翌朝の早朝、ラブホテル【ナイト・マジック】のスイートルームのベッドで自分とジャルタは起床とする訳なのだが。
「おはよう、ジャルタ」
「……おは……よう」
朝が弱いので、ジャルタは半分まだ夢心地な感じで自分の言葉に応えてくれた。
昨日はあれだけの事をした後なので、流石に疲れているのもあるのかな。
「ほら、起きて」
「うう〜」
ジャルタの肩を揺すって起こそうとするが、ジャルタは中々に半分寝から覚めようとしてくれない。
てかサーヴァントって基本的に睡眠は必要じゃないんだよね?
それとも、この世界でのサーヴァントには睡眠が必要なのか?
「ジャルタ、大丈夫かい?」
「んん……だいじょ……ぶ」
「いや、全然大丈夫に見えないから」
そう考えながらもジャルタの身体を揺らしていたら、ジャルタは自分に抱きつくようにして身体を密着させて来た。
「おい、ジャルタ……」
「んん……あったかくて、気持ちいい……」
ジャルタは自分の身体に抱きつきながら、そんなことを言いながら二度寝をしようとし始める。
「こら、ジャルタ。もう起きる時間だよ」
「んん、後五分」
「駄目です」
「むぅ……仕方ないわね」
ジャルタは不満そうな声をあげつつも、渋々と身体を起こす。
「ふぁぁ」
欠伸をしながら伸びをするジャルタを見て苦笑しつつ、自分も身体を起こしてシャワーを浴びる事にした。
「どっちが先に浴びる?」
「私からで良い? 眠気覚まししたいのよ」
「分かった。自分はその後に入るから」
「ええ、そうしてくれると助かるわ」
ジャルタが浴室へ入って行くのを見届けた後、自分は備え付けの冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを取り出し、一口飲むことにした。
……あっ、そういえばここはラブホテルだからバスルームやらの壁はガラス張りだった。
ジャルタがシャワーを使っているのが見えるなぁ……とぼんやり考えていると、ジャルタが身体を洗っている姿が見えた。
「……」
今、ジャルタが身体を洗い終わったみたいで、湯船に浸かったな。
「……」
あっ、今になってガラス張りだということに気付いたまたは思い出したらしく、ジャルタは顔を真っ赤にしてしまう。
幸いにも暴れることはないが、それでもジャルタは恥ずかしがっていた。
「……」
「……」
互いに沈黙する中、すぐにジャルタが身体を拭いてからバスルームから出てきてゆっくりとこちらに近付いて来る。
そして、自分の目の前まで来ると……
「……見過ぎ」
「ごめん」
「……別に、嫌な気分じゃないけど」
「そっか」
「……ええ」
「……」
「……」
再びの沈黙。
決して嫌な沈黙ではないものの、お互いに何を話せば良いか分からず、困ってしまう
こういう時は話題を振るのが定石なので、これからの活動内容についてを話し合うことにする。
「……ジャルタ」
「何?」
「今後の活動方針だけど、ジャルタはどう思う?」
これからの活動内容とは、プレヒティヒフースこと通信販売復活を目指す組織の方針に沿って動くこと。
まずは知名度を上げる為にどんな商品を厳選し、訪問販売で宣伝しつつ取り扱うかだ。
その問いかけに、ジャルタは顎に手を当てて考える素振りを見せつつ、こう言ってきた。
「そうね。娯楽の品は止めといた方が良いと思う。今は誰もが生きることに必死みたいだし」
ジャルタの意見を聞きつつ、自分は同意するように相槌を打つ。
ただでさえ今となっては生きることが第一の御時世だというのに、娯楽品の類を売ったところで売れるとは思えない。
それに、今の世の中では食料ですら貴重である。
下手をすれば食料すら手に入れるのが困難なのだ。
そんな状況下で、食料品や生活必需品以外の物を売るのは正直、空気が読めていない馬鹿だ。
「じゃあ、他に何が有るかな?」
「そうね。やっぱり、医療関係かしら?」
「医薬品とか?」
「そうね。この御時世なら、特に外傷薬が需要あると思ってる」
「なるほど。確かにそうだな」
ジャルタの言う通り、傷口を塞ぐ薬や消毒液は必要不可欠な代物。
それを優先的に売り捌くのは悪くない。
「後は少しだけは身体や髪を洗うシャンプー辺りが必要かしら?」
「えっ? 必要、なのか?」
「この御時世でも、衛生面を気を付けるのは必要よ。あなたと私は、なぜかインフラが機能してるラブホテルに泊まれたりするから問題ないけど、その他はそうもいかない」
確かにそれもそうか。
自分とジャルタの場合は、いざとなればこの御時世なのに謎に機能しているラブホテルに優先されて泊まれる。
理由はやはり、ジャルタというサーヴァントがいるからだ。
いざとなれば、ラブホテルにまでFGOのエネミー達が押し寄せてきても、泊まっているサーヴァントが戦ってくれるのだから。
そんな訳で、自分達は今のところは問題なく快適に過ごせている訳だ。
「まあ、そういう訳で必要最低限の物は確保」
「ああ、そうしよう」
「あと、飲料水の確保ね」
「それは必須事項だな」
「そうね。毎回思うけどラブホテルのインフラは謎に生きてるから、飲料水はそこで手に入れましょう」
「了解」
ジャルタの言うように、このラブホテルだけでなく、他のラブホテルでも何故か水道やら電気やらガスやらが生きている。
しかも、この御時世にだ。
まあ、それはそれでありがたい事なのだが。
「さて、次はどうするかだな……」
「とりあえずは知名度を上げないと始まらないから……何かしらのメディアで広告を打ちたいところね」
「けど、テレビやラジオはまず無理だからなぁ。文明崩壊したも同然だし」
だから人が寄り集まる集落に向かっての訪問販売しかない訳だ。
「最後は宣伝のチラシやらかしら? それを読んでもらって、プレヒティヒフースのことを知ってもらう」
新聞という方法もあるが、今はチラシだけの方が良い。
理由はこんな生きるのに必死な中で、長い文章の新聞なんて読む暇がない。
というか、チラシのことは最初に出会った時の高坂さんと黒髭が言ってような……
「最後に荷物の運搬なんだけど、私のワイバーン達にやらせる。けど、向かう先の集落からは離れさせておく」
「そうじゃないと、襲撃と勘違いされてもおかしくないしな」
ジャルタは自身のスキルでワイバーンなどの低級の竜種を使役することが可能だが、それを知らない人達からしたらワイバーンの襲撃と勘違いしてきてもおかしくない。
だから、ジャルタの言い分は正しい。
「後のことは高坂さんとかに考えさせよう。なにせ、プレヒティヒフースの頭なんだから」
「巻き込んできたのはあちらなのだし、そうしましょうか」
ジャルタと自分はそう言ってから、朝食を摂ることにした。
☆ ☆ ☆
ジャルタと自分がスイートルームで朝食を食べてから身支度を整えて部屋を出ると、そこには既に高坂さんがいた。
「おはよう! 今日は良い宣伝日和ですなぁ!」
朝から元気が良い高坂さんは、そう言いながら俺とジャルタの肩をバンバン叩いてくる。
というか、今日はスイートルームの窓から見た限りだと曇りでしたよ?
雨降ってないだけマシですけど。
「朝から曇りでしたよ。どこが良い日和ですか」
ほら、ジャルタがツッコミ入れるくらいには良い天気じゃないです。
「ええー? 良い日和じゃないかぁ」
いえ、雨が降る程ではないにしても良い日和とは言えません。
「まあ、日和のことはもう良いです。それで高坂さん、自分とジャルタが取り扱う訪問販売の商品の件ですが」
「それなら主に食料と薬品と衛生用品を用意する。他にも必要そうなものは幾つか用意するよ」
高坂さんの話では、自分とジャルタには食料や薬品等を扱ってもらいたいとのことだった。
早朝に自分とジャルタが話していたように、既に高坂さんもこの御時世に必要なは何なのかを理解しているようだ。
この御時世でなきゃ、中学生の癖に高坂さんは頭はそれなりに回るらしい。
まあ、そうでもないと通販を復活させようだなんて思わないし、行動力もないだろうけど。
「荷物はワイバーンが背負えるように制作した急拵えだけど専用リュックがある。その中に取り扱う食料やらを入れる予定」
ワイバーン専用リュックって、誰が制作したんだそんな代物。
そう思い聞いてみたところ、高坂さんの口から飛び出たのは……
「今はプレヒティヒフースに所属するオタク仲間達による急拵えだから、見た目は大きなトランクケースをワイバーンが背負うことになるかな?」
そんな答えが返ってきた。
どうやら今のプレヒティヒフースには、運搬物資を運んだりする入れ物を制作出来る人がいないようだ。
「ちなみに中身を詳しく言ってもらっても良いですか?」
「オーケー! まずは缶詰にレトルト食品にインスタントラーメンに栄養ドリンクにカロリーメイトにチョコレートにクッキーにビスケットなどなど。後はタオルに歯ブラシに石鹸に洗剤にシャンプー……」
うんうん、多少は嵩張る物があるものの普通の内容だな。
と、思っていた矢先に……
「それと、避妊具にローションに大人のオモチャ各種を用意しましたぜ!!」
「……は?」
笑顔で言う高坂さんの言葉に、思わず自分の顔が引き攣ってしまう。
何故にそんなの荷物に入れる気なの?
「だって、この御時世だよ? 避妊具やらアフターピルやらは必須。今は娯楽も少なすぎるし、となれば性欲処理の道具が必要になるじゃん? それにローションがあれば、身体の負担軽減にもなるからね」
「い、言われればそうかもしれませんが……」
「でしょ? あっ、もちろんちゃんとしたメーカーの製品だよ? だから安心してね!」
「……分かりました」
……え? 本当にこれで良いのだろうか?
ただでさえ今の御時世で生きていくのが大変なのに、そんなものまで販売するのか?
自分だけでなく、ジャルタの顔も引き攣ってるぞ。
「……こうくるとは、思わなかった」
あっ、ジャルタが顔を両手で覆った。
気持ちはよく分かる。
というか、よくこんなのを堂々と持ちこむ気になったな?
「……一応、確認しますが、それらの商品は誰が取り扱うんですかね?」
「そりゃ勿論、君と邪ンヌが取り扱うんだよ」
「……ですよねぇ……」
……はぁ、頭が痛くなってきた。
何が悲しくて、こんな状況の中で大人のやらまで販売しに行かなきゃならないんだ?
「まあ、そういう訳だ! 初日から頑張ってくれたまえ!! 期待しているから!!」
そう言った後、高坂さんは自分達の背中を押してくる。
こうなったら仕方ない、ヤケクソ半分でやるしかないか。
☆ ☆ ☆
そんなぐだぐだしたかもなやり取りの後、自分はジャルタと共にワイバーンに乗り、まずは上空を飛び回り現時点での集落を空から視認し、地図を制作することから始めていた。
高坂さん曰く、「販路拡大の為には宣伝が必要不可欠。だから、まずは宣伝する場所を探して決めないとね」とのこと。
確かにその通りだ。
宣伝をするにしても、まずは宣伝できるような場所に行かなければ意味がない。
「うわっ、凄いな。小さな集落が点在しすぎてどれが何処にあるかさっぱり分からないな」
「本当ね……。この御時世で、これだけの数の集団が生き残れた辺り、人間って意外としぶとい時があるわね?」
ジャルタは呆れ気味に言うが、自分も同意見だった。
ただでさえ生きるだけで精一杯なのに、集落をここまで形成できた辺りは奇跡に近い。
その証拠に集落の周囲には、所々に武装した人達の姿が見える。
ただ、集落の外から見える限りではジャルタの視認によれば武器は刃零れしたりしてるのが殆どだ。
恐らくは、集落の入口にいる者達は自衛だろう。
「とはいえ、訪問販売の前に周辺の地図制作の時点で困難だな」
「地形も一部変わったみたいだし、陸路だとビルなどの建物が崩れて通れない箇所があるわ。まあ、私のワイバーンちゃん達は空路なので問題ないけど」
今はジャルタのワイバーンによる空路があるから良いが、いずれは別の誰かが陸路を使うことになるので、やはり地図制作は必須になる。
産む苦労をしとかないと後が大変だし、空路だけだと自分とジャルタだけが大変に働くことになるし。
と、思いつつ自分とジャルタは不格好ながらも地図を描いていく。
その時に知ったが、ジャルタは絵だけでなく地図を描くのも上手かった。
自分の方は……子供が描くよりはマシなだけの汚いものだったので、そこには触れないで。
☆ ☆ ☆
さて、ワイバーンに乗りつつ数時間かけて描いた地図を見て、自分とジャルタは溜息をつく。
「……これは酷いな」
「……ええ」
自分達が見た集落の位置は大雑把だが分かったのだが……
「集落の数がかなりあるなぁ……」
「この御時世で、こんなにも集落を形成するなんて、人間はどれだけ生きることに必死なのかしら?」
自分達が見た集落だけでも、かなりの数があった。
それだけでも驚きなのに、これを見る限りではまだ他所の地にも集落はあると予想出来る。
「まあ、この御時世にこの人数が生き残ったのは、褒めるべきことなんでしょうけど」
「ああ、そうだな……」
この御時世にこの数の集落は、素直に称賛に値する。
だけど、問題はそこじゃない。
まず、小さな集落ばかりしかないので訪問販売するだけでも手間がかかること。
次に、訪問販売しても極一部を買ってくれるかどうかが怪しい。
なにせ、今は食料やら医薬品やら衛生用品やらが必要とされている。
そんな中、自分からしたら必要かが不明の避妊具やら大人のオモチャやらを取り扱うのは、正直どうかと思う。
というか、高坂さんは何を考えているのやら。
「なぁ、ジャルタ。自分達が取り扱う商品って、本当に必要か?」
「私もそれを言おうとしてたところよ。避妊具はまだしもオモチャとか、必要かしら?」
「……だよなぁ。俺もそう思うよ。ただ、高坂さんは必要だから用意したって言ってたしなぁ。……まあ、高坂さんがそう判断したのなら間違い……中学生だから、あってもおかしくないんだよなぁ」
「……そうよね。中学生だから、あっても不思議じゃないのよねぇ」
「「……」」
俺とジャルタは無言のまま、視線を交差させる。
「「よし、一部は隠しておこう」」
こんなの堂々と販売出来るか!
未来にいる客に聞かれでもしない限りは、販売してやらないことにしよう。
自分はそう決心すると、ジャルタと地図を描くだけで今日の仕事を終えるのであった。