あの人は、決して紳士ではない――けれど、私のお願いがあまりに非常識だってことも理解している。しかも、オーナーとしての職権まで乱用させてしまって。それで何をお願いしているかといえば――カラオケボックスで裸になりたい、とか。
『もう~きっと、会えないけれど~♪』
彼とは知らない仲ではない。高校では三年間ずっと同じクラスだったから。でも、これといって特別な印象はなくて、ただ、大人しいコだな、ってくらい。その男のコが、まさか――行きつけのカラオケ店のオーナーだったとは。正確には、オーナーは彼のお父さんであって、彼自身は店長……なんだっけ? どっちにせよ、申し訳ないことには変わりない。
だけど――私はやっぱり、誰かに聴いてほしいから。銭湯の鼻歌みたいのではもう満足できない。こうして、ちゃんと伴奏を流しながら、マイクに向かって。
けれど、私は――
私は、裸でないと、歌うことができない。
もしかしたら、ずっとお風呂で練習してきたからかもしれない。子供の頃から、ずっと。
服を着ていると、どうしても身体がぎこちなくなってしまう。喉も開いてくれない。水着や下着、タオルを巻いていてもダメ。こうしてお風呂の湯船に入る格好でないと、どうしても調子が出てくれない。
しかしまさか……カメラって本当に設置されてたのね。カラオケボックスってのはそういうものだと聞いてはいたけれど、建前上だと思ってた。夜更けすぎの個室で素っ裸になっていたのは、ずっと前から
普段はバイトに任せて奥に引っ込んでいるオーナーが、その日だけはカウンターに立っていた。珍しく彼が出てきた理由は、責任者として。あまりにも目に余るから。けど、カメラ越しじゃ顔まではわからなかったみたい。だから、私たちは物凄く驚いた。こんな形で、二年ぶりの邂逅を果たしたことに。
彼はオーナーとして、『顔見知りだから声をかけただけ』なんて言い訳はしなかった。私はバイトの間でも有名な問題客で、オーナー自身も何か月も前から気づいてたらしい。それってずっと、私のことを
なので、むしろ。
こういうのって、運命共同体っていうのかな。
私の悪癖に巻き込んでしまった、とも。
閉店後の店内に、私だけが音楽を響かせている。
バイトたちからのクレームに応じるどころか、こんな形でこっそりと。
ここは、一〇人は入れるパーティールーム。机を端に寄せているのは、私が立つスペースを作るため。ダンスと呼べるほどのものじゃないけれど、歌に合わせて身体を動かすのは気持ちがいい。
でもやっぱり、彼は紳士なんかじゃないから。
自分からこんなことしておいて、目を閉じていてくれ、なんて言えない。それに、私の歌もちゃんと聴いていてくれている。耳では。けど、その視線は、揺れるところへ。リズムに乗って肩を出すと、一緒になって動いてしまうところへ。くいっと腰を捻れば、少し下の濃くなった毛の塊をじっと見下ろす。こんなカッコで踊ってるんだもの。男のコに
むしろ、それを目の前にしてよく耐えてくれている。男のコにとっては、美味しいご飯を目の前でお預けされてるようなものなのに。そう思うと、劣情を抱かれているのに嫌な気持ちも湧いてこない。むしろ、私の方が無理なお願いをしている。だから、そのお礼も兼ねて――期待には応えなきゃ、って。
『ひとり見ていた…昔の影に…♪』
さっきから、前だけでなく、後ろも
もう裸で歌い続けて三曲目。その間、野獣のような視線に晒され続けてきた。身体がポカポカして、胸がドキドキするのは――全力で歌ってきたから、ってのはある。それに、いけないことをしているから、という罪悪感も。だけど、それに加えて、男のコとふたりきりだから。密室――どころか、誰もいない建物で。
スタンスを変えようと足を開くと、その間を冷たい空気が吹き抜けていく。それは空調の所為じゃなくて、そこが、濡れているから。これまでだって、ついひとりで気持ち良くなってしまったこともあるし。だから、それを。
計らいに対する感謝。
罪の共有。
そういう建前はさておき――
本能的に私は、それを、シたい。
「……いいよ」
マイクを持ったままお尻をくいっと突き出せば、そこまで全部
けれど私は、ここには歌うために来ている。
『見つめているだけの~切ない想い~♪』
それを本当にわかってくれているなら、私は歌い続けることができるのだけど。
結局、彼は紳士じゃないから。
『夢を追い続けて~いつか~♪ いつか~……ぁ❤』
私の歌声にノイズが混じる。感覚の集まっているところ迫ってくる、とてつもない存在感によって。
『や……は……あ、あ、あぁ……ん』
もう少し頑張れると思ったんだけど、やっぱり無理。
『いつっ、もっ、の……っ、あっ、は……っ、帰りっ、みっ……ち……やぁんっ』
こんなの、やっぱりいけない。私、歌が大好きなはずなのに。こんなつもりで歌ってるつもりはないのに。
だけど――
『はっ、ぁあんっ、あぁっ、はぁ……んん……』
歌って身体が温まったところで、こうして男のコに抱いてもらうと……あぁ……っ。
『胸も……胸にも欲しい……』
すると、わざとらしく止められる男のコの腰つき。こんなとき、彼はちょっとだけ意地悪になる。マイクを通しておねだりしないと、続きをシてくれない。
『お願い……もっと、もっと……』
ちゃんと言葉にしないと、シてくれない。
『もっと、おちんちんでおまんこ撞いてぇっ!』
あまりの恥ずかしさに、私の身体が縮こまっていく。それは、恥ずかしい場所さえも。ああ……だから、言わされてるんだなぁ……。だって、私の中の男のコも、すごく大きく
それは、どうしたって気持ちいい……。だから、恥ずかしいけど……恥ずかしいけど……っ!
『おちんちんっ! おちんちん好きなのぉっ!!』
うぅっ、恥ずかしい! なのに……どうしてこんなに気持ちいいんだろう。ドキドキする胸をコロコロと指で転がされるのも……あ、あぁ……こんなにぃ……
『おっぱいも気持ちいい……っ! もっと乳首を強く引っ張ってぇっ!』
こんな恥ずかしいお願いを、フロア内に響くほどの大音量で叫んじゃってる。もちろん、誰もいないと知っているからできることだけど。
ただ、もし、他の人がいたとしたら。みんなが歌っているところに、部屋の外から――
『あっ、あ……いいっ! おちんちんも……おちんちんでおまんこ
こんな淫らな声が聞こえてきたら――ううん、これは、私の想い。私の悦びを、みんなに伝えることができたら――
『おまんこっ! おまんこ
こんな声が聞こえてきたら、不快な人も多いと思う。だけど、もし、誰も嫌がらないのなら――そんな声を聞きに来てくれる人ばかりなら――
『
ビクビクッ! ビクンッ! ビクン……ビクン……
そんなところを妄想するようになって、オーナーとのセックスがもっと気持ち良くなった気がする。けれど、それは妄想で終わることはない。だって彼は、本気で動いてくれているから。
その恥ずかしさが、私をどこまでも高揚させていく。曲は途切れてしまったけれど……私はもっと歌いたい!
アソコにはまだ男のコが残っている。そのままリモコンに手を伸ばせば……ふふ、始まっちゃった、次の曲。音楽に合わせてお尻を振ると、オーナーの腰もヒクヒクしてきた。
『新しい道を~行くあなたを~♪』
じわじわと押し寄せてくる性感に、私はどこまで耐えられるのかな。そして、今夜はあとどれだけ歌えるのかな。
私のための営業時間は、夜が明けるまでのわずかな時間。朝シフトの人たちがやってくるそのときまで、私は歌って……抱かれて……また歌って……
***
小さいけれど、そこはちゃんと舞台だった。オーナーが――って、彼はカラオケ屋のオーナーであって、劇場の支配人ではないけれど――彼が裏で操作すると、熱いくらいのスポットライトが私を照らす。
花道まであるんだぁ……。それはそうよね。ここの観客たちは、女のコの裸を観に来るんだもん。このくらい間近で観たいんだろうなぁ。
そこをゆっくりと歩いていくと、天井からの光も一緒についてくる。いまは開演前だけど、席が全部埋まったら……左右合わせて五〇人くらいにはなりそう。そんな男の人たちにカラダを
けれど、いまは空だからそんなに恥ずかしくない。といっても、やっぱり少しは恥ずかしいのだけど。こんな晴れ舞台で歌うこと自体も。そして、それにまつわることも。
あぁ……音楽が流れ始めてきた。やっぱり狭いカラオケ屋の個室とは段違い――なんていったらオーナーに失礼だよね。とはいえ、だからこそここに連れて来てくれたのだろうし。私が――私
これはリハーサル、という名目なのだから、本来はできるだけ当日に合わせた段取りの方がいい。打ち合わせにあったとおり、少しずつ脱いでいく形で。けど、いまは……最初から全力で歌いたい! 私が着ているのは、一見可愛らしい舞台衣装。テレビでアイドルが着ているような、あざといほどにフリフリの。けれど特別製で、ボタンや紐で簡単に崩れる仕組み。ヘッドマイクをつけているので、両手を使って手早く、ぷちっ、ぷちっ……すとん。スカートが床に落ちて、パンツ丸見え。けれど、私の身体はまだ足りないって知っている。脇のボタンを外せば……ぽろん、と。胸と背中が真っ二つに割れてしまった。
『はぁ……はぁ……』
息が大きくなっているのが、スピーカーを通して響いてしまっている。本番は気をつけないと。けれど、胸の鼓動は収まらない。外側は、全部剥かれてしまった。残っているのは、心許ない下着だけ。なのに、それさえも……私は脱がなくてはならない。
こんな広々とした客席に向かって、真っ白な光を浴びながら、私は背中のホックを外す。真っ白く輝きながらブラは落ちてゆき、眩い光に私の両胸は照らされた。何も着けていない、裸の胸が。きっと、
けれど、この程度で怯んでもいられない。だって、ここからはもっと……。パンツに手をかけているところも暗い室内では浮き上がって見えてるんだろうなぁ。する、する、と膝まで下ろしていって……私はそのままブーツも脱ぐ。
『はぁ、はぁ、はぁ……』
こんなの、心臓を鎮めろって方が無理! だって、私の裸が輝いてるんだもの! 胸が熱い。お尻も。それに……うぅ、アソコの毛まで全部光ってる! 口元のマイク以外、私……何にも着てない! 裸足で、こんなところに立ってしまってる!
頭の中は光と同じくらいに真っ白だけど……歌わなきゃ。そのために、私はここに立っているのだもの!
『好きっ、好きっ、好き……大好き~♪』
歌も踊りも、ちゃんと用意してもらった。思ってたより、普通の楽曲を。『ヤれるアイドル』ってのがコンセプトらしいけど、露骨な下ネタソングにするとコミックバンドになっちゃうから。ただ、ストリップ劇場で歌うだけに、振付はやっぱり厭らしい。
『見て、見て…見てぇ♪』
股の間から手を入れて、お尻を突き出しながら指で広げろだなんて……。レッスン室の鏡で、練習中に何度も見ちゃった。これまで見たこともなかった、自分のアソコ。最初は変だなぁ、って思ってたけど、慣れてくると……すっごくエッチな気分になってくる。こうでもしないと見えないところを、男の人に魅せちゃうんだから。
『貴方を、解き放って欲しいの、私の……ナ・カ、で♪』
思い返してみれば、普通の邦楽だってこんな思わせぶりな歌詞も多いよね。けど、こうして……裸になって、足を開いて……今度は正面から、腰を突き出しながら股のぷにっとしたところを両手で開いてる。それで、私の中で解き放て、なんて……殿方のご期待通り、ってところかな。
音楽のセッティングが済んだのか、オーナーは舞台袖まで見に来てくれてる。じゃなくて、
だから、私は手招きする。いまさら恥ずかしがることないし……それに、これは予行練習なんだから。
けど、オーナーが花道に入ろうとしたところで、私は首を横に振る。
本番のことを思い出してくれたから、彼もまた、私と同じ姿になる。そういえば、男の人の全裸を見るのって初めてかも。下半身なら何度か、だけど、あの部屋では上まで脱ぐ必要がなかったから。けれど、これはあくまで予行練習。私が、そのー……人前で、ヤるための。
いまはまだふたりきりだけど、本番は……前にも後ろにも男の人の目がある。もう全部
けれど、今回はリハーサル。ふたりきり、だから!
大サビ前の間奏中に、オーナーも花道の中央へと辿り着く。ふたりして視姦されてしまうのなら、恥ずかしさも半分こ。
台本にはなかったけれど、テンションのままにオーナーを抱きしめちゃった! なんかこう……嬉しかったのかもしれない。彼と恥ずかしさを分け合えることが。
『ん、あん、くちゅ、ん……』
あ……マイクがキスの音、拾っちゃってる……。でも、きっとこういうのもアリ、なんだろうね。だって、もっとエッチなことだってしちゃうんだもの。
オーナー自身が発注した曲だけあって、タイミングはちゃんと覚えてるね。歌が始まる前には示し合わせたように離れて、彼は床で仰向けになる。そして……
『私、もう我慢できない、滴るカラダを慰めたいの♪』
そういう歌詞ではあるけれど、私の本心を歌ってるみたい。だっていつもなら、そろそろオーナーにカラダを許してる頃だから。
もちろん、一晩に何度もシてれば、私が上になることもある。そして、これからするのはまさにそれ。
『入れたい、受け入れたいの、カタくなった貴方……あぁんっ♪』
ガニ股になった方が本当は動きやすい。けど、これは一応舞台だから。膝を突いて可愛らしく? こんなのが可愛いのかは疑問だけど。でも、やっぱり……ん……いい……❤
『もっと、もっと、もっと奥まで! 私のこと……気持ち良くしてぇっ♪』
つながってからは歌えなくても大丈夫、とのことだけど……やっぱり私は歌いたい! だってこれは……オーナーは何も言わないけれど、わかってるよ。私とのエッチを思い描きながら書いた歌詞だって!
『貴方に貫かれる度に、私、胸が疼くのぉっ♪』
オーナー……私のこと、ホントによく見ててくれたんだね。
そして、自分の指じゃ物足りないってことも。
『貴方に、触れて欲しいの……ほんのり、色づいた私に……♪』
身体を前に倒せば、ふたつの膨らみに向けて手が伸びてくる。いつものおねだり、歌詞にしてくれたんだ。
『貴方にっ、触れられるとぉ……そこが、熱くなるのぉっ!』
胸も……それに、
『イク♪ イク♪ イクぅっ♪ 貴方が私を……イカせてぇっ♪』
私が腰を跳ねさせると、それに合わせて下から突き上げてくる。ダメ……もう……私ぃ……❤
だけど……もう少し、だから……!
『貴方もイッてぇ……私の……ナカでぇぇぇぇぇぇ❤』
びゅるっ! びゅるんっ、どくん……
『やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ❤❤❤』
ビクッ、ビクッ、ビクッ……ビクゥゥゥゥゥ……ッ!
『はぁ……あぁ……良かったぁ……♪』
私は歌いきってしまったし、ヤリきってしまった。ずる、ずる、と引き抜いて、四つん這いのまま客席に向けて腰を捻る。とろり……ぽたり、と滴っていく男のコの迸り。今度はこれを、知らない観客のオジサンと……
なぁんてね。
歌詞を見たときから、私とのエッチをイメージしてる、ってわかってたから。音楽に合わせてシてみたくなっただけ。リハーサル、ってのはちょっとウソ。こんなに都合よく、初めての相手と
きっと、本番の『まな板ショー』では、音楽とは無関係にサービスすることになると思う。だからこそ、いまのうちにシておきたかった。この歌の、本当の姿で。
「オーナー……私のためにこんな舞台を用意してくれて……ありがとう」
彼は、約束を果たしてくれた。ひとりで裸になるのは恥ずかしい、って私のために、こんなことに付き合ってくれる女のコを集めてくれて。私は明日、初めて歌うことになるのだろう。たくさんの聴衆の前で、本気の歌を。
はだかんぼで。
恥ずかしさは……もしかすると、カラオケボックスのバイトのみんなに
もしくは、オーナーが私の歌を聴いてくれたときに、恥ずかしさを上回る喜びを手に入れたのかもしれない。
どちらにせよ。
この姿で男の人たちの前に出ることに迷いはない。
だって、私は歌いたいから。
そして、歌うと気持ち良くなることを知ってしまったから!