「早くサインしなさい。死ぬ時は分からないけど、その時が来るまで後悔はさせるつもりはありませんので」
いや、気のせいではなさそうだ。
ジャンヌ・オルタは赤面し始めていて、自分を犯しにきた度胸があった癖に、更に契約書を出した癖に今更になって羞恥か何かを感じてしまってるようだ。
目覚めるなりのあれをやらかしたのに、何で恥ずかしくなるのかと自分からすれば不思議である。
「早く書きなさい。まさかとは思いますが、散々に私に囁いてきた癖に私が嫌とでも?」
半信半疑になりつつスクロールに書かないままでいると焦れてきたらしく、ジャンヌ・オルタが急かしに来るのに対して自分は、その囁いてきた内容とやらが合っているかを自分に教えてくれないかと返してみる。
「そ、そんな恥ずかしいことを言える訳ないでしょ!」
「なんだ。やっぱり知らないみたいだ。ただのジャンヌ・オルタのコスプレ女じゃないのか?」
流石のFGOが好きな自分でも、二次元の存在がいきなり現実に現れるなんて信じにくい。
確かに外は物騒という言葉を通り越した状況なら信じられるかも知れないし、目の前のジャンヌ・オルタが本物だとしてもそれが自分の味方とは限らない。
ならば、自分が画面越しにしたジャンヌ・オルタへの発言内容を教えてもらえないとスクロールにサイン出来ないと告げると。
「だ、だから、言えるかあんな恥ずかしい台詞!?」
「なら、書かない」
「くっ……分かった。分かったわよ! 言えば良いんでしょ! 一番恥ずかしい黒歴史な台詞を聞いてあんたも悶えるが良いわ!」
よし、彼女が本人かを確認出来る方へ持ち込めたな。
しかし、黒歴史と言われても自分がした発言に悶え苦しむものって……
「……リアルのツンデレは要らんけど、ジャンヌ・オルタならツンデレでも彼女にしたい。どう? 言ってやったわ!」
それは過去に呟いたのは確かだ……だが、恥ずかしいけど別に悶える程ではないと返したら、彼女は信じられないというリアクションを見せてくれる。
「あんた。本当に恥ずかしくない? 誰かに聞かれたら何言われるか分かってるの?」
「思っていたよりは恥ずかしくない」
「なんでよ?」
しかし、ブラックな仕事を終えた最近の日曜に呟いた内容を完全一致で言ってのけたということは……
「それで君は、ゲームアプリを通して俺が育てたジャンヌ・オルタって事で良いのか?」
「……やっと、信じたようね? そうよ、どこかの誰かさんがやらかしたお陰で私が現実に出てきたのです。多分ですが、他の誰か達の所にもサーヴァントが姿を見せているでしょう」
自分が彼女を正しく認識したら、彼女は態度を大きくして頷きつつ気になることをサラッと出してきた。
「他の、サーヴァントって……自分とジャルタみたいな誰かがいると?」
「そういえばあなたは、画面越しの私をそう呼ぶことがありましたね?」
「嫌ならやめるけど」
「気にはしないわ。慣れましたので」
略称というか渾名みたいなものに突っ込まれた後に、ジャルタは推測した内容を説明してくる。
てか、嬉しそうにしてるのは何でだ? 現実での異性とのコミュ経験が少なすぎて嬉しそうな理由が全く分からないぞ。
「例えばですが、あなたとは違った物好きな誰かとサーヴァント……そうですね、清姫を好きな誰かの所にそれが来るとかです」
清姫か。
自分のFGOだと絆レベル10になったのが最初のサーヴァントだったな。
「日課の周回に良く使ってたから、自分の清姫は早く絆が上がったな」
「良くあんな嘘を極端に嫌う女を使いましたね?」
そういえばジャルタは清姫に対して何か思うところがあるらしい台詞があるけど、それと関わっているのだろうか。
「清姫と聞いただけで嫌そうにしてるね」
「清姫の嘘嫌いが嫌いなの。私はある意味、嘘から産まれた存在。それを否定されてる気分にしてくるのがムカついてしまうので。それに、清姫もある意味では嘘から産まれた存在なのにそれを許容できないことが頭にきますね」
なるほど、清姫の嘘嫌いがなかったらジャルタはどう接することが出来る?
「それはありえないわ。清姫は嘘を嫌う事で産まれた存在。それが無くなれば清姫とは言えない」
と、聞いてみると返ってきたのは当然の内容だ。
「もし、どこかにいるかも知れない清姫と出会ってもジャルタは仲良くするのは難しいってことか」
「いいえ。私からすれば不可能としか思えないわ。だって私、普通に嘘を吐きますし」
うん、出来れば出会わないことを祈るしかないかな。
色々と拗れてそうだから相性悪そうだし、ジャルタは心底嫌そうというより凄い渋い面してるし。
「んじゃ、ジャルタのことも理解できたと思うしさ。生きる為に行動してみなきゃね」
「生きる為の行動とやらの前に、契約書にサインをお願いします。あなたは私が何であるのかを理解してくれたのなら、サインすると約束しましたよね?」
チッ、もしかしたら本物のセルフ・ギアス・スクロールかも知れないから書く気分が出なかったのに誤魔化せなかったか。
「さあ、サインをお願いします。しっかりとね!」
「……見知らぬ女性と会話しただけで浮気と判断されないなら、サインしても良いけど」
「その程度は許容できます」
まあ、書いても自分に魔術刻印はないから問題ないだろうと軽い気持ちでサラサラっとサインしてやると、ジャルタはスクロールをマントの内側に仕舞うようにするとスクロールは消えてしまったかのように無くなる。
「これで契約は完了しました。では早速、私にキスマークを付けて下さい」
マジか。
マジでやらないといけないのか。
さて、あのスクロールが本物かどうかを確かめるか……てか、あのスクロールって確か、魔術刻印がない魔術師の場合って意味ないよな。
だから拒否は可能だろうと思ってた自分はジャルタにキスマークを付けるのを、拒否しようとする行動に出ようとした瞬間。
「──────!?」
左手から急に激痛がし始め、激痛が左手を通して広がり短い間に左腕全体が中に沢山の縫い針を詰め込んだと表現が合う程に痛みを発する。
「残念でした。あなたがサインしてくれたスクロールは魔術刻印の代わりを令呪がしてくれる仕様になっているのです」
ジャルタが何を言っているかを理解しつつ激痛の余りに拒否するのを辞めると決めた途端に、激痛は嘘のように納まる。
……今のは痛かった、痛かったぞ。
大の大人が涙流すくらいには痛かったぞ。
「まさか、本物とは……」
「試してみた度胸は認めますが、まさか魔女と契約して只で済むと思っていたのですか?」
うん、これで目の前のジャルタは本物であるのがもっと分かった。
それと同時に、この世界で彼女と共に生き抜かなければならないことも分かった。
後、涙目な自分を見て何でか興奮してる気がするジャルタはドSか何かか。
「では、お願いします」
自分が身を持ってスクロールの効果を理解した後、ジャルタは自身の首を右の人差し指で指す。
どうやら、そこにキスマークを付けろと示しているようだ。
「…………っ」
ジャルタにキスマークをねだられるという、ちょっと前の現実では絶対に叶わないことに直面することになった。
直面した自分は、最初は普通に近寄ってからジャルタの首筋に顔を近付けていくと、ジャルタの病的に白い肌をした首にキスマークという痣を今から付けるのかと思うと……
「ちゅう……」
「んっ♡ んんっ♡」
男として、というより自分が興奮しない訳がなく、理性より本能を優先してジャルタの首に吸い付いてまう。
すると、キスマークをつけ始めるなりジャルタは甘い声を漏らし出す。
「あっ、あぁっ♡」
ヤバい、この声を聞いてると本格的に襲ってしまいそうだ。
「あっあ、あうっ♡」
早くキスマークを付け終えないと理性が壊れてしまうので、強めに吸ってやってから少し顔を離し確認するとしっかりとジャルタの首にキスマークの痣が出来てたので離れた。
「はあっ、はあっ♡ ……もっと。もっと付けて下さい♡」
が、ジャルタの様子がやけにおかしくなっていた。
ジャルタは小声で何かを呟きながらフラフラした足取りで近付きだし、対する自分はジャルタの表情を見て思い出した事があった。
それは……
「私の体に、キスマークを下さい♡」
この表情と纏う空気は、目覚めるなり自分をいきなり犯してた時に良く似ているという事だ。