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想 (R-18)
ーあいつ、死んだんだってな
照明の薄い葬儀場、僕はただ1人立ち尽くしていた。目の前には木の枠に囲まれた見覚えのある少女、小綺麗な棺桶、朝も夜もわからない花。
泣きはしなかった、ただ悔いてはいた。でもそれもじきにどうでもよくなるってこともよく分かってた、脳裏に焼き付いたあの眼を除いては。
ー初めて会ったのは一年前だったか
月曜日ってものはいやらしいと常々思う、だってそうだろう?二日も行かなくて済んだ学校へ行かなくてはならないのだから。
そんなことを言っていても仕方がない、月曜日はもう来てしまったのだから、着慣れた似合わない制服を纏い履き慣れた似合わない靴を履いて出かける。
「まずいな、このままだと遅刻だ。」
嫌な気持ちを盛大に込めた朝食は食べ終えるのに普段の倍も時間をかけた、ならばこの状況は必然だろう。
仕方がないので走って向かうことにした、悪目立ちだけはしたくない、なんとか遅刻だけは免れなければならない。
すると目の前に同じ制服を着た少女がもたもたと歩いていた。
今思えばこの時僕が声を掛けなければこんなことにはならなかったのかもしれない、まあもう遅いが。
「急がないと遅刻するぞ。」
やめれば良かったのに、余計なことをする必要なんか無かったのに声を掛けた。
「私に関わらないで」
少女は素っ気なく応える、よく見ると足を怪我している様だった。
「足、怪我してたのか。悪かったな、荷物くらい持つよ。」
すると少女は何かに取り憑かれたかの様にそれを拒否した、有無を言わせぬ眼光にに心配の気持ちよりも恐怖の方が勝った僕はその後は何も言わず足早に通り過ぎた。
遅刻ギリギリだったがなんとか間に合った、胸を撫で下ろした僕はふとさっきの少女を思い出す。
無事に学校に着けたのだろうか、それにあの尋常ではない怯えようは何だったのか。
そしてなぜ忘れてたのかすら分からないほどに当たり前な事を思い出したんだ。
彼女、僕のクラスメイトだ。
ー来たぞ、来たぞ、ゴミ人形だ
ガラガラという音と共にドアが開く、その瞬間今まで静かだった教室が騒ぎ始める。
「遅かったじゃねぇか!ゴミ人形さんよぉ!」
「てめぇ誰に断って遅刻してんだ?あぁ?」
あまりに聞き苦しい言葉を浴びせながら男達が詰め寄り顔を殴り腹を蹴った、笑いながら男達は暴行を続ける。
「うわっ!こいつ吐きやがった!」
「汚ねー!どうしてくれんだよ!」
「お前が綺麗にしろよ!これよ!」
そう言って男達は彼女の吐瀉物を彼女自身に舐め取らせた。
流石にやりすぎだろう、しかし声は出なかった、明日は我が身かもしれない、余計なことはするな、身勝手な正義など要らないだろう。
ただひたすらに言い訳をした、助けたい気持ちが無いわけではないんだという事を思い胸に秘めた。
男達は飽きたのか少女に蹴りを一発入れて去っていった、それを見た僕の中にどうしようもない気持ちが湧いてきた。
助けてあげよう
あまりに卑怯、あまりに利己的な考えだったが罪悪感はなかった、むしろ良心に従った自分に惚れ惚れしていた。
「あの、大丈夫?」
「これが大丈夫に見える?」
無論見えるわけはない、だが他にどういう言葉をかければ良かったのか。返答困る僕を見て彼女は言った。
「嘘、君がそういう意図で言ったんじゃないっていうのは知ってる。だからもう関わらないで。」
彼女はそう言い切ると立ち上がりその場を去ろうとした、しかしすぐに倒れてしまう。
「保健室まで連れて行くよ。」
「関わらないでって言ったでしょう、放っておいて。」
「なぜ関わってほしくないんだ。」
「ロクな目に遭わないよ、見てたでしょう?それとも君は殴られたがりのマゾヒストなの?」
「じゃあ君はそうなのかい?」
「そんなわけないでしょう、バカらしい。」
「なら僕だって違うさ、いいから保健室へ行こう。」
「忠告はしたわ、知らないわよ。」
僕は彼女を保健室へ連れて行った、同い年なのに異常なほど軽い彼女の体はまるで鳥を乗せているかのように錯覚するほどだった。
「失礼します。」
先生はいなかった。
「しょうがないな。」
適当に治療道具を漁り、彼女に渡す。
「私が自分でやれと?」
「しょうがないだろう、誰もいないのだから。」
「君がいるじゃない。」
「そんな簡単に男に体を触らせるものじゃあないよ。」
「さっきはおんぶまでしてたじゃないの。」
「君は服の上から胸を揉むことをセックスと言うのかい?」
「セクハラよ、それ。」
「それもそうだ。」
「面白いね、君。」
そう言うと彼女は笑顔を浮かべた。
ほら言わんこっちゃない、僕はバカだ、後先を考えずに偽善を施すからだ。
恋に落ちてしまった、愚かしくも目の前の哀れな少女を愛してしまった。
「まだ寝てなよ。」
「待って。」
「なんだい?」
「君にその気があるなら明日もここにいるわ。」
「そうかい。」
心の底では興奮していたがなんとか悟られないようにそっけない返事をする。
かくして、僕と彼女の保健室の密会が始まった。
ー佐山 操、それが私の名前
次の日、興奮冷めやらぬ僕は保健室へ向かった。
ガラリとドアを開けると彼女はベッドに座っていた。
「おかえり。」
「保健室へおかえりはどうなんだろうね。」
「そうね、次までにはなにか気の利いた挨拶を考えておくわ。」
「今日も助けられなかった、ごめん。」
「懺悔は教会でするものよ、ここはただの保健室。」
「酷いやつだと思わないのかい?」
「君にそんな期待はしてないわ。」
「傷つくよ、それは。」
「傷をつけられたのは私よ。」
「まいったな。」
「でも感謝はしてるわ、君と話すのはとても楽しい。」
「僕もだよ、えっと…」
「操よ、佐山操。」
「佐山さん。」
「下の名前で呼ばないのは貞操観念かしら?それとも童貞アピール?」
「傷ついたよ、とても。」
「傷をつけられるのは私よ。」
「セクハラじゃないのかい?それは。」
「ご褒美と言ってほしいわ。」
「無理がある。」
「それもそうね。」
「もうこんな時間だ。」
「お別れね。」
「明日もまた会える?」
「いいわ。」
「じゃあ、また明日。」
「ええ、さようなら。」
幾度か密会を繰り返すうちに確かに仲良くなっている実感がある、それと同時に佐山へのいじめを見て見ぬ振りするのが確かに辛くなってくる。
明日こそはと呟いて僕は今日も何もしない。
初めての密会からおよそ半年は経っていた、あいも変わらずガラリとドアを開けると彼女はベッドに座っていた。
「やあ。」
「いらっしゃいませ。」
「考えた結果がそれなのかい?」
「ええ、不満かしら。」
「いや別に。」
「今日は一段と酷い。」
「前が見づらいわ、ここに来るまで3回も転んでしまったのよ。ね
「なぜ誰かに相談しないのかい?」
「取り合ってくれないわ、みんな私のことを厄介がってる。」
「君は悪くない。」
「関係ないのよ、そんなことは。」
「親は?警察は?」
「頼りにならないわ、両親ですら私のことが嫌いなのよ。」
「なら逃げ出そう。」
「こんな歳で何ができると言うの、適当なことを言わないで。」
「だからって受け入れるのかい?」
「ええそうよ、今までだってそうしてきたもの。」
「間違ってるよ。」
「何もわからないくせに。」
「そりゃそうだ、童貞と処女だからね。」
「私が未経験だなんて言った覚えは無いわよ。」
「僕だって言ったことないだろう。」
「今言ったわ、自分で。」
「まんまと嵌められたな。」
「ハメたことは無いわよ。」
「深読みしても?」
「セクハラよ。」
「佐山。」
「ええ。」
「操って呼んでも?」
「ダメなんて言った覚えは無いわ。」
「それもそうだ。」
「操。」
「ええ。」
「好きだ。」
「突然ね。」
「突然じゃない。」
「そうね。」
「答えは?」
「やめといたほうが幸せよ。」
「僕が頼んでいるんだ。」
「保健室では満足できないの?」
「ああ。」
「今日は解散ね。」
「無回答は否定と取るべきかい?」
「好きにしてちょうだい。」
そう言うと彼女は足早に帰路に着いた。
それから1カ月彼女が保健室に来ることはなかった、もとい学校に来ることがなかった。
年の暮れ、寒さも厳しくなる頃、彼女は再び保健室に現れた。
「やあ。」
「……」
「返事もしてくれないのかい。」
彼女は振り向くと僕に向かってこう言った。
「私も愛してるわ。」
「突然だな。」
「突然じゃないわ。」
「そうだね。」
「明日、今までの私に別れを告げるわ、もういじめられっ子はおしまい。」
「どうやって。」
「操り人形はもうやめたと言うだけよ。」
「酷い仕打ちに遭うよ。」
「その時は君が助けてくれるでしょう。」
「もちろん。」
「放課後、旧校舎で。」
「わかった。」
それだけ言い残すと彼女は去っていった。
本当に大丈夫なのか、それはもちろん彼女の心配じゃない、僕への心配だ。
いや、今度こそ助けるんだ。
勇ましい妄想をしながら僕は眠りについた。
ー残念だけど、さよならよ
放課後がやってきた、逸る気持ちを抑え旧校舎へ向かう。
そういえばどこの教室なのか聞くのを忘れてしまった、まずは探さなければならない。
しかし、響く怒号はその必要がないことを僕に伝えてくれた。
「何様のつもりだオラァ!」
「てめぇナメてっと殺すぞ!」
「言った通りよ、お前たちの都合のいい操り人形はもうおしまい。私、好きな人ができたの。」
「何言ってんだこのゴミ人形がよ!」
ドアの隙間から覗く僕、なんとも情けない図だ。男は4人、あまりに無謀だ。すぐにでも止めようと思ったが様子を見る以外に僕の選択肢はなかった。
5分くらい不毛な言い合いが続いたが、終わりはすぐやってきた。
「おい、こいつ犯しちまおうぜ!」
「いい考えだ!好きな人だとか生意気なこと言いやがって!」
「ち、ちょっと!やめてちょうだい!」
「うるせぇ!おい!ナイフ持ってこい!」
「ほらよ!」
「ナイスゥ〜!おら!暴れると切れっぞ!」
「お願い…やめて…」
「黙れ!このゴミ!」
「なかなかいい体してんじゃねぇか!」
これは止めなければ、ドアを開けろ、早く、手を動かせ。
「助けて………」
もはやその声は僕には届かなかった、僕は犯される彼女を見ながらただただ自慰にふけった。泣き叫ぶ操、笑う男達、全てが非現実的な光景の中で確かなのは心に溢れる黒い感情とおびただしく撒き散らした白濁液だけだった。
一通り操の体を弄んだ男達は自分達のしたことの重大さに気づいたのか窓からそそくさと逃げ出した。
「操っ!」
僕の右手はやっとのことでドアにかかった。
「気持ちよかった?」
操は聞いてきた。
「私が犯されるのを見てするオナニーは気持ちよかったかと聞いているのよ。」
「何の…話か。」
「見ていたわ、ずっとずっと。私は君を見てた、君も私を見てた。」
「それは……」
「…ね…。」
「え?」
「死んじまえって言ってんだよ!この変態!ゴミクズ!害悪!偽善者!死ね!死んでしまえ!二度と私の前に現れるな!死ね!死ね!死んでしまえぇぇ!」
あまりの剣幕にたまらず逃げ出した、彼女は僕が去った後もずっと叫んでいた。
3日後、彼女が死んだ。
ーあいつ、死んだんだってな
照明の薄い葬儀場、僕はただ1人立ち尽くしていた。目の前には木の枠に囲まれた見覚えのある少女、小綺麗な棺桶、朝も夜もわからない花。
泣きはしなかった、ただ悔いてはいた。でもそれもじきにどうでもよくなるってこともよく分かってた、脳裏に焼き付いたあの眼を除いては。
ふと最後の会話を思い出す。
「ねえ、君はどうして私に構うのかしら?」
「愛してるからさ。」
「不思議な人ね、私たちが今こうして会って話していることは決して私たちが愛し合っているという証明にはならないのよ?」
「それでもいいんだ。」
そう、それでもいいんだ。ぼくはただ佐山 操という一人の女性を想っていただけなんだから。
結局のところ男とはそんなものです、もしかしたら別の未来が描かれるかもしれません。それではまた