※この作品はR-18です。

雷命の造娘   作:凰太郎

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ありがとう Chapter.7

 

【挿絵表示】

 

 白雷(びゃくらい)が黒雲の波間に猛り息吹く。

 その渦中にて〈雷命(らいめい)の造娘(ぞうしょう)〉と悪神(ロキ)は対峙していた。

 これが……最後の闘いだ!

 〈神〉と〈科学(ひと)〉の!

「ヘッ、わざわざエネルギー源の中へ誘き寄せたってか?」絶対的な自信に酔いつつ、ロキは周囲の電蛇を蔑む。「違(ちげ)ぇよ、バーカ! 乗ってやった(・・・・・・)のさ! 全力のテメェを完膚無きまでに叩き潰さなきゃ、神(オレ)の気が済まねぇからな! ヒャハハハハハハッ!」

「そうか、ありがとう」

「……あん?」

「おかげで、オマエを叩き潰せる」

「てンめぇぇぇ……ッ!」

 ピキッと青筋を立てた。

 如何(いか)なる感慨すら孕(はら)まぬ率直な宣言は、そのまま〈神(かれ)〉への侮辱でしかない!

「あの世で後悔しやがれェェェーーーーッ!」

 光矢の如(ごと)き突進!

 みなぎる〈気〉を乗せ、繰り出す拳!

 が──「消えた?」──攻撃が当たったと思えた刹那、眼前にいた像は残像と消える!

 それは〈完璧なる軍隊(フォルコメン・アルメーコーア)〉との戦いで見せた高速移動!

 背後に出現した気配を察知し、ロキは咄嗟(とっさ)に両腕の交差にガードした!

「ふんっ!」

「グッ!」

 渾身の雷拳(らいけん)を間一髪で防ぐ!

 重い!

 その衝撃の余力は、ロキを数歩退かせた!

「まぐれが……続くかよォォォーーーーッ!」

 翳(かざ)す掌(てのひら)から放たれる気弾!

「む?」

 顔面を捕らえた!

 しなやかな巨躯(きょく)が、仰(の)け反(ぞ)りよろける!

 この隙(すき)を見逃すはずもない!

「ヒャハハハハハハッ! ヒャハハハハハハハハハハッ!」

 連射!

 連射ッ!

 連射ッッッ!

「ヒャハハハハハハッ! どうした? まだまだ、これからだぜ? ヒャハハハハハハハハハハッ!」

 最高だ!

 いくら浪費しようと尽きる事など無い!

 最高の生贄(バッテリー)だ!

 サン・ジェルマンは!

 濛々(もうもう)たる爆煙へ向けて、飽きるまで叩き込む!

 視界を埋める霞(かすみ)が〝雲〟か〝煙〟かは、もはや判らない。

 と──「何……だと?」──拡散に消える煙幕から現れたのは、無傷な〈娘(・)〉の姿であった!

 彼女の前にパリパリと弾ける微光の蟲──展開していたのは、不可視たる電気の壁〈電荷(イオン)バリア〉!

 高電圧の障壁が、気弾を電解拡散させたのだ!

「テメェ……結界魔術を?」

 神話の遺物が理解出来ようはずもない──人類の貪欲な吸収欲を! その罪深さを!

「ふむ? そういう使い方も、あるのか……」

 己(おの)が掌(てのひら)を眺め〈娘(・)〉は一顧(いっこ)を刻んだ。

 見様見真似で試す。

「ふんっ!」

 膨大な光弾が迫り来る!

 光弾(・・)?

 否(いな)、これは雷弾(・・)だ!

 自身には行使出来ない〈気〉に代えて、自在に操れる〈電気〉にて再現したのだ!

 またひとつ〈怪物(・・)〉は学習した!

「ざけんじゃねぇぞォォォーーッ!」

 迎え撃つ気弾!

 腹の底から絞り出す!

 ぶつかり合う巨光!

 呑むか──呑まれるか!

 凱歌を吠えたのは雷光!

 夥(おびただ)しい躍動を纏(まと)う巨弾が迫り来る!

「クソが!」

 忌々(いまいま)しさを噛んだロキは、頭上への跳躍で回避した!

 眼下を過ぎる光球をやり過ごすも、一息の間すら無い!

「ふんっ!」

「何ッ? グハァ!」

 背後に現れた〈娘(・)〉は、体重を乗せた後ろ回し蹴りをブチ込んだ!

 蹴り飛ばされる悪神!

(ふざけんじゃねぇぞ……下等な〈怪物〉風情が!)

 慣性に刻む自尊心(プライド)が虚空を踏(ふ)み止(とど)まらせる!

 睨(にら)み据(す)えるは、追撃に跳び迫る敵(・)!

 雷光(らいこう)纏(まと)う科学怪物(・・・・)!

「オレ(・・)は〈神(・)〉だァァァーーーーッ!」

 猛(たけ)り狂(くる)う憤(いきどお)りを吠え、内在する〈気〉を──〈神力(しんりょく)〉を絞り出す!

 それは、遥か〈神話の時代〉から蝕(むしば)んでいた〝心の闇〟であった……。

 

 

 

 天は嘆きに激情を噛み絞める。

 雷雨を狂わせる黒雲に、二対の激光が明滅を繰り返していた。

「……見えますか、ヘル?」

「……ああ」

 互いに満身創痍の身体を支えあい、戦乙女(ヴァルキューレ)と冥女帝は全貌知れぬ激戦を仰ぎ眺める。

「戦っています……彼女(・・)が! 私達の親友(とも)が!」

 低く唸(うな)る黒雲が、またも激しく発光した。

 ヘルは静かに噛み締め願う──自身でも背負いきれぬ酷な願いを。

(…………止めてくれ……父上を!)

 

 

 

 マリーは祈った。

 路地裏の入口から見守る天の威嚇(いかく)に……。

(神様、どうかお姉ちゃんを守って下さい……大好きなお姉ちゃんを…………)

 あの雷雲の向こうでは、どんな凄まじい光景が展開しているのであろうか?

 一際(ひときわ)大きい轟雷が弾ける!

 大地を震わす恐ろしい咆哮に、小さな肢体が畏縮に竦(すく)んだ!

 脳裏に浮かぶのは、反り血に染まりながらも暴力を止めなかった虐殺の雷人!

 大好きな〝お姉ちゃん〟に潜む、もうひとつの顔!

 やはりあの時(・・・)の恐怖が甦り、カタカタと震える身体をギュッと抱き締めた。

 ドス黒い悪夢が、少女の足腰から力(ちから)を吸い取っていく。

 それでも──「ずっと見てるよ、お姉ちゃん……見守っているよ……だから、帰ってきて…………」──確固たる決意に奮起して、遥か果てに見えぬ戦いを正視した。

 

 

 

 もはや普通の天候現象でない事は、街人達の目にも明らかであった。

 そして、同時に察していた……あの黒きヴェールの内側で何(・)が起こっているかも。

「な……何なんだ? あの〈女怪物(・・・)〉は?」

「あのとんでもない〈ロキ〉と互角にやりあってるのか?」

「いったい……何者なんだ?」

 ざわめき戸惑う群衆。

 その困惑に答える者が、彼等の背後から進み出た。

「知りたいか? あの〈娘(・)〉が、戦う理由を……」

 一同の注視が向けられる先に居たのは、卑しい容姿のせむし男──アイゴールであった。

 

 

 

「ぅがあああぁぁぁーーーーッ!」

 光速が迫る!

「クソがァァァーーーーッ!」

 迎撃に踏み込むロキ!

 雷拳(らいけん)と気拳(きけん)が、ぶつかり合う!

 周囲に踊り狂うエネルギー反発!

「何なんだ! テメェは! 何故、そこまでして人間共に荷担する! テメェだって疎(うと)まれて生きてきたんだろうが! それを……何故だ! 何の得がある? ああっ?」

「……友達(・・)がいる」

「な……何ィ?」

「……生命(いのち)が在(あ)る!」

「だから……何だってんだ!」

 苛立(いらだ)ちをエネルギーに転化した!

 膨れ上がる気!

「温(ぬく)もりがあるッ!」

 ならば、呑み返す!

 辺り一帯から雷電を呼び込んだ!

「雷(いかづち)を喰らいやがるか!」

「無尽蔵なのはオマエだけじゃない!」

「ッ! テメェ、サン・ジェルマンを取り込んだ事をッ?」

 ふと予感を覚えた。

「ま……まさか?」

 何故、サン・ジェルマンは〈気〉の種明かしをした?

 何故、ヤツは気弾ではなく接近戦に重きを置いていた?

 その特性を明かさねば、虚(きょ)を突く事も出来た!

 即興的に取り込んだ自分が〈気弾〉を放てる以上、サン・ジェルマンがその攻撃法(・・・・・)を知らぬはずがない!

「まさか……謀られた(・・・・)ってのか!」

 

 

 

「受肉?」

 サン・ジェルマン卿の奇策を耳にして〈娘(・)〉は怪訝(けげん)そうに訊(たず)ね返した。

 樫卓で揺らぐ燭灯(しょくとう)に照らされ、対面に座す精悍が柔らかく微笑(ほほえ)む。

「錬金術師が、何故〈金〉の創造へ血眼(ちまなこ)となるか……解るかね?」

「富を得たいから?」

 俗説を鵜呑みにしている〈娘(・)〉に、サン・ジェルマン卿は苦笑しつつ首を振る。

「それは〈鞴吹(ふいごふ)き〉と呼ばれる輩(やから)──自称だけ〈錬金術師〉を名乗って、貴族(パトロン)から泡銭(あぶくぜに)を吸い取ろうとする山師(・・)さ」

「そうか。じゃあ知らない」

「旧暦中世まで〈金〉は〝完璧なる金属〟とされていた。その中に不純物が混じっていれば〈銀〉〈水銀〉〈銅〉〈鉄〉とランクが下がる。つまり〈金〉とは〝一切の不純物が混在していない究極の金属〟とされていたのだよ。そして〈錬金術師〉の目的は〈金〉そのもの(・・・・)ではない。〈金〉を生み出すプロセス(・・・・)の方なのさ」

「プロセス? 何の為(ため)に?」

「不純物が混在しているとされている〈銅〉や〈鉄〉から〈金〉を生み出すには、どうすればいいと思うね?」

「総ての不純物を除外する?」

「そうだ。そして、そのプロセスを〝人間〟に応用しようと試みていたのさ」

「人間に? どうして?」

「……〈神〉となる為(ため)に!」

「ッ!」

 一際(ひときわ)大きな稲光が、神の威嚇(いかく)と轟(とどろ)く!

 庭に生えていた〝オークの大樹〟が裂かれ燃えた!

 落雷である。

 恰(あたか)も〝人間(ひと)の業(ごう)〟を糾弾するかのような……。

 暫(しば)しの沈黙──ややあってサン・ジェルマン卿は浅い苦笑に思惑を紡(つむ)いだ。

「その逆プロセスをロキ(・・)へと応用する」

「ロキに? どうやって?」

「私(・)を取り込ませる(・・・・・・)……」

「ッ!」

 息を呑む〈娘(ドルター)〉!

 それは、あまりにも残酷な奇策!

「逆論で言えば〈神〉が受肉をするという事は不純物(・・・)が混在するという事──つまりは劣化(・・)だ。ともすれば、君(きみ)にも勝機は生まれる」

「その……後は?」

「……心配は要らないよ〈娘(ドルター)〉? 君(・)は示してくれた──フォンも、エリザベスも、生きている(・・・・・)と」

 そう慈(いつく)しみに言って、愛しい〈娘(・)〉の頭を胸に抱き寄せた。

「君(きみ)は守りたい者(・・・・・)の為(ため)に生きなさい……己(おのれ)が己(おのれ)で在(あ)るために…………」

 自分(・・)には叶わなかった……。

 ならば、我(わ)が〈娘(・)〉に託そう……。

 不死と定命が共存できる未来(せかい)を…………。

 

 

 

「ロキィィィーーーーッ!」

 渾身(こんしん)の雷拳(らいけん)に総てを乗せる!

 培(つちか)った信念を!

 育(はぐく)んだ愛を!

「誰も愛せない者が、誰かに愛されるわけがないだろう!」

 右頬を打ち貫く痛み!

「他人を愛せない者が、自分を愛せるわけがないだろう!」

 左頬に刻まれる痛み!

 打つ!

 打つッ!

 打ち抜くッッッ!

 想いを乗せた拳は、纏(まと)う雷(いかづち)よりもそれ(・・)自体が痛かった!

(クソが!)

 苛(いら)立(だ)つ。

(クソがッッッ!)

 腹立たしい!

(何故、死なねぇ!)

 世界に疎(うと)まれた──。

 万人に忌避された──。

 そして、謂(い)われなき嫌悪を浴びせられ続けた────。

 この上なく似通った環境に足掻(あが)き苦しみながらも、その着地は真逆であった。

 だから、見えてしまうのだ……この〈娘(・)〉の姿に重なる己自身(・・・)が!

 かつて心の奥底に封殺したはずの自分(・・)が!

 殴打に浴びせられる〈娘(・)〉の糾弾は、自分自身(・・・・)からの糾弾であった!

 神話時代に殺したはずの良心の亡霊(・・・・・)であった!

(殺したはずだ……遠い昔に……殺したはず(・・・・・)だろうが! 俺自身(テメェ)はよ!)

 

 ──成程……君(きみ)にも罪悪感(・・・)があったというわけか?

 

(サン・ジェルマンッ?)

 

 ──だから他者を軽視して認めようとはしない……自分自身から目を背けるために。

 

(黙れ! クソが! ブッ殺すぞ!)

 

 ──我々(われわれ)と同じく、憐れな魂だったのだな……君(きみ)も。

 

(黙れ! 黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 黙りやがれ!)

 

 ──だが、ロキよ……君(きみ)と──いや、我々(われわれ)と〈娘(かのじょ)〉の差は『世界の──愛の重さから目を背(そむ)けた』か『愛の重さにしがみついた(・・・・・・)』かの差なのだよ。

 

「うるせぇって……言ってんだろうがァァァーーーーッ!」

 激情の暴走に〈神力(しんりょく)〉が荒れ狂う!

「むぅ!」

 咄嗟(とっさ)に〈電荷(イオン)バリア〉で防ぐも、エネルギー斥力に〈娘(・)〉は弾き飛ばされた!

 滞空に踏み留まり敵を見据える。

 荒げた息遣いに立ち尽くすロキからは、満身創痍が窺(うかが)えた。

 さりながら臨戦意思に減衰は無い。

 ともすれば、次が最期の一手(・・・・・)と考えて間違いないだろう──決着の時だ!

「ハァ……ハァ……クソが!」荒げる呼吸に呪怨が睨(ね)め付(つ)ける。「……認めてやるぜ〈怪物(・・)〉? テメェは、このオレが全身全霊で叩(たた)き潰(つぶ)さなきゃならねぇ敵(・)だってな!」

「そうか、ありがとう」

「ああっ?」

「オマエは、私(・)を認めてくれた」

「ほざくんじゃねぇぇぇええーーーーッ!」

 吠える憤慨(ふんがい)に、ありったけの〈神力(しんりょく)〉を滾(たぎ)らせる!

 弱体化に心許(こころもと)ないなら〈気(・)〉だ!

 己(おのれ)の内に満ちる総てを振り絞る!

 それだけの相手だ!

 全身全霊を以(もっ)て叩(たた)き潰(つぶ)さねばならぬ害敵だ!

「ハァァァアアアーーーーッ!」

 それは〈娘(・)〉にしても同じ事!

 憎しみも私怨も無いが、この男(・・・)は倒さねばならない!

 愛すべき人間の──否(いな)、マリーの明日(みらい)の為(ため)に!

 なればこそ貪欲に喰らおう!

 周囲に漂い眠る幾多もの雷電を!

 黒雲の内部を闘技場(パンクラチオン)として、二対のエネルギー球塊(きゅうかい)が眩(まばゆ)い奔流(ほんりゅう)を威嚇(いかく)に咆哮(ほうこう)させた!

 瞬発の突撃!

 双方同時に繰り出す特攻!

「ロキィィィイイーーーーッ!」

「怪物風情がぁぁぁあああーーーーッ!」

 輝拳がぶつかり咬み合う!

 圧し合う力点が奔流(ほんりゅう)を放出する!

 拮抗する超常力(ちょうじょうりょく)!

 科学(・・)と神(・)!

 この激戦を制したのは──「がふっ!」──血反吐(ちへど)を吐いた!

 悪神(ロキ)の腕が〈娘(・)〉の腹へとブチ込まれていた!

 空いた左腕を用いた奇襲であった。

「残念だったな、怪物?」

「ぐ……ぅ!」

 忌むべき槍を両手掴みに抑える〈娘(・)〉。

「ヒャハハ……まともに相手すると思ったかよ?」

「ふぅ! ふぅ!」

 荒げる呼吸に狡猾を睨(にら)み据(す)えた。

 乱れた髪から覗(のぞ)く呪視(じゅし)は、ゾッとする鬼気を孕(はら)みながらも美しい。

 ロキの左腕を抑える両手に力(ちから)が込められる。

 ガッツリとした握力は指先を食い込ませた。

「……終わりだな、怪物? このまま、ありったけの〈神力(しんりょく)〉を──いや、現状(いま)は〈気〉か──を注ぎ込めば、さすがのテメェも御陀仏だろうよ」

「あり……がとう……」

「あん?」

「この瞬間(とき)を狙っていた……オマエが、私と強固に密着する瞬間(・・・・・・)を!」

「な……何ッ?」

「ぅがあああああぁぁぁぁぁーーーーッ!」

 獣が吠えた!

 死人が雄叫びを叫んだ!

 全身が夥(おびただ)しい発光を帯び、その姿は球電そのものと思えるかのような光源だった!

「テ……テメェ! 何をッ?」

 戦慄が神(ロキ)を呑み込む!

 恐怖が災厄(ロキ)を支配する!

 怖れるべきは眼前の〈娘(・)〉ではない!

 その効果だ!

 魂そのものを吸引するかのような感覚!

 間違いない……コイツ(・・・)は喰らっている!

 気を──生命力を──オレに内在する全エネルギーそのもの(・・・・・・・・・・・・・・・・・)を!

「電気は〈生命〉の源だ! だからこそ、電荷によって再生が叶う!」

「テメェ! 放しやがれ!」

 自由な右腕で殴り掛かるロキ!

 ひたすらなる殴打!

 が──(足りねぇ?)──明らかにパワーが不足していた。

 急速に生命力(エナジー)を奪われている!

「そして、私(・)は電気を食らう怪物(・・・・・・・・)だ!」

「うぉぉぉッ? は……放しやがれ!」

 発光が微々と激しさを増してくる!

 それ(・・)が何(・)を意味しているのか……現状(いま)のロキには把握出来た!

 還元されているのだ!

 己(おのれ)の生命力(エナジー)を!

 この〈娘(かいぶつ)〉の生命力に!

「それは、つまり応用すれば……生命力そのもの(・・・・・・・)を吸収出来るという事! ありとあらゆる生命(・・)を糧(・)と喰らえるという事! 解るか? この世の、ありとあらゆる生命(・・)は、私の糧(・)という事だ!」

「テ……テメェ! テメェらは、最初(ハナ)から、その算段で受肉をッ?」

 それは、この〈娘(・)〉にしか行使できない特異性──自(みずか)らの〝操電能力〟と〈サン・ジェルマン細胞〉との併(あわ)せ技(わざ)であった。

「受肉したオマエは、もはや〈神(・)〉ではない! 私と同じ〈怪物(・・)〉だ! 同じ〈怪物(・・)〉なら、私が負けるはずもない!」

「ッざけんな! オレ様は〈神(・)〉だ! 唯一無二の──」

「〈怪物(・・)〉なんだ! 私(・)も! オマエ(・・・)も! この闇暦世界(・・・・)の一端でしかない! 忌み嫌われる(・・・・・・)〈怪物(・・)〉に過ぎない!」

 

 それ(・・)を知るという事は、ますます〝人間〟から掛け離れるという事──サン・ジェルマン卿は、そう言った。

 それでも構わないと〈娘(・)〉は言った。

 どう足掻(あが)こうと、自分は〈怪物(・・)〉だ。

 溝が埋まるはずもない。

 ならば望むは、ひとつだけ──たったひとつの想いだけ。

 あの子(マリー)の明日(みらい)だけ──。

 

(クッ! こうなったら、ありったけの〈神力(しんりょく)〉と〈気(・)〉をブチ込んでやる! 魂の底から!  後先なんざ知った事か!)

 いつぞやの再演の如く〈娘(・)〉の顔面へと掌(てのひら)を翳(かざ)した!

 なけなしの力(パワー)とはいえ、ここまで至近距離からならば起死回生の一撃と機能するはずだ!

 が──(させないよ)──一際(ひときわ)大きく脱力感が支配する!

 自分自身の内にいる別人(・・)からの横槍であった。

「クソがぁぁぁあああーーーーッ! サン・ジェルマァァァーーン!」

「……いま返して(・・・)やる」

 取り込んだ生命力(・・・)を電気(・・)へと一気還元する!

 夥(おびただ)しい雷蛇が〈娘(かのじょ)〉から生まれ、食らいつく相手を盲目に探り暴れた!

 青白い光を発する巨躯(きょく)を核として、生命(いかずち)の鼓動が具現化する!

 そして──「生命讃歌(イッツ・ア・ライフ)ッッッ!」──眩い光球が弾けた!

 白き閃光が総てを呑み染める……。

 黒雲も……。

 轟雷も……。

 黒天さえも…………。

 

 

 

 穏やかな丘陵に寝そべり、ロキはフラストレーションを吐き捨てた。

「チッ! クソが……」

「よぉ、ロキ? 此処にいたのか?」

「ああっ?」

 頭を上げれば、粗暴な髭面(ひげづら)が立っていた。

 筋骨隆々とした巨躯(きょく)の男だ。

 然(さ)れど、厳(いか)つい面構えのわりには、豪気な破顔が人好きを誘う。

「……チッ! トールかよ」

 雷神〈トール〉──唯一の親友である。

 神敵〈霜の巨人〉の出自と知りながらも、ロキを対等に構える唯一の〈北欧(アース)神族(しんぞく)〉だ。

「また何かやらかしたのか?」

 脇に腰を下ろしたトールは、苦笑(にがわら)いに語り掛けてきた。

「……ケッ!」

 ふてた一瞥(いちべつ)に、ロキは唾(ツバ)を明後日(あさって)へと吐き捨てる。

「どいつもコイツも気に入らねぇんだろうよ! このオレ様が〈霜の巨人〉でありながらも〈北欧(アース)神族(しんぞく)〉の一員だって事がよ! それも随一(ずいいち)の実力者だからな……やっかみ孕(はら)みの嫌悪ってヤツだ」

「確かに我々(われわれ)〈北欧(アース)神族(しんぞく)〉にとって〈霜の巨人〉は永遠の神敵だ。偏見は根深いが……」

「以前はよ? オレとしても信頼を勝ち取ろうと思って必死コいてたさ。オメェの雷鎚〈ミョルニルハンマー〉や最高神(クソジジイ)の神槍〈グングニル〉を、わざわざ手に入れてやったりもよォ……。だが、結局はどうだ? どこまでいっても、腫(は)れ物(もの)・鼻つまみ者じゃねぇかよ……ケッ、面白くねぇ!」

「フム……」トールは少々困惑を苦虫に、丘陵眼下の緑原(りょくはら)を眺めた。「オレからも機会ある毎(ごと)に言ってはいるのだがな。アイツは、もはや〈霜の巨人〉ではない。立派な〈北欧(アース)神族(しんぞく)〉だ……と」

「……要(い)らねぇよ、クソ寒い同情なんざ」

 腕枕の仰臥(ぎょうが)に白雲が流れる。

「なぁ? ロキよ?」

「あん?」

「拗(す)ねるのも構わん……疎(うと)むのも構わん……嫌悪も構いはせん…………だが、歪んで(・・・)はくれるなよ?」

「ああ?」

「そうなったら……オマエが〈厄神〉と堕ちたら……オレは、オマエをブチのめさにゃならん」

「…………」

「…………」

 暫(しば)し視線を交(か)わした後(のち)、ロキは「ケッ!」と寝返りに背を向けた。

「……そん時ァ、楽しみにしてやるよ」

 互いに携(たずさ)える苦笑。

 抜ける風が萌える緑を撫で去った。

 

 彼(か)の『北欧光神(バルドル)殺害』の二日前の一幕であった。

 

 この後、ロキは〝バルドル殺害の重罪〟にて拘束封印される事となる。

 

 総ての神族から祝福と讚美を謳われる光神……。

 己(おの)が身と対極に在(あ)るそれ(・・)が気に入らなかった。

 

 

 

 

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