どうして、このタイミングなのよ!……と、最初に気付いた時は思ったけど、冷静になれ、私。この1味に居てこのタイミングは不味いと、そんな事を思わない時があるだろうか。
……無いわね。
それ故に誰にも言えなくて、ソレを隠したまま冒険を続けロビンを助けに行って、ウソップが帰って来て、今サニー号にて空を飛んでるところが今。即ちナウな訳だけど、着地の為に落下していく浮遊感に耐えられなくて膝をついてしまう。
だめよ、早く立たないと……チョッパーに、心配されて気付かれる。まだ、気付かれる訳にはいかないのよ。
その時、慣れてしまった温もりが私を当然のように支えた。いつも使うのが足技だからって、他の筋力が無い訳じゃなくて、寧ろ均等にある筋肉に凄いなと思わされる。
でも、今気にするべきはそこじゃない。支えてくれてる腕にそっと手を触れて、体を起こすとにっこりと笑う。
賢い人だから、下手な事を言うより何も言わない方がいい。下手に何か言えば、その方が気付かれるリスクを高める。
「ありがとう。助かったわ」
「……最近、食欲落ちてますよね。大丈夫ですか?」
「少し、ダイエットしようかと思って……。基本的に私は動かないから、最近少し太った気がしてるのよ」
ふふっと笑えば、サンジ君は充分細いと思いますよと笑ってくれる。甘やかさないで、ぶくぶくに太っちゃうのは困るんだからと言って、その腕から離れた。
そんな私とサンジ君を見て、ウソップが相変わらずだなお前らなんて言うから空気が緩む。でも、そこでフランキーが口を開いた。
「……小娘、お前ェ隠し通すつもりか?」
「フランキー?」
ロビンが不思議そうに問い掛けると、なんだ気付いてねェのか、誰も?なんて言う。それにより私は背筋に冷たいものを感じて慌てて口を挟む。
「フランキー!やめて、余計な事言わないで!」
「……余計だ?この船で船大工やろうってんだ。黙って見過ごせるかよ」
「っ……!お願い、もう少し、時間をちょうだい」
体が震えそうになる。そんな私を見て、ロビンがまさかと小さく唇を動かした。
その直後、サンジ君が私の腕を引いて、それによりバランスを崩した私をその勢いのままに抱き上げると、皆に少し時間をくれと言って移動して行く。……普段、メロリンってやってても実は頭のいい人だから、恐らくは今のやり取りで気付かれたんだろう。
冷静に考えれば、この状態で船に乗り続ける事は許されない。ロビンを助けに行った事に後悔は無いけど、それにより手配書が出回ってしまった今、どうなるかはわからないのだから。
相手はルフィだから、適当に降ろすなんて事はされないだろうけど……。この先の事を何が起きるのかを知ってる訳では無い皆にとって、私は邪魔な存在にしかなり得ない。
迷惑かけるくらいなら、ここに命が無ければ何時だって自分の命を投げ捨てても構わないのに。でも、今はもう私1人の命じゃない。
……この子を、私のエゴに巻き込めない。この子には、何も罪なんて無いのだから。
……どうしたらいい?
それよりも、サンジ君に何を言われるんだろう。怖くて、体が小刻みに震えるのが分かる。
そもそもどうして宿ったのか。薬を飲み忘れたのだろうか。
ドクターの薬に間違いは無い筈だから、だから……。涙が勝手に零れ落ちて、卑怯な事してるって分かってるのに、止められない。
「ナミさん、不安にさせてすみません。1人で抱えさせて……それなのに、俺は酷い奴だから、嬉しいです」
「サンジ、くん?」
「ナミ、どんな結果になっても必ず俺が守ります。ナミも、この子も……だから、そんなに泣かないで」
2人きりの時だけ、サンジ君は呼び捨てにする。その事にまだ少し慣れないけど……。
何も考えずにサンジ君の首に腕を回して、力の限りに抱きつけば甘やかすようにその手が背に回される。それにホッとしてる自分を感じながら謝罪すると、困ったような声が返される。
「……こんなにも弱るまで気付けなくて、ごめん。これからは必ず守るから、俺以外の前では、泣かないでくださいね」
妙な独占欲を発揮したサンジ君の言葉に笑った時、ドアを蹴破るような音が聞こえてそれと同時にフランキーの怒号が響く。
「麦藁てめェ、サニーを壊そうとするんじゃねェ!」
「サンジ!ナミ!なんで仲間が増える事俺に言わねェんだよ!?」
「ルフィ?」
ルフィの言葉の意味が分からなくて首を傾げながら視線をルフィに向けようとしたら、サンジ君に強く抱き締められてそれを邪魔される。何事かと思う私の耳元に、サンジ君が囁く。
「涙は、俺にしか見せないでくださいって、言ったでしょう?もう少し……このままで」
「サンジ……ナミを離しなさい。会話にならないでしょう?」
ロビンの呆れを多大に含んだ声が聞こえてくるのに、サンジ君はそれを拒否するから話はなかなか進まなくて、それでもルフィは言葉を紡ぐ。少し怒ったような声で。
「2人の子供なら、仲間に決まってるだろ。ばっかだなァ!ちゃんと言えよ。俺は仲間なら守るぞ!」
「おいルフィ、お前……妊婦がいる事の意味と、その後に乳飲み子がいる事の意味わかってんのか?」
サンジ君が珍しく困ったような声でルフィにそんな事を言うけど、ルフィは引き下がらない。ただ、不思議そうに言葉を返してくる。
雪が降ったら寒いみたいに、当然の事を言うかのように。ルフィにとってはだから、それは当然の事で悩む必要の無い事なんだろうと思う。
「……チョッパーもロビンもいて、子供が居る事に問題なんてねェだろ。そもそもナミが親なら大丈夫だ。……どっちに似ても、可愛いだろうな」
「それはまァ、違いねェな」
ウソップがその言葉に頷けば、フランキーが女部屋に子供用の物作り足してやるからちゃんと事前報告しやがれと怒鳴る。その中でゾロが何も言わないのが気になって顔を上げると、優しい視線が向けられ続けていたと知る。
「おい、クソコック。……ナミを守れよ。ナミ、お前は頼る事を覚えろ」
「そうだぞ!他の奴らはともかく!医者である俺にまで隠すなって、何度言えば覚えるんだよ!?」
穏やかなその空気の中、唯一怒り狂うチョッパーにごめんと謝れば、ムスッとした顔で私を見る。だけどそれが可愛いとか言ったら、怒られるかな。
「チョッパー、頼りにしてるわ。この子の事、お願いね。それからルフィ……ありがとう」
「ナミが幸せなら、良い。何があっても守ってやるからさ」
ルフィの言葉に同意するように皆が頷いてくれるから、私も自然と笑顔になる。サンジ君の腕を抜け出して、私は両手を広げてロビンに飛び付く。
それを優しく受け止めながら、ロビンは笑う。その手付きは優しくて、ベルメールさんやノジコの事を思い出す。
「……大丈夫よ、必ず幸せにしてみせるわ」
「ありがとう、ロビン。私、嬉しい!」
「いや!ロビンちゃん、それ俺の台詞!」
サンジ君の焦ったような声が背後から聞こえたけど、ロビンは楽しそうに笑うばかり。暖かく優しい空間で、私はこれならばどんな波乱が待ち受けていても大丈夫だろうと自然と思えたのだった。