エロ無しです。
サーゼクス・ルシファーは血統主義と実力主義が合わさった冥界での人気者だ。
魔王としての統治能力には一時問題があったが、旧魔王派と呼ばれる勢力を再起不能なまでに弱らせることに成功した。更に互いの種族が疲弊するまで長年の間争い続けた天使、堕天使の両種族と和平協定を結び、冥界に平和を齎した。
超越者と呼ばれる悪魔の枠を超えた力の持ち主であり、彼の母方の力――滅びの魔力を使った戦いは圧倒的だ。
そんな彼はついこの間までは順風満帆な人生を送っていたのだが、今や人生のどん底にいた。
あれだけ愛し合い、子供まで授かった妻が、彼の元を去ったのだ。いや、正確に言うのであれば周りから疑いを持たれない程度には、以前と変わらない生活を妻はしている。
それでもサーゼクスを見る瞳の色には親愛の温かみがなく、どこか事務的なつめたさを孕んでいる。
「どうして……グレイフィア……」
魔王としての仕事を終えて、お気に入りのワインを呷ると愚痴が溢れる。
悪魔はアルコールに弱く、冥界産のワインは度数が低いのだが、それでもサーゼクスは酔っていた。こんな情けない魔王の姿なんて見たくないと思うだろうが、これが現実なのだ。
同じ境遇である父親に二人であの男――妻を寝取った御手洗へ抗議をしようと持ち掛けたが、以前よりも彼は力を増していると言われ、平和を謳う魔王として諦めるしかなかった。
個人として一言言えば良いと気付いたのだが、彼の周りにはあろう事か妻や母親だけではなく、大事な大事な妹もいたのだ。もともと家族愛が強く、幼い頃からリーアと呼んでリアスを特に可愛がっていたサーゼクスにはとてもショックだった。
「……一誠くんはどうしてるんだ? 彼は確かリーアの彼氏だった筈だ……確かめねば」
酔いが回った身体に鞭を打ち、ふらふらと覚束ない足取りでサーゼクスは駒王町へと転移した。
管理者としてまた一つ腕を上げたリアスは、今や町の範囲内であれば感知が出来き、誰が来たのか一瞬で察せられるようになっていた。
「……お兄様が来たのね。グレイフィアに相手をさせると面倒な事になりそうだし、朱乃、私が直接会ってくるからちょっとお願い」
「えぇ、畏まりましたわ」
取り掛かっていた書類を置き、リアスの女王としてサポートをしていた朱乃は恭しく頭を下げる。普段ならいざ知らず、今は王と女王、管理者とその眷属なのだから。
「そう言えば、ラヴィニアさんが堕天使も先生の事を注視していると言ってましたけど、あの人はこないのですね。まぁ、私としては助かりますが……」
主の居なくなった執務室に、朱乃の独り言が寂しく響いた。
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如何に魔王と言えど、身内とはいえ他者が管理している土地に自由に転移出来る訳ではない。
ある程度決まった場所に転移し、そこからは歩きか車だ。私的な用事で訪れた事がなく、常に女王であり妻でもあるグレイフィアを従えて、公的な魔王としての立場で訪れていたサーゼクスが自分で車を用意している訳もなかった。
だからこそ、直ぐに転移して来たリアスに捕捉された。
「お兄様!」
「……!? り、リーアたん!?」
「はぁ……たんは止めてと前々から言ってるでしょうに。それで魔王であるお兄様が駒王の土地に何の御用ですか?」
本来であれば、来訪について事前に管理者であるリアスに一言告げていなければならない。不意打ちで監査に来たのならまだしも、明らかに今の彼は様子がおかしい。
リアスは公的な立場故の言葉遣いや仕草をしているだけなのだが、今のサーゼクスにはその一つ一つが冷たく感じられた。
「……単刀直入に言うよ。リーアたん、あの男――御手洗隆とは別れるんだ。リーアたんの為にもならないし、彼の為にもならない」
「……わざわざそんな事を言うためだけに来たのですか? 魔王様なのですから、もう少し落ち着きを持ってください」
まるで女王として振る舞っている妻のような苦言に、うっとサーゼクスは胸を抑える。
「隆との関係は私の個人的なモノです。魔王様に言われて止めるモノではありませんよ」
「だが! リーアたんは分かってるのか!? あの男はキミだけではなく、私のグレイフィアや母上まで抱いているのだぞ!?」
怒りを顕にサーゼクスが吠えるが、それを前にしてもリアスの表情は涼しい。
「もちろん、知っていますわ。というより、私がお母様を隆に紹介したんですもの。お母様もグレイフィアも隆の子供を産めて幸せだって言っていましたよ」
「……なっ!?」
男女の関係があるのは分かっていた。だが、子供まで産んでいるなんてのは寝耳に水だった。
元から制御出来てはいなかったが、冷静ではない彼の怒りは天元突破し、目の前にいるのが大事な妹であるのを忘れてつい滅びの魔力を放ちそうになる。妻の事を口にするその口を封じたい。その事で頭がいっぱいになる。
「これこれ、こんな所で暗い魔力を流すではない。周りに迷惑であろう」
そんな一触即発な空気に割って入ったのは、着物を上品に着込んだ八坂だった。
手にした扇子をパチンと鳴らすと、サーゼクスの纏っていた魔力が消える。
「ふぅ……助かりました八坂様」
「よいよい。今の妾はただの妖怪、八坂として此処にいるのだからな。それよりもどうして此奴がおるんじゃ?」
八坂の仕事は裏京都の支配者なのだが、仕事らしい仕事は殆ど存在しない。彼女が存在することこそが仕事と呼ぶべきモノであり、彼女が支配者として君臨しているからこそ裏京都は平和なのだ。
故に、偶にこうして出歩くだけの時間はある。
御手洗に会えたらと乙女心で駒王を訪ねてみたら、何やら不穏な気配を感じたので来てみたらこれだったのだ。
「……長くはなりますが」
リアスは自身とサーゼクスの関係性、そしてどうして彼がここに居るのかを端的に説明した。
その間のサーゼクスは魂が抜けたようにただ突っ立っていた。
「なるほどの。人間の感性で言えば隆が悪いのは明白じゃの。だが、お主たちは悪魔じゃろ? 実力主義社会なのだからまた奪えば良いのに。それほどまでに己に自信がないのかのう……?」
「おにい……魔王様は家族愛が強い方ですので。武力で手にするよりも対話を望む事が多いです」
「難儀じゃの。ま、それは無理というやつじゃな。隆自身の力はアレじゃが、彼奴の周りは粒揃いの女ばかり。ガブリエルという天使の女もおるんじゃから悪魔としては手を出せんしのぅ」
ガブリエルは彼女個人として御手洗を好いており、その果て子供を授かっている。そのうえで天使のトップであるミカエルからの仕事でも彼の元を訪れている。
そんなガブリエルと関係を持つ御手洗に、魔王であるサーゼクスが何かをできる筈もなかった。
リアスと八坂の会話を聞いていたのか、二人が哀れんだ視線を彼へと向けようとした時には、既にサーゼクスの姿は駒王にはなかった。
私にとって一誠とサーゼクスってNTRの舞台装置として書きやすいんですよね。
一誠は適当に激昂させとけばそれっぽくなりますし、サーゼクスは御手洗の周りの女的に手を出せないと項垂れさせれば良いだけですし。
ラヴィニアという女が出来たので堕天使側の思惑も何となく出てくるようになりました。今まで天使か悪魔しか書いてなかったですからね。彼女、堕天使陣営とは協力関係にあるようなので。
朱乃の意味深の台詞は何時かバラキエルが出せればと思ったので呟かせました。(出すとは言っていない)
匙くんの寝取られた側の視点はどうしましょうかねぇ。あの子のを書かないのって単純にキャラが掴めてないんですよね。一誠とサーゼクスは先に述べたとおりですけど、理想を抱いた上司が……ってので行こうかなぁ。