夢を、見ていた。
木々に囲まれた屋敷。窓から覗くことのできる庭は丁寧に管理され育てられているのだろう花々や草木で色鮮やかに彩られていて。
自分は、『選ばれなかった』妹や弟がその庭で駆け回っているのを寝室から眺めていた。
(──あれ……?)
羨ましい、と思わないのは。既にこの環境に馴染んできていることもあるのだろうとぼんやりしながら考える。悪く言えば毒されているということなのだろう、が──自分が一族の刻印や技術を継ぐ当主として選ばれるだろうことは物心ついた頃から薄々と理解していたことである。
楽しいと思えることよりも苦しい時間の方が長いのも確かだが、それでもまだ受け入れることのできる範囲だった。
まだ、耐えられる範囲だった。
(夢? でもこれは、違う……私のじゃ、ない……?)
見覚えのない屋敷と記憶の中で。少女は部屋の主である幾つもの点滴に繋がれた、少女のよく知るそれと比べあまりにも顔色の悪い少年の顔をみつめて。
いつものように邪悪に、いきいきと、瞳を爛々と欲望で耀かせる彼と目があった。
「暮人、くん……?」
「起きろー、イリヤ。朝だぞー」
「えっ……ひゃあ!?」
身体を穿つ衝撃。それで、意識が一気に現実に引き戻された。
目の前にあったのは、唇がいまにも重なりそうなくらいに密着し自分の身体の上に覆い被さって少女を犯す少年の顔、で――
「やあっ、えっ、な。なんっ……⁉ ひぅ!」
無防備な胎に強烈な突き上げを受けたイリヤの身体が雫を散らし跳ねる。訳もわからぬまま浴びせられる衝撃と快感。のしかかってくる暮人の掌に最近は林檎だどうとかとクロエにも揶揄されるくらいに実った双丘を捏ね上げられるように揉まれるのに肩を震わせながら、紅い瞳を蕩けさせて衝撃の元である下腹部を確認する。
溢れた愛液でシーツを濡らして。一目で固く充血し膨張してるとわかる肉棒に乙女の花園が深々と穿たれているのを目の当たりにして、もぉぉ……! と熱くなった顔を両手を覆う。
隠すな隠すなと伸ばされた手に顔を覆った手を強引に掴まれて引き剥がされる。
「やぁあ……! 手を、離してよぉ」
「恥ずかしいのはわかるが、まあ待ってくれ。じっくり顔を見たい」
「それがダメだから、言っ、~~っ、てるの、にぃ……っ! ぉ、奥ぐりぐりするの。やめ、イッちゃ、こんな朝から……!」
「やめない」
せめてもの抵抗とばかりに再度顔を隠そうとした華奢な腕を掴み止めながらの無慈悲な宣告。総身に叩きつけられる快楽に腕に力をこめるのもままならぬまま喘いで懇願する少女のイキ顔を目に焼き付けてやると笑った彼は、調律の施術と継続で完全に把握している性感帯を刺激してやりながら膣にしっかりと
根本まで届かないくらいのところまで肉棒を咥えこんだ秘裂が震え愛液を迸るのに合わせ、己もまた精を吐き出す。
びくん!!と身体を跳ねさせ、限界まで見開いた瞳から涙を流し、口の端から唾液を垂らして舌を突き出し、恍惚と快感に打ち震え割り開かれた脚を彼の腰に回し互いの下腹部をくっつけんばかりにして快楽を享受しようとして──その全てを見られたことに、顔を真っ赤にして爆発する。
ぱくぱくと口を開閉させて、やがてその瞳を涙で潤ませるのに苦笑する。彼女が何らかのアクションよりも早く身を寄せ、その唇を塞いだ。
快楽に翻弄され緩んだ唇をこじあけ舌を挿しこみ、絡め合わせていく。
口蓋を、舌を、歯ぐきの尽くを蹂躙するような舌使い。静かになったのを見計らい解放すると、愛撫を続け軽く絶頂させ申し訳程度の抵抗を封じてたこともあってか形のいい乳房を揺らすように胸を上下させ息も絶え絶えになっていた。
ずるりと愛液と精にまみれ亀頭から糸を垂らす剛直を膣腔から引き抜いて。手慰みに腕の中の少女に触れながらそっと顔を寄せ囁きかける。
「可愛かったよ」
「……………………さいっってぇ」
「悪かったって、調子に乗りすぎた。ところでさ、結構経験も技術もあるつもりだけどやっぱりキスはクロの方が上手いよなぁ……イリヤはどう思う? 魔力供給だなんだで結構キスしてたと聞いたけれど」
「…………知ら、なぃよもぅ…………あとお尻触らないで…………」
「あ、もう腰砕けか……、しょうがないな風呂には俺が運ぶかな」
「ねぇ話を……待ってお風呂? ちょっとま──ひゃあ!?」
互いの体液に濡れたベッドの上から軽々とお姫様抱っこで持ち上げて。華奢な身体を抱え風呂場に直行する暮人の顔を見上げるイリヤは、顔を真っ赤にして少年の胸板を叩く。
「──! ま、まだするつもりなのこのケダモノ──」
「痛い痛い痛い。何だよ学校いくなら一度身体を清めないとでしょ」
「がっこ、学校!? い、今何時!? あああどうしよう身嗜みも整えなきゃなのに……」
「落ち着いて、今は6時半だから。朝食も用意してるから身支度の時間を考慮しても十分間に合うよ、最悪魔法少女すれば間に合うだろうしね」
「あ、良かった、いやそうじゃない! 待って暮人くんとお風呂入ると身体綺麗にするどころじゃないから! もう本当におかしくなっちゃうからせめて1人で入らせ──」
「加減はするよ」
信用ならない! という叫びと、可愛らしい抵抗。
少女の暴れる音はバスルームの扉が締まり、シャワーの水音が響き始めると、すぐに聞こえなくなった。
異世界旅行。
口にすればそれこそ陳腐なライトノベルや漫画にでも出てきそうな単語である。一般人が聞けば小説の話でもしているのかと首を傾げ、世界から一歩二歩ズレた境地に立つ魔術師であろうとも鼻を鳴らして理論上不可能ではないが少なくとも第二魔法なしには荒唐無稽と口にしてしかるべき事象が――この冬木にて一度引き起こされたのだという。
だが、それ自体は驚きこそすれど受け入れられる範囲の話である。少なくとも一方通行であれば、異世界の遥か深奥とでも言うべき根源へと向かい、辿り着いて消えた魔術師もいるのだ。最も注目すべき点は、冬木市円蔵山にてまるで神代の宝具でも振るったのではないかと見紛う時空の断裂と共に姿を消し、発見はほとんど絶望的と思われていた6人の少女たちが五体満足の上体で帰還してのけたことだろう。
加えその6人の内3人が、それこそ10代前半の年端もいかない少女であり──姿を消して迷い混んだという並行世界から帰還するために使ったという万能の願望器である聖杯を抱えていたというのだから、報告を受けた時計塔を揺るがした衝撃はそうそうたるものだったろう。
聞けば並行世界で聖杯を求めた魔術師と複数の激闘を繰り広げたとか、英雄王ギルガメッシュが顕現し湯水のように宝具をばらまいたとか、敵対する魔術師がこの世界ではとうに滅んだエインズワースなる魔術師でありギリシャ神話の乙女パンドラと共に世界救済を目論んだとかどうとか──全部真実らしい辺り、つくづく世界は狂っていた。
拐われた親友を助けに強大な敵に挑み、あらゆる苦難を乗り越え在るべき場所に帰った彼女たちの活躍はそれこそ英雄碑か何かと言いたくなるものだったが……物語のようにハッピーエンドで大団円とはいかない。
聖杯という魔術師垂涎ものの
道具でありながら本来の担い手に従うことなく無関係の少女たちを巻き込んだ魔術礼装を作成、彼女たちに預けた魔術翁の責任を追及。彼から少女たちを時計塔の有力者から保護するという言質を勝ち取り想定しうる最大の後ろ楯を手に入れたのだ。
そうして、ひとまずの安寧を手に入れた少女たちは時折現れる時計塔の圧力を逃れ現れる魔術師たちに悩まされながらも、極限の戦闘を経て聖杯として傾きすぎた己を人間として維持するために調律師の魔術師に処置を施してもらうこととなったのだが──。
「……」
「……」
あの魔術師殺しから依頼が来たときは一体どのような異形なのか戦々恐々としていたものだが……実際に会ってみれば、その性能を万全に発揮すれば根源にさえも至れるという聖杯を抱え持つにしては随分と可愛らしいものだった。
軽く息を吐いて。肩や首、背にかかる温かな重みを受け止めながら路上を進む。
制服越しに触れる柔らかな感触を密かに堪能しながらも、でもやっぱり触るなら生が一番だよなと思いをはせていると、彼の肩を借りるようにして歩いていた白髪の少女が耳元に唇を近付けて囁いた。
「…………ケダモノ」
「えぇ……」
「変態、スケベ、鬼、悪魔、性欲魔人……」
少年の肩を借りるイリヤはご機嫌斜めだった。
魔術師たるもの時間の管理は徹底しなければならないと豪語する彼が風呂場からイリヤを連れ出したのはぴったり20分が経った時だった。その20分で徹底的に触られ、吸われ、拡げられ、洗われ洗わされ──想起した淫溽に顔を真っ赤にしたイリヤは、あうあうと言葉を失って暮人の肩に顔を埋めた。
恥ずかしいところをいっぱい触られて、見られて、弄ばれた。乙女の尊厳など跡形も残っていない。散々身体を貪っておきながらあれでも加減はした方だぞなどと宣って肩を竦める少年に抗議の視線を送る。
「だいたいあんな朝から、あ、あんな風に……する必要、なかったじゃない。……調律だって、夜の内に終わらせてたのに……」
「でもそれは俺のところに来るときからわかってただろうし、実際ノリノリだったじゃないか。期待してたんだろう」
「そ、そんなこと! っ──ないもん……」
否定しようとした声を小さく潜めたのは、耳元で叫ばないでくれと唸った彼の指摘だけ、ではない。声をあげたイリヤになんだ痴話喧嘩かと視線を向けてくる通行人たちに気付いたのも要因の一つではあるが、もう一つ。
彼に触れられ、求められ、抱かれることを。心の底から否定することができず、寧ろ求めてすらいることを、どうしても拭い去ることができなくて──、
「いやまあ朝からイリヤ抱き倒す必要なかったのは確かだけれども君たちの相手することになってからやけにムラムラしててさ……正直美遊かクロ辺りはいっそ俺の家に棲んでもらうか本気で検討するところではある」
「一応恋人ってことになってる女の子の前でそういうこと言うの本当にやめない?」
「それにその言い草だと同棲というよりは完全に性処理係じゃない……私は良いんだけどさ、どうしても1人じゃクレトくんの相手しきれないからイリヤも棲ませれば良いじゃない」
「あ、クロおはよ……んん!?」
真っ当な中学生の発して良いものとは到底言えない下衆極まった発言に応じたのはイリヤと同じく中等部の制服を纏う褐色の少女。会話に混ざったクロエがイリヤを支えるのとは逆の腕に抱き着いてくるのに驚いた素振りを見せることもなく暮人が頬を緩める。
両手に花。とはいえ元々少女に肩に貸していた以上これではあまりに動きにくい──クロエの後をを追うようにして駆け寄ってきた美遊の姿を認めると、満足に動けないイリヤを支えてやってくれと何やらフリーズして固まっていた彼女を黒髪の少女に預ける。
「クロおはよう。美遊も」
「おっはよー☆」
「暮人くんおはよう」
「えちょっと待って私さらっと売られたのかなりショックなんだけど……!?」
「イリヤ、可哀想……よしよし……」
「美遊……私の味方は美遊だけだよ……」
絶頂地獄を垣間見て腰砕けになってしまっているのもおおよそ察しているのだろう、労るようにしてイリヤを抱きしめ頭を撫でていた美遊は、自分の胸に顔を埋める親友の頭に鼻を寄せ、すんすんと嗅いでは目を丸くした。
「……暮人くんの匂いがする……」
「嘘でしょ私身体は洗ってたよ?!」
「……シャンプーのことなんじゃない?」
「あぁそういう……なら教えてやればいいのに」
「えー反応面白いから放置で」
酷い妹もいたものだと呆れたような口振りで呟く暮人だったが、美遊の指摘に慌てふためいて自分の身体を確認する少女を見つめては笑う口元を隠しきれてはいなかった。にやにやとしながらイリヤを見守りつつ、やがて2人の視線に気付いた彼女が両手を振り上げて憤慨するのをからかいながら進み──中等部の校門が見えてきたあたりで、視線が一気に増すのを知覚する。
調律の対象であるイリヤたちの観察と緊急時の処置を行えるよう、外見の若さを利用し学生としての身分を得ている暮人だったが。少女たちと日常的に接触を図るにあたって、3人とは恋人の関係を構築していると公言している。学内随一の美少女たちを誑かす悪漢として悪い意味で注目を集めていた。
「見せつけちゃう?」
「進んで風紀を乱すつもりはないよー、一応俺は業界では秩序寄りで通してるんだし」
「秩序……秩序……?」
信じられないとでも言わんばかりの表情で見てくるクロエに失礼なやつだなと目元を吊り上げて抗議する。実際必要とあらば校内でも構わず押し倒すし一度美遊を倉庫裏でがっつり犯して調律したのだが。それでも民間人拐って改造したり貴重な人材だからとホルマリン漬けにして研究したがる輩よりは余程マシである。
「比較対象が酷すぎる件については?」
「実際聖杯としての特別性を私利私欲のために利用したりしない遠坂やエーデルフェルトの方が異端だからな……?」
聖杯による人格浸食が発覚して魔術師殺しとも連携して調律者を選定していた時だって、乙女の純潔とでもいうべきものを否応がなく奪うこととなる芥子菜の調律師を頼ることを最後まで悩んでいたという話だし。つくづく魔術師らしくない人格者だと言えたが――それが魔術師を推し量る基準になっては命取りである。
美遊やクロエはあまり心配する必要はないと思うが。イリヤに関しては可愛らしい姿をした女魔術師や喋る使い魔に「きみの力が必要なんだ、友達を助けてください!」なんて言われれば一発で騙されて使い潰されそうな気がしてならない。
冬木の管理者である遠坂が魔法使いの弟子として時計塔に拘束されている以上聖杯を狙う魔術師の搦め手には暮人が対処する必要が出てくる。厄介事にならなければ良いんだがと軽くぼやいて──イリヤや美遊の後を追うようにして校門をくぐる。
「……? どうしたクロエやたらニヤニヤして」
「ん? べっつにー♪」
「……?」
自身にくっつきながらご機嫌ににやつくクロエに気づくも、イリヤと瓜二つの顔で小悪魔のように悪戯っぽく笑う彼女は何も言わず。まあどうでもいいかと捨て置いて、制服のポケットのなかにある薬剤を確認しながら思いついたように呟いた。
「次は美遊だったっけ……スク水でも着せるかな……」
「……」
笑みを引き攣らせ内心で親友の安寧を祈るクロエは、しかし藪をつついて蛇をだすようなことはしない。本気で興が乗った時、彼の責めはあまりに激しいものになることをよくよく理解していた。