お楽しみください。可愛い(意味深)主人公が見られます。
「美空? ちょっと、顔が、近いよ?」
目を覚ました僕の目の前には、美空が居て、鼻先に触れるまであと数ミリと言った所まで近付けてくる。
美空は可愛いと言うよりも綺麗と言う言葉が似合う顔立ちをしていて、僕では説明しがたい真剣な表情に少し色っぽさを感じてしまう。
元は男だからとか、きっと関係ない。その上で初心な僕は頬を赤く染めながら彼女の両肩を手で押した。
「……とだよ」
「え?」
少し残念そうにしつつも素直に離れた美空からは何か聞こえた気がしたが、あまりにも小さすぎて聞こえなかった。
まず、どうしてこんな事になっているかと言えば8時間ほど遡る事になる。
*
──入学式から数日経った日。
そして、現在時刻から8時間ほど前の事。
今日から普通に授業も始まり、周りの子達ともそれなりに話せるようになって苦手な数学も真面目に受けていた。普段の僕ならば内容がそこまで頭に入ってこなくてもノートを取るためにそこそこの集中力で話を聞いていたが、今回はどうも落ち着けなかった。
しっかり寝たはずなのに朝から既に眠いし、妙に神経質になっているし、お腹の調子は良くないし。バッドコンデションと言っても良いくらいに体がおかしい。
休憩中、そんな僕を朝からずっと見ていた美空は心配してか額に手を伸ばしてきた。
「んー、熱は微妙かな」
「……ちょっと、だるいけど。美空には関係ないから」
そう、熱は無い。でも、体調が優れない事実を自覚した事で余計にしんどくなったように感じ、美空は別に何も悪くないのにこの時の僕に言葉を選ぶ余裕も無かったのか、少し冷たい態度を取ってしまった。
にも関わらず、美空は優しく話しかけてくれる。
「うーん……楓。今日さ、早退して帰ろっか」
「ホントに大丈夫だから……気にしないで」
「無理矢理か、大人しく帰るかどっちがいい?」
「それは……後者で、お願いしたいです」
その向けられた笑みも言葉も優しくなかった。が、彼女なりに僕を気遣っての事だとは伝わる。ここまで心配をかけておいて、ここまで言わせて無理に居続けるのもこれからの美空との仲に関わると思い、根負けして帰ることにした。
──が、そこでまたひと騒動。
「天使ちゃん帰っちゃうかぁ、残念」
「笹木さん、皆の天使ちゃんに何かしちゃダメだかんね」
「分かってるよ。だから、明日ノート見せてね」
クラスでは僕が帰るという事で何かの催し物かのように騒々しく、美空は美空で他生徒のからかいにもサラッと返しつつ、動くのも気怠い僕の分まで荷物をまとめてくれる。
ニュアンスで分かってしまうかもしれないけど、天使ちゃんとは僕の事らしい。でも、今の僕にはそれを否定する余裕も何か返す余裕も既にない。
悪気はないのかもしれないが、この騒がしい空間に長居するのは少し辛い。そして、それを理解してくれるのが美空で、帰る準備が整うとすぐに二人分の荷物を持ち、僕の手を引いて職員室まで行く。こっちの歩幅や速度にまで気遣いながら。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「ん、辛いだろうけど、先生に話してくるからちょっとだけ待ってて」
そう言って、美空が足早に職員室の中へと入っていくと僕に出来た少しの1人の時間。その時間であまりまとまらない思考で、自分の体の事、これからの事、それと出会って数日にも関わらずここまで助けてくれる美空の事を考えていた。
この一週間の疲れが今になって現れたのか、急激な身体の変化に耐えきれなかった為か、それとも本格的に女性へと変わった証拠のあの日が近付いているのか。今の僕には何もわからない。
分かるのは美空の優しさだけ。
いつか、仲良くしていけば僕の事を話さなくてはいけないのだろうか。
真実を話した時、美空は今のように接してくれるだろうか。
と、いつもの悪い癖が出たところでちょうど美空が戻ってきた。
「どうしたの? ちょっと暗いよ? ……しんどい?」
「……んーん、静かな所に居たからちょっとだけマシ」
ネガティブな思考が顔にまで出ていたのか、鋭い美空は心配そうに顔を覗き込んでくる。が、僕はその言葉を首を横に振って否定した。
それを聞いた美空はとても不服そうだが、問い詰めても仕方ないと思ってか再び僕の手を引きながら言う。
「……そっか、とりあえず許可は貰えたからさっさと帰っちゃおう」
*
あの言葉の後、職員室を後にした直後からはほとんど覚えていない。
薄らと覚えているのは、美空が僕を自分の部屋まで送ってくれた事。
それから、服も着替えさせてくれたんだと思う。でも、そこからの記憶は一切ない。
だから、どうして今現在美空に半ば迫られているような状況になっているのか、どう事態を整理してみても分からな──っ。
「楓さ、生理前でしょ……ちょっとムラムラしてたり、しないかな?」
すんなり引いたかに思えた美空は僕の両手を拘束し、押し倒しながらこっちの目を獲物でも見るようにしっかりと見つめ、少しだけ細めながら問いかけてくる。いつもの柔らかい話し方じゃない、僕を何か別の存在として捉えた話し方。
それが少し怖かった。
「……っ」
だからか、声も出ない。
たかが同じ年齢の女の子相手に、僕は今──恐怖している。
普段の美空とは違い、ドロドロの深い部分見せられているようで、それでいて美空が美空じゃなく知らない誰かの様に感じてしまって怖くなってしまった。
平均的な体格の美空に比べ、少し華奢な自分では力も及ばないどころか今は体にまだ気怠さも残っていて、足にすら力が入らない。
そんな時に僕は唇を、柔らかな美空の唇で塞がれてしまう。
「ん……っ」
「んんっ……っ」
"私"としては初めてのキス。
本当の初めてでは無いにしろ、こんな奪われ方はしたくなかった。
でも、美空は辞めてくれないどころか、舌を入れてきた。
「ふっ……んぁ……」
けれど、ここまでは強引だったのに対し、絡む舌は何処か優しく、いつもの美空がその舌使いに垣間見える。
いつの間にか離された腕は彼女の肩に触れ、只々されるがままに舌を絡め続けられる事で僕が発していいのか分からない声が漏れてしまう。
「んん、ふっ……ぅ……み、そ……んんっ……」
名前さえも呼ばせてもらえないくらいに絡められ続け、息は限界が近づいて肩をとんとんと叩く事でそれを知らせた。
すると、呆気なく、けれども途中まで繋がった銀糸を惜しそうに眺めながら美空は離れていく。
「はぁっ……はぁっ……どうして、こんな事を……?」
キスによって乱された呼吸を整えつつ、美空に尋ねると意外にもあっさりと言葉を返してくれた。
「ごめん、ここまで無理矢理する必要は無かったんだけど。楓、可愛かったから。じゃなくて……入学式の日から毎日、誰かにつけられてるよ」
「え? ……つけられてるって、何を? 誰が……?」
茶化す以前に話が分からない。さっきのキスの熱がまだ冷めていない事もあって思考もややまとまらないからこそ、聞かれた事を返すだけしかほとんど出来なかった。
それを見て、僕の頭を撫でながら美空は言う。
「私じゃなくて、楓が……誰かにストーカーされてるって事。今日美空が体調悪くなってくれて不幸中の幸いって感じ。向こうもそろそろ動きそうだったし」
何を言っているんだろう。僕がストーカーにされている?
僕を襲う為の口実でも言っている様にしか聞こえないが、それにしては順序が逆。でも、何故それをわかっているのかも疑わしい。
と、今の僕の考えている事が筒抜けなのか服のリボンを解き、ボタンを外されていく。
「疑ってもいいけど、とりあえずキスマークだけは付けさせてね……炙り出す鍵になるから……んっ……ふーん、着痩せするタイプなんだ」
「え? ……あっ、まっ……っ、んぁ……何個、つけ……ゃ、め……っ」
入学数日でストーカー被害に遭いながら真実かもわからない事の為に友達になった相手に唇を奪われ、体に何個も赤い痕を付けられ裸も殆ど見られてしまった。
その後、役目は終わったとばかりに何処か私欲も入っていそうな満足気な美空の笑みを見て僕はこう思う。
──もう、お嫁にいけないかもしれない。
あまりにも、0話と1話でR18感が無いなって思ったので、個人的にエロが足りないって思ったのでこの展開にしました。
後悔はしてません。
次回も今回の続きが少しあります。
楓も不安よな……。
笹木、動きます。
では、次の後書きで会いましょう。