エロはまだ、ありません。
かき、たい·····エロを、かきたい·····。
第1話 "私"として初めての·····。
4月某日。
両親の神がかった手際により、僕は高校の入学式を無事に迎える事が出来た。入学式まで数日も無かったというのに、何事もなくスムーズに。引越しまでする余裕があった。
まぁ、そこは突っ込まないでおくとして。
僕が入学したのは『
それにしても、女子の制服や下着というのは面倒な事が多い。女体化してしまってから慣れる為、この入学式までに何度か女性物の服を着たとはいえ、着るのにそれなりの時間が掛かってしまう。
しかし、問題はそこでなく、他にある。
スカート穿き慣れない事もあり、股がすーすーする。
今まで着けた事など無かった女性用下着への違和感。
この2点だ。
その内慣れていくとは思うものの、今はまだ感覚的に女装をしている気分になって何処か落ち着かない。そんな時は鏡を見たりして女体の再認識をする。けれど、人前に出ると元男という後ろめたさが体を力ませてしまう事でその事を忘れさせてしまうという矛盾。
僕自身の不要な認識によって、この学園生活は色々と苦労しそうだ。
*
新しい環境。とそれ以外にも別の緊張で入学式はあっという間に終わってしまった様に感じる。学院長や、生徒会長の話などもってのほかで、殆ど記憶にない。
周りを見ても本当に女の子しかいない。それは女子高だから当然だとは思うけれど、同じなのは外見だけで中身の違う僕からすれば謎の圧迫感が華奢な両肩にのしかかる錯覚すら覚える。
こうして1度不安が過ぎるとそこからはもう止まらない。
男の時の癖が出てしまったり、ボロが出て怪しく思われないかとか、極めつけには無いとは頭で分かっていても素性がバレてしまわないか、そんな不安で心臓も締め付けられたみたいに痛い。
そもそも、あんな風に決意したとはいえ本当に女の子同士で恋を出来るかさえ分からない。こうした自分の自分への認識がそれをより高い壁で覆っている自覚もあるのにどうにもならない。
しかし、その不安を解決出来るような案を考える時間は与えては貰えない様で、入学式も終わり、戻った教室では恒例の自己紹介が始まり、まずは担任の先生かららしい。
「担任の
僕からすれば、いきなりぶっ飛んだ自己紹介を投げた様に思えたが、話を終えた途端、周りが声を上げる。女子達からすれば好印象だったのか、何故か空気が一気に和み始めた。
分からない。女子が、分からない。
それから思ったよりもすらすらと自己紹介は進み、早くも一つ前の生徒に。
「えーと、私は
と、そこまで聞いた所でまたしても緊張してきてしまったのか話が全く聞こえてこない。次は自分の番で、なんて言おう。どんな話し方にしよう。この容姿で変に見えない自己紹介はなんだろう。と、自分の番がすぐそこまで迫る中、猫を被る方法を考えていた。
いっその事、ボクっ娘やボーイッシュな感じを出してみようか?
でもこの、容姿で·····それを?
頭の中でグルグルと考えを回している内についに僕の番が来た。
体がカチコチに強ばったまま席を立ち、ぎゅっと手で拳を作り、小さく口を開く。
「わ、わたし·····は·····」
緊張のあまり声が上手く出せない。それが余計に周りの目を引き、緊張した自分に拍車を掛ける。まさに悪循環。
この空間が耐えきれず、諦めてそのまま座ってしまおうか。と、そう考えた時──僕より前に自己紹介していた女の子、笹木美空が何か文字が書かれた紙切れをそっと置いた。
ゆっくりと視線を下げ、紙切れを読んでみると。
──深呼吸してみて。
綺麗な文字で書かれたそれを見た僕は、大きくゆっくりと息を吸い込み、そのまま緊張を吐き出すイメージで息を吐いていく。
「すー、はー·····すー、はー·····。私は、
深呼吸出来たことによりいくらか緊張がマシになった事で、ようやくちゃんと自己紹介する事が出来た。完璧な当たり障りのない自己紹介だったと思う。目の前の笹木さんもにっ、と笑ってくれた事でつられて笑みが零れてしまう。
すると、周囲からは──。
「かわいい!!! 今の見た!?」
「見た! 凄い、なんていうか、天使だった!」
「守りたい、あの笑顔」
と、口々に褒め始めた。きっと、笹木さんの今の笑顔に違いない。
僕も、男であったなら2秒で惚れているんだから。
「はいはい! まだ合法じゃないから落ち着いてー! それに、自己紹介も終わってないし、時間も無いから次ね!」
僕の自己紹介を境に騒がしくなり始めた教室内を先生がこうして鎮め、自己紹介はすぐさま次の人へと移っていった。
これは女体化以前の話だけれど、自分の番が終わった時の安心感、解放感は言葉では言い表せないものではないだろうか。もう、今の僕には他の人の自己紹介を聞くライフは残っておらず、そのまま意識がうっかりと落ちてしまった。
薄らとした意識の中、元気が有り余ると言った感じの女の子の声が聞こえた。覚醒していないからか、何処の声で、誰の声か、あまり分からなかった。
でも、最後だけはハッキリと聞きとれた。
「──触るのが好きでー! でも、女の子は眺めるのが1番好き!!」
周りからはおっさんみたい、とか。オタクみたい、とか。場を掴むネタの様に言われていたけど、なんの根拠もないけど、僕にとってはその言葉が本気だと受け取る事が出来た。
勘違いかもしれないけど、それでも、本気だって感じたから。
僕も──僕の願いを叶える為に頑張ってみようと思った。
*
ゆさ、ゆさ。ゆさゆさ。ゆさゆさゆさ。
誰かが僕を揺さぶり、それと共に優しげな声が耳には入ってくる。
これは──笹木さんだ。
「──きて、起きて、楓ちゃん」
「ん、んん·····?」
「楓ちゃん、もう自己紹介終わってホームルームも終わったよ」
「あ、え·····ぼ·····私、寝ちゃって、た?」
起こしてくれた笹木さんの顔を見つめ、自分がやってしまった行為に頬を染めながら顔を両手で顔を隠し、感謝の後、恐る恐る問いかける。
「あ、ありがとう。でも、私、変な顔してなかった·····?」
「バッチリ可愛い寝顔だったけど、私以外は見てないから大丈夫だ思うよ。安心してっ」
「うっ·····やってしまった·····」
初対面の相手に寝顔を見られるなんて赤くなっているであろう耳から火が出そうなくらい恥ずかしい。穴があったら入りたい。寧ろ、土に埋めてもらっても文句は言わない。
でも、緊張や、その鎖から解かれた解放感で考えられなかったけど、そもそも学校だということを完全に忘れ去って寝てしまっていた。
これは僕の悪い癖だ。気が緩むとこうして醜態を晒してしまう。
それを見かねた笹木さんは僕の肩に手を置いて優しく話してくれる。
「まぁ、そういうこともあるよ。とりあえず帰ろっか? 楓ちゃん」
「うん、帰る」
「道一緒だし、一緒にね?」
「そうなの?」
「うん、朝ね·····登校する時、楓ちゃんの事見かけたんだよね。だから、多分家近いよ。近い所の話じゃないかもだけど·····」
という事は今朝から既にガチガチに固まったまま登校する所を見られたのか。なんだかもう、この子には変に気を張っても仕方ないかもしれない。
下校中、笹木さんとはすぐに打ち解ける事が出来たようで。
僕から話を振る事も何とか出来る事が出来た。
「それで、笹木さんはどうしてこの学校に?」
「美空でいいよ。私は、家が近かったからだよ。楓ちゃんは?」
「じゃあ、私の事も楓って、呼び捨てで構わないよ。····私は、引っ越す事になってたから、ここになった。かな」
目的とは違うけれど、こういうやり取りあんまりしてこなかったからか少し嬉しく思う。なんだか友達になれたって感じで、胸が高鳴る。
そして、話している内に家に着き、少しの驚きが僕を待っていた。
「なるほど、ここが楓の家かぁ。んーと、私の家はね、この隣だよ」
「隣·····? という事は、家を出た時点で?」
「そっ。そゆこと。だからちょっと楓とはこうなるんじゃないかって思ってたんだ」
どうやら初めから僕を知っていたらしい。それはそれで恥ずかしいけど。
でも、そうと分かれば親近感が湧いて自然と笑みが零れる。
「なるほど、そうだったんだ·····じゃあ、改めてよろしくお願いします!」
「うん、こちらこそっ。あんまり堅くなんないでね? 気楽で良いからっ。そんじゃ、また明日ねっ」
手を振り、美空を見送った僕は家の中に入り、幸先の良いスタートが出来たことに安堵し、その拍子に言葉が漏れる。
「明日からも、頑張れそう」
その姿はさっきまで緊張していたとは思えない程に単純だった。
読んでくださってありがとうございます。
そして、お気に入りや感想もありがとうございます!
分かりやすくやる気を出してみました。主人公以上に単純です。はい。
次の投稿は未定ですが、早めに書きたいと思います。
次の話数であいましょう。
P5R、イザナギノオオカミめちゃつおい。