(R-18)一世一代の大勝負 1話
その週末は特に変わらない、俺にとっては至って普通の夜だった。
仕事終わりに行きつけの居酒屋を訪れ、顔なじみの常連と酒を酌み交わす。そしてネオン瞬く繁華街の中、ただ家路へ着く…それだけのはずだった。
いや途中まではいつも通りだったのだ。居酒屋に入り常連や店主と歓談しながら酒を飲み食事をする。ほどほどに酔っ払い店を出るところも変わらなかった。ただ一点、何時もとは逆の道で帰ろうと思ってしまったのだ。
いつもはネオンの眩しい通りをただ歩いていたのだが、今日は少し外れた路地裏―といっても飲み屋が点在する通りではあるが―を通って帰ることにしたのだ。
あまり通らない道や見覚えのない店構えに、キョロキョロと見渡しながら歩を進める。しばらく歩いていれば、繋がっている別の通りの姿が見え始めた。そんな時であった。
「……………ぅ……ぁ………」
風の音に混じり何か聞こえた気がして立ち止まる。辺りを見渡せばビル同士の隙間となっている、店の灯りもない暗く先の見えにくい路地が目に留まる。いつもなら通りかかることもなく、例え見えても無視をする―そんな場所だった。
しかし何故だかその日は違った。気のせいに違いないと思いつつも何かの予感が体を動かし、暗闇へと一歩ずつ進んでいく。
「……ら……き…ち……」
「…そん……は…し……」
歩を進めるたびに何かの音が聞こえてくる。どうやら先ほどのは気のせいではなかったようで、音からするに誰かが話しているようだ。
こんな路地で一体誰が…何をしているのか。予感は好奇心へと変わり、声の主に気付かれないようにゆっくりと慎重に進んでいく。
路地の一番奥へと続く曲がり角までたどり着けば、鎮座するごみ箱の影へと身を潜ませる。
そっと顔だけだして様子を伺えば、それまで途切れ途切れに聞こえていた声がある程度に聞き取れるようになり、声の主が二人組であることを知る。と同時に普通とは違う行為をしていることにも気が付いた。
「ほらっ…良いの?そんな声出して。聞こえちゃうかもよ?」
「っぅ…くぅっ!…だ…たら、そんなに激しくし…ないでっ…んんっ!」
二つの影が混じり合いその中から声が聞こえてくる。この暗闇になれた目に見えたのは二人組だった。
聞こえてくる声、そしてわずかに耳に届く衣擦れの音。二人が性行為をしていることを疑う余地はなかった。
いくら大通りから外れているとはいえ、こんな場所で何故――そんな考えとは裏腹に視線は蠢く影にくぎ付けだった。
「んんっ!……な、ねぇまだ終わらないの?…んくぅっっ……」
「だって激しくしちゃダメなんでしょ?じゃあもう少しかかるかな。」
「そ…ん…はぁっ…はっ…」
押し殺しているはずの女性の声はやけにはっきりと耳に残り、その声だけで下半身へと血が通い始める。
――もっと見たい、もっと近づきたい―そんな衝動に駆られつつもこれ以上近寄るなと告げる理性とのジレンマに襲われるも、ふと思い立ちポケットからスマホを取り出す。
そのままカメラを起動し、気づかれないことを祈りつつ夜間モードに切り替え、隠れているゴミ箱傍へとセットし録画を始めた。
幸い行為に励む二人には気付かれなかったようで、隠れながらもズームを活用し必死にその姿を収めようとしていくと、画面越しにはある程度まではっきりとその姿を捉えることが出来た。
しかしその画面を長時間注視することはせず、周囲に気を配る。なに、録画できてさえいれば後からじっくりと確認できるのだ。まずはバレないことをを優先すべき――ここにきてなぜか思考はクリアになっていた。
これまで聞こえてきた声から、どうやら女性と男は深い関係ではないようだ。それでもこのような行為をしている以上、どちらかに何かしらの都合があるのだろう。まあその理由は自分には関係なく、今はただこのラッキーな立場に甘んじておこう―そんなことを考えつつ、気づかれないうちにこの場を離れる算段を始めた時、二人に変化が起こる。
「あー…そろそろだわ。ちょっと激しくするから、ちゃんと声抑えといてよ?」
「はっ…んんっ……え、今なん……はぁんっ!!!」
「駄目じゃん。誰か来ちゃうよ?まぁこっちは気にしないけど」
「急にするからで…誰のせいだと…くふぅっ!!」
「ほらほら押さえないと。」
「んんっ!…んぐっ…んむっ…はっ…んんんっ!!」
短いが大きな声が路地裏に響く。この声に導かれて誰か来てしまうんではないかと内心穏やかではなかったが、それは女性も同じのようですぐさま声は抑えられ押し殺した嬌声が耳に届く。
声の大きさに反するように衣擦れの音が聞こえ始め、見える動きは激しくなっていくと男は動きを止めた。
そこまで確認すると俺はスマホを回収し、静かにこの場所を離れた。
あのままあの場所に居れば、おそらくだが行為が終わってすぐに立ち去るであろう男と鉢合わせてしまう。…それは御免だ。静かに、だが足早に路地をでて帰路へと歩を進める。
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無事に路地から出た後、俺ははやる気持ちを押さえられずに小走りのような状態で家へと向かった。そして到着するなり着替えもソコソコにスマホをパソコンへ繋ぎ映像を再生し始めた。
映像の中に二人の姿が見え始め、女性の出で立ちを知る。黒く長い髪に美人といって過言ない、美しく整った顔立ち。着ている服は路地の闇に解けるほどに黒かった。
女性は右足を持ち上げられ、バランスを取るかのように壁へと寄りかかっていた。上半身を覆う服の胸の部分は開かれている。まだ胸そのものはブラで覆われたままだったが、その隙間から除く白い肌と黒い下着ののコントラストは美しいモノだった。
その女性に密着するように男が立ち右手で女性の太腿を持ち上げ、もう片方の手はその開かれた胸へと伸びていた。
めくれたスカートからは白い太腿が見え、下着の股の部分がずらされ男のモノが挿入されているのが見える。
結合部をズームすればゆっくりとした男の動きに合わせて、挿入されたモノが姿を現し、また埋まっていく様子が映っている。
映像を移動させれば、時折女性の身体が跳ねるように動き、合わせるように白い胸が揺れるのが確認できる。
そのまま今度は女性の顔をアップにすると、何かに耐えるように唇に力が入っているのが見て取れる。その目は男を睨みつけているようだったが、どこか淫猥に見えその表情に吸い込まれるようだ。
ふと気が付けばどうやらぼーっとしていたようで動画の時間が進んでいた。少し戻してから再び全身が見えるようにする。すると途中で体位が変わり、上がっていた右足は降ろされ、男は女性の腰を両手で掴みそのまま小刻みに動かしている。
女性は顔を壁の方に向けてしまい、この映像では表情を伺うことは出来ないが時折聞こえてくるくぐもった喘ぎ声で感じていることは理解できた。
また僅かにではあるが女性は自ら腰を揺らしているようにも見え、時には小さく痙攣するかのように身体全体を震わせていた。その度に男の動きが僅かに止まることから、女性は小さく絶頂しているのではということが想像できた。
そしてそのまま男はいきなり大きく腰を動かし始める。突然の動きに驚いた女性の口からは大きな声が響き、映像から腰を打ち付ける音や粘性の音が聞こえてくるのではと思うほどに激しく揺さぶられていた。
揺さぶられる女性の足はガクガクと震え、ただ男の精を、勢いを受け止めているだけに見えた。
そのまま男は一度モノを抜くと、そのまま女性の向きを変え自分の方を向かせ、壁へと追い込んだ。
男は壁と挟まれるようになった女性の片足を上げ、その間に下半身を潜り込ませるようにして再び挿入しそのまま突き上げを始めた。するとバランスを取るためか女性は男にしがみつくようにしたため、ちょうどカメラに顔が映り始めた。
そんなことを知ってか男はさらに勢いよく腰を動かし、その度に女性の身体が大きく上下に揺れる。
女性の顔をアップにしてみれば先ほどよりも目に力がなく、明らかに感じているメスの顔になっているようだが、それでも声を押さえようと自分の手で口を塞ぎ始める。
そのままの状態で少しの間があっただろうか。断続的に上下に揺れていた女性の身体が止まったかと思うと、直後強く目を閉じながら何かに耐えようとしているような姿に変わり、そしてそのまま画面は暗転した。
想像以上に良くとれている映像に俺は半分放心状態だった。そしてそのまま再び最初から動画を再生すると、おもむろにズボンへと手をかけた。―――
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あの映像を撮ってから数日がたった。
何度も見ているうちに男との会話から彼女が「蓮」と呼ばれていること、そしてこの付近で出会えることをどうやら秘密にしておきたいことは理解していった。
そしてその名前と特徴で検索をすれば、すこしアングラなサイトに動画が出回ってるのを発見した。動画の中で呼ばれているのも同じ名前であることから同一人物だということも分かった。
そういう動画も購入してしまったし、パソコンへと保存したあの動画を使い何度も自慰行為をしてしまった。何故だか彼女は何度見ても興奮してしまう―そんな魔性のようなものを感じてしまった。れっきとした盗撮行為であり、どこか背徳感を感じているのもその一因だったのかもしれない。
それを証明するように普段の生活に戻った後もついつい会社帰りにあの路地の前を通ってしまい、同じようなことがないかと期待してしまうあたり、自分でも少し情けなくなっていた。
そもそもまたであったところで何をするつもりなのか。まさか脅すわけにもいかないし――そんなことを考えながら過ごした日々が続いたある週末。
あの日のことはラッキーなことだっと割り切り、いつも通りに居酒屋へ向かおうと歩くその道すがら突然に彼女――蓮が目の前を通り過ぎたのだ。
最初は自分の目を疑い、そして次に見間違いを疑った。何せスマホで撮った映像でしかその顔を認識したことはなかったのだから。
だがあの黒髪、そしてあの時と同じ黒一色で統一された服装、そして何より一瞬見えたあの目……とっさに俺は見かけた彼女の後を付いて行ってしまった。
週末の夜と言うこともあり人は多い。人を付ける訓練も、ましてや実績などない一般人にとってその難易度は果てしないものだった。そもそも彼女の後を追って何をするつもりなのか―そんなことを考えているせいか、時折見失いそうになりながらもなんとかその姿を追いかけていく。
後を付け初めてどのくらい経っただろうか。周囲の景色は人通りの多かった大通りから住宅街、そして郊外へと徐々に人の少ない場所へと移動していく。
何か嫌な予感がしつつもどこへ向かっているのかを考えた―思考が一瞬追いかけること以外にむいたその一瞬、まるで魔法のように彼女の姿が消えた。慌てて周囲を見渡しても見える範囲には特に隠れるような道も、建物もない。この場所で一体どうやって――そんな考えと共にキョロキョロと辺りを見渡す。……とその時である。
「で、私の後を付けて何のつもりかしら?」
自分の背中から発せられる声にビクリと肩を震わせ、そのまま恐る恐る振り向くと彼女の姿が目に入る。次に目に入ってきたのは彼女がその手に握っている黒い何か―拳銃だった。
「ひぃっ!?」
「動かないで。撃っちゃうかもしれないから」
彼女の手に力が入るのが見て取れる。その銃口は自分の心臓を狙っていることは明らかであり、ただ小さく悲鳴を上げその場で崩れ落ちそうになるのを必死に耐えるのだった。
「もう一度聞くわよ?
先ほどよりも強まる語気に俺は覚悟を決め口を開く。
「人違い…だったら謝ります。アナタは、蓮さん…で間違いないですか?」
「その質問に答える義務はないと思うけど?」
彼女の口からは想定内の解答が返ってくる。それはそうだろう、誰だっていきなり名前を尋ねられて答えるヤツなんていない。
「それはそうですね。…では蓮さんだと仮定して、見て貰いたいモノがあるんですが…」
「……良いけど、何を?」
「スマホに入ってます。ポケットから出しても?」
「ゆっくりと取り出しなさい」
ゆっくりとポケットへ手を入れ、彼女に確認させるようにスマホを取り出し例の動画のスクショ―彼女が男に抱きかかえられているシーンーを表示した。
抱きかかえられているとはいえ肩辺りまでのアップのため、写真だけ見ればただのハグに見える。そんな風に整えた写真だ。
「これ……なんですが…アナタですか?」
「……っ…これ……」
「どうでしょうか?」
「…違うわね。私じゃないわ。」
素人でも明らかに嘘だと分かるほどに狼狽えた口調。それを聞いたときに俺は彼女が≪蓮≫であることを確信する。そして同時に俺の中で悪魔が囁いた――彼女を脅せと。
「そうでしたか。すみません人違いでした。…ストーカーみたいなことをした以上どうしようもなさそうですが…」
「…良いのよ。気にしなくて。このまま帰って、金輪際近づいてこなければそれで良いわ。」
「優しいんですね。警察にでも連れて行かれると思いました。……それではこれで。」
深々と彼女に頭を下げると、彼女は持っていた銃を懐へしまった。俺はそのまま回れ右をして立ち去ろうと歩き始める。もしも本当に彼女が恐れているならばそろそろ…
「ちょっと待って。」
「なんでしょうか。」
「さっきの写真、これからどうする気?」
予想通りの言葉に笑みがこぼれる。まだ彼女からはコチラの顔が見えていないためバレることはないが、必死に顔を引き締めて振り向く。
「どう…と言われても。どうやら有名人らしいので、情報提供でネットにでも上げようかと。撮った場所も含めて」
「…っっ!」
≪場所も含めて≫と言った瞬間に彼女の表情は強張った。俺にとっては一世一代の大博打だ。失敗すれば恐らく俺は何も得られないだろう。しかしそれでも自分の中に巣食う欲望からは逃げられなかった。
「何もないようでしたらこれで。」
至って平然と、何事もないかのように再び彼女に背を向け歩き始める。するとさほど間をおかずに彼女は声をかけてきた。
「待って!」
「…今度は何ですか?」
「分かってるんでしょ?……そうよ。その写真に写ってるのは私よ。」
「あ、そうなんですか?隠さなくても良いじゃないですか。」
今度はニコニコと笑みを浮かべながら彼女―蓮に接する。
「色々と事情があるのよ…で、お願いなんだけど。」
「お願いですか?」
「そうよ。その写真、削除してもらうか…せめてネットに撮った場所は上げないで欲しいんだけど。」
「確かに。写ってるのが蓮さんなら、その頼みは聞くしかないでしょうね。」
「本当?良かった。…じゃあここで削除してもらっても良いかしら。」
予想通りの交渉が始まってくれたことに俺は安堵した。もしかしたらさっきの銃で撃たれて終わりということもあり得たからだ。だからこそ、俺は自分の欲望を叶えるべく蓮に言った。
「でも…」
「でも?」
「せっかく撮った写真をただ消すってのも勿体ないですよね。」
「……どういう意味かしら?」
「分かりませんか?……ではこう言いましょうか。写真以外もあの場所であったことを知っている…と。」
瞬間であった。気づけば目の前に居たはずの蓮は俺のこめかみに銃口を突きつけていた。
「やめてくださいよ。暴力反対です。」
「何が望みよ。…いえ関係ないわね。始末しちゃえばそれで終わりね。」
「いえいえトンデモナイ。動画の方はこのままじゃ自動でネットに上がりますよ?」
「なんですって…?」
もちろんただのハッタリだ。自分でもこんなことが口から出てくるなんてビックリだったが、それでも蓮の動きは止まってくれた。このまま行くしかなかった。
「もちろん蓮さんがすぐに俺の家を見つけて、保存してる場所を特定すれば間に合うかもしれませんが…このまま処理しなければ本当にスグですよ。」
「…………」
「とりあえず銃を下してもらえると。誰か来ちゃったら言い訳大変でしょう?」
ギリッ…と歯ぎしりの音が聞こえる。そのまま蓮は再び銃をしまう。
それを横目で見ながら俺は横を向き、蓮と対面する。
「なに。削除しますし、ネットにも上げませんよ…1つだけお願いを聞いてもらえれば。」
「…アナタのようなゲスな考えは大体分かるわ。」
「そうですか?ではどんな要求をするとお思いで?」
「……………」
あえて自分からは言わずに蓮の口から言わせることを目的とした誘導。これに掛かってくれれば俺は最高の結果得られるはずだ。
だから決して相手を煽らずにただ沈黙して待つ。…そして数時間にも思えるほどの沈黙を破り蓮は言葉にしてくれた。
「その写真に写ってる…いえ、その写真を撮られた時にしていたこと…でしょう?」
「すみませんね。俺は頭悪いんで…もっとはっきり言ってもらっていいですか?」
「くっ……アナタと性行為をするってことよ。」
やった!!と大きくガッツポーズをしたいぐらいだった。今目の前で蓮は自分から宣言してくれたのだ。これで心置きなく事が運べる。
「そこまでは考えてなかったんですがね。でも蓮さんがそう思ってるならそれで良いですよ。」
「卑怯者めっ……」
「なんとでも。宣言したのは蓮さんですし…ね。それでこれからすぐで構わないですか?それとも日を改めます?」
「今日で結構よ。時間なんか経たせたらその間に拡散されかねないし。…とりああえずネットに上がらないようにしてもらえるかしら。」
「それはもう操作済みですよ。…あぁそうだ。このまま一緒に行って気絶でもさせられたらたまらないですし言っておきますが。」
「何よ。」
嘘に嘘を重ね、今はただ蓮を好きに頂くことだけを考える。この後にどうなろうと知ったことか。そんな心境で話を続ける。
「すぐにネットに上がるのは止めましたが、機能自体は止めてませんから。下手に俺の意識を奪うと危ないですよ?」
「分かったわよ。…それじゃあ行きましょうか?時間も勿体ないし。」
「ええ。行きましょうか。」
話し終わるが早いか、蓮はスタスタと早足で歩きだす。その後を少しの不安と莫大な期待をもってまた俺は付いていくしかった。
ええ。蓮ちゃん再びです。
本当にこのヒロインは何しても許される感じがあって好きですね。
いつもと目線を変えて見るとこれまた難しい