消えた過去からこんにちは 作:雪解けの宵王
簡単に言うなら、返り咲いた未練と執着していた憧憬。
「もしもし祈ちゃん。光明です」
「……すぐに降りてくるね。光明君は校門で待ってて」
「ん、分かった。それじゃあまたすぐに」
約束通り、用事を終えて二人と別れた──遊君はやけに慌てて走り出して行ったけど──僕はすぐに祈ちゃんへと電話をかけ、そして終える。スピーカー越しに聞こえるノイズ混じりの声は少しだけ暗かった気がした。どうかしたのかな。
「ふふ、親友かぁ」
一方、僕の足取りは羽のように軽い。スマホをスリープモードにしてから、僕はさっきのことを思い出してにやにやと笑みを浮かべる。僕が憧れていた親友という存在が、既にいたという事実に嬉しさが止まらない。
「光明君、お待たせ」
「よし、じゃあ帰ろうか」
「うん」
にやにやしながら待って、それから数分。祈ちゃんは校門で待つ僕の隣に小走りで寄ってきて、今朝と同じように並んで歩き出す。でも、その距離は今朝よりも少しだけ近い気がした。
「祈ちゃん、また記憶が少し戻ったよ」
耳に刺さるような沈黙。お互いの足音を意識してしまうそれに、僕はさっきのことを祈ちゃんに教えるために口を開く。嬉しかったことを祈ちゃんと共有したくて。
「光明君」
「んぇ、っと……どうかした? 祈ちゃん」
でも、思っていた反応がやって来なくて、僕は思わず妙な声を漏らしてしまう。呼び掛けにはどうにか応えることはできた。
「この後、光明君の家に行ってもいい?」
「それは全然構わないけど……」
代わりに出てくるのは突然の提案。遊びに来てくれるのは寧ろ嬉しいんだけど、それはそれとして喜びを上手く分かち合えなくて僕の気分は落ち込んでいく。やっぱり、お昼は怒ってたのかな。僕にはまだ分からなかった。
「ごめんなさい、また私のワガママだから」
「あっ」
気が沈む僕を見て、祈ちゃんはまたそう口にする。奪うように繋がれた手は昨日よりも少しだけ力が強かった。
「ただいま」
「お、お邪魔します……」
待ち人のいない我が家の玄関に二人分の声が響く。玄関を潜る祈ちゃんの声は緊張しているのか震えていた気がした。
「おもてなしはあんまりできないと思うけど────」
そこはごめんね、と続けようと振り返る僕に柔らかな重みが押し付けられる。不意打ちに驚く間もなく、僕は靴入れで背中を打ちながら祈ちゃんを抱き止めた。肩に乗って隣り合う彼女の
「祈ちゃん?」
「少しだけ、こうさせて」
不安そうに吐息を零す祈ちゃんは、そう言うと更に抱きしめる力を強めていく。締められる身体は少し苦しいけど、彼女を押し退けることはしなかった。僕の方からも抱き返して、身動ぎする祈ちゃんの頭をあやすようにゆっくりと撫でていく。女の子と抱き合ってることに、不思議と羞恥心は湧いてこなかった。
「大丈夫、大丈夫……」
「ん……♡」
落ち着かせるために、撫でに加えて背中も一定のリズムで優しく叩く。しばらくそれを続けていると、祈ちゃんは落ち着いた呼吸と一緒に甘えるような声を漏らした。そろそろ大丈夫かな。
「ありがとう、光明君」
「ううん。落ち着いた?」
ゆっくりと、どちらからともなく離れていく。ようやく見えた祈ちゃんの顔はまだ不安を隠してるような気がした。
「不安だったの」
心配して覗く僕の目に祈ちゃんは俯きがちにちらりと視線を送る。どうやら読み取った心の音は正しかったらしい。
「光明君が離れてしまうかもって思ってしまって……」
「え、僕が? な、何で?」
でも、視線で引き出した言葉は僕が全く考えていないことだった。考えてもいないことが起きる日が続くとは思っていたけど、これはその中でもとびきりだ。
「実は、見てたの。光明君が幼馴染って人たちと話してるところを」
「そうだったの?」
困惑の促しで零れたのは祈ちゃんの懺悔の言葉だ。祈ちゃんは悪いことをしてしまったと言わんばかりに表情を暗くしていく。
「それで、その人たちと楽しそうに笑ってる光明君を見てると……」
息遣いも聞こえてしまう距離で、祈ちゃんはぽつぽつと言葉を連ねる。縋るように掴まれたワイシャツにぎゅっと皺ができた。
「記憶も、手伝うのが私じゃなくても、思い出せたって聞いて……っ」
暗く沈んでいく祈ちゃんは震える声でだんだん語気を強くしていく。揺らぐ宝石は潤んでいるように見えた。そして、悲壮で歪む顔が跳ね上がる。
「私、光明君に必要な────」
それを言い終わる前に、今度は僕が祈ちゃんを抱きしめた。少し乱暴になってしまっても、これ以上は絶対に言わせちゃいけない。踏ん張り切れなかった祈ちゃんと一緒に僕は廊下に倒れ込んだ。
「祈ちゃん、そんなこと言わないで」
「っ」
さっきとは逆に、僕は抱きしめる腕の力を強くしていく。いやでも存在を思わせるほどに。耳元で祈ちゃんが息を呑む音が聞こえた。
「祈ちゃんだって大切な幼馴染なのは変わらないよ」
荒い息遣いが耳朶を擽る。返される力はさっきよりもずっと強かった。
「それに必要だとか必要ないだとか……友達ってそういうものじゃないでしょ」
「でも……」
冷たい床から祈ちゃんを抱き起こしてそう言葉にする。そういうものはきっと、価値の有る無しで決まるものじゃない。
「僕は、祈ちゃんに一緒にいて欲しいな」
否定の言葉に想いを被せる。啜り泣く声が耳元で溢れ始めた。
「大丈夫、祈ちゃんを置いて何処かに行ったりしないから」
「ひぐ、ぐす……っ」
大きな幼子を努めて声色を優しくして慰める。言葉に込めた意志に偽りはない。間違いなく、僕にとって祈ちゃんは大事な人だから。それがどういう意味でかは、これからじっくり考えなければならないけれど。
「よしよし」
髪を梳くように頭を撫でる祈ちゃんを、僕はどう想っているのだろうか。ちゃんと判断するにはまだ色々なものが足りていない。きっと、積極的な彼女と接する内に見つけていこう。
「ごめんね……」
「いいよ、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」
心音が落ち着いた祈ちゃんをゆっくりと離す。向かい合って座る祈ちゃんは、色んな色を表情に宿していた。少しだけ懺悔の色が強い。
「僕の方が迷惑かけちゃうと思うし、どっちかと言うと僕が見捨てられないか心配なんだけどね」
「そんなことないっ!」
元気付けるための僕の言葉は、今見えていた感情を上塗りする剣幕で否定される。本日二度目の自虐ネタは不発だったらしい。やっぱり人付き合いは難しいようだ。
でも、記憶のことで迷惑をかけてしまうのは間違ってはいないと思う。もっと怒られてしまいそうなので、その言霊は息を呑む勢いのまま心の内に戻しておいた。
「変な心配させちゃってごめん」
「ち、ちが、本当にこれは私のワガママが悪くて……」
気まずい沈黙に謝罪を叩き込む。話を聞いた限りでは僕の行動が祈ちゃんを嫌な気持ちにさせたのだ。とどのつまり、僕が悪かったのだから。
「むぅ、じゃあおあいこってことで今回は手打ちにしよっか」
「んぅ……」
異様に否定を重ねてくる祈ちゃんに、僕は堂々巡りの気配を感じ取る。これ以上は埒が明かないと思って、僕は無理やりにこの話は終わりにした。僕にハンカチで涙を拭かれる祈ちゃんはまだ暗い顔をしていたけど。
こうなればあの手を使おう。たった今思いついた名案だ。
「えいっ」
「ひゃっ!? み、光明君っ?」
何時までも笑顔になってくれない祈ちゃんに焦れて、僕は祈ちゃんを再び押し倒した。昨日の構図とはまるっきり逆の立場だ。驚く祈ちゃんの顔を見ながらそう思った。
「暗い顔してる祈ちゃんには……こうだっ!」
「んっ、へ……っ、あは、あはははははっ!」
そして、無防備に腋を晒す体勢のまま固まる祈ちゃんを僕は擽り始める。ブレザーの隙間からワイシャツ越しに、祈ちゃんの弱点を重点的に責め立てた。
「ふふ、くすぐったいでしょ祈ちゃん」
「んふ、ふひぅっ! ま、待ってっ! 光明君っ、はぁ、これらめぇっ!」
バタバタと暴れる祈ちゃんに構わず、僕は力に緩急を付けながら擽り倒す。腋から離れない腕を掴むけど、祈ちゃんの
「やっぱり、祈ちゃんは笑顔の方が可愛いよ」
「あっ♡ はぁ、はぁっ♡ 光明君っ♡ んは、こりぇ、ほんろにっ♡♡」
擽ったさに泣き笑う祈ちゃんが、呂律を崩して笑い叫ぶ。揶揄うのが好きで甘えん坊な祈ちゃんだけど、擽りに滅法弱いという新たな一面を発見だ。揶揄う言葉──笑顔が可愛いと思ってるのは本当だけど──に祈ちゃんは面白いように反応を返してくれた。
「こちょこちょこちょこちょ」
「あはっ♡ あはははっ、はぁっ♡ あぁっ、んひふふっ♡♡」
そんな祈ちゃんをもっと笑顔にするために、僕は腋から動いていなかった腕を祈ちゃんに這わせたまま動かし始める。反応が大きい腋だけじゃなくて脇腹もお腹も擽られて、祈ちゃんは全身をジタバタさせた。もちろん、それは跨る僕をどうにかできるものではない。
「くひゅぐったいっ♡ あはっ、ひぅっ♡♡ はぁっ♡ みちゅあきくんっ♡ らめぇっ♡♡」
涎を零しながら身体を捻って、祈ちゃんはびくびくしながら擽ったさを逃がそうとする。呼吸も激しくなってきたし、そろそろ解放した方がいいかもしれない。
「あは、はぁっ♡ みつあきくんっ♡ みつあきくんっ♡♡ んっ♡ んんっ♡♡ んんぅう~~~~~~~~っっっ♡♡♡♡」
そう思った瞬間、最後にしようと祈ちゃんの腋を指でなぞると、祈ちゃんはくぐもった声を漏らしてびくんっと大きく身体を跳ねさせる。これは興に乗ってやり過ぎてしまったかもしれない。
「ご、ごめん、大丈夫?」
「は、はひ……っ♡」
慌ててお腹の上を退いてから、僕はまだ痙攣してる祈ちゃんを抱き起こす。あまりに良い反応をするものだから、つい引き際を誤ってしまった。
「とりあえず、立てる?」
「無理ぃ……♡」
色々蕩けてしまった祈ちゃんに尋ねると、随分と力の抜けた声で返事される。幸せそうな笑顔を見る限り、正直やり過ぎたのかどうか判断に困るところであった。
「ちょっとごめんね」
「んひっ♡ 光明君……っ♡」
かと言って、流石に廊下に寝かせておくわけにはいかないので、僕は祈ちゃんを横抱きにして持ち上げる。暴れたせいで乱れたスカートは見ないようにした。
「何色が見えたの……♡」
「い、祈ちゃん、結構余裕あるじゃんっ」
一瞬だけ視線を送ってしまったのがバレたのか、祈ちゃんは密着した状態でそんなことを意地悪く囁いてくる。呂律が回ってない声は今までのどの声よりも耳に纏わりついてきて、自分が何かとんでもないことをやったのではという気持ちにさせてきた。背中の冷たさと胸の熱さが混ざり合って、僕に変な心地を齎す。
ちなみに、見えた色は桃色だった。
「少し、休ませて……♡」
「う、うん、本当にごめん」
零れた小さな懇願に今一度謝罪する。とりあえず祈ちゃんはベッドに運ぼう。今更湧いてくる罪悪感と共に、僕は腕の中の祈ちゃんを抱え直した。
精神が小学生(ギリギリ中学生ぐらい)なので、色恋の精神的駆け引きとか心模様とかは全然分かってない光明君は可愛いですね。可愛いと言え(豹変)。
ちなみに、光明君は本来義務教育で性教育を受ける期間をタイミングよく昏睡してた上に、受験期と高一期も勉強ばかりでそれどころじゃなかったので、性知識が歳の割に全然無いです。精々おっぱいがえっちだとか、パンチラがえっちだとかそれぐらいしか知りません。つまり、本当に祈ちゃんのイキ声を笑い声と思ってて、イかせたことに気付いてません。
天然えっちな合法ショタだぁ。いや、違法だわ(17歳)(この作品の登場人物はすべて18歳以上です)。