※この作品はR-18です。

雷命の造娘   作:凰太郎

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ともだち Chapter.5

 

【挿絵表示】

 

 大通り沿(ぞ)いに出来る長蛇の列。

 それは左右から挟み込むかのように並び、口々(くちぐち)に熱狂を叫んでいた。

 その声援を浴び、中央を長い行軍(ぎょうぐん)が続く。

 物々しい科学武装兵士(ウィッセンチャフト・ソルダット)達が、一糸乱れぬ連帯動作で行進を刻んだ。無感情な守人(もりびと)は、然(さ)れども周囲への愛敬を振り撒く事などしない。

 ウォルフガングの強(し)いた〈完璧なる軍隊(フォルコメン・アルメーコーア)〉のセレモニーだ。

「……驚きましたね。まさかアレ(・・)が、ここまで民衆から支持されているとは」

 群衆に紛(まぎ)れて遠巻きに眺めるブリュンヒルドは、信じ難(がた)い状況に軽い驚嘆を溢(こぼ)した。

 至近距離からでは発見されてしまう怖れから、雑踏の最後列からの観察だ。すぐ背中には赤煉瓦(あかレンガ)の壁が涼気で触(ふ)れている。無遠慮な芋洗いに呑まれぬよう、マリーは右手握りに繋(つな)いでいた。

「別に心底から支持しているわけでもないさ。やむを得ず……といったところだ」

 脇に並ぶハリー・クラーヴァルが、多少憂(うれ)いた抑揚で訂正する。

「本意ではない……と?」

「大半はね」

「どういう意味です?」

「強制参加なのさ。民衆の自尊を折る為(ため)の……。月一回、こうした武力誇示を定期的に続ける事で、潜在的な威圧と無力感を刷り込み、支配層格差を思い至らせる。主従関係を明確に刻む為(ため)の心理的政策さ。だが、それによって人々は、次第に〈完璧なる軍隊(フォルコメン・アルメーコーア)〉へと依存すらしていくだろう──『自分達は、この軍隊に守ってもらっているから大丈夫だ。否(いな)、守ってもらわねば生きていけない』とね」

「それでは〝人間性の損失〟ではありませんか!」

 嫌悪感を露(あらわ)にする実直さを一瞥(いちべつ)し、ハリーは軍隊へと注視を戻す。

「旧暦に於(お)いても、独裁政権が定番と行(おこな)っていた軍事的演出さ。しかし、それ相応に効果は高い。事実、内乱発生率は減少する」

「心が折られているから……ですか」

「ナチスドイツ──アドルフ・ヒトラーが〝稀代の独裁者〟として大成したのは、政人としての才覚よりも人心掌握(じんしんしょうあく)にずば抜けて長(た)けていたからさ。『心理学の悪用』と言ってもいいがね」

「……洗脳」

 ブリュンヒルドの呟きに、寂しい微笑(びしょう)で同調した。

「ヒトラーの〝洗脳手腕(マインド・コントロール)〟は、忌(い)まわしくも卓越したものだったよ」そこまで紡いだハリーは、注がれる視線が奇異感(きいかん)を帯びている事に気付いた。「何か?」

「いえ、まるで見てきたかのように話されるものですから……」

 内心、ドキリとする指摘ではあったが、こうした状況は初めてでもない。

「想像力が強くてね……夢想空想は悪癖(あくへき)なのさ」彼は平然と嘯(うそぶ)いて続けた。「後年、旧暦一九六九年にはカルフォルニア州の高校で、その心理メカニズムを解明しようと組織構図の再現実験が行われた」

「再現実験? ナチス軍隊のですか?」

「参加者は有志の高校生。彼等を〝看守役〟と〝囚人役〟に別(わ)けて演じさせた。唯一のルールは、規律重視だけだ──敬礼の角度から言葉遣いに至るまで。さて、どうなったか知っているかね?」

「いいえ?」

「程無くして〈擬似ナチス〉が完成したのさ。実験責任者の観察の下でもあるにも拘(かか)わらずね」

「そんな馬鹿な?」

「事実だよ。つまり〝人間(ひと)は環境に毒され易い〟という事だ」

 途端(とたん)、ブリュンヒルドはゾッとする思いで周囲の人々を見渡した。

 老若男女──全て変哲もない〝一般人〟だ。

 そうした人々が、自覚すら抱(いだ)かぬままに変貌する。

 その可能性が、誰にでも内在しているのだ。

 あの人も──あの人も──あの婦人でさえ────。

 薄ら気味悪い感覚に襲われ、ブリュンヒルドはおぞましさを覚えた。

 まるで、誰しもが〈怪物〉の雛(ひな)だ。

 自(みずか)らが身を置く賑(にぎ)やかな祭典が、恰(あたか)も〝邪教儀式(サバト)〟の渦中であるかのように錯角していく。

 自分自身が、絶望的な贄(にえ)のように……。

「ブリュド? わたしも兵隊さん見たいわ?」

 足下からの御願いに、我(われ)へと返った。

 幸か不幸か──マリーの背丈では眼前の見物勢(ギャラリー)が壁となって、武骨な行進が見えていない。

「た……たいした見せ物でもありません! もう行きましょう?」

「ええ~?」

「それよりも、出店を見て歩きましょう? ホラ、時間に限りもありますし……」

 頬を伝う冷や汗を拭(ぬぐ)い、不服そうな女児を急(せ)かして去った。

 その後ろ姿を無言に見送ったハリーは、やがて一際(ひときわ)高まった歓声に関心を戻す。

 すわ主役登場とばかりに低速走行する装甲車両。

 その屋根から華々しく観衆へと手を振るのは、この膿(うみ)を作り出した張本人だ。

「ウォルフガング・ゲルハルト……どこまでも〈第四帝国〉の幻想を追い求めるのだな」

 涼しい眼差(まなざ)しに含まれているのは、嫌悪も憐憫(れんびん)も通り越した達観だけであった。

 

 

 

 この壮大な茶番劇を疎(うと)む者が、もう一人(ひとり)いた。

 屋根の上から人知れず傍観する男だ。

「ケッ! 科学の軍隊だァ? あんな人形(オモチャ)に〈冥女帝(ヘル)〉は負けたのかよ? 笑い話にもなりゃしねぇ!」

 齧(かじ)り終えた林檎(りんご)の芯を、毒舌と共に投げ捨てる。

 粗野な印象の男であった。

 シャープな細面(ほそおもて)には薄い鼻筋が高く、目尻が垂れた眼差(まなざ)しは然(さ)れども攻撃的な気丈に彩(いろど)られている。

 紺色の革ジャンを胸元開きに着こなし、黒革のパンツをロングブーツで固めていた。

 大凡(おおよそ)闇暦(あんれき)らしからぬロックファションは、この男が根元を成す反骨精神の現れか──旧暦遺産たる俗世文化に毒されたのもあるだろうが。

 その名を〝ロキ〟という。

 北欧神界(アースガルズ)の悪神。

 とはいえ、ロキは邪神(・・)ではない。

 〈北欧(アース)神族(しんぞく)〉に名を連ねる一柱(ひとはしら)だ。

 神々の仇敵(きゅうてき)たる〈霜の巨人〉の〈血統(けっとう)〉に生まれながらも、主神オーディンとの義兄弟関係によって〈北欧(アース)神族(しんぞく)〉へと迎え入れられた経緯を持つ。

 ただし、彼の言動は真意見えぬ恣意(しい)的な悪意でもあった。

 濁(にご)った毒沼に沈む賢者の書であり、輝かしい黄金を箔(はく)と偽装(ぎそう)した伏魔殿(ふくまでん)だ。

 概(おおむ)ねは虚言(きょげん)讒言(ざんげん)で、神界の在り方を翻弄(ほんろう)する。

 さりながら、時として神々の窮地を、その狡猾な智謀によって救ったのも事実ではあった。

 度重(たびかさ)なる姦計(かんけい)が不問とされて神籍(しんせき)を保留されたのも、そうした功績を憂慮(ゆうりょ)した主神(オーディン)の懇意(こんい)に依(よ)るのであろう。

 はたして、本質は〝善〟か〝悪〟か──或(ある)いは、そのどちらでもあり(・・・・・・・)、そのどちらでもない(・・・・・・・)のかもしれないが。

 そもそも善悪は表裏一体であり、切り離して成立するものではない。

 二元論的観念に括(くく)られるものではない。

 ともすれば、彼こそは〝自然体の神〟とも呼べるであろう。

 仮に、これから先、何を為そうとも……。

「しかし人間(・・)ってのは、つくづく面白(おもしれ)ぇ生き物だぜ? 〈怪物〉を怖れる余り、自分(テメェ)自身で〈怪物(・・)〉を増産するたァな?」

 食い終わった林檎(リンゴ)の芯を肩越しに投げ捨て、眼下の賑(にぎ)わいを嘲(あざけ)る。

「さて……復活(・・)の御祝儀(ごしゅうぎ)だ。少しばかり楽しませてもらう(・・・・・・・・)とするか?」

 生来の悪意を浮かべたロキは、一塊(ひとかたまり)の科学兵士(ウィッセンチャフト・ソルダット)を見定めた。

 送り注ぐ眼力(がんりき)に念を込める!

 赤く灯る瞳力(どうりょく)!

 それは、まるで血塗(ちぬ)られた呪怨(じゅおん)のように……。

 

 

 

 突然、武力誇示の流動が塞(せ)き止められた!

 ロキの標的と射抜(いぬ)かれた科学兵士(ウィッセンチャフト・ソルダット)達が、その行進を止めた為(ため)だ。

 ゴーグル越しの赤眼(せきがん)も消灯し、脱力然とシステムダウンを起こす兵士達。

 後続の兵士達も事前入力行動(プログラム)に連動して待機状態へと佇(たたず)む。

 華々しい虚栄の見世物は、一転して〝棒立ちの人形展示会〟へと変わった。

「何だ? 何事だ?」

 観衆がどよめく中、ウォルフガングも全体的な異変を察知する。

 惨劇が幕を開けたのは、程(ほど)なくしてからであった!

 再起動(リブート)──停止していた科学兵士(ウィッセンチャフト・ソルダット)達の赤目(サイトアイ)が再発光する!

 そして、彼等は右手甲(しゅこう)の内蔵銃を乱射した!

 無抵抗な民衆へと!

「ぎゃあああーーーーッ!」

「うわぁぁあーーーーッ?」

 次々と射殺されていく人々!

 完全に虚(きょ)を突いた災厄から逃(に)げ惑(まど)うも、多くは押(お)し合(あ)い圧(へ)し合(あ)いの人波(バリケード)に阻(はば)まれ、そのまま格好の標的と膨(ふく)れ上がる!

 ──DELETE(デリート)──DELETE(デリート)──DELETE(デリート)──DELETE(デリート)────。

 科学兵士(ウィッセンチャフト・ソルダット)の脳内には、赤色(せきしょく)の抹殺指令だけが羅列されていく!

 その赤が、更(さら)なる赤を強要した!

 撃つ! 撃つ! 撃ちまくる!

「い……いや……いやあぁぁぁーーあがばらぶらッ?」

「ひ……ひぃ? ひぃぎゃらぶればッ!」

 銃弾が暴雨と降り注ぐ!

 血飛沫(ちしぶき)が華と咲く!

 肉片が飛び散り! 悲鳴が染めた!

 虐殺!

 殺人人形による虐殺劇だ!

 だがしかし、周囲の科学兵士(ウィッセンチャフト・ソルダット)達は行動を起こさない。

 命令待ちに待機するだけであった。

「何だ! 何が起こっている!」

 後方で状況把握に逸(はや)るウォルフガングの耳にも、遥か前方で生じる乱射音と阿鼻叫喚(あびきょうかん)は届いていた。

 何(・)が起きたかは理解している。

 彼が問題としているのは、そこ(・・)ではない!

「システムエラーだと? 何故だ!」

 自身が組み上げたプログラムは万全であった。

 〈科学兵士(ウィッセンチャフト・ソルダット)〉の基礎構造も、理論的には完璧である。

 にも拘(かか)わらず、何故?

 飛び交う断末魔を騒音と意識排斥し、彼は思索(しさく)へと没頭した。

「ぐぁぁぁーーッ!」

(──煩(うるさ)い)

「ひぃ! ひぃぃぃーーッ?」

(──煩(うるさ)い!)

「たす……たすけ……ぎゃあああーーッ!」

(──煩(うるさ)い煩(うるさ)い煩(うるさ)い! 考察の邪魔だ!)

 耳障(みみざわ)りへの憤慨(ふんがい)に誘(いざな)われて、ウォルフガングは現実へと返る!

 と、そこでようやく為(な)すべき対応を思い起こした!

「何をしている! さっさと失敗作(イレギュラー)を排除しろーーッ!」

 

 

 

 眼下の惨状を高みの見物に、ロキは静かな嘲(あざけ)りへと浸(ひた)る。

「ケッ……下手に脳ミソなんざイジるからだよ。心(・)が備わってりゃ精神的な抵抗も見せただろうが、なまじい自我が欠落してるから無抵抗に支配され放題だ。アホくせぇ機械人形(デク)が……」

 呆気(あっけ)ない実験結果を得ると、次第に飽きが生じた。

 自(みずか)らの右手をグッパッと握って、体調(コンディション)を確かめる。

「……にしても、数にして十八体程度か? まだまだ力(ちから)が回復しきってねぇな」

 現状(いま)の彼は、封印から解(と)かれたばかり──云(い)わば〝病(や)み上がり〟の状態に近い。

 万全な能力が発揮できないのも、仕方がないだろう。

「チッ! もう暫(しばら)くは、裏方(うらかた)に回るとするか……」

 自嘲(じちょう)めいて吐き捨てると、やがてロキは踵(きびす)を返した。

 

 

 

「これは? 暴走?」

 逆流に荒れ乱れる人海(じんかい)に抗い呑まれながらも、ハリー・クラーヴァルは沈着冷静に状況を分析する。

(確かに〈科学〉は万全ではない。ウォルフガングの侵(おか)した禁忌は殊更(ことさら)だ。しかし……)

 不自然だ。

 違和感を感じる。

(引き金(・・・)となった要素が無い。況(ま)してや、このパレードの最中に……まるで惨劇の好機(こうき)を狙ったかのようなタイミングだ。システムに根幹的な欠陥があったなら、もっと以前から露呈していたはずだ)

 そこはかとなく悪意を感じる。

 確信は無いが……。

 その予感が導(みちび)いたか──何気に見上げた迎い棟の屋根に、一人(ひとり)の男が去る後ろ姿を見付ける!

「アレは……ロキ?」

 かつて告げられた警告──それが胎動(たいどう)し始めた事を、サン・ジェルマン卿は覚悟に噛み締めていた。

 

 

 

 バザー区域に混乱が押し寄せて来たのは、大通りの惨劇発生から数分遅れであった。

 命からがら逃げ込んで来た群衆が、そのまま顔色を変えて通過して行く!

 その怒涛(どとう)から幼女(マリー)を抱(だ)き庇(かば)い、道脇へと避難するブリュンヒルド。

 しかしながら、ただ事ではない事は、喧騒に呑まれる直前から瞬時に察知できた。

「何があったのですか?」

 誰に訊(と)うでもなく、声高(こわだか)に状況説明を要求する。

 暴牛の群(むれ)と走り抜ける流動には、その声に応える余裕など無い!

 それでも奇特な一人(ひとり)が、置き土産(みやげ)と吐き去ってくれた。

「ぼ……暴走だ! 〈完璧なる軍隊(フォルコメン・アルメーコーア)〉の暴走だ! アンタ達も早く逃げろ!」

「暴走?」

 縺(もつ)れる足取りに逃走を再開する情報提供者。

 その後ろ姿を軽い感謝で見送り、戦乙女(ヴァルキューレ)は大通りの方角を毅然(きぜん)と睨(にら)み据(す)えた。

「マリー? 自宅へは一人(ひとり)で帰れますか?」

「ええ~?」

 露骨な不安を浮かべる女児を、片膝着きの正視で諭(さと)す。

「私は〈戦乙女(ヴァルキューレ)〉として、この惨劇を食い止めねばなりません」

「ばるきゅれー?」

 辿々(たどたど)しい解釈に、愛(いと)しさを含んだ微笑(びしょう)で応える。

「私は〈ヴァルハラ〉──つまり〈北欧神館〉に仕(つか)える〝神の戦士〟なのです。その使命として、困窮(こんきゅう)する人々を護(まも)らねばなりません」

 自(みずか)らの素性を明かすと胸の羽根飾りを取り、それを高々と翳(かざ)して叫んだ!

「神の祝福を(ベンディシオン・ディオス)!」

 呼応に神聖なる輝きを帯びた羽根を、頭上へと投げる!

 と、それは無数の光羽根(こうばね)と弾(はじ)け、舞い散る吹雪と降(ふ)り注(そそ)いだ!

 神力(しんりょく)へと身を委(ゆだ)ねるブリュンヒルド──その風采(ふうさい)が、戦場を駆ける鎧装束(よろいしょうぞく)へと変わっていく!

「……わあ?」

 凛々(りり)しくも壮麗(そうれい)な変身に、無垢な瞳は釘付けとなった。

「オ……オイ、何だ? アレ?」

 パニックに追い回されていた街人達も、路地の片隅で生じた眩(まばゆ)さに足を止め始める。

「神……様?」

 あまりにも神々(こうごう)しい白銀の輝きは、見失った畏敬(いけい)を想起(そうき)させるに充分だった。中には、感涙して祈りを捧げる者まで現れている。

 変身の締(し)め括(くく)りとして、彼女は愛用の円錐槍(スピア)を掴(つか)み取った!

 斯(か)くして、マリーの──救済(きゅうさい)を求める人々の眼前(がんぜん)で顕現(けんげん)したのは、古(いにしえ)の神話から復活した〈戦乙女(ヴァルキューレ)〉の勇姿!

「神様だ……神様が救いを寄越(よこ)して下さった!」

「嗚呼(ああ)、有(あ)り難(がた)い……有(あ)り難(がた)い!」

 口々(くちぐち)に零れ出る感謝の念を温顔(おんがん)で受け取り、ブリュンヒルドは保護対象へと向き直った。

「マリー、来た道は覚えていますね?」

「え? う……うん」

「それを戻って裏道を辿(たど)れば、無事に家へと帰れるはずです」

「でも……」

 未(いま)だ少女が抱(いだ)く不安を、ブリュンヒルドの優しい微笑(ほほえ)みが払拭(ふっしょく)させようとする。

「大丈夫ですよ。此処より先は、私が災厄を食い止めます。誓って、貴女(あなた)達に近付けさせたりしません」

 誇り高い宣誓(せんせい)を置いて、戦乙女(ヴァルキューレ)は地を蹴った!

 その跳躍は飛翔と化し、易々(やすやす)と建物棟を越える!

「あ……」

 心細さを訴(うった)えたくとも、既(すで)に保護者の姿は無い。

 子供ながらに理解はしている──こんな状況では仕方の無い事だ。

 だが、それでも手を引いて逃げてほしかった。

 取り残されたマリーは、選択肢も無いままに帰路へを辿(たど)るしかなかった。

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