※この作品はR-18です。

妊娠作品   作:夢枕 七変化

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白ひげ海賊団16番隊隊長イゾウ(光源氏)沢山の父親

 今日もいい天気だわ。夏島が近いのか、最近はずっと温暖な気候が続いてる。

 気候が安定してるのはいい事だけど、なんか……そのせいか体調が優れないのよね。先月くらいからイゾウは忙しくしてるから夜の事も無いし、海図とか執筆とかも最近は昼間1人の時間に終わらせてる。

 なのに、なんか……異様に眠いし……。何より、体が妙に重怠い。

 ……この気候で風邪を、この体がひくなんて考えにくいんだけど。そう思っていたら、今朝はとうとう吐気がして来て……これはマルコに相談して診てもらうしか無いのかなと、小さく息を落とす。

 皆過保護だから、出来るなら診てもらいたく無いんだけど。そんな事を考えていたら、声が掛かった。

 

 「ナミ、どうしたよぃ?」

 「あ、マルコ……。うーん、夏バテか夏風邪かって感じでね。最近はちゃんと寝てるし食事も抜いてないのにって思ってたの」

 

 噂をしてないのに影である。マルコの過保護はどうやら、何かのセンサーでも内蔵されているらしい。

 

 「……診てやるから、部屋に「ううん、大丈夫。ビタミン剤くれる?」」

 「ナミ」

 「あんまり、薬に頼りたくないのよ。……免疫力が落ちるでしょ」

 

 私の言葉にマルコは確かにねぃと頷くと、腰にあるポーチから錠剤を取り出した。それを気楽な様子で渡してくれる。

 普通の人でも、運動を日常的にする人なら案外ビタミン剤で風邪なら治るのだ。平熱が37度より高い人は基本的に風邪をひかないし、癌にもならない。

 

 「それ飲んで、3日……症状が安定しなかったらちゃんと診させろぃ」

 「はぁい」

 

 そう言ってマルコを見送った直後、時間も丁度いいからとサッチの元へと向かう。ひょこっと顔を出せば、サッチはカウンターに私を手招き、腰掛けると同時にそっと頭を撫でてくれる。

 それからじっと顔を見て、軽めの物にしとくかなんて言うから、サッチも船医になればなんて言って笑ってしまう。でもそんな軽口にサッチは笑いながらも、ナミちゃんにしかこんな事しねェよなんて言われたら、それ以上は何も言えない。

 食事の時間もズラしてるし、サッチが毎回何かを目の前で作ってくれる。甘やかされてるとしか言い様がないわよね。

 そうして出されたのは天津炒飯と、法蓮草とベーコンのミルクスープだ。どちらも多くの栄養素を取れる上に、柔らかいから胃への負担が少な目と言う優しいメニュー。

 

 「本当に、サッチは私を甘やかすのが得意よね」

 「食後にデザート出すから、今は生野菜はやめときな」

 「……そんなに顔色悪っ!」

 

 顔色が悪いのかと問い掛ける事さえ出来ず、その時私は料理からの蒸気と匂いのどちらに反応したのか分からないままに、突然込み上げてきた物に言葉を飲み込むしかなくなってしまった。即座にカウンターを乗り越えてサッチが私を支えてくれたけど、今はとりあえず洗面所に行きたい。

 それに気付いたのか、サッチは軽々と私を抱き上げると近くのトイレまで運んでくれたので、そこで少し1人にして貰った。でも……これ、まさか……。

 だとしたら、マルコに診てもらわなくて良かったわ。早く、誰にも知られる前に、船を降りなきゃ……。

 大所帯の海賊船で、戦えないばかりか弱点にしかならない存在がいるのは許されない。でも、そうだとするならば、私はこの子に逢いたい。

 考えてみれば、最低でもここ二~三ヶ月は月の物が来てない。船の上だから、乱れやすいのもあって気にしてなかったけど、多分間違いないわ。

 ……イゾウの優しい手を、1瞬思い出した。慈しんでるのだと言う事を隠しもしない優しい手が、頭を撫でたりしてくれるそれを……思い出す。

 それだけで泣きそうになる自分に自嘲して、けれども唇は勝手に愛しい人を呼んでいた。甘えすぎだと、分かっていながら。

 

 「……イゾウ」

 「ナミちゃん、大丈夫か?」

 「え?えぇ、少し風邪っぽくて。明日辺りマルコに診てもらうわね」

 

 心配そうなサッチに笑いかけると、サッチは粥にしてやれば良かったななんて言うから、そんなに重症じゃないからと言ってとりあえず無理に用意された物を食べ切った。でも、それから間もなく襲いかかって来たそれにより、大半が体から放出されてしまったのだけれど。

 その日は念の為にと部屋に押し込まれ、それを知ったイゾウが仕事を投げ捨てて戻って来たのには困ってしまった。本当に、優しい人よね。

 

 「こら、仕事を投げ捨てちゃダメよ。私のは、単なる夏風邪なんだから」

 「……マルコにそう言われたのか?」

 「ん?マルコには明日ちゃんともう1度診てもらうわ。1応処方して貰った物はあるから、それ飲んで休んどく」

 「……なら、良いけどね。いい子に寝てるんだよ。だが……ここで仕事をしてたら、ナミが休めないか」

 「……イゾウ、相手のある事でしょ。私は大丈夫だから、仕事に戻って」

 

 じっと見詰めれば、イゾウは仕方なさそうに頷いた。そっと私の額にキスを落として、軽く指先に髪を絡ませながら寂しそうに笑うと行ってくると囁きを落とす。

 それに微かに胸が痛んだけど、大切だからこそ私はこの選択肢を選ぶ。大切な人を傷つけない為に。

 

 「……行ってらっしゃい。少し、寝るわ」

 「今夜は、寝ずについててやるよ」

 「気にしないで寝て頂戴」

 

 そんな事を言って笑い合う。その背を見送り、少しして気配が遠のいたのを確認した私は、最低限の荷物を手に立ち上がる。

 クリマタクトがあって、良かったわ。イゾウもマルコも親父様もサッチも……皆過保護だから、バレたら大騒ぎになって迷惑かけちゃうもの。

 今の私に行ける場所なんて無い。帰れる場所はもう、ここしかない。

 それでも、ここには居られない。……ちゃんとこの子が自分で歩けるようになったら、戻って来るから。

 ペンを手にして、そっと文字をしたためる。イゾウがよく着ていた着物を1枚、荷物の隙間に押し込んでドアに手を伸ばしてから1度だけ振り向く。

 帰る事を許して貰えるといいけど……。もしかしたら、最後になるかも知れないと分かっていて、だからこそ目に焼き付けるようにしてからドアを開ける。

 廊下に誰も居ないのを確認してから、クリマタクトで姿を消した。足音と気配を殺しつつ、私は1人モビーを飛び出して行く。

 故郷に帰れば、色々な意味で即座に追っ手が掛かるのは分かってるから、帰れない。ベルメールさんも、ノジコも受け入れてくれるだろうし、ドクターがいるから産むのも困らないだろうし、ゲンさんが命懸けで守ろうとしてくれるだろう。

 でも、だからこそ帰れない。行ける宛なんて何処にも無い。

 シャンクスも海の上だし、クロッカスさんは多分即座に白髭海賊団に連絡入れちゃうだろうし。なら、どうしたらいいかな。

 それでも、ここには居られないから……さようなら、大切な愛しい家族達。いつかきっと、帰るから……。

 そうして安定した海域を選んで進み、途中で襲い来る体調不良により私は海上で休む事を余儀なくされた。……いつもの様には、いかないか。

 どうしても寒くて、持ち物からイゾウの着物を取り出してそっとそれを被るようにして船底に身を横たえる。着物は紐で裾を上げて着る物だから、普通なら引き摺るように作られてる為、肌掛けのように使う事には特に問題は無いのだ。

 少し休んだら、何処か……あぁ、シャンクスの縄張りの何処かへ行こう。それなら、見付からないし、通報されないし、狙われないもの。

 そんな事を考えながら眠りにつくと、突然船が大きく揺れて意識が覚醒する。覚醒しても、ろくに動けはしないけど。

 

 「……波?」

 

 それにしては、変な揺れ方だし、海は穏やかだわ。そう思って霞む視界の中で体を起こそうとしたら、そっと支えてくれる温もりにギョッとする。

 この、香りと温もりは、嫌という程に覚えがある。でも、待って……なんで?

 

 「ナミ、無事で良かった」

 「イゾウ……」

 「こんなに弱った状態で、何処へ行くつもりだったんだね?……熱も、あるな」

 「……私、探さないでって、書いたと思うの」

 

 私の言葉にイゾウは確かに笑った様子だ。でも、気配が怖い。

 あ……これ、本気で怒ってるってわかるんだけど、目が回ってて何も対応出来ない。そんな私の頬にそっと指先で触れて額にキスを落としたイゾウが、低く囁く。

 

 「探してねェさ。ただ、追いかけて来ただけだからな」

 「え?」

 「ナミの居場所は、分かるようにしてある」

 「……いつ、ビブルカード作ったにしても、私持ち歩いてないと思うんだけど?」

 「そこは、秘密さね。教えたら、ナミは対処しちまうからな」

 

 そうして私はまるで当然のようにイゾウに抱き上げられ、落ちそうになった着物を思わず掴むとイゾウが動きを止めた。そして小さく呟く。

 

 「叱られたくなくて、計算してるって訳じゃ無さそうな所が、何とも言えねェな」

 「イゾウ……?」

 「帰るぞ」

 

 イゾウの言葉に思わず首を横に振る。帰るなら、ここ迄来た意味が無い。

 お願い、私を残して行って。私は1緒に居られないの。

 

 「やだ。私、帰らない」

 「こんな体調で、何言ってやがる。感染する病だとしても、俺はナミを降ろすつもりは「私、イゾウよりも大切な人がいるの。だから、帰らない」」

 

 私の言葉に、イゾウは殺気立った。イゾウは普段優しい分基礎はドSだから……こうなるのは分かってたんだけどね。

 でも、衝撃は何も襲って来なくて……それどころか何故か抱き締めるその腕に強い力が入っていく。それに対してイゾウ?と呼び掛けると、何故か笑い出す。

 意味が分からなくて困惑する私を有無を言わさずにモビー迄連れ帰ったイゾウが、戻るのと同時にマルコに私を預けて親父様に視線を向けた。躊躇い無く膝をついたイゾウが、親父様に言う。

 

 「親父!孫が出来た。産ませて良いだろ」

 「……せめて疑問符位つけろ。アホンダラァ!」

 

 そう言って笑った親父様のそれを受けて、イゾウはニヤリと笑うとマルコにそういう事だと1言。それを受けたマルコが成程と言ったと思ったら、そのまま部屋に運ばれてしまいそうになり……。

 

 「ダメだから!ここは海賊船で、私、足手纏いになるのは嫌よ!」

 「元々ナミを戦闘員には数えてねェよぃ。部屋で仕事をしくれてるなら、これ迄と同じだ。気にする必要はねェ」

 「でも、ナース達は降りるじゃない!」

 「そりゃ仕事にならない上に、その相手が確実に守り切れる保証がねェからだよぃ」

 「そんなの、私だって……」

 

 同じ事でしょと言おうとして、言葉を飲み込む。……同じじゃないと、気付いたから。

 私の仕事は、最悪ベッドに居てもできる。確かに航海士としては出来る事は半減以下になるけど、宝玉としては充分仕事ができるし、経理や事務等のマルコのサポートは問題無い。

 

 「ナミ。イゾウが……ナミを守れないなんて事は考えられねェ。それに俺も……ナミの事は守るよぃ」

 「マルコ?」

 「……仕事の相棒を喪うのはつらい。ナミが居なくなると、俺が過労死するよぃ」

 

 言われてみればそれはその通りな気がして、息を呑む。そんな私にイゾウがそっと手を伸ばして、額にキスを落とした。

 

 「俺が全力で守る。それじゃ、足りないか?」

 「イゾウ……いい、の?」

 「ん?」

 「本当に、産んでも、ここで育てても、良いの?」

 「親父も大歓迎の様子だし、俺は少なくともここで育てて貰うつもりでいる」

 

 イゾウの言葉に、涙が溢れる。私……。

 

 「俺にも、会わせておくれな。ナミに似た娘なら、最高なんだが……」

 「それは、困るわ」

 「ん?」

 「イゾウが、お嫁に行かせない気がするもの」

 

 私の言葉にその場にいた皆が声を揃えて、確かにと言いながら笑い出す。それにより空気が弛緩して、マルコに抱えられたままイゾウに抱きつく私を、皆が受け入れてくれたと理解する。

 良いのかな。甘えてしまっても、良いのかな?

 

 「イゾウが無理なら、俺が父親やっても良いから、気にせず産めよ!」

 「サッチ……死にたいならそう素直に言いな」

 

 私の不安に気付いたのか、サッチが言えばそのサッチの軽口にイゾウが銃を向ける。それに続いて他からも俺が父親やるなんて声が沢山上がり、イゾウはコメカミを抑えた。

 皆、優しい。私……こんなに幸せで、良いのかな……?

 無理すんなよと、イゾウを好きなだけ使ってやれと笑う皆に、嗚咽まみれでありがとうと言ったけど、伝わったかはもう分からない。ただ、モビーディック号は今、暖かな空気で包まれている。

 沢山の父親候補が、守り抜くよと笑ってくれる。なんとも頼り甲斐のある家族に、弱虫な私は守られながら自然と笑みを浮かべていた。

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