※この作品はR-18です。

消えた過去からこんにちは   作:雪解けの宵王

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 じゃあIは愛情たっぷりってことで。作品中最初から最後まで愛情たっぷりだが? トッポの親戚だった気がしてきた(?)。


I.幽霊のお姉ちゃん

「というわけで、再会のぎゅーっ♡」

「ダメですよ玖音さん」

 

 突如現れた謎の人物に目を白黒させていると、件の女の人──玖音さんは僕にハグをしようとして祈ちゃんに阻まれる。危うくお弁当を落としてしまうところだったので助かった。

 

「むっ、姉弟(きょうだい)のスキンシップを邪魔しないでよぅ、祈ちゃん」

「今の光明君に妙なことを言わないでください」

 

 と思えば、玖音さんは何やら衝撃の一言をこの場に齎す。姉弟(きょうだい)と聞こえたけど、気の所為だろうか。

 

「お姉さん、ですか? 僕の?」

「ほら、信じちゃったじゃないですか」

 

 真偽を確かめる僕の問いに、祈ちゃんは冷ややかな目を玖音さんに向ける。確かに全然似てないと思っていたけど、あまりに当たり前のようにそう言うから思わず信じてしまった。

 

「嘘じゃないもんっ。光明くんは彩乃お姉ちゃんって言いながらいつも私に構ってくれたんだからっ」

 

 玖音彩乃。どうやら目の前の人物はそう言う名前らしい。飄々とした態度で祈ちゃんをいなす彼女は、どうやら僕の自称お姉さんらしかった。どういうこと?

 

「えっと……」

「あっ、ごめんね光明くん。お姉ちゃんと会えなくて寂しかったよね」

「い、いえ、あの、そうではなくて……」

 

 何もかもが分からなくて、とりあえず二人の間に割って入っていく。僕に話しかけられたことで彩乃さんの表情は一転して、再び満面の笑みで僕へと応対を始めた。何だこの……な、何だ!

 

「玖音さん、まず光明くんの話を聞いてあげてください」

「なぁに? お姉ちゃんと結婚する? 光(みっ)ちゃんとならいつでもいいよ♡」

「違います。しませんし、させません」

 

 彩乃さんはマシンガンのように間断なく喋り続ける。それも心の底から楽しそうに。付き合わされる祈ちゃんはだいぶ呆れているようだけれども。

 ただ、僕はその楽しそうにしている彩乃さんに水を差さなければならない。もう言い慣れてしまった一言を、今一度。

 

「あの、僕のことをご存知なんですか?」

「…………はぇ?」

 

 奇跡的に生まれた隙間に言葉を挟み込む。それを聞いた彩乃さんはビシリと石になったように動きを止めてから、僕の方へと徐に視線を送った。

 

 

 

 

 

「記憶、喪失……」

「はい、あの……ごめんなさい……」

 

 これも何度目かになる説明。それを受けた玖音さんは、茫然自失としてその場に崩れ落ちた。四つん這いで項垂れる姿は、僕が初めて事故の後遺症を聞かされた時よりも落ち込んでいるように見える。

 

「ホントに、ホントに覚えてない?」

「…………ごめんなさい」

 

 縋るように袖を掴む玖音さんに、僕は謝罪の言葉を重ねる。目覚めた時に記憶が全損していた以上、覚えがあるはずもなかった。

 

「いやぁ……うん、反抗期にしても妙に他人行儀だし途中から何か変だなぁとは思ってたけどぉ……」

 

 俯いて指先をつんつんと合わせながら、彩乃さんはそう寂しそうに零す。泣きそうに震える声は聞いているこちらの精神をゴリゴリに削ってきた。

 

「じ、じゃあお姉ちゃんと結婚の約束したのも?」

「玖音さん」

「ごめんなひゃい……」

 

 と思えば、彩乃さんは急に悪戯顔になって僕を揶揄ってくる。すぐに祈ちゃんの冷たい声で封殺されてたけど。表情が分かりやすい人だなぁ。何だか子供みたいだ。

 

「何かきっかけがあれば、思い出せると思うんですけど……」

 

 それがどんな記憶かまでは分からない。でもここ二日のことを思う限り、僕に強い関わりがある何かに触れないと記憶を取り戻すことはできないと確信している。ふざけながらも悲しい顔をする彩乃さんには、それを教えないといけない気がした。だから正直に話す。

 

「そっかぁ……じゃあ、えいっ♡」

「んなっ!?」

 

 すると、真っ直ぐ見つめていたリチア電気石(パライバトルマリン)の輝きが揺らいだ。そう認識したかと思うと僕の視界が黒で塞がれる。突然の息苦しさと柔らかさに、僕は何をされたか悟った。祈ちゃんの驚く声と同時に全身が熱くなる。

 

「な、何してるんですか玖音さん!」

「ん~? 何って、愛の抱擁?」

「むぐっ!?」

 

 祈ちゃんの抗議の声に対して、彩乃さんは僕を抱き締める力を更に込めていった。話している時から谷間が見えるぐらい大きかったそれは、僕の頭に合わせて形を潰していく。女の子らしい甘い匂いと包み込むように柔らかな感触に、僕の息苦しさはどんどん強くなっていった。

 

「あんっ♡ み、光ちゃん……お姉ちゃんの身体まさぐっちゃだぁめ♡」

「いい加減、離してくださいっ!」

 

 あまりの羞恥に意識が遠のきそうになりながら、僕は弱々しく彩乃さんに解放を要求するタップを繰り返す。だけど、彼女は何故かそれを別の何かと勘違いして甘い声を漏らすだけだった。

 見かねた祈ちゃんが救助活動を始めるけれど、なかなか彩乃さんは引き剥がせないようだ。

 

「んっ♡ 光ちゃんのえっち……♡」

「玖音さんずるいですっ! 愛撫なんて私もされたことないのにっ!」

 

 だんだんタップする力も入らなくなってきた。叩いていた手はもはや彩乃さんの身体を這うだけになってしまう。何か二人が騒いでいるけど、僕はそれを音としてしか(意味のある言葉として)認識できない。

 

「あっ」

「み、光明君!?」

 

 意識を維持できない。だらりと落ちる腕を見た二人が叫ぶのを聞いて、それを最後に僕は意識を手放す。

 脳裏に浮かぶ焼けるような熱さは、最後の最後まで残っていた。




 私が書く女の人、総じて暴走してない? 今作の良心が光明君の可能性。
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