無知で鈍感な天使と狡猾な狼さんのお話。
過保護な女神は一体どこへやら。
このクラスは主に、3人の生徒が主軸となっているらしい。と、他人事のように言っているがこの僕もその3人の中に入っている。
その理由はこうだ。僕の容姿、雰囲気、仕草が良い感じに守ってあげたくなる、との事。確かに顔の幼さに加え、黒く腰まである長い髪がそれを拍車を掛けている、そんなに妹っぽく見えるのかな。
まぁ、そこはどうでもいいや。
とりあえず、一例を上げておくとこんな感じになる。
case1──。
「あ、くしゃみ……でそうかも」
と言うと、近くの席の者はこちらを向く。
はい、まずおかしい事が1点。
「っ……ぁ、……っくしゅ」
鼻を押え、変な表情を見られない様にして、僕はこうしてただくしゃみをするだけ。だがしかし、この時の周囲の反応はこうだ。
「控えめなくしゃみっていうのが天使の名に相応しいよね」
「尊み秀吉」
「寧ろずっとくしゃみしてて欲しい」
1つ目2つ目はまだ良いよ。いや、3つ目。
……地獄じゃん。息出来ないよ。何の性癖?
もしかして僕が歪ませたりしたの?
と、内心ツッコミは絶えないものの僕の場合は大体が和む事が多い。
……でも、2人目と3人目はそうは行かない。
笹木美空と夜見桃だ。
美空に関しては、面倒見も良く、クラスでは頼られたり相談事を受ける事も多い為、うちのクラスの中心に必然的になっていく。
夜見さんに関してもそうだ。申し訳のないことに自己紹介の時は寝てしまっていたけれど、クラスどころか校内で一番人気が高いらしい人だ。顔と名前、あとは声がが一致しない為、僕にはどの人か分からないが人懐っこい性格で、ポジティブの塊みたいな人物だと美空が言っていたと思う。
美空曰く、人たらしなのだそう。
故にこの3人から見るに言えるのは、発言力が強いというより、皆もが気にする人物なだけに変化があるとそれを気にした人達によって空気がピリついてしまう。というのが花丸を貰える正解。
そして今、挙げた内の1人である美空の機嫌が良くない。
教室に辿り着いてすぐの頃は、手を繋いでいた事もあって、イチャついてるとかデキてるとかつつかれていたが、分かりやすく機嫌が悪い為、それに気付いた教室の空気はもはやお通夜と言っても過言じゃない。
そこで、僕は呆れながら問いかけた。
「いつまで、そうしてるつもり?」
「あの子が楓に変な事しないってわかるまで」
「あの子って……誰? 登校中の?」
でも、こっちの言葉に素直に答えてくれるし、こうして頷いてもくれていたが、誰かは教えてくれない。
けれど、引っかかる事があった。
ここは教室の中。
ストーカーが居ると言ってもこんな所まで追いかけてきている筈はないのに美空は先程から時折ちらちらと窓際の方を見ている。
もしかして、相手はクラスの中に……?
でも、そんな事しそうな人は……。
なんて、周りの観察を怠った僕が今探ったところで何も進歩しないか……。
そう考えた僕は小さな欠伸をしながらホームルームの始まりと共に意識を手放した。
*
「──さん、篠田さん起きてっ」
僕は誰かに起こされている。けど、声が美空じゃない。
「おーきてっ! 次、移動教室だよっ!」
そう言えば、次は美術だった気がする。
そして、ふとこの声を何処かで聞いた気がして顔を上げる。
すると、起こしてくれた相手の顔は思った以上に間近にあった。
「おはよ。凄いぐっすりだったね、可愛い寝顔してたんだからっ!」
「……おはよう。あと、ありがと。でも、少し顔近いかも」
綺麗な顔立ちをしていたのもあるが、そもそもこんなに近くで女の子と見つめ合うというのに耐性のない僕は直視する事が出来ず、頬を少し桃色に染めながら立ち上がる。
というか、この人の名前は……と。
この声で、このテンション、この顔は……もしかして。
「えっと……確か、夜見さん?」
「ふふっ、あたりっ。でも、まだ覚えてなかったんだ……自分でそれを過剰に意識するつもりは無いけど、桃は一応校内で人気な人ではあるんだよ?」
誰からも好かれやすそうな、誰とでも話せそうな、更に容姿も整っていて纏っているオーラに名前が書いてあるようなもので。何より、自分の人気を自覚し、謙遜しないのに嫌味を感じさせない。流石、校内で1番の有名人。持っているものが違う。
でも、それ以上に自分の視野と行動範囲が狭すぎた事が問題だと思う。
なんて話をしていたが、教室には既に誰も居ない事に気づいてしまった。
いつもなら起こしてくれる美空の姿も今はない。
今朝の件でかな……。
そんな状況に少し寂しさを感じて僕は悲しげに呟く。
「美空、先行っちゃったのかなぁ」
「うん、真っ先に出ていってたよ。だから、桃達もそろそろ行こっ! 丁度、篠田さんとは話したいと思ってたしっ!」
夜見さんの優しさが染みるぅ……。優しい、優しいよ。
移動教室に着くまでの間、夜見さんとは雑談を少ししていた。
気付けば途中で足を止め、2人して話は中身の濃いものに。
最初は肌の手入れとかは何かしてるのかみたいな話もしたけど、印象に残っているのは夜見さんと美空が同じ中学出身だったという話だ。
「なるほど。それで美空は夜見さんの事を知ってたんだ」
「そだよ。まぁ、最近は全然話せてないんだけど……でも、ここには篠田さんみたいに可愛い女の子も沢山居るしっ。毎日楽しいよっ」
「えっ、可愛い……女の子。あ、もしかしてだけど、眺めるの、ムチャクチャスキ?」
「うん! 好き……だけど、なんでカタコト?」
「あ、気にしないで。発作みたいなものだから」
…………この人かぁぁぁ!!!
あれはやっぱり夢じゃなかったんだ。なるほど。
でも、これはチャンスなのでは? 僕もナチュラルにそういう趣味があると暴露する、絶好のチャンスでは?
よし、言おう。……むしろ今しかないんだ。
同志を増やすチャンス!
今回ばかりは引かれてしまった時のイメージにも屈さず、自分の隠れた趣味を告白するという事に対して久々に心臓が苦しくなってしまう程に緊張し、唾を飲み込み、準備が整ったところで意を決して口を開いた。
「あのね……夜見さん、実は……」
「うん?」
うぐぐぐぐ……声が、震える。
大丈夫。言える。……絶対に言える。
僕、友達、フヤス。ミンナシアワセ。
──頑張れ、僕。
「……みーとぅー」
これが、今の自分にとっての最大のアピールだった。
恥ずかしさから顔を伏せ、相手の反応を待つ。
もはや、僕にこれ以上の勇気は出ない。
……。
…………。
………………。
……………………?
待てど暮らせど夜見さんからの反応はない。
これは、引かれた? 声も出ないくらいに引かれたの?
しかし、気になって上を向いた僕に待っていたのは考えていた事とは逆の事だった。寧ろ、夜見さんの目はこれでもかという程に輝き、次の瞬間には持っていた教科書を下に置き僕の手を握った。
「なかま……仲間だぁ。……良かった。やっと同志を見つけられた。これから、沢山仲良くしようね!?」
「こ、こちらこそ!」
早くも仲間が見つかり、浮かれ気分の僕。
そこへ続けて夜見さんは提案をしてきた。
「でさ。良かったらなんだけど……今日うちに来ない? 色々、話したい事沢山あるし」
「そう、だね。趣味の話沢山したいし、いいよっ」
「じゃあ、お礼するから目瞑ってっ!」
「へ? ……わ、分かった」
お礼……ほっぺにちゅーとかかな。等と思いながら目を瞑れば、夜見さんはナチュラルに僕を壁の前へ移動させ抱きしめてきた。
「まずは、ありがとうのハグ」
「わわっ……」
「まだ、目は開けちゃダメだけど……口は少し開けて欲しいかな」
「……? 分かったっ」
唐突な抱擁に驚くも、お礼だと言うので他意は感じず、すくに落ち着く。
んー、口を開けるって事は、何かをくれるのかな。
分かんないけど、まぁ──。
ヌルッ。
「んん!?」
僕は予想外の感触に思わず声を上げてしまった。
多分、お菓子か何かだろう。そう思って疑わなかった僕の口の中に今あるのは自在に動かされ、熱を帯びてざらざらの……舌だった。
けれど、突然の事で頭が真っ白になりキスをされているという自覚が持てたのは数秒経ってからだった。気付けば腕は壁に押し付けられ、舌を押しのけようとしても逆に弄ばれてしまい、自身からは「ん、は、ぁ……っ」と甘い吐息だけが漏れる。
「ん、んんッっ!」
離そうとすればするだけ、巧みな舌使いで絡め取られ、廊下に自分の恥ずかしい声が響き渡る。舌の感覚が無くなってしまうくらい濃厚で、変化は声だけでなく、見た目にも。
半ば強制的な刺激がこちらの意志を無視して送り込まれ、耐性のない僕は目が次第にトロン、と落ち、このうっとりとするような心地良さが僕に考える時間を与えない。そもそも何故こんな事をされているのか、そんな今の状況で明確な疑問さえ、泡のように頭の中から消されていく。
「ん、ぁっ……ふ、ぁ……ぅ」
もう今にも意識が途切れる。
その直前、廊下にもう1人の声が響き渡った。
「……そこで、何してるの?」
夜見さんいつ出すか迷いましたが、勿体ぶらずに出して暴れさせました。後悔してません。
それと、もうすぐでお気に入りが100に行きそうだったり、前回投稿の日にR18日間5位を貰えたり。評価してくださった方もありがとうございます!
この投稿の時点でも9位なのでとてもありがたいことです。
マイペースに書いてるので少し投稿間隔は不定期ですが、書けたら翌日までには出します。
あと、次は別視点を書きたいと思います。
美空の気持ちや、今回出てきた夜見がどう思って行動したのかみたいな。
それでは、次回にまた会いましょう。