「いやあ、今回は助かりましたよ。一刻も早く手にしたかったものでね」
「はあ、ええと、それはどうも」
夜の中でも喧騒の絶えない、街の一角の酒場にて。アイシャは今回ギルドを通して依頼をしてきた、富豪の男と机を共にしていた。
富豪の依頼は、得てして難度の高いモノが多い。やれ凶暴な
だが、今回アイシャが請けた物は、珍しい事にそれらとは異なっていた。
「……でも、ホントにいいんです?ちょっと街を行き来しただけで、こんなにもらっちゃって」
「ハハ、そんな事はありませんよ。商人を待つよりは、冒険者の方に頼んだ方が早いですからね。その時間の分の対価、という奴です」
今回の依頼の内容は至ってシンプルで、離れた街から抱える程度の荷物を受け取って渡して欲しいというだけの、使い走りに等しいものだった。
難度の割に高い報酬に釣られ、アイシャは依頼書を見た瞬間に即決でこの仕事を請けた。
とはいえ、依頼を請けた後になってアイシャも”あれ、これヤバいんじゃないです?”と裏を疑った。その為に、道中では最大限の注意を払ってきた。
が、そんなアイシャの心配をよそに、途中で厄介な魔物や賊などに遭遇する事も無く、依頼はなんら問題なく終わった。
「いやあ、本当に優秀な方が請けてくれて助かりました。感謝の代わりといってはなんですが、ここは奢らせて下さい」
「……え、いいんです?……報酬の一部、ですか?」
「いやいや、ほんの気持ちですから。報酬とは別に、好きなだけ召し上がって下さい」
アイシャは男からの言葉を一瞬疑う。が、聞き間違いでは無く、男は確かにこの場での飲食の奢りを勧めてきた。
アイシャからすれば、願ったり叶ったりの話だ。危険な依頼が多い冒険者稼業で、さしたる驚異も無い依頼をこなして十分な報酬を得た上、夕食まで自由にしていいと来た。
富豪の金銭感覚はそれ程までに緩いのか。とはいえ自分がその恩恵に
とてつもない自分の巡りの良さに、アイシャは感謝した。
「そ、それじゃあ……お肉……お肉、食べていいですか?」
「ええ、いいですよ。
「飲みます!!」
遠慮を捨て、食い気味にアイシャは即答する。本当に何を飲み食いしても良いと言うなら、この際普段口に出来ないものを食べたい。
己の食欲が望むまま、アイシャは店員へ注文をし始めた。
◆ ◆ ◆
「――ぷはーっ!こんなに一杯食べたの久し振りです!」
「いい食べっぷりですねえ。こちらも嬉しくなりますよ」
ひとしきりの間食事を楽しんだアイシャは、贅沢な夕食で腹を満たすという、ここ最近で最も幸せな体験の余韻に浸っていた。
どれだけ高額な料理でも、男は文句一つ言わず振る舞った。その歓待に甘え、アイシャは結局満腹になるまで好きなものを頼み、その全てを完食した。
これほどの良い
「はぁー……幸せですー……」
あまりの満腹感に、アイシャはふわふわとした気分に浸る。酒に弱い訳ではないが、葡萄酒も少なくない量を飲んでいた為、その酔いもあって体は暖まっている。
とはいえ、我を忘れる程には飲んでいない。いかに好きなだけ頼んでもいいと言われても、流石にそのぐらいの分別はあるし、何より男の前で酔い潰れる訳にはいかない。
男はみな狼だ。そう考えなければ、女は自分を守れない。その心持ちを、忘れてはならない。
「……そろそろ、ですかね」
「……?何が――」
ぐらり。その瞬間、アイシャの視界が揺らぐ。
揺れる視界を止めようとした所で気付く。頭が、横に落ちようとしていた。
「――ッ!?」
つられて体も傾き、椅子の右へと倒れ込もうとするのを、アイシャは
体の自由が利かない――というよりは、急激に体が脱力感に襲われている。酒で酔ったにしては思考はクリアだ。いきなりの不調に対し、アイシャは頭を回転させ続ける。
頭は回るが、体が応えない。今にも机に突っ伏したい、脱力感から来る甘えを抑えて現状を把握しようとする。
そしてすぐに、一つの可能性に気付く。というよりは、それしか考えられなかった。
「……あ、なた……何、盛ったんですか……!」
「人聞きが悪い。私は何もしてませんよ」
恐らくは、毒薬。症状からどの種類の物かを断定する事はアイシャには出来なかったが、明らかに異常な様子を見せているにも関わらず、富豪の男はなんら動じていない。
それは自然と、男がアイシャの異常に関わっている証明になっている。が、そんなアイシャの言葉を、男は自然体のまま否定した。
「しかし、随分と辛そうですね。介抱してあげますよ」
「……!ち、近付かないで下さい……!」
そう言って男は席を立ち、対面のアイシャへ近付いてくる。
悠々と近寄ってくる男の様子から逆に危険を感じるも、アイシャは思うように体を動かせないままでいた。発熱もしているのか、全身からは汗が滲み出して止まらずにいる。
男は動けずにいるアイシャの傍に立つと、口だけを大きく吊り上げてアイシャの肩に触れた。
「ひゃうっ!……え……?」
アイシャが男に触れられた瞬間、ぞわりとした鋭い感覚が肩から走り、悩ましい声が口から意志を無視して飛び出す。
ただ触られただけにしては異様な反応に、アイシャは困惑する。そもそも毒薬を盛られたにしては、意識は鈍らずハッキリしているし、体は脱力感こそあれ痺れて動かないという程でも無い。
睡眠薬でも、痺れ薬でも無い。それなら、何を盛られた。今の自分の反応は、なんだ。アイシャの中の疑問が、答えに辿り着けずにぐるぐると渦巻いていく。
「さてと、店員さん。お代はいつもの様にお願いしますよ」
「へへっ、いつもすまねえなあ旦那、有り難く頂戴するぜ」
男はアイシャの肩を担ぎ、金貨の一山をテーブルの上に積んで店員を呼ぶ。
その内の数枚を店員は素早く懐にしまい、残りを持って店のカウンター側へと去っていく。明言もされていないチップを取っていく店員を、しかし富豪の男は何事も無かったように見送る。
勘定にしてはどこか違和感のあるやり取りが、アイシャの頭に引っかかった。
「こうも辛そうでは見過ごせませんねえ。せっかくです、良い宿に招待しますよ」
「や、やぁっ……はっ、はなし、てぇっ……!」
男の肩にもたれかかりながら、アイシャは体を揺する。しかし、身体を動かす度に弱い電流の様な感覚がやってきて、それがアイシャから抵抗する力を奪っていく。
明らかに変調を起こしている自分の身体の正体と原因がわからないまま、アイシャは男に運ばれて店の外へと連れて行かれた。
◆ ◆ ◆
「よっ、と」
「あうっ……」
アイシャを連れた男はその街でも有名な宿にまでやってきて、弱々しく抵抗するアイシャを尻目に
壁にはしっかりと白塗りが為され、広いベッドには直方体の木組みに布と薄絹のベールが取り付けられている。それでいて食事を取る為の机と椅子が近くにあり、数泊する事を前提に造られているという事が一目でわかる。
見た事も無いような、豪奢な部屋。そのベッドの中央へ軽く放られたアイシャは、柔らかく肌触りの良い毛布の上で横たわる。
身体の力は未だに戻らず、それどころか酒場で感じたぞくぞくとした感覚は全身から湧き上がる様になっており、体温もまた下がる気配が無い。
「……ん、ううぅっ……くぅっ」
「いやぁ、辛そうですねえ。まぁ当たり前ですが」
その感覚に耐え、膝を立ててなんとか立ち上がろうとする。が、意志に反して勝手に震える足がそれを阻んで再びベッドに身体が沈んでしまう。
危険だ。冒険とは違う、女性としての危機を前にして、それでもアイシャの身体は心のままに動く事を拒み、無防備なままベッドに伏せさせ続ける。
「まだわかっていないようですし、種明かしでもしましょうか」
「い、いやっ、来ないで、くださいっ……!」
靴を脱いだ男はベッドに登り、アイシャへ手を伸ばしてくる。肩と腰を動かして後ろへと逃げようとするも、そこから再び鋭い感覚が走って身体から力を奪う。
男はそんなアイシャの肩を掴み、仰向けに転がして腰の辺りで馬乗りになる。上に乗って完全にアイシャの自由を抑えた男は、そのまま膨らんだ双丘に手を置いた。
「ひううっ!?……や、な、なに、これっ……!」
男の手に僅かに上から押される、たったそれだけで鋭い感覚が走る。それは痛みでも嫌悪でも無く、身体を震えさせる快楽だった。
明らかにおかしい。ただ手を置かれただけで、気持ちが良い。そんな事、ありえない。そう考えている間に男の手は無遠慮に動き始め、アイシャの胸を揉み始めた。
「あっ、ひゃ、はぅっ……!はぁっ、あ、んっ……!」
男の思うまま、胸を弄られる。直接触れられてすらいない、服の上から捏ねくり回されるその手付きだけで全身は細かく波打ち、悩ましい声が耐えきれず漏れ出す。
過敏とも言っていい自分の反応に、アイシャ自身が困惑する。こんな筈が無い、そうどれだけ心の中で叫んでも身体は瞭然に悦びを表し、心を裏切る。
そこまでされて、ようやくアイシャは自身に起こっている事態を理解した。
「――び、媚薬、ですかっ……!んぅっ、んっ、ふ」
「ご明察。安心して下さい、別に中毒性の無いものですから」
異常なまでの鋭い感性、その全てが快楽に変換される。その状況から、アイシャは媚薬を摂取したものと推察し、それを男が肯定する。その間も男は胸を触り続けた。
媚薬。話には聞いたことがあるが、実際に飲んだ事は無い――というより、見たことも無い。しかし女としては警戒すべき、毒に等しいモノ。
それであれば、胸から全身へと走り抜ける快楽の説明もつく。だが問題は、いつの段階・どの様に仕込まれたモノであったか、だ。
アイシャは夕飯の時に席を離れてはいなかったし、男は対面に居たアイシャの料理に触れるどころか、手も付けずにいた。なら、どこで、どうやって?
快楽で思考を乱されながらも、アイシャは自身の見落としを考え――そして、思い当たった。
「……配膳させる時、あの店員に仕込ませた、んですねっ……!?」
「おぉ、随分と早い理解ですね。流石は冒険者、聡明でいらっしゃる」
”いつもの様に”、”頂戴する”。そして、支払いの際のチップ。勘定の際にあった、一連のやり取り。一つ一つは小さな違和感も、全てを一個の謎と考えればその正体は明らかになる。
富豪の男は何もせず、事前に
これならば男は素振りを一つも見せず、アイシャへ薬を盛る事が出来る。いかに対面の男を警戒していた所で、まるで無関係な所から薬を仕込まれていればどうにもならない。
恐らく、この男は同様の事をこれまで何度と無く繰り返してきた。そんな卑劣なやり口にも、その手口に引っかかった自分にも腹が立つ。
「物のついでです、もう一つだけお教えしますよ。貴方が依頼で運んできてくれたあの荷物、あれが媚薬です。まぁ、”原料”というだけですが」
「な、なっ……!?」
苛立ちながらも胸を触られて身を捩るアイシャを見下ろし、男はさらに告白する。
想像もしなかったその事実に、アイシャは驚く。報酬が高い割には高い報酬を払ったその荷物、それが今自分を蝕んでいるモノだった。
それでは、まるで――
「鴨が葱、という奴ですね。まぁ普段はその辺りの少女に
「やっ……いやっ、やめっ……!」
話している間も男はアイシャの胸に当てた手を動かし、今度はアイシャの上着の襟部を下へ強くずり下げる。
服を固定している腰のコルセットの上まで強引に引かれ、服の襟は腋の付近から裂け、筒状の黒い下着に抑えられたアイシャの双房が男の前に晒される。
強姦同然に男はアイシャの自由を奪いながら、アイシャの身体を自由にする。そこから逃れようと思っていても、高められた性感は服が肌に擦れるだけで心地良さが湧き上がらせ、抵抗する力は失われる。
「歳の割にはいいカラダですねえ。顔合わせの時から、ずっとこうしたかったんですよ」
「ひぁっ、あ、やあっ……!やだ、やめて、やめて下さいっ――ん!」
追い打ちをかける様に男は下着の下から掌を滑り込ませ、直接胸を触り始める。
愛撫ですら無い、思うままに女を辱めるだけの手。そんな手の動きにすら、身体はぞくぞくと悦びで震えてしまう。
震える身体は意志を無視して動き、疼く下腹部が男へ向けて腰を上げてしまう。浅ましい自分を自覚しながら、それでも身体は思うようには動かない。
むしろ、自身を蝕む
膨らんだ胸に掌を埋められ、乳輪を指で擦られ、左右交互に揉み上げられ。その全てが、抗えない程に心地良い。
これで、乳首に触られたら。性器に触れられたら。本格的な愛撫すら始まっていないにも関わらず、高波の如く押し寄せる感覚に、アイシャは恐れすら抱いていた。
「まぁ深く気にせず、ただ巡りが悪かったと思って――鳴いて下さい」
良い話には、必ず裏がある。
そんな当たり前の事を、アイシャは絶望の中で今更実感した。
【 前回依頼の時 ― 高級宿 ― 富裕層の男 ― 媚薬を盛られ ― ??? 】
一方的にアイシャちゃんは犯されるんだ かわいそうだろうが仕方ないんだ
この話は前回とは違う世界線で、またハジメテの行為という設定です。