「お疲れさまー! 2人とも!!」
「地図作成は如何でしたかな?」
今日の仕事を終えてラブホテル近くへと戻ると、高坂さんと黒髭が出迎えてくれる。
因みに、今の時刻は既に夕方になっている。
あれから自分達は地図を描き続け、日暮れ前にはひとまず周辺の内容が完成したのだ。
途中、休憩を挟んだものの、ずっと空を飛び続けたせいかワイバーンも疲労している様子だった。
「ワイバーンちゃん、ごめんね? 少し休みなさい」
『グォオオ』
ジャルタがワイバーンを労わる様に撫でると、ワイバーンは嬉しそうな鳴き声を上げる。
そんなワイバーンの様子に、ジャルタも微笑んでいた。
「それじゃあ、二人の今日の仕事が終わったところで、晩ご飯にしたいところなんだけど。早速地図を見せてくれないかな?」
仕事の締めが来たか、と思いつつも自分とジャルタが作成した地図を高坂さんと黒髭に渡す。
高坂さんと黒髭は自分達の地図を見ながら、苦笑していた。
「いやぁ、中々に凄いね。特にこの辺りの地形の変化が」
「ですな。拙者の調べでは、こんなに高低差は無かったと思いましたが、ここまでとはね」
「……すみません。今日は周辺の内容だけです」
「謝ることは無いですな。この御時世だ。寧ろ、これだけのものを周辺だけとはいえ一日で作ったことは賞賛すべきことでござる」
「うんうん。流石は私の見込んだ二人だね! よくやった!!」
「ありがとうございます」
自分とジャルタが作った地図を誉められるのは悪い気はしない。
ただ、地図を作成する中で思ったのは、本当に世界は根本から変わってしまっていたのかと、改めて実感してはかつての生活が少しだけ懐かしくなる。
まあ、あのままだったらずっとブラック企業で勤めることになっていたので、実は今の方が遥かにマシなのだが。
そんなことを考えながら、自分は目の前の光景を……高坂さんと黒髭が話し合うのを見つめていた。
「さて、野比氏とジャンヌ・オルタ氏は明日も地図の作製をお願いするでござるが、さて本日の報酬を渡しておきますぞ」
「はい、どうぞ!」
「あっ、ども」
「……ありがと」
話し合うのを終えた後、黒髭がそう言うなり持っていた布地袋を渡してくる。
中身を確認してみると、それなりの給料ことお金と粉末ジュースって何故に駄菓子が入ってる?
その他は粉末ココア、スティックのインスタントコーヒー、喉飴、等々。
「高坂さん、何ですかこれ?」
「何って、今日の君達の労働への対価だよ」
「いや、それはわかるんですけど……」
「粉末系の飲み物とかのこと?」
そう、これらは基本的に今の御時世となっては高級な嗜好品として取り扱える品だ。
例えば粉末ココアは以前までは一袋300円前後。
タバコは450~500円ぐらいが相場だ。
今だと、その価値は爆発的に上がっているのだ。
そんな物を、たかが地図の作成程度で貰う訳にはいかないのでは?
因みにドラゴン使役の件に飲んだ粉末系の飲み物については、お祝いだったので自分の中ではカウントしていない
「高坂さん、嗜好品までは流石に……。今だとかなりの値段になるのに」
自分は思わずそんなことを言うと、高坂さんと黒髭は顔を合わせて笑い出す。
何か可笑しな事でも言っただろうか?
そんな疑問を抱いていると、高坂さんは笑顔のままで口を開く。
「いやいや、これは私からの個人的なプレゼントだから気にしなくていいよ。それに、この御時世で娯楽なんて殆ど無いからね。こういう癒やしは必要なのさ」
「まあ、そういう事でござる。受け取っておけよ」
「……わかりました」
高坂さんと黒髭に言われては仕方ない。
自分達はその好意を受け取ることにした。
「……それで、高坂さんと黒髭はこれから何処に行くんだ?」
自分達は今日はもう帰るつもりだが、高坂さんと黒髭は自分達と違ってまだ仕事をするのか?
いや、自分達が地図を作る間に他の場所へ行ってたみたいだし、それはないかな?
自分達がそう思っていると、高坂さんは答える。
「今日の人材スカウトは空振りに終わったから、もう帰るだけだね」
「拙者も同じく」
「えっ、そうなの?」
「うん。今日は成果無し。だから、そろそろ帰ろうと思ってたところだよ」
「そうか……」
高坂さんと黒髭の言葉に自分はそう呟く。
正直なところ、自分達が地図を作っている間、高坂さんと黒髭が何をやっているかは知らなかったが、自分とジャルタの時みたいに人材スカウトに走っていたのか。
「高坂さんと黒髭は、自分達みたいなのを雇ってくれそうな人に心当たりはあるのか?」
「んー、そうだね。私の場合は、やっぱり私達のようにオタクな人達とか」
「……なるほど」
確かに、今の世の中で生き残る為には、やはり強い意志を持った人物を仲間に引き入れることが重要だろう。
高坂さんの場合、この御時世には似つかわしくない不純な動機で二次元と通販の再開を目指している訳だから、あまり見本にはならないけど。
それでも、彼女のような人間が一人いるだけでも、自分達にとっては大きな助けになるのは間違いない。
「黒髭は?」
「そうですなぁ。拙者の場合は、やはり戦力となる英霊でしょうかな」
「ああ……」
黒髭の言う通り、今では強力な力を持つ存在を味方にするこは必要不可欠なことだ。
ただ、問題なのは……
「でも、この御時世だ。普通の人間は、そう簡単に信用出来ないんじゃ?」
「うん、そうかもしれないね。でも、私は諦めたくないんだよ。だって、この御時世だからこそ、皆と楽しく過ごしたいじゃないか!」
「拙者としても、この御時世でも楽しめるように、少しでも多くの同志が欲しいですな。尚、味方が美少女だともっと楽しめる。主に眼福な意味で」
高坂さんと黒髭は、それぞれ自分達の考えを口にする。
だけど、自分はこうも思う。
この御時世では、それがどれだけ難しいかを。
特に、今は食料や医薬品等の物資が圧倒的に不足している。
そんな中で、自分とジャルタみたいに高坂さんを頭にした組織に所属する気のある人がいるかどうか。
少なくとも、自分達が知る限りでは、そんな人の心当たりはなかった。
まあ、無駄に行動力がある高坂さんと黒髭コンビはともかく、自分はそんなに凄い人間じゃないし、当然といえば当然か。
「……まあ、自分達は明日も地図作製で頑張るしかないか」
「そうね。高坂と黒髭は、精々頑張ってね」
「おう、任せておきな!」
「拙者達に任せておくですぞ!」
そう言って笑う高坂さんと黒髭。
そんな二人を見て、自分もジャルタと一緒に苦笑していた。
ジャルタの言葉にも二人はビクともしないのには、まだ短すぎる付き合いだが流石だと思える。
……まあ、高坂さんの方は、元々の性格もあるのだろうが。
「では、我が組織のマイホームへと帰りますか!」
「マイホームと言っても、ラブホテルですけどね。ラブホテルがマイホームとはどれだけ爛れきってるのかしら」
「失敬な! ちゃんとした理由があってのことだよ!!」
まあ、高坂さんが言っていることは一応間違ってはいないが、黒髭の言うようにラブホテルがマイホームとするのは事情があれどどうかとは思う。
そんなことを考えながら、自分達は高坂さんと黒髭と共に自分達の拠点であるラブホ……もとい、【ナイト・マジック】へと向かう。
因みに、今晩は高坂さんが料理を振舞ってくれるらしい。
何でも、食材は黒髭が調達してくれたらしく、高坂さんが調理するとのこと。
「さあさあ! 見せてやるぜ、味あわせてやるぜ。私の料理の腕前を!」
帰宅? した後にラブホテル【ナイト・マジック】内の厨房では、高坂さんが無駄にハイテンションでそう言っていた。
「いや、別にそこまで期待してないけど……」
「そうね。どうせあんたの作る料理って、大体インスタント食品とかレトルトでしょ?」
「言ったな? なら、吠え面見せろや!」
いや、期待してないと自分とジャルタが言ってしまうなり、高坂さんは捨て台詞みたいなことを言いながら厨房へと入って行ってしまう。
彼女はまだ中学生の年齢らしいのに、普通に料理ができるのか?
そんな疑問を抱きつつ、自分達は高坂さんが作ってくれる間、自分達の部屋で休んでいた。
「しかし、高坂さんって本当に変わった人だよな」
「そうね。まさか、あの歳であんなに堂々としていて行動力がありすぎるし」
自分達は高坂さんのことを思い浮かべる。
何と言うか、高坂さんは他人に対する偏見がないように見える。
初めて出会った時から無駄に黒髭と共にハイテンションだったし、コミュ力も高いみたいだし。
「まあ、悪い奴ではないと思うわ」
「そうだね」
まあ、自分達は高坂さんと出会ってから日が浅いし、彼女の人柄についてはよく知らない。
ただ、自分達に好意的に接してくれることだけは確かだ。
けど、組織を設立し始めた動機からして、自分達とは違う価値観を持っているのは間違いない。
自分は、彼女のような強い意志を持った人間は見たことがない。
「まあ、今は高坂のことは良いわ。それより、高坂の料理の腕前が不安よ」
「ああ、それは確かに……」
正直不安ではあるが、最悪食べられる味であれば良しとすることにする。
「さーて、今日は私が腕によりをかけて作った夕飯をご馳走しようじゃないか!」
そうしてジャルタと話している間に、高坂さんが厨房から皿に乗せた料理を運んでくる。
それは……
「……肉じゃが?」
「……ええ、そうね。見た目は普通の肉じゃがに見えるわ」
自分達は思わずそう呟く。
高坂さんが用意した料理は肉じゃがであった。
「豪華なのが来ると思ってた? 残念、私は元一般人だから家庭料理しか出来ないのさ!」
高坂さんは無駄なドヤ顔をしながらそう言う。
いや、別に豪華を期待していた訳ではないが…… 自分達は高坂さんが作った肉じゃがを見る。
「……えっと」
「……普通の肉じゃがよね?」
自分達はその感想を漏らす。
高坂さん曰く、自分は家庭的な女の子なのでこういう料理が出来ると。
しかし、高坂さんはギャルっぽい格好をしているし、言動や行動はどちらかと言えばウザいに近い。
それに、彼女がこんなものを作るのは意外すぎる。
いやまあ、確かに高坂さんは自身からオタクと言っていたし、オタクがどんなものを好きかは知っているつもりだが、それでも意外なものは驚く。
「ふっふっふ。驚いたかな?」
「……まあ、少しは」
「そうね。私もちょっと驚いてる」
「そうかい。なら、もっと驚かせてあげよう。さあ、おあがりよ!」
どこの料理漫画の台詞だと言いたくなるような言葉を口にしながら、高坂さんは自分やジャルタの分の食事を用意する。
そして、彼女は席に着くと、手を合わせていただきますと口にしてから箸を手に取った。
「……それでは、自分も」
「……そうね。せっかく高坂が作ってくれたものなんだから」
自分とジャルタも高坂さんに続くように、彼女と同じようにいただきますと言ってから、自分達も食事を摂ることにした。
そのタイミングで……
「ピチピチギャルの手作り肉じゃがが食えると知って、黒髭は映えるように参上!」
そんな声が聞こえてきたので、自分はそちらに視線を向ける。
そこには、高坂さんに負けない無駄にテンションが高い黒髭が扉前にいた。
「黒髭ー。お前の分はちゃんとあるが、お代わりならないぞ?」
「そんな殺生な!?」
黒髭の登場に高坂さんはそう言うと、彼は悲鳴のような言葉を叫ぶ。
「仕方ないでしょ? プレヒティヒフースに所属する他の人達にと肉じゃが配るんだからさ」
「……まあ、そうなんだけどさ。拙者としてはマスターの家庭的な味を思う存分というより、怖さ半分で堪能してみたいと思いまして」
「貴様! 私の飯が不味いと決めつけたか? ならば、くれてやる。これが私の味だぁっ!!」
高坂さんはそう言って、用意していた料理を黒髭に配膳していく。
いや、無駄にハイテンションな割には普通にやるんかい。
それが、高坂さんが黒髭に用意していくのを見て思ったことだった。
さて、配膳していくのが終わる後……
「では、ピチピチギャルの作った味の探求の為に……いただきます!」
黒髭はやっぱり無駄にテンション高くそう言って、高坂さんが作ってくれた肉じゃがを食べ始める。
そんな彼に高坂さんは呆れながら、自分達は苦笑していた。
「うん、普通に美味しいですな」
「普通にって何だよ。普通にって」
「いや、普通にですな。これと言って特別なところはないですが、普通に美味いという意味です」
「その意味深に溜めた言い方からして何かあるのか?」
「いやいやいやいやいや! 別に何もないですよ! 本当に!」
自分はそう言いつつ、高坂さんの用意した夕飯を食べる。
高坂さんが俺達のためにと作ってくれた料理は、本当に普通の肉じゃがだった。
いや、一口食べてみたら自分だけでなくジャルタも驚く。
美味いのだ。
高坂さんは自信満々に言っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
「どうだい? 私の料理の腕は?」
「いや、普通にどころじゃない。凄い美味い」
「そうね。普通に料理できるってレベルじゃなくて、本当に美味しいわね」
「そうかい。そう言われると嬉しいね」
自分達は高坂さんが振る舞ってくれた夕飯に舌鼓を打っている。
高坂さんは自分達が褒めると、嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
一方、黒髭は……
「まあ、拙者の生前は御馳走なんて普通のことでしたので、別にそこまで大したことではないのですが。……にしては、心がほっこりする美味さですなぁ。豪華な訳ではないけど、温かみのある味わい。家庭的な女の子の料理というのは、やはりいいものですぞ」
「……まあ、確かに」
高坂さんが自分達に振舞うためにと作ってくれたのは、普通の肉じゃがだった。
しかし、高坂さんが言う通り、彼女の料理は普通ではない。
彼女が言うように、黒髭曰く心がほっこりする家庭的な味がする。
そして、その味を自分が口にすると、ふと自分の母の味を何故か思い出した。
まあ、それを口にしたら高坂さんだけでなく、ジャルタや黒髭にも弄られそうだから言わないけど。
ただ、この夕飯を食べた後に改めて思うのは、高坂さんの作るご飯はとても温かいということだ。
「……ごちそうさま」
「ごちそうさま。本当に美味しかったわ」
「ごちになりましたー」
「はいよー」
自分達はそれぞれ完食した後で、そう口にする。
高坂さんも満足そうに応えてくれたので良かったと思う。
「んじゃ、私は残りの肉じゃがをプレヒティヒフースの皆へと配る仕事があるので、黒髭は後片付けよろしく!」「えー。拙者も一緒に行きたいでござる」
「ダメ。お前は料理できないんだから、皿洗いでもやってなさい」
「ええええええ? 拙者も普通になら料理出来ますのに」
夕飯が終わると、高坂さんはそう言うなり部屋から去ろうとすると、黒髭が待ったをかける。
その際の会話には確かに、とあるFGOのイベントだと黒髭はなぜか和食作ってたなと思い出す。
あの時は、なんで日本人じゃないのに和食作れるんだよの前に、作る材料どこから出したと思ったが……
と、思い返している間に高坂さんは黒髭の言葉を聞かずに部屋から去って行った。
「むぅ。マスターは夕飯時には冷たいでおじゃる」
いや、なんでおじゃるが語尾なんだとツッコミたくなるが、その前に高坂さんが去った後も、黒髭は不満そうにしながらも同じく部屋から出て行った。
「……さてと」
夕飯を済ませたので、これからどうするかを考える。
「……ジャルタ。この後はどうするつもりだ?」
「そうね。とりあえず、今日はもう休むことにするわ」
「……そうか」
ジャルタはそう言ってから、ベッドの方へ向かおうとする。
「……なぁ、ジャルタ」
「何よ?」
ふと、その時に自分はあることを聞いてみる。
それは……
「いつかはジャルタの作った料理、食べてみたいかな?」
「…………はぁ?」
自分がそう言うと、彼女は呆れたような声を出す。
「アンタ、今の私が料理出来ないの知ってるでしょ?」
「いや、予想はしてた」
「なら、そんなの無理に決まってるじゃない」
「いや、それでも食べてみたい」
「……どうして?」
先程から……肉じゃがを久しぶりに食べてから思っていたことを言うと、ジャルタにそう聞かれた。
そんなの決まっている。
「……だって、好きな人の手料理を食べたいと思わない方がおかしいだろう?」
「……馬鹿っ。本当にアンタは……」
自分はそう思っていることを告げる。
すると、ジャルタは顔を赤くしながら、そう呟くのだった。
「……不味くても、完食はしなさいよね? 一応、努力してあげるから」
「ああ」
「それと、感想はちゃんと言いなさい。分かった? 返事は!?」
「わかってる。完食はするし、正直に美味いなら美味い。不味いなら不味いと言うから」
「不味いと言わせるのは作らないつもりよ」
自分はそう言って、ジャルタに応える。
すると、ジャルタは不機嫌そうながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。