※この作品はR-18です。

消えた過去からこんにちは   作:雪解けの宵王

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 彩乃さんのおっぱい揉みしだきたいですね(挨拶)。搾乳調教プレイとか似合いそう。


K.今も昔も

「初めて会う人もいますし、とりあえず自己紹介を。遊君の幼馴染の霊光明です」

「あ、えっと、私は琴吹ヒカリです。よろしくお願いします、霊、先輩?」

 

 互いを知らないままに歓談というのも難しい。というわけで、最低限名前ぐらいは知ってもらうために、僕は琴吹さんに自らの情報を明かす。突然の自己紹介に面食らいつつも、琴吹さんはぺこりと頭を下げて便乗してくれた。僕の場合は初めましてとは言っても、実際にはそうでないこともあるけども。まぁ、今回は本当に初めましてだったらしい。ここ数日でやたら知り合いだった人に会うのでもしやと思ったが、流石にそう続くものではなかった。

 ただ、少し僕が歳上と認識するのに難を要したみたいだったけど。まぁ、気持ちは自分の事ながらよく分かる。初対面の人はだいたいそういう反応を見せるのだ。

 

「それで、この子は僕の幼馴染の祈ちゃん」

「どうも」

 

 その後、流れるように祈ちゃんを前に座る二人へと紹介する。祈ちゃんはさっき分けてもらったココアを手に持ったまま、小さく頭を下げて挨拶をした。揺れるサイドアップの髪が僕の頭に擦れる。

 

「次は俺か? 花咲遊真だ。よろしく」

「最後は私だね。玖音彩乃で~す」

 

 続けて残った二人も名前だけの簡単な自己紹介をしてくれた。尤も、彩乃さんのことは皆知ってると思うけど。

 

「そういえば、何で玖音先輩が霊先輩のお弁当箱を持ってたんですか?」

「言われてみれば確かに」

 

 やるべきことも終えて、意外にも琴吹さんがトークタイムの主導権を握る。僕もコミュ障脱却のためにそのトーク力は見習わなければ。琴吹さんの言葉に相乗りする遊君を尻目に僕はそう思った。

 

「んー? それはねぇ、光ちゃんが愛するお姉ちゃんのために作った愛弟弁当で……」

「平然と嘘を吐かないでください。嘘を」

 

 何食わぬ顔で嘘を吐き始める彩乃さんを僕は止める。彩乃さんの言葉を信じかけていたのか、琴吹さんの表情がころころと変わっていた。そもそも何だ愛弟弁当って。

 

「玖音さんに昼休みに襲われて奪われたんですよ」

「それはそれで何かちょっと違う気がするけど」

 

 見兼ねた(?)祈ちゃんの助け舟も、それを是とするには少し内容に棘がある。結果的にそう見えるだけで、彩乃さんはお弁当を奪うつもりは無かったはずだ。……多分、きっと。

 

「昼休みにいったい何があったんだろう……?」

「さ、さあ……?」

 

 その遣り取りを見る遊君と琴吹さんは若干引いている。正直なところ、気絶した後のことは何も知らないので、僕が知らないところで一悶着あったのかもしれない。

 

「はい、光ちゃんあーん」

「んぁ、んぐんぐ」

「むっ」

 

 横合いから出されるお菓子に齧り付く。話題転換したそうな雰囲気に、僕は敢えて乗って口に残る味を楽しんだ。不満そうな声が反対側から聞こえてくる。

 

「光明君」

「あ、あーん」

「むぅ~」

 

 くいっと身体の向きを変えさせるようにかかる力。何事かと振り向くと、対抗するようにお菓子を構えた祈ちゃんが袖を引いていた。手にしていたのはあまい棒ではなくチョコレートで、指ごと食べてしまわないように僕はそれを口に含む。満足そうな顔に戻る祈ちゃんとは反対に、今度は彩乃さんの間延びした声が上がった。

 

「……何だか飼い犬に餌付けしてるみたいです」

「琴吹さん、犬にチョコをあげたらいけないらしいよ」

「あ、そうなんですね」

 

 前方は前方で不思議なトークに花を咲かせているようだ。そもそも犬に見立てるなら、犬にヒト用の食べ物は与えない方がいいと聞いたけど。どうでもいいことを考えながら、僕は二人が満足するまで餌付けされることにする。お腹が減っていたのは事実だし、ちょうどいいと言えばちょうどよかった。

 

「な、なぁ、祈ちゃんって言ったか?」

「……あまり馴れ馴れしく呼ばないでください」

 

 しかし、一向に餌付けは終わらず、助け舟を出すように遊君が会話を切り出す。声をかけられた祈ちゃんは素っ気ないけれど。

 

「えっと……じゃあ、祈。……光とはどういう関係なんだ? さっき光は幼馴染って言ってたけど……」

 

 呼び名の訂正をしてから祈ちゃんの反応を見て問題ないと判断したのか、遊君は閉じた会話を再開させる。言われた祈ちゃんはキョトンとしていた。

 

「そのままの意味です。あなたと同じように、記憶を失う前の光明君と……友達だったんです」

「えっと、記憶がないっていうのは……?」

 

 微妙な空気が漂う中、おずおずといった調子で琴吹さんが手を挙げる。そういえば、琴吹さんは記憶喪失の件は知らないのだった。

 

「実は昔事故に遭って、後遺症でそれ以前の記憶が無いんです。具体的には二年ぐらい前ですね」

 

 事故に遭ったのはもっと前ですけど、ともう言い慣れてしまってあっけらかんとする僕に琴吹さんは絶句する。あまり深刻には捉えなくてもいいのだけれど、きっと優しい人なのだろう。

 

「それで、鈴ヶ丘にはその記憶を探すために戻ってきました。お婆ちゃんの遺言にも書かれていましたし、託されましたので」

「託された?」

 

 そこで終わればまた会話が途切れてしまう気がして、まだ誰にも言っていないことを僕は口にする。そこに食いついて来るのはやっぱり遊君だった。左右からも気になるオーラはむんむんに出ているけれど。

 

「えっと、お婆ちゃんが言ってたんです。人が本当に死んでしまうのは、大事な人に忘れられてしまった時だって」

 

 実際に僕もそう思っている。そう口にしながら、言って損をするようなことでもないので、僕は促しに従って話を続ける。あまりしたことのない身の上話なので、少し口上はゆっくりだ。周りが固唾を飲んで見守る様子が何となく分かった。

 

「近しい人間で両親のことを覚えていられるのは、もう僕だけしか残されてません。忘れたままでいると、僕は大事な人を殺してしまうことになります」

「そ、それって……なぁ光、もしかして、おじさんとおばさんは……?」

 

 ここまで言えば何となく察したのだろう。目覚めるより以前のことは話していないので、それを知らなかった遊君は少し強ばった顔のまま震えた声でそう尋ねてくる。返す答えは首肯だった。

 

「はい、昏睡中に二人とも亡くなったと聞(・)い(・)て(・)い(・)ま(・)す(・)」

 

 自分の親のことなのに、何処か他人行儀な言い方にならざるを得ない。そのことが僕にはどうしても悔しかった。慣れてきていた暮らしを捨てて遺言に従ったのは、それが一番の理由だ。

 手掛かりを少しずつ得られている今、その選択は間違いなかったと思う。

 

「大丈夫ですよ。大事な縁も少し取り戻せて、記憶も回復の兆しが見えてきていますから……大丈夫です」

 

 重い沈黙が場を支配した。私は私なりに心のあり方を定められたので、そこまで重くならなくてもいいのだけれど。やっぱり、皆優しい人なのだろう。握られる右手から伝わる温もりが、ほんの少し固くなった心を氷解させた気がした。

 

「うぅ、ぐすっ」

 

 そう思うのも束の間、啜り泣く声が隣から聞こえてくる。視線を向ければ、そこにはぼろぼろと涙を零す彩乃さんの姿があった。

 

「ぁ、えっ、あ、彩乃さん? な、何で」

「だってぇぇっ」

 

 ここまでの反応は受けたことがなくて、僕は思わず面食らう。慌てて声をかけると、彩乃さんは涙声のまま更に泣いてしまった。

 

「こんなに、辛いことになってるって、知らなくてっ」

「だ、だからってそんな泣かなくてもっ」

 

 おろおろとする僕に彩乃さんはなおも泣き続ける。しゃくり上げながら綴る言葉には、僕への心配が多分に込められていた。

 

「僕は大丈夫ですからね。ほら、泣き止んでください」

「ん……ぐすっ」

 

 どうしていいか分からず、僕はとりあえず彩乃さんの頭を撫でる。少し跳ねがある髪でも、僕の手は簡単に受け入れてくれた。あやすように何度も撫でていると、彩乃さんは少しずつ落ち着いてきて────

 

────ふと、脳裏を過る。

 

 今よりもずっと低い視点で、目の前の彩乃さんと同じ格好、同じ背丈の女の子を僕が撫でていた。機嫌を良くした女の子は楽しそうに僕を抱き上げて、笑いながらお互いの名前を呼び合う。何が楽しいのかはきっとどちらも分かっていない。それでも、僕たちは────

 

「光ちゃん?」

 

 映像の中と同じ声に意識を引き戻されると、目を赤くした彩乃お姉ちゃんが潤んだ輝きを僕に見せる。今見えたのは、きっと彼女との思い出だ。

 

「もしかして、また何か思い出したの?」

 

 同じ現象に覚えがある祈ちゃんは、期待を込めた声でそう尋ねてくる。僕は固まったままだった身体を動かして、それを肯定した。

 

「えっと、本当に彩乃お姉ちゃんって呼んでた、みたい」

 

 思い出したものを再び忘れないように咀嚼しながら、僕はそのことを口にする。頭を撫でられていた彩乃お姉ちゃんは今まで沈んでいたのが嘘みたいにパァっと笑顔の華を咲かせた。

 

「わぷっ」

「わ、ちょっ」

「良かったぁっ! 思い出してくれて本当に、良かった……っ!」

 

 そう言いながら、彩乃お姉ちゃんは後ろにいる祈ちゃんごと僕を押し倒して抱き着いてくる。前後両側から動かれてもみくちゃだ。でも、僕も祈ちゃんもまた泣き始めた彩乃お姉ちゃんを邪険にはしない。胸元に顔を埋めて表情が分からなくなったお姉ちゃんの頭を、僕はゆっくりと撫で続けた。

 二人の方からも安堵と感激のような声と視線が漏れてくる。ただ、僕には少し気になることができてしまった。女の人に直接聞くには少し憚られるようなことを。

 気まずくて部屋を見渡すと、ふと黒い棺桶が目に映る。

 

「お姉ちゃんは、もしかして吸血鬼だったりする?」

「ほぇ?」

 

 縋り付いて甘えてきていた彩乃お姉ちゃんに、僕は勇気を出して尋ねてみた。訊かれたお姉ちゃんは胸元から上目遣いで困惑の視線を向けてくるけど。僕の頭を撫でていた祈ちゃんも、妙な言葉を耳にして手の動きを止めた。

 

「いや、だって……僕が小さい頃と全然姿が変わってないし、あんな物も……」

「あんな物……?」

「ぶふっ」

 

 僕の言葉に全員がそちらへ視線を向ける。祈ちゃんと遊君の吹き出す声が重なった。いつまでも若い姿を維持し続けて、現し世を永く生きる怪異だとしか思えないのだ。まさか、記憶の中で高校生だったお姉ちゃんが今の今まで留年し続けているとは思えないし。実は学園七不思議の一つでしたみたいなオチでも僕は納得さえできそうだった。

 

「ふふふ、実はそうなんだ」

「へ?」

 

 妖しく笑う彩乃お姉ちゃんの声に、周りが間の抜けた声を上げる。やっぱりそうだったんだ。そう思うのも束の間、お姉ちゃんは一息で僕に顔を近付けた。

 

「かぷっ」

「んっ」

 

 その吸血鬼(お姉ちゃん)が僕の首筋に噛み付いてくる。立てられる犬歯の感触に、僕は思わず声を上げた。ぞわりとした感覚が背中を走る。それと同時に、後ろの祈ちゃんがビシリと固まる気配を感じた気がした。

 

「ん、ちゅっ♡ ぺろぺろ♡」

「ちょっ、と……っ、お姉ちゃん、何をっ?」

 

 ぬるりとしている舌の感触に僕は声を上擦らせる。眷属にしようと襲いかかってくるお姉ちゃんを引き剥がそうとするけど、のしかかってくる力を押し退けることはできなかった。軽々に正体をバラしてしまったことに、今更ながら後悔の念が押し寄せてくる。

 

「ぷぁ、ご馳走様でした♡」

「く、玖音先輩?」

「あわわわ……あ、あんな大胆にキスを……っ」

 

 と思えば、彩乃お姉ちゃんは突然僕から離れていった。舌舐めずりをして悪戯に笑う姿は、何だか心をドキドキさせる。一部始終を見ていた皆も、困惑したり恥ずかしがったりと、三者三様の反応を見せているようだ。

 

「光明君、玖音さんは吸血鬼でも何でもないです」

「あ……そうなんだ」

 

 濡れた首筋をハンカチで拭きながら、祈ちゃんは僕に不機嫌そうな声でそう言う。どうやら揶揄われていたらしい。すっかり騙されていたことに、安心半分残念半分だ。これ以上は藪蛇な気がしたので、この件については触れないことにしよう。少しだけ身の危険を感じた瞬間だった。

 

「そろそろ帰りましょうか」

「あ、もう帰っちゃう?」

 

 ふいに時計を目を配り、祈ちゃんが一言。静寂を穿つ言葉には彩乃お姉ちゃんが反応を示す。引き止めてきた時とは違って、今回はただ確認のために訊いてきたような声色だ。表情にもそういう意思は見られなかった。

 

「この後も少しやることがありますので」

「ちょっと名残惜しいけど……うん、分かった」

 

 言葉を続ける祈ちゃんに、彩乃お姉ちゃんは可愛らしい仕草をたっぷりにそう返す。何というか、これは分(・)か(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)動きだ。上手く表現できないけど、何となく僕はそう思った。

 

「それじゃあ、いつでも来ていいからね。幽霊部は君たちを歓迎しよう」

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

 胸を張って誇らしげな彩乃お姉ちゃんに、僕はお礼の言葉を残して秘密の部屋を後にする。そういえば、結局何をする部活なのかは聞きそびれてしまったな。手を振ってくれる三人に振り返しつつ、僕は今更ながらにそんなことを考えた。

 

「……よし」

「祈ちゃん?」

「ううん、何でもない」

 

 登る暗がりの中で何かが聞こえる。心を決めたような声色の祈ちゃんは、何でもないと言ったけれど。首を傾げてから、僕は祈ちゃんの後を追いかけた。




 思い出してくれて本当に良かった。でも、少しだけ思い出して欲しくなかった気もした。燃えた桜の木の下からはまだ歩き出せそうにない。
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