高校生活も終わろうとしている一月、今日はかねてから楽しみにしていた私の合格発表の日。
「ほな、行ってくるわ。」
「本当について行かんでええんか?一人で大丈夫なんか?」
「うん、大丈夫やけん。心配せんといてや。」
桜ノ宮航空学校、私の幼い頃からの目標点。私は3歳の頃からパイロットに憧れていた、空を飛ぶ仕事に就きたかった、だから沢山勉強して体を鍛えるために陸上部にも入った。
辛い時もあったけれどとても楽しかった、友達も沢山できたし何より夢に向かって頑張ることは最高の青春を私にプレゼントしてくれた。
「電車何時やったっけか。」
ふと携帯を見て時間を確認する。
ー新着メッセージ一件ー
「お、智花からや。」
『今日合格発表やったよな!』
『せやで!今から緊張しとるわ!』
『空ちゃんなら大丈夫や!頑張ったけん!ほいたらまたラインしてな!』
『分かったわ、すぐ送るけんね! 』
「あー!電車もう来とる!急がな!」
私は電車に飛び乗り学校へと向かった。
駅へ着くと電車に乗っていたほとんどの人が降りた、押しつぶされそうになりながらなんとか駅を抜けた私は地図アプリを開き場所をしっかり確認する。
「都会は人多すぎやんな…疲れるわ。場所、こっちで良さそうやな。」
駅から10分程度で学校へ着いた、校門は合格発表を見に来た人たちで埋め尽くされている。
「どうやって入んねん!こんなの無理やわ!ここはうちの陸上パワー解放するしかないんか…。」
そんなものはない、分かってる。
わたわたと困っていると優しそうな女性が話しかけてきた。
「合格発表待ちですか?」
「せや、合格かどうか見に来てんけど会場行かれへんのや。姉ちゃんも見に来てん?」
「ううん、私はここの生徒ですよ。」
「え!なら先輩やんけ!失礼しましたわ、うち全然気づかんでごめんなさい。」
「気にしないで、それより合格がどうか一緒に見ない?」
「え、でもまだぎょうさん混んでんで。入れんのに困っとん。」
「ネットからでも見れるのよ、受験番号教えてもらえる?」
「ネ…?まあええか、739です。」
「739…739…中島空ちゃんで間違いない?」
「はい!うち中島空です!で、どうなんですか?分かってん?」
「空ちゃん…………合格よ!おめでとう!」
「え!ホンマか!ホンマなんか!」
「本当に本当、おめでとう空ちゃん!それに私と同じ操縦科ね!私の名前は神崎 翼よ、よろしくね!」
「はい!神崎さん、うちめっちゃ嬉しいです!見てくれてホンマにありがとうございます!」
「いいえ、それより手続きをしないとね、よかったら一緒に行かない?」
「お願いします!」
そして神崎先輩に教えてもらいながら入学手続きを済ませた。
「ふぅ、疲れたわ。」
「お疲れ様!これから大変だけど頑張って一緒にパイロットになろうね!空ちゃん!」
「はい!これからもよろしくお願いします!」
先輩と連絡先を交換してその場を後にした。
「受かったんや…うちしっかり受かっとんのや…!」
浮かれる心を抑えて帰路につく、家に帰るまでが合格発表や。
やけど神崎先輩はええ人やったなぁ、美人やしあれはモテるで。
そんなことを考えてる間に電車が来た。
「空いとる!ラッキー続きや!こんなにラッキーだとなんかありそうで怖くなるわ…。」
何事もなく電車は走る、そしていよいよ帰ってきた。改札を抜けると私を呼ぶ声がする。
「空ちゃん!おかえりー!」
「智花!ただいまや!」
「おかえり!空!」
「お母さんも来てくれたんか!迎えありがとな。」
「ほんで、どうやったん?ええ顔しとるっちゅうことは!」
「見事合格や!」
「ホンマか!やったな空!」
「空が頑張ったけん、受かったんね!」
「えへへ、やりゃ出来る子やけんね!」
「ほんなら今日はパーティやな!うち颯ちゃんたち呼んでくるわー!」
「ちょ、智花!気ぃ早すぎや!」
「相変わらずやんな、智花ちゃんは。」
「せやなぁ、変わらんなぁ。ほいたらうちらも帰んね、お母さん。」
「うん、帰ろか。」
その日の夜は高校の友達も交えた盛大な祝いの席が開かれた。
そして一月の後、ついに入学式の日がやってきた。
「ほいたら、行ってくるわ!」
「うん、気をつけてな。」
歩き慣れた道なのに何故か初めて歩くような気がする、行き慣れた駅へ乗り慣れた電車に乗りに行くだけなのに、こんなに新鮮なものか。
全てが順風満帆だった、そうこの日までは何もかもが幸せだったんだ。今朝起きた時に襖に小指をぶつけた、朝ごはんの目玉焼きが硬かった、家から出た瞬間に靴紐を踏んで転んだ。不幸であろうことすら楽しめた、だって夢を叶えるための第一歩を踏み出す日なのだから。
突然現れた暴走車に私は撥ねられた
鈍い音がした、身体中が痛くて起き上がれない、なにが起こったのかも全くわからない頭が痛い。
「にゅ…が…いか……ん……と…」
私の意に反して私は意識を手放した。
目が覚めた、見知らぬ景色が目に飛び込んでくる。
「どこや…ここは。」
「…!おばちゃん!おばちゃん!早う来てや!空ちゃんが目開けた!空ちゃん大丈夫か!」
「ともか…。」
「無理すんなや、重症や。動いたらあかんで。」
「ともか…うち、どうしてん?」
「空ちゃん入学式行く途中で車にしゃがれたんよ、道歩いてた兄ちゃんが救急車呼んでくれてん。」
「しゃがれ…じこしたんか、うち…あほやなぁ…」
「空ちゃんはなんも悪くないねん!車乗ってたの酒飲んだおっさんやきに、せやけどそいつら逃げてもうてんよ。うち、どうしても許せんし空ちゃんも目開けんしでもう…」
「ありがとな…ともか…」
「空!大丈夫なんか!」
「おかあさん…」
「よかった…生きててくれてよかった…」
「おかあさん、うち…」
「聞いとるけん、ゆっくり話せや。」
「うち…にゅうがくしき、いけんくて…」
「大丈夫や、空。学校には事故で行けんかったって言うてある、学校もそれから大丈夫や言うてくれてるけん。」
「よかった…」
智花の方を向こうとふと視線を変えた、見てしまった。
「あ……あ……?」
「そ…!」
「うで………ない……?どういう……え?」
「空、落ち着い「うちのうでない!なんでや!うでが、うでが!ないねん!うでがうわぁぁあぁあああぁあぁあぁああああぁぁぁぁああぁあ!」
「智花ちゃん!ナースコール押して!」
「わ、わかった!」
部屋を埋め尽くすほどの絶叫、号哭。18年間大切に付き合ってきた身友との別れはあまりに受け入れがたいものだった。
「あ…うち、寝てたんか。」
あれだけ泣いたら寝るか、と他人事のように思う。
夜も更けた、流石にみんな帰っていた。いまだ健在の左腕でスマホを開く。
「うちの右腕は死んだんに、スマホは生きとったんやな。」
なんて、笑えないジョークを口にする。
「お母さんや。」
『明日からの入院に備えるけん、今日は先に帰るけんね。今は一人でいたいやろ、ゆっくり休めばええからね、明日の朝また行くけん。』
「お母さん、備える必要はもうないんや。」
点滴を無理矢理引っこ抜く、痛い、血もたくさん出る。
「気にしてられへん、行かなあかんねん。」
覚束ない足取りで外へ出る、誰かに見つかったら連れ戻されるだろうか。
「夢が、うちの夢が待ってるんや。」
階段を登る、登る、登る。最上階へ、登る。
「叶うで、まだ遅くないんや。」
最上階、重い扉を開ける。
吹き抜ける風に冷たさを感じる、それと同時にある種の気持ちよさも感じていた。
「ふふ、ここがうちの滑走路か。」
腕がなくなったらもうパイロットにはなれん、みんなはきっと他の道もあるって言うやろ。違うんや、そうやない。うちは、うちは
「もしもし、空?」
「お母さん、ごめんな。こんな遅くに。」
「ええよ、もう落ち着いたんか?」
「うん、でも言いたいことはそれやないんや。話したいこと、あんねん。」
「うん、聞いとるよ。」
「お母さん、覚えとるか。うちが初めて夢の話した日。」
「よく覚えとるよ、あの頃は可愛かったけん。」
「あの頃ってなんやねん!」
「ふふふ、今も可愛いよ。」
「まあええわ。そんでな、うちの夢はあの日からずっと変わってないねん。でももう終わりや、腕のうなってしもうたらもうパイロットにはなれへん。」
「空飛ぶ仕事はパイロットだけやない、空ならスチュワーデスとかも出来るわ。」
「わかっとる、わかっとるよ。でも違うんや、うちの夢はあの日からずっと…。」
「空?」
「お母さん、今までありがとうな。お父さんおらんなってから大変やったな。」
「何言うてん?空、あんたまさか!」
「おかあさん。うち夢叶えるけんね。」
「空!待っ
途中で切ってしまったがしょうがない、もう離陸時間だ。
「中島空18便の出発や!」
ーおかあさん、うち大きくなったらそらとぶしごとがしたいねん!だってカッコええやろ!うちがとんだらおかあさんよろこぶねんな!
風を切って宙を舞う、早い!速い!疾い!
お母さん、うち空飛んでるで。夢叶ったで、だから笑ろてや、うちはお母さんの喜ぶ顔が見たいねん。
最初に死体を見つけたのは不審な音に目を覚ました近所に住む男だった。
小さな飛行機の墜落は瞬く間に知れ渡った、病院には献花台が置かれて連日花やお菓子が供えられた。
しかし一週間もするとそこをもう訪れようとする人達は居なくなっていた、ただ一人を除いては。
「空ちゃん、なんで先に死んでもうたん?本当にうちがいたこと忘れてたん?酷い話やわ、足もろくに動かない右腕もない、そんな空ちゃんがどうやって一人であそこまで行ってフェンス乗り越えるんよ。うちのおかげやんな、ほんで一緒に行こう言うたやないか、お母さんにお礼を言いたい言うけん待ってたんに、一人で勝手に行ってもうて…。」
持ってきたミルクココアを献花台に置く。
「最後の乾杯や、この時期いっつも二人で飲んでたやろ。懐かしいなぁ。」
自分の分のミルクココアを飲み終え、するりと縄を首にかける。
「ほな、うちも行くか。」
空さんは一体誰に殺されたのでしょうか、自分?智花さん?はたまた夢に殺されたとも言えますね。それでは皆さん閲覧ありがとうございました。