人、そこで終わらない。そこから深くのめり込んでいく。
「ならば先程の光と同じだ。コーティング技術を使えば好きな感情を透過させたり反射させたり出来ると思わないか?」
「ふはっは、面白いな」
俺もまだまだ所詮心が壊れた程度の男、俺ではそんな発想は浮かんでこない。
「人の持つ様々な感情を抽出し肉に薄く薄く積み重ねていく。最初は色々と試行錯誤の連続だったが、ついに私は思うがままに感情を透過させたり反射させたりできるフィルターの開発に成功した。
先程まで私がしていたフードは人の感情を乱反射させるコーティングがされている。その効果で我の存在を認識しずらかったはず」
そうかそれで俺は射撃を外したのか、向けた敵意が明後日の方向に向いていたのなら納得できる。
「そして今我が挑むテーマは真の愛だ」
「真の愛? 何言ってんだ!?!?」
しまった、あまり馬鹿らしいことを言うので思わず口に出してしまった。
怒り出して会話を打ち切られたらまずい、何か取り繕った方がいいのかとも思うが、真の愛、人間の闇を見た俺からすればあまりに荒唐無稽さに何か気が抜けてしまった。
もういいか。
カチャと俺はリボルバーのシリンダーを外して弾の再装填を始める。
「そうだ。
人は紛い物の愛しか知らぬ。
そこらを歩いている恋人同士など滑稽よ」
俺の失言など気にする様子も無く気持ちよく語り続けてくれる。なら急ぐことも無い、もう少しこの戯言に付き合うか。
「恋人から愛を感じるといっても、それは純粋な愛の波長では無く他の波長の感情も同時に受ける。ただ愛の波長がその時強いから愛を感じていると大ざっぱに思っているだけのことよ」
人は愛していながら憎んだり、好きと言いつつ打算を巡らせたり、憎いと思いつつも憧れたり、入り交じり複雑なのが普通。様々な感情の波長を織り交ぜて発する。
受け取る側も、己でスペクトル解析し一番強い感情の波長を代表の感情として受け取る。
そんなことは日常誰もが言葉にせずとも感覚的にやっていること。