消えた過去からこんにちは 作:雪解けの宵王
「光明君の部屋、物が少ないね」
「ん? あー……そうだね、あっちでは自分の物ってそんなに持ってなかったから」
おかげで引っ越す時は楽だったけど、と隣に腰掛ける光明君は困ったように笑う。それをしっかり記憶に刻んでから、私は三度目になる光明君の部屋を今一度見渡した。
少し古い勉強机に教科書類で埋められた小さな本棚。目に付くものと言えばそれぐらいだ。少なくとも、これを見ただけでは光明君の為人は見えてきそうにない。
「勉強ばっかりしてたから、趣味らしい趣味も無くて」
光明君が目覚めたのはちょうど受験期になる頃。それでも
「頑張ってきたんだね」
「んっ」
私は労いを込めて光明君の頭を撫でる。彼はそれを受け入れて、気持ち良さそうに目を細めた。
「祈ちゃんは何か趣味はある?」
「うーん……習慣になった運動と……あとは漫画とか」
「漫画?」
撫でられながら光明君は私に問いかける。向けられる純粋な輝きに、隠すことでもないので正直に私の趣味について話した。彼の瞳に興味の色が顔を出す。
「今度読んでみる?」
「いいの? ありがとう祈ちゃん」
その期待に応えるために、私は光明君に提案する。素直な彼はそれを聞いてにこにこと可愛い笑顔を浮かべた。
こんなに可愛い光明君も立派に男の子だ。なら、きっと私の持つ漫画も嫌いではないはず。あの日見せた空手の技にも食いついていたし。ふと、その時に下着を見られてしまったことを思い出してお腹が熱くなった。
「どしたの? お腹空いた?」
「あぁ、えっと、そういうことじゃなくて」
急に黙り込んでお腹をさすったせいか、光明君はそんな勘違いをする。食べちゃいたいのはあなた自身。その言葉は胸の内にしまい込んだ。
そういえば、今日はまだ光明君に下着を見せていない。
「光明君」
「なぁに?」
「下着、見たい?」
スカートの裾をつまんで持ち上げて、少し前屈みになりながら光明君を上目遣いで見つめて尋ねる。見据えた羨ましいほどに白い肌は面白いぐらい赤く染まった。
「い、祈ちゃ……」
「今日は外じゃないよ?」
自然と上がる口角はそのままに、私は光明君の言葉を封殺して畳み掛ける。再会した日に交わした言葉は一つも忘れていない。もちろん、他の日のことだって。
「興味があるのは分かってるから。光明君も男の子だもんね」
「か、揶揄わないで……」
くすくすと笑いながらゆっくりスカートを持ち上げていく。恥ずかしがる光明君は蚊が鳴くような声を漏らしながら視線を外した。でも、
その欲望をそのまま私にぶつけて欲しい。
「祈ちゃん、あの、やっぱりそういうことは、ちゃんと段階を踏んでからじゃないと」
「段階? どんな風に?」
言葉に詰まりながらどうにか煩悩を払おうとする光明君。必死な彼を見ながら、私はその無防備な背中に抱き着く。囁く言葉は光明君の赤い耳に流し込んだ。
「え、えっと、手を繋いだり?」
「もうしたよ」
「つ、次は……キス、して」
「それもした」
混乱しているのかな。光明君は自分の持っている恋愛観……のようなものを正直に話し始める。本当に馬鹿にしている訳ではないけど、そういう知識があったことに内心驚いた。
でも、それは全部二人で経験したことだ。
「キスの次は?」
「え、と……」
「段階、踏めてるみたいだね♡」
結果的に自ら墓穴を掘った光明君に甘い声で勝利宣言。好きな人を虐めたくなる感覚が少しだけ分かってしまう。
「で、でも、まだ祈ちゃんとは付き合ってないし」
「
「あっ……」
それでも抵抗を続ける光明君。ふいに零した彼の想いの欠片に、私は子宮が疼くのを感じた。光明君も私の告白を前向きに考えていてくれている事実に、すぐ全身が熱くなっていく。見せる予定だった下着にも染みができ始めた。
「いっ、今のは違くて」
「違うの……?」
「あ、あぅ……」
焦る光明君に更に追い討ち。悲しそうな声を聞かせながら強く抱き締めれば、光明君は何も言えなくなってしまう。好きな人を掌の上で弄ぶ感覚は癖になりそうだった。
「れろ♡ ちぅぅぅぅぅ♡♡」
「んっ♡ 祈ちゃん、何を……っ」
生まれた隙を利用して、私は光明君のガラ空きな首筋に吸い付く。私を刻み込むような強い口付けは、光明君から動揺と甘い声を引き出した。
「ぷ、はぁ……えへへ♡ 酷いこと言った罰だよっ」
十分に味わってから唇を離して、できあがった
「私は、待ってる。ちゃんと待ってるから」
「ごめんね……」
降りてくる沈黙。その最中、小さな背中をもう一度抱き締めながら私はそう言う。振り向いて欲しいのは本心だけど、今光明君にその余裕が無いのは私も分かっていた。それでもなお、私の乙女心は光明君を求めて已まない。これは私のワガママだ。
でも、告白の返事は待つけれど、アプローチは絶対に止めない。あなたに私を鮮烈に刻み込みたいから。あなたにとってのかけがえのないものになりたい。私にとっての
「大好きだよ……光明君♡」
記憶に残るように甘く囁く。返事は無かったけれど、透き通るように綺麗な手が私の手に重なった。今はそれだけでも嬉しい。
「ふぅ、充電完了っ」
「ふふ、何を補給したのさ」
雰囲気を変えるために冗談めかして一言。こっそり光明君の匂いを堪能したのは事実だけど、言えば変態扱いされそうだったので笑って誤魔化す。ついでに、振り向こうとする光明君を待ち構えてスカートを捲りあげた。
「って、何で捲ってるの!」
「えへへ、油断は禁物だよ♡」
おへそが見えるぐらいにたくし上げた姿を、光明君の
「何が見えた?」
「祈ちゃんの意地悪……っ」
再び絡み付いて意地悪な質問。恥ずかしがる光明君はとても可愛い。
「言わないとキスしちゃうから……♡」
「んぅっ」
そう言いながら、私は真っ赤な耳に唇を触れさせる。直接囁き声を吹き込まれて、光明君はビクリと身体を跳ねさせた。
「…………白の、少し透けてるやつです……」
「あれはレースって言うんだよ……♡」
ギリギリ聞こえるぐらいの声量で光明君は私の下着を説明する。知識が足りてないことで背伸びしているようで、私の悪戯心は加速した。
「どうだったかな……♡」
「あの、もう……勘弁して……っ」
続く問いに光明君の羞恥心は限界だ。ちょっと泣きそうになっている声も可愛い。
「ちゅっ♡ れろれろ♡」
「あ、んっ♡ い、言うからっ」
言い淀む光明君をキスで追い立てる。擽るような舌遣いをすれば、光明君はすぐに降参した。
「えっと、その……す、すごく、えっち……でした……」
「はぷっ♡ ぢゅるるる♡♡」
「なんっ、祈ちゃん、言ったのにぃっ」
光明君が私の下着で興奮している。その事実だけでたまらなくなって、つい追い討ちの耳舐め。毎日私を無防備に連れ込んで毎日えっちなことをさせられてる光明君は、もういっそ誘っているんじゃないかな。可愛い耳をしゃぶりながらそう思った。
「ぷはぁ♡」
「はぁ、はぁ……」
十秒ほどで解放すると、光明君はすっかり息絶えだえだ。赤い顔のまま肩で呼吸をする姿は少しいやらしかった。
「ご馳走様でした」
「い、祈ちゃん……怒るよ……」
私は光明君の唾液塗れの耳をハンカチで拭き取る。ちょっと潤んだ瞳でそんなことを言われても可愛いだけだった。
「ごめんね」
「ん、ぅ……いいよ」
それでも勢いでやり過ぎたのは事実。頭を下げて謝れば、光明君は小さな怒りを霧散させてすぐに許してくれる。やっぱり、私は優しいあなたが大好きだ。その優しさに付け込んでしまうけど。
「あ、もうこんな時間」
「ホントだ」
ふと時計に目を遣ると、時間はもうすぐ帰らなければならない数字を示していた。好きな人と過ごす時間は経つのがとても早い。
「今日はもう帰るね。明日は漫画を持って来るから」
「うん、分かった」
徐にベッドから立ち上がって、私は光明君にそう伝える。彼も私を追うように腰を上げて、まだ赤さが引いていない顔で光明君は微笑んでくれた。
「じゃあ、また明日の朝に」
「またね、祈ちゃん」
二人で玄関を潜って振り返って別れを告げる。見送りの光明君は私が見えなくなるまでこちらを見ていてくれた。また前を向いて私は自宅へと歩き出す。
あぁ、明日も楽しみだ。確かな幸せを噛み締めて、私は何となく足元の石を蹴ってみた。
全部忘れちゃった光明君と全部覚えてる祈ちゃん。