消えた過去からこんにちは 作:雪解けの宵王
「えっと、良くなるまでは横になってていいからね」
「ん……分かった」
申し訳なさと恥ずかしさで表情を彩る光明君が、ベッドで横になる私にそう口にする。イかされて蕩けた呂律のまま、私はそれに何とか返事をすることができた。
「と、とりあえず、飲み物でも取ってくるね。お茶で大丈夫?」
小さく頷くと、光明君はそそくさと自室を後にして行く。その背中をしっかりと見送ってから、私はすぐに下着を脱ぎ去った。もうとっくに我慢の限界が来ていたから。びしょびしょに濡れて肌に張り付いていた下着が、光明君のベッドの上に落とされる。
「んんっ♡♡」
スカートも雑に捲り上げて、私はいきなり指をアソコに突き込んだ。既に奥までぐしょぐしょの穴は私の指をすんなりと受け入れてくれる。光明君の残り香が漂う枕に顔を埋めて、私は最初からラストスパートのペースで指を動かし始めた。
「イかされちゃった……っ♡ んあっ♡」
ねちっこい自分の水音を聞きながら、私はついさっきのことを思い出す。いやらしいことをシたこともなさそうなぐらい初心な光明君に、完膚なきまでにイかされてしまったことを。
予想になってしまうけど、光明君は多分本当に何も知らない。光明君は私のキスやパンチラだけで耳まで真っ赤にする。その様子は見る側からすれば愛おしくてたまらない反応だ。でもきっと、彼はそれ以上のことは知らない。それは彼が眠っていた期間を考えれば納得もできた。
「ほんろにっ♡ いじわるなかおでっ、いじめてくれひゃっ♡♡」
抱きしめる時も、頭を撫でてくれる時も、光明君の心音は全く変わらない。意地悪な顔で私を擽りイかせた時も、彼は私が蕩けた顔のまま痙攣する様をただ笑い過ぎただけだと認識していた。純粋な心配だけを帯びた視線を向けられればそれは手に取るように分かる。頻度は多くないとはいえ、一度でも邪な視線を向けられたことがあるならなおさらだ。光明君は男と女の営みや心模様を全く知らない。
そんな彼が、私の妄想の光明君みたいに私を弄んでくれた。その事実だけでもう私は絶頂に達しそうだ。いや、実際に一度は達したのだけれども。
「んぅっ♡ すぅ、ふぅ♡♡ みちゅあきくんの匂いっ♡」
部屋中に濃く残る光明君の匂いは、私の快楽を身体の奥から容赦なく引き摺り出してくれる。思考を埋め尽くすほどの幸福感で、今までのオナニーが比較にならないほどに今が気持ち良かった。スカートを濡らす愛液は一生止まらない気さえしてくる。終わる頃には二時間は腰を抜かしたままになりそうな勢いだった。
「むふーっ♡♡ ふっ、くふぅっ♡♡」
見られたい願望が心の隅で暴れているけれど、部屋の外にいる光明君にバレないように私は枕に顔を埋めてオナニーを続ける。荒くなっていく呼吸で光明君の残滓が胸いっぱいに入り込んできた。そう認識した瞬間に私の腰がとてつもない浮遊感に襲われる。急いで私は指を引き抜いて、スカートで塞ぐようにひくひくと蠢く秘裂を抑え込んだ。
「んぁっ♡ んぅぅぅぅうぅぅぅぅ……っっ♡♡♡♡」
腰は天井へと突き上がり、足先は駆け巡る電流でピンと張る。下半身側にいる
「はぁ、はぁ……しあわひぇ……っ♡♡」
どうにか腰をベッドの上に戻して、余韻で上の空のまま天井を見つめて私はそう零す。下の口からも零れて光明君のベッドを汚してしまったかもしれない。それでも、今はこのままでいたかった。
「一緒に、いて欲しい、かぁ……♡」
光明君に慰められている途中に言われたことを心の内で反芻する。私は光明君しかいないのに、光明君は
「私も、だよ……光明君……っ♡」
大好きな人の名をたっぷりの愛を込めて呼ぶ。叶うことなら、それが今だけじゃなくてこの先もずっと────
「あ……っ、戻って来て……っ!?」
幸せな思考に割って入る足音。私と光明君しかいない家──靴がなかったので多分そうだと思う──なら、その音の主が誰なのかは考えずとも分かる。また光明君と会えると思ったのも束の間、私は今の自分の状態を思い出した。
「祈ちゃんお待たせ……って、何してるの?」
「え、えっと、少し眠くなって……」
近付いてくる音を聞きながらパンツを履き直す。そんなことをする余裕も無い。私は慌てて丁寧に畳まれていた掛布団を被ることで、何とか難を逃れることができた。私の苦しい言い訳に、光明君はキョトン顔だ。やっぱり可愛い。
「そっか。じゃあ帰る時間までには起こしてあげるから寝ててもいいよ」
「ありがとう……」
飲み物を準備している間に熱も引いたのか、光明君は色白な顔でにっこりと笑ってそう言ってくれる。大好きな優しさと思わぬ役得で、私の心は再び溢れんばかりの幸せで満たされた。きっと、光明君は女の子が好きな人のベッドで寝ている意味も分かっていないけれど。
でも、今はそれでいい。恋人になってから色々教えてあげればいいんだから。私が、手取り足取り。
「ろ……七時には起こしてください」
「ん、分かった。ゆっくり休んでね」
少しでも同じ空間にいたくてちょっと欲張り。誤魔化しはバレなかった。おやすみと言いながら頭を撫でてくれる光明君は、やっぱり私が知ってる光明君だ。そんな光明君だから、私はもう少しだけ欲張っちゃう。
「眠るまで、手を握ってて……?」
「ふふ、いいよ」
もぞもぞと布団から手を出しながらのオネダリ。光明君はそれをすぐさま取ってくれる。大好きな人の綺麗な左手は、私が差し出した右手に重なった。そう、何も考えずに出したのは私の利き手。それはつまり────
「あれ、祈ちゃん汗かいてる?」
光明君の言葉にサッと血の気が引く。さっきまでオナニーをしていて拭く暇も無かったのだから、当然気持ち良いところを一心不乱に弄っていた右手は愛液塗れのままだった。
「こ、これは、その、あの」
「手袋したまま布団に籠るからだよ。ほら、これで……よしっと」
言わなければならない弁明が浮かんでは消えていく間に、光明君は側にあったティッシュでわたしの指を綺麗に拭き取っていく。
「ぎゅっと」
「っっ♡♡♡」
思考がその方向に割かれてしまえば、もうこの光景もいやらしいものにしか見えなくなってしまう。さっきまでオナニーに使っていた手を光明君が握ってくれる。今の私は何も知らない光明君にえっちなことをさせているんだ。そうとは露とも知らずに微笑みかけてくれる光明君と、私の中に潜むどろどろとした欲望のギャップが私の気分をどうしようもなく高揚させた。この感情に名前を付けるとしたら、きっと背徳感と言うのだろう。背中を駆け上がってくるゾクゾクとした震えは止まらない。
「祈ちゃん、ホントに眠そうにしてるね」
私の蕩けた瞳を見て光明君はそう言う。彼が世間話をしている間にも、興奮は治まらずに眠れそうにないというのに。本当に無垢だ。その素敵なあなたに私は禁断の扉を開け放たれてしまった。そうだ、これは光明君が悪いんだ。そう思うことで背徳感は更に加速していく。
「よしよし」
空いた右手で光明君が、眠れるようにと布団越しに私の身体を優しく叩いてくれる。その下に隠れた身体は興奮で汗ばんでいて、スカートを捲れば剥き出しの下肢はどうしようもないぐらい"オンナ"になっているのに気付きもせず。一度味を知ればもう抗えなかった。植え付けられた新しい欲望に逆らえない私を、光明君は何も知らずに甘やかしてくれる。
夢にまで見た、いっそ夢だと言われた方が信じられそうな状況に、私は光明君に堕とされていく心地を感じた。私が光明君を
「あの……」
「なぁに、祈ちゃん」
あなたにもっと好きになってもらいたい。好き同士になって、こんな誤魔化しじゃなくて本当のえっちをしてみたい。色々な欲望は胸の内で混ざり合って、今はこの状況を愉しむことを許容した。優しく微笑んでくれる光明君には勝てない。責任の所在を押し付けて及ぶ行為は本当に甘美な心地だった。
「やっぱり、添い寝……して?」
だから一歩、もう一歩だけ私は欲望の沼に踏み込んでいく。きっと、光明君なら
「祈ちゃんは甘えん坊だね」
「はぁ、んっ♡」
願いは通じて、捲られた布団の隙間から外気と一緒に光明君が入って来てくれる。一瞬露になった下半身は見られなかった。今なら少しだけ露出狂の気持ちが分かってしまう気がする。私の口から漏れる吐息には情熱が乗っていたから。
「安心、するね」
「それは良かった」
情欲で歪んだ表情を見られないために、私はすぐ光明君の胸元に顔を埋める。離れないようにしっかりと抱き着いてしまえば、好きな人にバレないようにノーパンで興奮する変態女が完成した。自分でそう心の中で形容してしまえば、溢れる蜜は止め処ない。
「むふぅ……♡」
「おやすみ、祈ちゃん」
寝かしつけてくれる光明君の匂いを思う存分堪能する。気付かれないようにえっちなことをするのがこんなに気持ちの良いことだとは知りもしなかった。道を外れることに悦びを感じてしまう私がいる。
こんなにえっちな女でごめんなさい。そう
「すぅ、ふぅ……♡」
「もう寝ちゃった」
幸せを味わう深い呼吸を光明君は寝息と勘違いする。優しい声が頭上から降って来て、そんな最中におまんこを濡らしている事実がもうどうしようもなく気持ち良かった。
「ん……っ、これだけ組み付かれてたら抜けられないか」
光明君は眠った私を置いていこうとするけれど、しっかり抱き着いた私の拘束を抜け出すことはできない。しょうがないとばかりに吐息を零すと、身動ぎしていた光明君はすぐに抵抗を止める。起こさないように配慮してくれる優しさに、擦れる身体は歓喜で打ち震えていた。
「みちゅあきくん……♡」
「夢でも僕と会ってるのかな……」
寝言の振りをして甘えてみれば、光明君は少しだけ恥ずかしそうな声を上げる。でも、夢に見るほど好きなのは本当だ。子供の時からそうだったけれど、あっちにいた時は見ない日がないほどだった。
「ありがとう、祈ちゃん……」
その言葉と一緒に一撫で、二撫で。何に対してのお礼かまでは分からなかったけど、そこに光明君なりの愛が込められているのは分かる。
それから、私は約束の時間まで光明君を全身で感じながら過ごした。寝相で甘えても心音が変わらなかったのだけはちょっと不満だ。
「送っていかなくて大丈夫?」
「大丈夫、私は強いから」
日も暮れる時間の玄関先。不安そうに見送る光明君に私はそう言って笑う。実際、その辺の人が相手なら何の問題も無いのは事実だった。
一緒にいたいのは本当だけど、歩くだけで疲れてしまう今の光明君に無理はさせたくない。
「それじゃあ気を付けてね。また明日」
「うん、さよなら光明君」
手を振る光明君にぺこりと頭を下げてから、私は彼の家を後にする。最低な一日になるかと思ったけれど人生で一番幸せな日だった。今日という日を振り返って、心の底からそう思う。
「次は、どうしようかな」
外なのに思わず独り言が漏れるぐらいの浮かれ様。上がってしまう口角はマフラーで隠してしまう。この笑顔も光明君のものだから。そう思いながら、私は次にどんなことをしようか頭を巡らせた。
光明君にとって普通の行為で私にとっていやらしいこと。そう簡単に見つかるものではなさそうだ。
「そうだ」
そんな中で降って湧いてくる名案。筋肉痛だからと言ってマッサージしてもらうのはどうだろうか。直接じゃないと効果が薄いからと言えば、光明君に私の身体をその手で揉みほぐしてもらえるかもしれない。
「あれも持って行こう」
そうなれば、たまに使っているアレも持って行かないと。正式名称は電動マッサージ器なのだから、そこにあっても何もおかしくないはずだ。ただ、光明君に指示していやらしいところを刺激してもらうだけ。
広がる妄想に熱い想いがお腹の奥から溢れた。受け止める物が無い今、それはすぐにふとももを伝って滴り落ちていく。
────あれ、
「あっ」
頭を過ぎる違和感と同時に私は気付いた。そう言えば、あの時脱いでから下着はそのままだ。多分、愛液塗れの下着は二人の熱が籠った布団の中に置き去りのはず。幸せの連続ですっかり忘れてしまっていた。股下を通り抜ける春風がいつもより冷たい。
「口実に使っちゃお」
流石に踵を返そうと思ったけれど、すぐに思い直して歩みを再開する。取りに行くと言えば、また明日も光明君の家に遊びに行けるから。そんなこと言わなくても光明君は受け入れてくれると思うけど、それでも何となく理由付けは欲しかった。
今頃きっと、私の下着を見て顔を真っ赤にしているのだろう。その可愛い慌てぶりを想像するだけで愛が溢れてしまう。光明君はそれをどうするのかな。そのままにするのか、洗濯してくれるのか。確率は低いけど、
明日一番に訊いてみよう。そう考えると足取りは羽のように軽くなった。こんな幸せがずっと続くと良いな。心の底からそう思う。
祈ちゃんのヤバい女指数がどんどん上昇していく。何でこうなったの?(自問)
光明君への性教育とか初歩的な男女の関係とかのレクチャーが急がれる。