IS地雷小説 作:ごごごー
目覚めるとそこは全く見覚えのない真っ白な、四角い箱と言っても差し支えないような、小さな部屋だった。
「……おいおい。どこだよ、ここ」
異常な白さだった。例えば保健室だとか病院みたいな白衣や白いベッドから連想されるようなそういった白さではなく、上も下も右も左も前も後ろも、同じだけの白。壁紙も塗装をした痕跡もない、不気味な壁に取り囲まれている。もしもベッド以外の家具が存在しないこの四角い部屋がサイコロのように転がされるかしたら、床が天井になっても気づきやしないだろう。いったい何故、そんな場所に自分がいるのか。ぞわり。嫌な想像が、悪寒と姿を変えて男の背中を撫でる。
男はそのあまりの白に恐怖を感じていた。前夜、記憶の途切れる最後、目を閉じるまでは確かにようやく慣れたはずの寮のベッドで身体を休めていたはず。それがまぶたを開けば全く知らない天井だ。思い当たる節が一つ、男に最悪の想像を強制する。
二度と間違えぬよう気をつけていたはずだった。もう勘違いを起こさないように。思い上がった夢想を再び宿さぬように。注意を払っていたはずだった。
身の丈に合わない役回りを低俗な欲望のまま、
(……監禁)
そうとしか思えなかった。自分は何らかの方法で眠っている間に誘拐され、この白い部屋に閉じ込められたのだ。その事実を男はすんなりと、こうなるのがわかっていたかのように、疑問ではなく回避できなかったことを悔やんだ。これが平穏に暮らしている一般市民であれば、何故自分が狙われたのかと錯乱してもおかしくはない。しかし男は取り乱すことはなかった。これから先、何をされるか想像すれば今にでも動悸を発症してしまいそうだが男は誘拐された事実に疑問はなく、むしろ誘拐されるに相応しい立場に自分が立たされているのを強く理解していた。
男はおもむろに身を起こし改めて部屋を見回す。
(何もねえ。ベッドと、ドアだけだ)
上体を起こして観察しても同じ結果だ。四畳くらいのせばせばしい四角い個室とその角に収められるよう設置された座っているベッド。ドアは枕側とは反対の壁にあり、あとは埋め込まれた証明が部屋を照らすだけだった。男が首を曲げ、不安に揺れる視線を今度は自分の体に移してみると、寝しなに着替えたはずの寝間着ではなくなっていた。
(服は制服に変わってる。今は何時くらいだ……って時計も窓もないのか)
夢の世界に旅立っている間に運ばれたのでは、ここがどこなのか。学園の近くなのか、或いは県外なのか、或いは国外なのか、何かしら検討をつけようにもこの状況では推理すらできない。せめて現在時刻を知りたかったが、何もないに等しいこの部屋ではそれも叶いそうに無い。疑問があるとすれば何故わざわざ寝間着から学園の制服に着替えさせたのかは不思議だったが、深い理由は思い当たらない。
「無駄だとは思うけど……」
男はベッドから脚を放り出し、裸足を白い床へと踏み出す。裸足の足裏を襲うヒヤリとした感覚に体が停止したがそれも一瞬のことで、すぐに立ち上がりドアに近づいていく。期待はしていない。監禁を行うような輩であればどんなマヌケだろうが、鍵を掛けるのを忘れるそそっかしいドジっ子誘拐犯などどこを探してもいないだろう。
ベッドから三歩、男はドアの前で立ちすくんだ。
(もし開かなければ)
完全に望みは絶たれ、刑の執行を待つ受刑者の気持ちを味わう事となる。なけなしの希望を自分の手で閉ざすことを考えると気が重いが、何もしなければ待ってるのはそれ以上に最悪な人権の存在しないモルモットとしての生活だけ。
男はゆっくりと手を光沢を放つ銀のレバー型のドアノブに手をかざし、そして迷いを断ち切るように力を込めた。レバーの先が床を向き、前方へと力の方向を変える。
(マジかよ……)
予想していた鍵の抵抗を裏切り白いドアは力を込めればすんなりと、男の覚悟をあざ笑うかのように外へ外へとみるみる開いていく。本来であれば男は部屋の外に監視がいる可能性を考えられる用心深さを備えていたが、まさか鍵が掛かっていないとは露にも思っていなかったため、迂闊にも無警戒にドアを開け放ってしまった。
己の過ちに気づいたのはもうすでにドアが半分以上開かれた後。しかしその後悔すらもドアの外の景色を見れば裏切られる事となった。憂慮していた監視はいない。だが男の胸中にその懸念に対する安堵など欠片も無かった。部屋から一歩踏み出し男の見た景色。それは――
「また、白だ」
窓も、家具も、人も、存在しない。ただただ無機質な白い空間。男はつい数分前よりも大きな恐怖に襲われた。精神を犯していた監禁という明確な目的を持った恐怖から、何もない誰もいない部屋に無意味に閉じ込められた、という強迫観念に近い想像が脳裏を蝕んだ。
「一体何だってんだよ……」
男が目覚めた個室と比べると部屋は結構な広さと奇妙な構造をしていた。床から天井まではそこそこの高さであるが気になる程ではない。ただドアのある壁の横幅が二十メートル以上はありそうだ。大広間と言うより、白だけの内装も相まって何らかの研究施設を思わせた。横幅に対して奥行きはそこまでではないもののそれは比べた場合であり、十五メートルはある。十分すぎる広さだ。何より不可解なのは広さもさることながら、球体をL時に切り取ったような部屋の造りだ。
男の背後に切り立つ壁から対面の壁へ向かうまでに天井と両脇の壁が、角という区切りを消して段々と丸みを帯びて繋がっている。間取り図で視ればドーム状の形をしているといえばわかりやすいか。
なんにせよ人が居ようが居まいがこの隙に脱出するのが吉のはず。男は恐る恐る、脱出への経路を見つけるためこの広間を散策する事に決めた。と言っても男は既にどこを検分するか既に目星をつけていたのだが。
「……まずあそこからだな」
向かったのは部屋から出て真っ直ぐ、部屋の中央――男が目覚めた個室は部屋の中央だった――の丸みを帯びている壁の手前。何故かそこには、
「なんでこんなところにカウンターがあるんだ……?」
バーで見るような半円のテーブルと脚の長いイス。カウンターとその周囲を取り囲むようにカウンターチェアが9つ、両方とも例によって白いデザインで置かれていた。
「ここは何の施設なんだ?」
全く目的の掴めない施設だった。ベッド以外何もない狭すぎる個室。逆に巨大過ぎるドーム状の広間。広間の中央に鎮座している人の居ない謎のカウンター。そして、白。
今の所、手がかりとなりえそうな情報は一切無い。
白いカウンターとの距離を縮めていくと、カウンターの内側には電源のついていない20インチほどのモニターが男に向いており、下の方から伸びるフレキシブルアームに固定されていた。
「何だってこんな物が……」
そう言いながら、カウンター内になにか使えるものはないかと物色しようと身を乗り出したときだった。
モニターが煌々と光り始めたのは。
「ッ!」
男はとっさにイスの背後に身をかがめた。まさかこのタイミングで電源が点くとは完全に予想外、驚きのあまり地震の避難訓練のようにしゃがみこんでしまった。
(なんで今ッ!? やはり監視されていたのか?)
視線を巡らすがこの限定された視界では監視カメラのような物体は見当たらない。
少しの間、カウンターテーブルを背にじっと隠れていたが、予想していたような武装した集団やら白衣の研究員たちが大挙することはなかった。
(俺に反応して点いたわけじゃないのか?)
待てども待てども何も起こらない。業を煮やした男は、そろ~っとカウンターから頭を出しモニターの様子を伺う。画面にはもう見飽きた白の背景に黒の文字で、何よりも見慣れた名前と不可解な言葉が表示されていた。男は文字を目で追いかけながら静かに読み上げる。
「『
紛れもなく親から授かった自分の名前と、端的に敵ではないと知らせるメッセージ。意図が全く見えてこない。畜男は少ないヒントを駆使して事件の糸口を掴もうと思考を巡らすが一筋の光明すら暗に隠れて見つけ出せそうもない。
そうこうしているうちに画面に表示されている黒い文字が段々と白く、背景に溶け込み始め最後には文字は綺麗サッパリ消えてしまった。それからまた文字が浮かび上がらないかジッとモニターを見つめていたが、期待していた新たな手がかりは画面の暗転に潰えてしまう。
「……はあ」
何も起こらなかった安堵とこれといった進展も得られなかった落胆。両方が交じる溜息がこぼれてしまう。イスに片手をつきながら肩を落とす後ろ姿は完全に緊張の糸が切れていた。
だからだろう。
「――あ、あのう」
「ッ!」
声をかけられるまで背後から忍び寄る人に気づけなかったのは。
(――く、くそっ!)
背後の存在に遅れて気づいた畜男は、左腕を支えていたイスを逆さに掴み振り向きながらとりあえず身を守ることにした。完全に後手を取らされた畜男のできる最大限の臨戦態勢……とは言うものの反射的にそうなってしまっただけで、後からでも降伏できるなら畜男は床を舐めてでも降伏する所存である。
「お願いします殴らないでくださあアァァいっ!」
「ヒィィィ!」
振り向きざまに聞こえたのは聞き覚えのある女の声だったとか、イスを構えたら余計に相手を刺激するだとか色々頭を過ぎったが、とりあえず殴られないよう半ばぶん回しながら畜男は女との間にイスを構える。
畜男の懇願と女の悲鳴が大広間に響き渡った。
(……あれ? 悲鳴?)
鼓膜を震わせる女の叫声に畜男は冷静になって前を見た。
その場にへたり込み怯えに顔を伏せプルプルと身体を震わせるその姿。そして何より特徴的なエメラルドグリーンの髪。畜男は確信を持ちながら問いかけた。
「……山田先生?」
「うぅ……」
語彙力と表現力と何より文章構成能力が著しく欠如していると感じるこのごろ。
3000から4000文字に留めたいのに気づいたらそれ以上に毎回なってるし、エロい話を書いてみたかっただけなのにプロローグに謎のこだわりをみせてる。完全にバカ。