その後は明日に人手をこちらへ送ると告げてから黒髭とそのマスターは、互いに自己紹介をしてから立ち去った。
「騒がしい二人だったな」
「えぇ。ウザいったらありゃしなかったわ」
さて、やる事が出来てしまったから明日に備えたいが、ドラゴンを手懐けるのに何の用意をすれば良いんだろうか?
「それで、今日は予定通り素材集めする?」
「そうします。明日に備えると言っても、身一つで充分なので。それに、この辺の敵相手に私は疲れませんし」
後、ラブホテルは世界崩壊する以前より格安にはなったらしいけど、宿泊費は掛かるからお金はそれなりにあった方が困らないというのもある。
じゃあ、今日も働くとしますか……という訳なので、魔物が出るポイントへ向かい主にゾンビを狩りに向かう。
「相変わらず数はあるわね……マスター!」
「はいよ!」
狩りは昼になるまで行い、ジャルタは遠くの魔物は炎で焼き払い近付かれたら旗を振るい殴るか突き刺す。
自分は彼女が戦いやすくする為に、まだ使い慣れていないけどガンドを慎重に放ちスタン状態にしていく。
自分はガンドを魔力がある限りはそれなりの数を撃てるので、ゲームアプリみたいに一発撃てば次が撃てるまでに時間が掛かる事がないのは助かった。
けど、数を撃つと魔力が減ると同時に体力に影響してくるので調子に乗って撃ちまくるとバテるので、自分の状態などと相談しながらやらないと危険に陥る。
「流石に数は撃たなくなったわね!」
「前に君に怒られたからな!」
一度だけ調子に乗ってやらかしてしまった事があり、動けなくなった自分をジャルタが抱えて逃げなきゃならない羽目になった事がある。
逃げ切った後の彼女の説教は滅茶苦茶に感情をぶつけるものではあったけど、それだけ迷惑を掛けてしまったのは事実だから大人しく聞きに徹した。
それに、説教をするという事は心配させてしまった彼女に嫌われてないという事でもある筈だ。
しかし、説教を受けたのに嬉しく思う自分は変なのかな?
「次が来たわね。そろそろ数は稼いだけどどうしますか?」
「あいつらを片付けた後、すぐに素材を拾う! 終わったら逃げよう!」
「いつものように持てるだけね。なら、あの魔物の素材ごと焼いてしまいましょう」
それは勿体ないと思ってしまうけど、魔物狩りをした周囲は血の臭いが濃い。
死体から剥ぎ取りして持てるだけの素材を運ぶのは手早くしないと、血の臭いに釣られて別の魔物が近付いてきてしまう。
……が、ゾンビの場合は倒したら消滅して素材を落とすので、剥ぎ取りに掛かるの時間の心配はない。
だからすぐさま素材を袋に入れていき、重くなってきたそれをジャルタが持ち、自分も運べる程度の重さにした袋を持つ。
「さあ、逃げるわよ!」
「あらほらさっさ!」
「それ、気が抜けるからやめてくれないかしら!?」
無事に狩場から逃げてきた後に水が使える集落がある場所まで歩き、剥ぎ取りした素材を綺麗に洗っていく。
それが大体やることだけど今回狙ったのが主にゾンビなので、その手間は少なかった。
「すみません。貴重な水を使わせてもらって」
「気にするな。素材を買う金から水代は引くからね」
「この時代、飲み水はラブホテルからしか手に入りません。その水自体は無料ですけど集落まで運ぶのが辛いですよね?」
「まあな。けど、この集落には幸いにもサーヴァントがいてくれるから助かってる」
その集落で素材は必要かと聞いてみると、一騎だけ通常の限界まで成長しきれてないサーヴァントがいたので、素材の一部を水代として使わせて貰っている。
洗いながらこの集落についてそれとなく聞いてみると、幸運にもサーヴァントが三騎いてくれてるので助けてもらっているそうだ。
「それは良かった。ところで、そのサーヴァントの名を聞いてもよろしいですか?」
「良いよ。ロビンさんとレオニダスさんだ。後、素材が必要らしいアキレウスさんだよ」
ロビンとレオニダス、アキレウスか。
トラップなどの裏工作が得意なロビン、防衛が得意なレオニダス、敵には苛烈で味方には甘いと極端な所はあるけど豪傑と言われたアキレウス。
なるほど、この三騎が揃う集落はとんでもないのが来ない限りは大丈夫だな。
てか、神性持ちでないとダメージを与えられないらしいアキレウスがいる辺りで、集落の未来は明るめかも知れない。
「いやー、素材貰えて助かったわ。スキルだけは上げきってなかったもんでな!」
と、集落の住民のおっさんと会話をしてたら件のアキレウスが現れた。
その少し後ろに、アキレウスのマスターらしき美女がいる。
……ふむ、スタイル良いなと見つめていたら右耳を軽く引っ張られてしまう。
軽くとはいえ、サーヴァントの筋力でやられると軽くでも痛いものは痛かった。
「痛い……」
「余所見してる暇があるなら、さっさと残りの素材を洗いなさい。洗いもせずに長居するのは失礼よ?」
耳を引っ張ったのはジャルタであり、美女を見ながら面白くなさげな表情をしている。
それらを見ていたアキレウスは……
「俺のマスター、美人だろ? お隣に綺麗な花があっても見惚れるのも仕方ないな。だから嫉妬するなとは言わんが程々にな?」
「嫉妬してません。素材を洗う手が止まってたので注意しただけですからー」
「素直じゃないねぇ」
そっぽを向いてしまったジャルタを見ながら苦笑するアキレウスは、自分に目でどうにかしとけと伝えてはいる気はするけど、からかっているような気もする。
「すまない。けど、自分の一番はジャルタだからあの美女に惚れはしないよ」
「な、何言ってんのよ人前で! その台詞で私まで恥ずかしくなるし、余計変に思われるじゃない……結構、一番って言われるの嬉しくなるものね」
それは気のせいだと思う事にして、ジャルタに素直な気持ちを伝えるとまたそっぽを向かれてしまった後、自分には聞こえないよう小さく何かを呟いていた。
それはアキレウスには聞こえたらしいのか、ニヤニヤとした表情でジャルタを見ていた。
「そういえば、アキレウスさんはマスターとは仲は良い方ですか?」
「まあ、良い方だと思うぞ。良い性格してるけど、それも味がある」
良い性格をしてるって、どういう事かと聞こうとすると美女が視界に入ってくる。
その美女もアキレウスみたいにニヤニヤとしていたので、なんとなく理解した。
この美女は恐らく、自分の容姿を使って自分とジャルタの反応を楽しんでいたのだと。
「ここだけの話だけど、ロビンもロビンで可愛い嫁さんになるかも知れんマスター持ちだから」
「ロビンさん、苦労してそうです」
「俺のマスターが弄りに行くから、苦労してるのは違いない」
「あの緑は大抵、何かしらの苦労をしてるのね」
厄介な美女に玩具として目を付けられたらしいロビンとそのマスターは大丈夫だろうか。
といった会話をしながら素材を洗い終えた後、集落から離れて昨日に泊まったラブホテルへ向かい明日に備える為、今日は何もせずに眠りに就いた。
翌日の早朝、ベッドの上で目覚めると違和感があった。
自分の寝巻きのパジャマ……宿泊客の為に室内に置かれたの上が捲られていて、違和感の正体が自分の胸元で。
「ちゅう……んむっ」
キスマークを付ける事に夢中になっていた。
もちろん、違和感の正体の名はジャンヌ・オルタ。
人によっては邪ンヌと呼称する、自分のサーヴァントであり自分の一番の女だ。
「おはよう」
「…………」
取り敢えず目覚めの挨拶をすると、キスマークを付けるのに夢中から我に返ったらしくジャルタは固まり……
「…………今日のこれは忘れてちょうだい」
「時々ある事だろ? 慣れたよ」
自分が寝てる間にキスマークを付けられる状況を見るのは、これが初めてではない。
彼女は、被害者は自分のキスマーク常習犯であるので、動揺するジャルタに苦笑するしかない。
彼女からキスする場合、発情はしないとしてもキスするかキスマークを付けるのに夢中になる癖があるのだ。
「私の体質が恨めしい……また恥をかいたじゃない」
さて、今日は何分経過したら自分に乗っかったまま項垂れるジャルタは自力で立ち直れるのか。
自分が慰めるのも良いけど、悩む彼女も可愛いから困る。
……その後、五分はそのまま眺めていたけど今日にやる予定を思い出したので、それを言ったらジャルタはそうだったと身嗜みを整え始めると同時に立ち直った。
立ち直った後、ラブホテルから出ると昨日のように誰か数人を背中にしながら、黒髭とそのマスターである高坂さんが待っていた。
そこにいるのが、ドラゴンの使役するのを手伝いに来た人なのだろうか。
「おはよう野火さんと邪ンヌ! 今日は我ら【プレヒティヒフース】がまた一歩、通販再開へ進む大事な日だね!」
「華麗な足とか言ってるけど、それの由来は何かしら?」
プレヒティヒフース? 英語ではなさそうだけど、高坂さんが口にした組織名をジャルタはすぐに理解したらしく華麗な足と翻訳。
しかし、中二の頃の何かを刺激する響きがする。
「華麗じゃなくて、立派な足。某錬金術師の名言が由来だよ」
「あっ、そっちね。いいんじゃないかしら?」
あの初期辺りの名言か。
それを由来にしてくるとは、センスがあるのかも知れないけどやはり、自分が中二の頃を思い出してしまう。
「因みにプレヒティヒフースはドイツ語だよ。それをすぐ翻訳出来た邪ンヌちゃんは真っ盛りだね!」
「!!」
ドイツ語……ああ、ジャルタが翻訳出来た理由が分かったよ。
彼女、そういうところあるからすぐ反応しちゃったんだろうな。
てか、ドイツ語って何でか知らんけど普通ならそうカッコよくない言葉でもカッコよくする不思議な国語だから、ジャルタはそういうの気に入っちゃって無駄にドイツ語の単語を覚えまくってたんだろうな。
その成果が今、ここで出てしまったか。
「てか組織名を今、初めて聞いたんだけど」
「ごめん。昨日、教えるの忘れてたよ」
大事な事だから、組織名はちゃんと仲間にするなら教えないと駄目だろ。
「それで、後ろにいるのって……」
「はい、そうです。野火さんと邪ンヌのフォローをしてくれるマスターとサーヴァントだよ」
高坂さんが手振りで呼ぶと、マスターとサーヴァントが近づいてくる。
てか、遠目でもその時点でサーヴァントが丸分かりなんですけど……このサーヴァントがフォローするのか? 確かに上手くやればフォロー出来るサーヴァントかも知れないけど。
「やっほー! クラスはライダー、真名アストルフォ。ボクの性別は男だけど可憐に参上!」
「アストルフォ。せめて華麗にと言ってくれ……」
「松本さん。アストルフォはただのノリで言っただけなんだろうから、そこまで気にしちゃ駄目だよ」
どっかの戦隊ヒーローみたいなポーズしながら自己紹介をしてくる、自分とジャルタの手助けをする事になったらしいアストルフォ。
アストルフォのマスターは見た感じ、普通の高校生か大学生の男性に見える。
突っ込みをしっかりとする辺り、まともと判断して良さそうだ。
「それで、あなたが野火さんか。俺は松本冬師。元高校三年生です」
「よろしく頼む……ところで、アストルフォを召喚しての今までってどんな感じだった?」
アストルフォって、自身が思うままに動いてしまうところがあるので振り回されなかったのかと質問してみた。
そしたら、案の定というか……
「一言で言えば、アストルフォは行き当たりばったりでして。例えば、素材を必要としているマスターとサーヴァントの助けになるのはまだいい。色々と落ち着きがないのはまだいい。けど、素材を買うお金がないマスターにタダであげてしまったりとかが……」
「でも、大きな揉め事は無かったと?」
「まあ、それは今までなかったので幸運ですね」
アストルフォの幸運は高いからなんとかなってたようだ。
では、高坂さんに目を付けられた理由について聞いてみると……
「アニソンの為、です。二次元がなくなる=アニソンも無くなる。そんな未来は暗い。だから高坂さんの組織に所属しました」
高坂さんとは方向は少し違うが、同類のマスターだったことが判明。
自ら望んで所属した松本君は、この選択は決して間違ってなんかいないと確信している輝きが目にあった。
「二次元好き同士は惹かれ合うと言いますから。さて、次は俺から質問ですが野火さんは二次元の何が好きですか?」
「二次元の……」
まさか、二次元がどれ位好きなのかと聞かれてしまったので、どう答えようかと悩んでしまいながらの自分の口から出てきた言葉は……
「昔は絵を描くのが好きだったからか、漫画家になりたいなと思ってた。……まあ、夢破れて社畜してたけど」
「なるほど。なら、新人漫画家短編集ってのをいずれ作る予定だから参加してみる? 実は私も短編を描くから、一緒にどうかな?」
「まあ、予定が確実になる辺りまでには答えを用意しておくってことで良いかな?」
「んー。そうだね。野火さんからしたらいきなりの提案だもんね。良い答えを用意しておいてね!」
昔の事を思い出して呟いたら、高坂さんが漫画家にならないかと誘いつつ短編集の漫画に参加しないかという予定を聞かせてくる。
しかし、自分はいきなりは答えを返せないと返すと高坂さんは致し方なしと頷いてくれたので助かった。
「ねぇねぇ。名前は野火さんだったよね?」
「ああ。そうだよ。何かあるのか?」
「うん。君に質問があるんだ」
漫画家の件については保留となった後、アストルフォが何かが気になっている様子で言ってきた。
「自分に答えられる内容なら構わないけど」
「ありがと! 君に会ってから、と言うよりジャンヌ・オルタと君に会ってから気になったんだけど……」
この後に、自分はアストルフォに質問をされることを許してしまったことを後悔することになる。
「何で君の首にキスマークみたいな痣が付いてるの?」
質問をされた瞬間に自分は固まり、ジャルタは目を泳がせ顔を赤面させてしまう羽目になるのだから。