――起きてください
――えれな、起きてください
「……まどか?」
天宮えれなは、身体を軽く揺さぶられながら目を覚ました。
まず視界に入ってきたのは、観星中学校3年生してクラスメイトの香久矢まどかの顔だった。
普段は穏やかで優しい雰囲気を纏っている香久矢まどかだが、今は不安を隠しきれない様子だ。
えれなが周囲の様子を確認すると、現在地はララのロケットの内部だということが分かった。
なんでロケットの中で寝てたんだっけ、と疑問に思った天宮えれなだが、何故だか悪寒がして思考を打ち切った。
思い出してはいけない何かがあるような気がしたのだ。
とりあえず外に出ようと試みたが、出入り口は完全にロックされており、脱出不能だった。
『こんばんはー、えれなさん、まどかさん! 今日は二人のためのイマジネーションをフル回転させて特別企画を用意したんだ!』
「この声は……ひかる、ですよね」
ロケットの内部に備わったスピーカーからは、えれな達の良く知る声が聞こえてきた。
観星中学校の後輩にして、プリキュアチームの切り込み隊長的な存在である、星奈ひかるの声だ。
隣で放送を聞いている香久矢まどかは、天宮えれなと同じく困惑しているようだった。
ロケットに私達を閉じ込めて一体何をするつもりなんでしょうか、と。
『ルン! 今日のテーマは「えれながまどかを犯さないと出られない部屋」ルン!』
「ララ!? それは実践しちゃダメな地球文化だよ!?」
最初は純真な良い子だったのに、地球にきてから大分地球人の色に染まってきたと噂のララさん……。
地球で学校に通ううちに、同級生から色々と変なネタを仕込まれたのだろうか。
漠然と、えれなは嫌な予感を嗅ぎ取っていた。
相手がララ一人なら、同級生から教わったマイナーな地球文化の実践として3年生組コンビをロケットに閉じ込めるのも、まぁ分かる。(本当ルン?)
だがララと一緒に星奈ひかるが居るとなると、かなり雲行きが怪しい。
ひかるも大分ヘンなところはある子だが、良識に欠けた子では決してない。
さすがに3年生コンビを拉致監禁するのがダメだというのは判断として誤らないだろう、という程度の信頼はある。
「えれな……。この二人の声、本人のものだと思います?」
「うーん……。喋り方と声色は本人っぽいんだけど、言っている内容と状況は、ひかる達が用意したと考えるには違和感があるよね」
ちぐはぐだ。
ひかるの底抜けに明るい声と、ララの独特のサマーン訛りは、本人のものに思えるのだが。
何だか、ひかる達の言わないであろう内容を言っている気がするのだ。
3年生コンビをロケットに閉じ込めるのも、やりすぎだ。
『えれなさん達は覚えていないと思うけど、高次元生命体って呼ばれてる異星人が私達にとりついて、キラやばーな性犯罪を犯してるんだよ!』
『ロケットの中に映像を出すルン』
ロケットの中のモニターに、昨晩と一昨晩の日付の表示された映像が流れ始めた。
えれなは、冷たい汗が流れるのを感じた。
隣で映像を見ている香久矢まどかは、口に手をあてて青い顔をしている。
画面の中では、男性器を生やしている天宮えれなや香久矢まどかが、星奈ひかるやユニを犯していた。
映像の中のひかるは、抵抗を諦めて為すがままのようだ。
ユニはレイパー達を睨み返しているものの、両手が拘束されているために抵抗できない様子であった。
「う、嘘です! こんな映像、作り物です!」
「そうだよ! 大体、あたし達に「そんなモノ」生えてないよ!」
天宮えれなも香久矢まどかも、地球人の女性として生きてきた。
まさかチンポが生えているはずも無いし、そんなものが生えていたら修学旅行の時の風呂で大変な騒ぎになっているハズだ。
『確かめてないのに決めつけはナシ、だよ!』
『高次元生命体に取り憑かれると、昨日まで無かったツチノコがニョキニョキするルン。確かめてみた方が良いルン』
そう言われてみると、短パンの中に違和感があるような気が……?
まさか?
そんなバカな……?
「えれな……。ちょっと、そっちを向いていてもらって、良いでしょうか……?」
「うん。あたしも……」
えれなは、まどかとは反対方向へと身体を向けて、自身の短パンの中を手で調べた。
現実は非情である。
チンポがある。
えれなは、表情筋が凍り付くのを感じた。
笑えよ、ソレイユ。
そっと振り返ってみると、胸をなでおろしている香久矢まどかの姿が目に入った。
その様子から、まどかにはチンポは無いようだと理解できた。
まどかと、目が合った。
「えれなの方も大丈夫で……」
えれなへと問いかけてきた香久矢まどかの言葉が、変なところで途切れた。
まどかが、室内の反対側の壁まで一気に後退った。
一時的とはいえ表情筋が死んでいる天宮えれなの顔を見て、まどかは全てを察したのだろう。
「あ、あたし……」
「来ないでくださいっ!!」
全力の拒絶が、えれなの心を容赦なく抉った。
同年代に比べて大人びていると言われることはあっても、多感な中学生への精神的ダメージは重い。
「話を……」
「近寄らないでください! 私に乱暴する気でしょう! あの映像のように! あの映像のようにっ!!」
いやいや!?
さっきの映像では、まどかもレイプする側だったよね!?
むしろ、まどかが主犯格だったようにさえ見えたけど!?
……というツッコミが喉まで登ってきた天宮えれなだったが、ぐっと飲み込んだ。
ここで罵り合いを初めても、状況が悪くなるばかりだ。
この狭いロケットにたった二人だけで閉じ込められているのだから、むしろ協力関係を築く必要すらある。
両手で自分の頬を揉んで、表情筋をほぐしながら。
えれなは、焦っちゃダメだと自分自身に言い聞かせた。
『疑心暗鬼も楽しいけど、今回は先に前提条件を教えちゃうね!』
スピーカーから聞こえる、ひかるの明るい声が恐ろしい。
聞くのを拒否したいところだが、少しでも情報が欲しいのも事実だ。
ロケットの中に閉じ込められたままでは、さすがに困る。
『まどかさんは捻らずに本人だけど、えれなさんは自分を本人だと思い込んでいる高次元生命体だよ! ツチノコさえ隠せば哲学的ゾンビだね! キラやばーっ☆』
えれなは、ひかるの言葉の意味を理解しかねた。
いつも通りの明るい口調で言い放たれた邪悪な情報を前に、脳が理解を拒否してしまう。
だって、えれな自身の感覚としては、自分が偽物だなんて言われてもピンとこないのだ。
陽気な両親や5人の弟妹の顔だって思い出せるし、中学以前の友達のことも、プリキュアとして活動してきた日々も全部覚えているのに。
『これって、昨日のまどかの時のシチュエーションと被ってる気がするルン……』
『似たようなシチュエーションでも、少しずつ細部を変えると何度でも楽しめたりするよ!』
『ルン。それは分かる気がするルン。ひかるのオニギリは食べるたびに少しずつ味が違うから何回食べても飽きないルン』
『あっ、ララそれ気付いてたんだー? 嬉しいなー☆』
ひかるのオニギリは、具と塩の分量がテキトーなだけじゃないかな……?
スピーカーの向こうでイチャイチャしている二人のことは脇に置いておくとして。
えれなは、まどかの方を見た。
「……っ!」
警戒心全開な視線が返ってきた。
これは結構傷つく……。
えれなは、眉間を揉みほぐしながら考えた。
――今日のテーマは「えれながまどかを犯さないと出られない部屋」ルン!
一応、脱出の条件は既に提示されているのだ。
外のララたちが約束を反故にする危険はあるが、現状で脱出の手があるとすれば、この一択だ。
なお、残念ながら変身用のカラーペンが全て没収されてしまっているので、腕力による解決は無理である。
何か別の脱出条件は無いだろうか。
「ロケットのAIさん! 外に出してもらうわけにはいかない?」
『ララ様の権限で 扉が ロックされています。えれな様の命令では ロックを 解除出来ません』
ロケットの人工知能に問いかけてみたが、ダメだった。
AIさん、その人たぶんララ本人じゃないと思うんだけど……。
ツッコミどころはあるが、何となくロケットのAIはララが偽物だと理解しているような気がした。
使っている表現が「ララ様の命令で」ではなく「ララ様の権限で」だったあたりに、ロケットのAIのささやかな抵抗を感じる……。
そのうえで、高次元生命体の要求に従っておくのが、ララが無事に解放される可能性が一番高いという判断を行っているのだろう。
「どうしたら……!」
ひかるとララは、完全に乗っ取られて敵に回ってしまっている。
まどかからも、完全に敵だと思われてしまっている。
フワやプルンスは無事なのか。
「……そういえば、ユニは?」
さっきの映像から察するに高次元生命体は最低4体いるはずなので、ユニも憑かれてしまっているだろう。
そこまでは確定事項で良さそうだが、先程からスピーカーの向こうに居るのはララとひかるに2名だけのようだ。
一体ユニはどうしているのだろう?
えれなは一応疑問に思ったことを口にしてみた。
『えれなさん、いいトコロに気づいたね! 実はユニは今、えれなさんに化けて天宮家にオジャマしてるよ! 突撃となりの晩御飯っ!』
やっぱりユニも支配されているのか。
そして、レインボー星人の変化能力を使っている時点で嫌な予感しかしない。
ロケットの中のモニターに、1時間のカウントダウンを意味する数字が表示され、動き始めた。
一緒に表示された現在時刻を見ると、今は17時らしい。
『巻き巻き進行! あと1時間で脱出の条件を満たさないと、天宮家で育まれた愛情とお肉がたっぷり詰まった親子丼が今日の晩御飯になるよ! キラやばーっ☆』
『おやこどんルン……?』
ひかるの底抜けに明るい口調で言われた内容を3年生コンビは理解できなかった。
10秒ほど経って、まどかが青ざめたまま身を震わせた。
その後になって、ようやく天宮えれなは、ひかるの言葉の意味を理解できた。
「まって! 家族にはっ、家族にだけは手を出さないでっ!!」
『ひかる? えれなは何で慌ててるルン??』
『うーん、早く帰って親子丼が食べたいんじゃないかなー? 想像力によっては、別の意味に聞こえるのかも? 描こうっ、自分だけのイマジネーションっ☆』
たぶん、全ての創作界隈の中で一番邪悪な星奈ひかるがここに居る……。
声の調子が普段通りなのが、逆に3年生コンビの恐怖を煽ってくる。
……脱出条件といえば。
既に提示されてはいる。
香久矢まどかを、えれなのチンポで犯せば良いのだ。
今のえれなには、それが出来る。
まどかのことを傷つけてしまうのは間違いないが、家族の身には代えられない。
そうだ、これは仕方がないことなんだ。
えれなは、今一度まどかを見た。
「ひっ……!?」
えれなと目が合ったまどかは、震えあがった。
自分は酷く醜い顔をしているんだろうな、と天宮えれなは思った。
ゆっくりと、えれなは獲物を壁際に追い詰めた。
『ちょっと情報を補足しておくルン。そのツチノコさんは生殖機能は無いルン』
犯しても妊娠しないのか。
えれなは、免罪符を1枚だけ貰ったような気がした。
それを免罪符だと認識してしまっている自分自身が、情けなく思えて嫌になる。
『あと、高次元生命体が身体から抜けた時点で、憑依されていた時の記憶はロックされるルン。だから後腐れなく犯れるルン』
それは……つまり、本人ではない現在の天宮えれなが犯した罪は、えれなの記憶に残らないということか。
高次元生命体から開放された翌朝、普段の状態に戻った天宮えれなは、香久矢まどかをレイプした罪を全く覚えていない。
そして、いつも通りの友達ヅラをして、香久矢まどかに向って満面の笑顔で「チャオ!」と言うのだ。
まどかの方は本人だから、全てを覚えているというのに。
……おぞましくて、吐き気がした。
虫唾が走るなんて生易しいものではなかった。
身の毛もよだつ程に恐ろしい罪を犯そうとしている、と思った。
目から溢れそうになる涙を、必死に堪えた。
本当に泣きたいのは、これからレイプされる香久矢まどかの方だろうに。
ただただ、自分が醜くて、ちっぽけで、罪深い生き物に思えた。
こうなったら……!
『これも先に言っちゃうけど、「自分はどうなっても良いから家族とまどかは助けて!」は不正解だからね! それ言ったらタイマーを30分進めちゃうよー?』
『確かにそれ、えれなは言いそうルン。というか、さっきの親子丼ってやっぱり何かの脅迫だったルン??』
「……っ!!」
しかも、浅はかな最後の悪あがきまで完全に見抜かれている。
どうしたら良い?
えれなは、まどかの両肩を掴んで、正面から向き合った。
まどかは掴まれた瞬間に身体を震わせたが、悲鳴をこらえて、抵抗もしなかった。
途轍もない恐怖を感じているに決まっているが、ここで抵抗したら天宮家の面々が犠牲になるので抵抗できないのだろう。
「まどか、聞いて」
えれなは、必死に声を絞り出した。
自分が選んだことを、まどかに伝えるために。
「あたしを、まどかは信じてくれなくたっていい。あたしだって、今の自分自身を信じられないよ」
偽物だって言われちゃったし。
ツチノコも生えてるし。
まどかを、こんなにも怖がらせているし。
「でも! 他の全てが信じられなくても、まどかだけは信じてみせる! だから……まどかが、決めて欲しいんだ」
まどかの両肩を掴んで、正面から視線を合わせながら。
えれなは、自身が最善だと思う道を選択した。
「今のこの状況なら、まともに判断ができるのは、まどかしか居ないんだ。その結果として何を失うことになっても、あたしは……まどかの決断を信じるよ」
「えれな……!」
えれなは、自分の手が震えているのに気づいた。
怖いに決まっている。
家族を全員失うことになるかもしれない。
高次元生命体に憑依されていると言われている自分自身ですら、どうなるか分からない。
次の瞬間には、天宮えれなは獣のように香久矢まどかを犯しているかもしれない。
「10分……いいえ、5分だけ、時間をください」
香久矢まどかの肩を掴んだままの天宮えれなは、気付いた。
まどかの身体から、恐怖に由来する強張りが抜けたのを。
えれなに怯えていた瞳には、いつの間にか強い意志の光が宿っていた。
『えれなさん、大胆ーっ! なんだかドキドキしてきちゃった!』
『ルン? ひかる、ああいうのが良いルン?』
『ララっ! 他の全てが信じられなくても、その結果として何を失うことになっても、ララだけは信じてみせるっ!』(抱きっ!)
『………………これは意外と良い気分ルン♡』
もうアイツら2人でイチャついてた方が需要あるんじゃないかな。
そんな突っ込みを飲み込みつつ、えれなは最後の審判を待った。
瞑目して思考の渦に心を沈めている香久矢まどかに、全ての命運を託すと決めたのだ。
――1分。
――2分。
――3分。
香久矢まどかが、ゆっくりと目を見開いた。
その顔には、いつも通りの穏やかで余裕のある微笑が戻っていた。
宣言した時間より大分早いようだが、判断はどうなったのだろうか。
「安心してください、えれな。すでに……私達は、勝利していますから」
「……!」
プリキュアチームとして活動していた時にも、まどかの知恵と機転に救われたことはあった。
そして、今回もそうなる。
えれなは、そう思い始めていた。
勝利の女神がほほ笑んだように思えた。
「ひかる! えれなは先程、私を信じると言いました! これこそ、ひかるの求める「正解」でしょう! ならば、これをもって私達は勝利条件を満たしているはずです! 扉を開けてください!」
『……オヨ??』
「……??」
『えーっと、一応、なんでその結論になったのか聞きたいかなー?』
ララとえれなは、その「正解」の意味を理解しかねた。
ひかるの対応は……まどかの回答が正解か不正解か、どちらとも明言しないものだった。
まどかは、解説を始めた。
――これも先に言っちゃうけど、「自分はどうなっても良いから家族とまどかは助けて!」は不正解だからね!
不正解があるということは、ひかるが想定している「正解」も必ずあるはずだ。
その正解が天宮えれなによるレイプだというのがストレートな見方だが、そうでないとしたら?
――えれなさん、まどかさん! 今日は二人のためのイマジネーションをフル回転させて特別企画を用意したんだ!
用意されたのは、ロケットという閉鎖空間。
わざと疑心暗鬼を煽るような前提条件。
諍いを起こす被験者たちを外部からモニタリングする構図。
さらには、互いの利害を一致させないような露骨な仲間割れの誘導。
「高次元生命体が、宇宙や星座に精通している『ひかる』の人格と記憶を使って『特別企画』を考えたと仮定したとき、一つのキーワードが導き出されました。それは……『グリーンカード』です」
「グリーンカードって、サッカーのフェアプレイに関するカードのこと……では無いよね、たぶん」
天宮えれなは、家族と一緒にテレビでサッカーの試合を観戦した時に、グリーンカードと呼ばれるカードの存在を見たことがあった。
だが、宇宙に関連するとなれば、おそらく名前だけが同じの別物なのだろう。
「ここで言うグリーンカードは、宇宙飛行士の試験に使われる舞台装置の一つです。わざと仲間割れを誘発する指示を出して、宇宙飛行士の適正を検査する仕組みです。そうですよね、ひかる」
『流石まどかさん。グリーンカードまでバッチリ知ってたんだ……』
天宮えれなは、そんなものは素で知らなかったわけだが……。
まぁララも知らなかったようなので、知らない人は知らないのだろう。
「そして、グリーンカードの攻略法は……最後まで仲間を信じること。つまり、えれなは既に「正解」を口にしていたんです」
まどかが、穏やかな笑顔をえれなへ向けてくれた。
いつもより少しだけ喜色の強い、信頼に満ちた顔だった。
『ララ、扉を開けて』
『ルン? よく分からないけど分かったルン』
ぷしゅっ、と。
部屋の扉が開く音が聞こえた。
外界の光が入り込むと同時に、扉の外から二人の人間が入ってきた。
ひかるとララの身体を使っている高次元生命体である。
えれなが思っていたよりも遥かに近くで、2年生組はモニタリングを行っていたらしい。
「おめでとう、まどかさん、えれなさん! キラやばーっなミッションだったよ!」
「ふふ。えれなのお蔭です」
「オヨヨ……。何が何だか分からないルン……」
「あたしも、正直まだ混乱してる……」
レイプしないと出られない部屋とは一体なんだったのか。
ひかるの満面の笑顔を見ていたら……何だか、どうでも良い気がしてきた。
いや、中身は高次元生命体なんだっけ? やっぱり、どうでも良くはないよね??
「まどかさん。もしかしてだけど……最後のヒントって、わざとらし過ぎた?」
「……一応ヒントだという可能性は疑っていましたけれど、8割方天然だろうと思っていましたよ?」
「最後のヒントってどれのことルン?」
「ひかるが言ってた「ララだけは信じる!」ってヤツじゃないかな。たぶんだけど」
――ララっ! 他の全てが信じられなくても、その結果として何を失うことになっても、ララだけは信じてみせるっ!
そういえば、あたしが「まどかを信じる」って言ったとき、ひかるは露骨に反応してたっけ?
アレってヒントだったのか。
ひかるなら素でアレぐらい言いそうだと思ったんだけどな……。
「ひかる……? あれは私のために言ったんじゃないルン? ちゃんとこっちを向いて話すルン……!」(バチバチ)
「信じてる! 信じてるから、ね? ビリビリはダメあばばばばばっ!!?」
仲良く痴話喧嘩をしている2年生コンビを見ていたら、何だか本当に助かったんだなという実感が湧いてきて。
えれなは、急に両脚から力がぬけて、座り込みそうになった。
もっとも、地面に腰を付ける前に、まどかが支えてくれたが。
「……ありがとう。あたし、まどかに支えてもらってばっかりだ。でも、お蔭で助かったよ」
「私の方こそ……何も信じられなくて、怖くて堪らなかったんですよ? それでも、私を信じるって言いきってくれて……本当に、嬉しかったです」
少しだけ恥ずかしそうに目を伏せながら。
まどかも、えれなを必要としてくれると言ってくれた。
それが、とても嬉しく思えた。
「そこでなんですけれど。高次元生命体の皆さんは、この後どうなさるんですか?」
「ルン。当初の予定では、私達5人組の身体を高次元生命体4人で使い回して、残りの本人を1人ずつ襲う予定だったルン」
まだ少しだけ頬を膨らましながら、ララが答えてくれた。
ララの背後では、黒コゲになった星奈ひかるが倒れていた。
まぁ日常パートだからすぐに復活するだろうけど。5分でなぁ!!
「一昨日はひかるが襲われて、昨日は私だったわね。そして今日はまどかが襲われるはずだったニャン」
「…………あれ? ユニ、居たの?」
猫耳娘が現れた。
いつから居たんだろう。
天宮家の夕飯にオジャマしていたはずなのだが、食べ終わって戻ってきたのだろうか。
猫娘というより、ぬらりひょんのムーヴである。
「まぁ予定はあくまで予定ルン。4人とも、昨日までに殆ど性欲は解消済みルン」
「そういえば、あたしも生えてるけど、言うほど性欲は感じなかったかも……」
えれなは、閉じ込められたロケットの中でチンポの存在を確認したが。
よく思い出してみると、一度も勃っていない気がする。
まどかに対しても、罪悪感は持ったが性的興奮は殆どしていなかったはずだ。
「えへへ。まどかさんの推理も殆ど全部正解だったし、サービスでちょっと予定変更して早めに地球からオサラバするのもアリかなーって思ってるよ」
ひかるが復活した模様。
まぁ和解したように見えても高次元生命体が迷惑な性犯罪集団なのは事実な訳で。
早く地球から出て行ってもらう分には有難い。
……あれ? 殆ど全部正解ってことは、まどかの推理で少し外れていた部分があったってこと?
案の定、まどかが答え合わせを始めたようだった。
「……外れていた部分は、どこでしょうか?」
「今日の特別企画を、高次元生命体が私の人格と記憶を使って思いついた、ってところだよ!」
え……?
そこって推理の大前提じゃなかった?
その大前提が違ったら、正答なんて絶対に出来ないと思うけど……?
「実はね。グリーンカードっぽいことを何か出来ないかっていうのは、初日にララ達に襲われてる時に、私本人が考えてたことなんだ」
初日というと、ララがひかるを犯そうとして返り討ちにあった日だ。
ということは、その日には高次元生命体は星奈ひかるには憑いていなかった訳で。
正真正銘、星奈ひかるが原型を思いついた企画だったのだろう。
「もちろん私本人の良識が歯止めになって、実行に移すつもりは無かったんだよ? でもその後に人格を乗っ取られちゃってから、良心のタガが外れて実行しちゃったってワケでして……。ごめんなさい!」
「ひかるってヘンな子だと薄々思ってたけど、実は高次元生命体よりヤバい奴かもしれないニャン……」
「さすがにそれは性犯罪者集団の方が迷惑ですよ?」
まどかの微笑が少し怖く感じた……。
まぁ言ってることは正論だけどさ。
なんか和解したみたいな雰囲気になってるけど、高次元生命体たちが性犯罪者だっていうのは忘れちゃダメだよね。
「そこは、ホラ! 「私達がそういうグリーンカードを配られてたんだ」って思って、大らかに許してくれると嬉しいなー?」
なるほど?
確かに、仲間を信じることが大切だっていうのは身をもって知ったわけだし。
そういうふうに考えて恨みを忘れることも、大切なのかも……。
「なにを流されそうになっているんですか、えれな? グリーンカードを貰った人を恨むのと、配った人を恨むのは、全く別のことですよ?」
「……え? ああ、そう言われれば、そうだよね。あはは……」
「うーん……やっぱり、まどかさんを丸め込むのは無理かぁ……」
……危ない危ない。
グリーンカードで言うなら、憑依された肉体側の人間に罪は無いっていうのが正しい論理展開だよね。
憑依して命令している側の罪については、全く検討されていないじゃないか!
「まどかはマジメ過ぎるニャン」
「あんな口八丁で誤魔化される、えれなが御人好し過ぎるだけです」
「なんか、仲間の顔で言われるとね。そうかもって思っちゃうんだよね……」
そういうところが、御人好し過ぎるって言われるところなのかな……。
まぁ、あたしが騙されそうになったら、まどかが助けてくれそうだから良いかな。
そんなこんなで。
プリキュアチームの面々は、割と穏便に高次元生命体の皆さんを宇宙に送り返すことが出来たのであった……。
天宮えれなは薄暗いロケットの中で目を覚ました。
「ごきげんよう、えれな」
「……チャオ? あたし、いつの間にか眠っちゃってたのか……」
なんだか、最近何日かの記憶がぼんやりしている気がする。
土曜日の昼間からプリキュアチームの面々と駄弁っていたような気がするのだが、何だかあまり内容が思い出せなかった。
周囲を見回すと、3年生コンビ以外の3人は椅子やらソファーやらに身体を預けて寝入っているようだった。
時計を確認すると、現在の時刻は日曜日の午前5時前。日の出まではもう少し時間がある。
「えれなは……眠ってしまう前に私に言ってくれたことを、覚えていますか?」
眠ってしまう前に?
何か大事な用事を話しただろうか?
えれなは、心当たりが無かった。
「ごめん、全然覚えてないや。……何を言ったんだっけ?」
「……いいえ、良いんです。私だけは一生、忘れませんから」
胸元に手を当てて、微笑を携えながら。
香久矢まどかは、それ以上追及させなかった。
首を捻っても、えれなは何も思い出せなかったが……まどかが追及してほしく無さそうだったので、それ以上は聞かなかった。
ただ、何となく、
まどかが嬉しそうにしているのが、えれなも嬉しく思えたのだった……。
夜が、明けた。
まぁ悪く言うと他人任せなんですが、邪悪な異星人に憑依された乗組員が現場の最終判断を下しちゃいけないっていうのは正しいと思うんです。
自分が乗っている宇宙船の船長が、エボルトに憑依された石動惣一だったら……みなさん、そんなのイヤですよね?
チャオ!