ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~ 作:幻闇
黒斗と鱗華が、鱗華の実家である辰宮家に滞在してはや十日。
都市内を観光したり、買い物に出掛けたり、家族で情事に耽ってみたりと、それなりに充実した日々を二人は送っていた。
今日もまた、都市内に繰り出そうと居間で相談する二人であったが、何気なくつけていた
『続いては都市内にて発生した失踪事件をお伝えします。昨日の夕方ごろ、東部青龍街区にて友達と遊びに行くといって出掛けた13歳の少年が行方不明となっており――』
大陸にある都市の中でも、龍人族の郷はもっとも治安が良いとされている都市だ。とはいえ失踪事件という名の家出や、勘違いによる届け出は珍しい事では無い。
「子供が行方不明か……。少々心配だな」
「13歳の男の子でしょ? 難しい年ごろだし、家出とか……もしくは彼女とお泊りじゃないの?」
「早くないか? いやでも15で成人だしなぁ……。無くは無さそうか。俺も家出の経験があるし……彼女とお泊りなんてクソ羨ましい経験は無いけどな」
「童貞だったもんね♡ ボクの胸元チラチラ見て真っ赤になってたし、これならすぐ落とせそうって思ったよ。実際すぐに落ちたし♡」
「あん時は色々騙された……ボクは鱗が少ないからモテなくて……なんてしおらしく言いやがってさ……実際は全然関係ないんでやんのな。人間も龍人族も鱗華のカラダに夢中だったしよ」
「ああいう風に言ったらチャンス有りだと思ってグイグイ来てくれるかなって♡」
異世界に流れ着いた黒斗の無知に付け込み、一目惚れした男を堕とす為にあらゆる手管を駆使した鱗華。まんまとその毒牙に嵌ったのが黒斗であった。とはいえ黒斗の方も一目惚れであった為に何の問題も無かったのだが。
『現在は麒麟組による周辺の聞き込みと捜索が行われているようです。またなにか進展があり次第、皆様にお伝えします』
「あれ? 麒麟組が動いてるの? ――クロト、もしかしたらこれ事件かも……」
「ん? どういうことだ?」
「あのね――」
鱗華の説明によれば、主に市内の治安維持を担当している奉行所に勤めているのはサムライと呼ばれる者たちであり、彼等は役割によって二つの部署に配属されるそうだ。比較的数が多く、都市内の治安維持や門番、喧嘩や軽いトラブルに対する黄龍組。そして凶悪犯罪や他国からの犯罪者を取り締まる少数精鋭の麒麟組である。
「麒麟組が動いているって事は……ただの家出や失踪じゃあ無さそうかも、でも彼等は精鋭揃いみたいだからすぐ解決しそうだね」
「なるほどな。何も問題なさそうだ」
「ねぇねぇ、今日は風俗街に行くんでしょ? ナイさんいるかなぁ」
「前の時は出会い酒場に行けば会えるって感じだったが、どうだろうなぁ。まあ向かってみるか」
微妙に乗り気では無さそうな黒斗の様子に違和感を感じつつも、麟華はすぐにわかるだろうと深く追及はしない事にした。
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「ナイさんは来てない?」
「ええ、ここ最近は見てないですね。先週か……いや十日前くらいからかな? ご来店されてないです」
「そうか、ありがとう。ではまたな」
黒斗と鱗華は去年も来た出会い酒場の店員の言葉に、落胆を隠しもせずに店を出た。普通に遊んでいっても良さそうなものだが。期待が大きかった分、他者で代替するには物足りなかったのだろう。
「うーん。会えそうな予感がしてたんだけどな。当てが外れたか」
「クロトも? ボクも何か、ナイさんには絶対に会える。みたいな感覚があったのになぁ」
「俺はともかく、リンカの勘が外れるとはな。つーか、それはそれとして複雑な気分だな……」
当ても無く風俗街を歩きながら、珍しく二人で勘を外したことを訝る二人。常人であればともかく、五感を超えて六感、更にはセブンセンシズにすら目覚めつつある彼らの勘は、もはや未来視にも近いレベルの絶対的な知覚だ。それが外れたという事は、何か人知を超えた意思の介在する証でもあった。
「あれ? もしかしてクロト妬いてる? いつも嬉々としてボクを他人に抱かせるくせに♡」
「ナイさんはなんかこう……違うんだよな。あの邪神にすらリンカを奪られるなんて欠片も思わなかったんだけどよ……」
「本気で寝取られそうだって? うふふ……確かにナイさんってカッコいいし、それに……きっと凄く強いよね。戦った所なんて見たことも無いけど、底が知れないって感じ。あっちも凄いし、ボク本当に寝取られちゃうかもね♡」
「それはそれで興奮しちまうんだよなぁ……麟華をガチで取られたくないのと、ナイさんに取られて奉仕している姿も見たい。心がふたつあるー」
「あはは♡ まぁクロトなら奪い返すんだから関係ないでしょ。とはいつてもナイさんがよくわかんないタイプで謎が多いってのは同意するけど」
とはいえ本人たちにそこまでの自覚は無い。精々、ナイの様に底の知れぬ人物ならそういう事も有り得る。といった程度の認識である。
まだ陽が落ちて間もない時刻だというのに、風俗街は活気と喧騒に満ちていた。元々性風俗に対して大らかな人類種であるが、龍人族は他種族に比べて強い肉体を持つがゆえに性欲も強い傾向にあるという点も大きいからだろう。
「んー。いろんな店があるが、俺たちが愉しめそうな店って案外少ないんだよな」
「それはそうでしょ。基本的に女か男か、一人の客を相手にする店が多いんだからボクたちみたいにカップルで寝取らせたり乱交したりってのはセッティングしづらいもの」
「ハプバーみたいな出会い酒場か、さもなきゃゆきずりで引っ掛けるしかないもんな」
通りに並ぶ様々な店に目を向けつつ、大通りをそぞろ歩く二人。歓楽街はそれなりに広いのだが、二人がこれはと思う店は見つからなかった。気付けば辺りには呑み屋や飲食店が多い区画に切り替わっている。風俗街の周囲には、夜の遊びに精をだしたあとで腹を満たす飲食店が軒を連ねているのだ。
「そういやリンカ、この街の冒険者ギルドってこの近くだったよな? 寄ってみるか?」
「うん? 確かにこのあたりだけど……里帰り中は仕事しないんじゃなかったの?」
「帰省してまで仕事ってのがなんか違和感あったしな。でも大都市の冒険者ギルドってそういやセーヌ以外には知らないし、依頼を受けなくても気分転換にはなるだろ?」
冒険者家業は生業だが、半分は趣味の様なものだ。
黒斗は磨いてきた武術の腕を更に昇華させる事が目的であるし、鱗華は生粋の
「確かにそうだね……。もしかしたら金欠で女に飢えてる冒険者パーティとか、あわよくば美女を連れたクロトに因縁を吹っかけてボクを手籠めにしようなんて……世間知らずもいたりして……あぁん♡ ボクきっと路地裏に連れ込まれてクロトの前でボロボロに犯されちゃうんだ♡ そして彼等のアジトに連れていかれて昼も夜も輪姦され続けて孕まされて……クロトの目の前で産まされて、そのまま空いた子宮におちんちん突っ込まれて延々と種付けされちゃうんだね♡♡ んっ……はぁン♡ 想像しただけでイッちゃいそう♡♡」
「エロ冒険漫画の読み過ぎだ。今時そんなテンプレみたいなやつはいねぇよ」
「だよねぇ……もっと治安の悪い辺境とかじゃないとダメかなー」
もっとも、彼等の様な冒険者は稀だ。
技能も継げる家業も無く、食い詰めた者。何か成し遂げたい大望の為に冒険に身を投じる者。力はあれど、他に生きる術を持たぬ者。冒険者は危険だが、普通に働くよりも多くの報酬が得られる故に、それは成功を夢見た多くの人間が行き着く先なのだ。
一般的に、都市部の冒険者ほど丁寧であり、常識を持ち、そして
理由は簡単だ。都市部は安全で、辺境は危険というだけの違いだ。都市部に住める人間の数は限られているのだ。故に、新たな土地である樹海を開拓する四つの前線都市には、それぞれの国の財が惜しみなく投入されているのである。
黒斗らが郷のギルドに今まで行かなかった理由は簡単だ。危険のない仕事は
「ここが郷のギルドだよ。と言っても、ボクも郷を出る時に登録しにきただけなんだけどね」
「都市部だけあって建物が綺麗だなぁ……。隣の酒場も、行儀良さげな感じだぜ」
「実際良いからね。都市内の清掃とか建築の臨時作業、あとは他の街への護衛くらいしか仕事が無いもの」
「魔獣狩りは?」
鱗華の言葉に、不思議に思った黒斗が疑問を返す。セーヌであれば常時討伐になっているくらいに、冒険者の仕事といえば魔獣狩りがメインだろうという認識があったからだ。
「それは母さんたちみたいな狩人の仕事だよ。それにクレーターの内側には何故か魔物が侵入してこないんだ。だから魔獣に対する防衛は必要ないんだよね」
「狩人って冒険者じゃなかったのか……。それに魔獣が来ないってすげぇな。そういや禁断の地とかなんとか言われてたしな……特殊な磁場でもあるのかねぇ」
「あー、確かに初めて来た人は勘違いしやすいかもね。魔獣が来ない理由は……授業で習うはずだけど覚えてないや。多分クロトの言ってる感じじゃない?」
「相変わらず俺の嫁がクールビューティな見た目なのに雑すぎる。脳筋すぎだろ……」
魔獣に対する被害がまったく無いのは大陸の中でも龍人族の郷くらいであろう。故に少人数の隠れ郷の規模からここまで発展したのだ。かつて禁断の地と呼ばれた大陸の禁足地は、いまや龍人族の大切な故郷、揺り籠となっていたのだ。
特殊樹脂で作られた透明なオートドアを抜け、ギルドカウンターに向かう二人。冒険者など見慣れている筈の受付嬢たちの瞳に、驚愕の色が浮かんだ。
「依頼のボードちょっと見せてねー。受けるつもりはないけど、もし面白そうなのがあればこなしてあげるよ」
「はっ――はい! どうぞ心ゆくまでご観覧下さい!」
鱗華の言葉に、顔面を蒼白にした受付嬢が叫ぶ様に答える。怯えているのだ。
「べつにウチの嫁はホントに狂ってるわけじゃないから大丈夫だ。多分。騒がせてすまんな」
冒険者ギルドでは金級冒険者の動向は常に把握されている。もちろん金級冒険者が隠蔽しようとすれば簡単なのであるが、黒斗はそんな事はしない。故に彼等を一目見た時、その特徴から黒刀と狂龍妃であると受付嬢は気付いたのである。
「えっ!? ボクそんな扱いだったの!? うわー……。大丈夫だよー、極悪人には容赦しないけどまっとうな人や少しくらいのワルなら全然優しくしてるよー。だからボクの事そんな風に見ないでほしいな……」
「っ! いえ、すいませんでした。実績が余りにも凄まじかったもので……。ご本人はこんなに美しく凛々しい女性だったんですね。申し訳ありません、以後ギルド内の職員にも共有しておきます」
「すまないな。では少し拝見――」
驚かせた受付嬢たちに謝りつつ、二人は依頼掲出ボードをチェックしていく。
迷子猫の捜索、失踪人探し、廃屋の解体、家出人探し、ウルバス共和国首都ソーンベラフへの護衛、迷子探し、失踪人探し、やけに人探しの依頼が多い。
「家出とか失踪多くないか? ニュースでもやってたよな」
「なんだろうね。たまたまなのかなぁ」
「聞いてみるか」
カウンターに向かった黒斗が、空いている受付嬢の所に向かい声を掛ける。緊張した面持ちで受け答えをしてくれた受付嬢の話によれば、確かにここ最近、人探しの依頼が増えているとの事であった。
「うーん……。なんだろうね。でもなんか嫌な感じ」
「リンカの勘はあたるからな……。人探しなんざした事ないが、受けないまでも情報は集めてみるか?」
「そうだね。解決できそうなら改めて受ければいいし、流石にこれだけ失踪者が多いのはなんか原因がありそうだよ」
ギルドから実家へ帰る道すがらで話し合い、動く事を決めた二人。とはいえ探偵の真似事のような人探しなどした事も無いのだ。気楽に引き受けるという訳にもいくまい。であればまずは情報を集めて状況把握に努めようという結論であった。その過程で依頼を受けずに解決したとしても問題ない。元々金銭には困っていない二人である。ボランティアじみた人助けになったとしてもそれはそれで構わないというわけだ。
「明日は朝から家を出て調査開始だね」
「ああ、今夜は早めに寝るか」
実家に戻った二人は食事や団欒を済ませると、いつもよりもそこそこ早く床について英気を養うのだった。とはいえ夜の運動はいつも通りしっかりとこなしたわけだが。
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「まずは奉行所から行ってみるか」
「手堅い所からってのは基本だね。素直に教えてくれるかはわからないけど」
「確かにな」
翌朝、朝食をとった二人はまず、龍人族の治安維持組織である奉行所へと向かった。
街中にいくつもある町奉行ではなく、それらを統括する都市奉行所という大きな建物が目的地だ。二人は駅近くで流しの送迎用魔導四輪をつかまえて乗り込み、行き先を告げる。
高度に発展した郷では、道は歩道と車道に分かれ、簡易魔導頭脳を組み込まれた車両は安全性も高いのである。運転手では避けきれない障害物や飛び出す子供たちにも反応して停止可能で、なんと運転手が病などで気を失っても自動的に安全な場所に停車して救急車両を手配までしてくれるほどである。
「あいかわらず都市部の技術はやべぇなぁ……日本より余程進んでるぜ。交通事故で死ぬやつも少なそうだな」
「いないんじゃないかな? 車にぶつかったとしても制御が効いてるからスピードも遅いし、そもそもそ車にぶつかったくらいじゃ龍人族は死なないしね。傷もご飯食べたら治るし」
「人間って脆いんだな……。いや、龍人族がおかしいだけか。そりゃなんもわかってなかった昔は化け物扱いされてもおかしくないな……」
元々数が少なく、迫害や追放で徐々に滅亡しかけていた龍人族であったが、もしもかつての人族と同数の数がいたら、大陸は龍人族が支配していた可能性が高い。
また、これほどに治安の良い場所であれば移民なども多くなりそうなものであるが、郷の歴史が歴史であるため、移民に要する資格などの条件ははかなり厳しい物になっている。
「ついたか。なかなか立派な武家屋敷って風情の建物だ」
「日ノ本の漂流者はちょこちょこ来てたからね。お話を聞いたりしてなるべく向こうの文化を再現したんだって」
運転手に色をつけた代金を払って車から降りた二人は、和風の雰囲気漂う都市奉行所の門をくぐり、建物内へと入っていく。
「たのもーう!」
「なんで道場破りなんだよ……」
仮にも郷の治安維持を担う場所だ。一見おちゃらけた観光客にしか見えない二人に対して、その場にいた全員が無意識のうちに刀の柄に手を掛けた。二人の強さをある程度計れる、つわものたちである証左だ。
「黒刀と狂龍姫どので間違いないかな?」
立派な双角を生やした巨大な体躯の龍人族が二人の前に進み出てきた。大柄な黒斗よりも更に頭一つは大きく、岩山の様に鍛え抜かれた筋肉の鎧に身を包んだ逞しい若者だ。
若者の誰何に二人が頷き返すと、周囲のサムライたちの緊張が目に見えて解れる。二つ名持ちの冒険者であれば、少なくとも無闇に暴れたりすることは無いとの認識だからだ。
「名前は聞いていたが……、本当に辰宮だったのか。ああ……今は荒神だったか? 久しぶりだな」
鱗華の旧姓を呼んだ若者の様子を訝し気に眺めていた鱗華であったが、何かを思い出したのか、ポンと手を叩いて声を上げた。
「あっ!
「辰……いや荒神夫人、君ほどではないさ」
「鱗華でいいよ。今はここで働いてるの?」
「麒麟組のサムライ大将を拝命している。大将といっても実態はしがない中間管理職だけどな」
サムライ大将というのは実際に現場で動くサムライたちを取りまとめる立場だ。強さはもとより賄賂に靡かない等、人格面でも清廉さを求められる役職である。それも少数精鋭の麒麟組の――となれば、その実力は推して知るべしであろう。
「リンカの同級生か? 俺は荒神黒斗、よろしくな」
「貴方がくだんの漂流者か。一点の曇りもない湖面の如く澄んだ、けれども底の見えぬ闘気を感じる。なるほど、真のサムライというのはこういう存在なのだな。私の名は
挨拶を終えると、二人は雷牙の案内で奉行所の応接室に通された。建物の外観に相応しい畳敷きの和室である。一般家庭では近代の漂流者からもたらされた洋風の部屋も多いが、公的機関では昔ながらの和風な建築様式が主なのだ。
座布団の横に愛刀を置き、背筋も美しい正座をした黒斗。以外に思われるかもしれないが、幼い頃より厳格な祖父に礼儀作法を叩き込まれた黒斗は、公的な場での振る舞いは慣れたものである。
そして、それとは対照的に胡坐をかいた鱗華。玲瓏な美貌とは裏腹になんとも豪快な仕草だ。
「それで、わざわざ奉行所に来られた理由をお聞きしても?」
「ああ、実は、都市内で続く失踪事件を調べていてな。何か情報が手に入ればと思ったんだが」
「なるほど。誰かに依頼を?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、リンカが嫌な予感がすると言っててな。ウチの嫁さんのカンはよく当たるんだ」
「勘か。だが、金級冒険者の勘ともなれば無視は出来ないな。それに、行方不明者がここ一週間でかなり増えているのは事実だ」
「だから奉行所でわかってる情報があれば教えてほしいなってね。ボクたちも調べるからわかってる事全部教えてよ」
「いやリンカ。さすがにその言い方は色々アレだぞ」
「はぁ……。何も変わらんな辰宮は」
何も取り繕わない鱗華の言葉に、雷牙が天井を仰いで溜息を吐いた。要はタダで捜査情報を教えろという事なのだ。それがどれほど無茶な要求であるのかは子供でもわかる事だ。
「あー……。俺は一応、一般に公開してる様な事だけでもと思ったんだが……」
「いえ、大丈夫。彼女の性格はよく知っている。学生時代の彼女の綽名をご存じで? 残念美人、脳が筋肉で出来てる女、アンタッチャブル、等々……それはそれは有名でな」
「こんなしとやかな美人を捕まえてひどいよね」
「いや、正にその通りだ」
「ボクの旦那が手厳しい!?」
突如始まった夫婦漫才に、口をぽかんと開けた雷牙であったが、徐々にその顔が、堪えきれぬ笑いに歪んでいく。
「ぷっ……あっはっはっ! 告白してきた男達を全員容赦なく興味ないの一言で斬り捨て、強引にコナを掛けてきた男達は無惨にぶちのめしてきたあの暴れん坊美少女がこの有り様か! まったく、人とは変わるものだな」
「だって全員ボクより弱かったんだもの。仕方ないよね」
「都市内であればいくらでも仕事があるだろうに、成人したらすぐに冒険者になって街を飛び出したかとおもえば金級になって戻ってくる。しかも強さの底が見えんほどの腕前の漂流者の旦那付きときた。そうだな、本来であれば部外秘なのだが……君たち二人にコネを作れるのであれば多少の横紙破りは許されるだろう」
昔と違って、今は郷もウルバス共和国の一部なのだ。自治都市とはいえ共和国側との政治的な闘争なども多い。そこに現れた、鱗華と結婚して郷に愛着を持つ金級の漂流者だ。仲良くするだけで宗主国に対する牽制が出来るのであれば、多少どころか大きな横紙破りであっても何の問題も無いだろう。
「おっ! 話が分かるな。できれば昔のリンカの話ももっと聞きたい所だが……」
「今は連続行方不明事件の件で忙しいゆえ難しいが、落ち着いてからであれば一席設けたいところだな。私も漂流者である貴方の話には興味がある」
「いいね! 奢り?」
「これでもそれなりの俸禄を貰っている。遅れた旧友への結婚祝いとして奢らせて貰うよ」
「やったあ! 雷牙くん好きっ! ボクをオナホにしてもいいよ!」
「冗談の下品さにも磨きがかかってるな。残念美女は変わりなしか」
実は全くもって冗談ではないのだが、彼がそれを知るのはもう少し先の話であった。
奉行所が把握している情報はそれなりに多岐にわたった。しかしその中身は二人の期待通り……とまではいかなかった様だ。
雷牙の話によれば、すでに市中の失踪者は三桁に上り、その原因も不明。どこか他国などから流れてきた人身売買組織であるとか、邪神の生贄として邪教崇拝者が攫っているのだとか、更には異世界に追放される闇の穴、ワームホール現象が起きたのだ。などという荒唐無稽な噂ばかりが都市内には流布しているそうだ。一応最後の仮説は黒斗にも心当たりがあるのだが、そう頻繁に起こる現象では無いだろう。
失踪者の届け出は多いものの、殆どのケースでは遅くなっても帰ってこなかったという話ばかりだそうだ。
辛うじて一件、息子を公園で遊ばせていたら突如息子の周りが光り輝き、輝きが消えた頃には息子も消えていたという女性の証言があるのみだ。とはいえ女性は錯乱しており、証言の確実性は疑わしいとの事だった。
「光って消えたってのが気になるな……。自然現象なのか……それともなにかの魔導具とか仕掛けを使った人間の仕業かもしれんな……。もっと情報を集めるべきか」
「それならば下町の侠客たちに聞くのが一番だろう。彼等も独自に調査しているはずだからな。荒くれもの揃いだが、君たち二人なら何の問題も無いだろう」
「たしか、郷の風俗や裏社会を仕切ってる人たちだったか。裏組織なんて他国だと犯罪者ばかりだが、侠客たちは祭りの主催や他国の犯罪組織に対する牽制が主な役割だとか……。ヤクザってよりテキヤって感じだな」
「そうだな。持ちつ持たれつってやつさ」
「んじゃ下町に行ってみるか。いいよな? リンカ」
「うんうん。良いんじゃないかな。色々教えてくれてありがとうね。ライガくん」
「まだまだこちらも捜査の初期段階でな、何か詳しい事がわかったらまた教えるさ。連絡先を教えてくれ」
雷牙と連絡先を交換し合い、別れの挨拶をして奉行所をでた二人は、更に情報を集めるために都市の繁華街がある下町区画へと向かうのだった。
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繁華街を擁する下町に向かった二人は、幾つかの酒場を巡って失踪事件の情報を集め始めた。集まってきた幾つかの情報は、奉行所で聞いた内容とほぼ一致していたが、一つだけ二人の興味を引く情報があった。
「最近街で、カタギには見えない雰囲気の人族を見かけた……か」
「流れ者のゴロツキかな? それとも単に他国の冒険者とかかな?」
「新街道が出来てから、他国に出稼ぎに出る冒険者も増えてきたしな。とはいえ調べてみる必要はあるな」
「二手に分かれる? その方が効率も良さそうだよ」
「名案だ。腹も減ってきたし、メシ食ったら別々に情報を集めてみるか。あとリンカは羽を伸ばしたいだけだろ? ナイさんの当てが外れて、大分ムラムラしてるんじゃないか?」
「バレてた? 里帰りしてからこっち、クロトと父さん以外のおちんちん味わってないからさぁ……そろそろ他人ちんぽが欲しくて♡」
「まっぴるまから夫の前で浮気宣言。堂々としすぎてて逆に清々しいな。そしてエロい」
「でもその前にお昼かな。お腹空いちゃった」
「確かに。メシを食ったら別行動といくか」
方針を決めた二人は周囲を見渡しつつ歩き、ペコちゃんである腹を美味しく満たしてくれそうな飲食店を探し始める。
飲食店の集まる通りを見つけてそぞろ歩いていると、二人のカンが働いたのか、ほぼ同時に一つの店に視線が重なった。七輪で焼く、肉とモツ焼きの店だ。
「これは……堪らん匂いだ。脂の灼ける芳醇な香りと、肉の灼ける暴力的なまでの旨味が詰まった薫風。リンカ――決まりで良いか?」
「勿論! ボクの神クラスにまで高まったセブンセンシズも間違いなくココだと言ってるよ」
店に入った二人は大量の肉と酒、そして丼メシを注文する。暫く待つと、銀色の大皿山盛りになった肉と一升瓶が二本、そして冗談のように米が山盛りになった丼が運ばれてきた。
「まずは網に脂を馴染ませるか。シマチョウから焼いてくぜ」
「はーい」
網の上にたっぷりと置いたシマ腸を皮目から焼き、程よく焦げ目がついたらひっくり返して脂を落とす。すると、炭火に纏わりついた脂が勢いよく燃え上がるのだ。その渦巻く炎で脂身を炙ってやれば、最強に程よい具合に焼けたシマ腸の完成である。
タレはお好みで、塩コショウ、レモン汁と塩、すり下ろした果実やニンニクがたっぷりと入った醤油ダレなどが用意されている。ポン酢や胡麻油なんかも用意されており、店主のこだわりぶりが伺える。
「おいしーっ! 弾力のある腸と甘みたっぷりの脂が最高♡ お酒にも合うね」
「もちろん米にもな。味噌だれが堪らん」
四角い氷で燃え盛る炎を抑え込みつつ、ギアラやハラミ、タンにレバーと次々に焼いていく黒斗。肉がもっとも旨くなる刹那の焼き時間を見極め、焼けた肉が次々と鱗華の取り皿に盛られ――瞬く間に胃袋へと消えていく。
「どんどん焼いてくからからなー」
「はーい。クロトの焼いてくれるお肉は自分で焼くよりも遥かに美味しいんだよねー。ただ焼くだけなのになんでこんなに違うんだろ?」
「薄い肉は数秒の焼き時間の差で味が激変するからな。見極めが大事なんだ」
「奥が深いんだね……。まぁボクは食べるの専門でいいや」
「レバ刺しお待ち!」
「おっ来た来た! やっぱレバーは刺身に限るよな」
続けて運ばれてきたのは新鮮な生レバーだ。てらてらと艶めかしく輝く表面はまるで宝石の様に美しい。
黒斗が転移してくる以前から日本では禁止になっていた食材だが、龍人族の郷にそんな法律は無い。そもそも強靭な胃袋を持つ龍人族に寄生できる虫や菌がほぼ存在しないのだ。魔素で強化された肉体を持つ黒斗にも当然の如く不可能である。
「ゴマ油と塩をちょちょいとつけて……レバーの甘みを塩分が引き立ててサイコー!」
「酒がすすむなぁ」
凄まじい勢いで肉を平らげていく二人。元々健啖である龍人族といえど鱗華の食事量は明らかに異常だ。一般的な龍人族の10倍は食べるのである。周囲の客や店員たちもぽかんとした表情で二人のテーブルを見ている有様であった。
「ふぅ……食べた食べた」
「お腹いっばーい」
一時間ほど一心不乱に食事と酒を喰らい続けた二人は、ようやく箸をおいてゆっくりと腹部を撫でさすっていた。
人間である黒斗の腹部はぽっこりと膨らんでいるが、驚異的な消化効率を誇る鱗華の腹部は一ミリも変化が無い。食べる傍から栄養や神気に変換されてしまったのだろう。
「毎日あんだけ喰って太る気配も無いのはチートだよなぁ……」
「クロトだって太らないじゃない」
「俺はちゃんと毎日筋トレしたりして消費してんだよ。何もしなかったらあっというまにブクブク太るっつーの」
「メタボなクロトは嫌だなぁ……。がんばって筋肉維持してね」
「言われなくても頑張るさ。肉体の維持は戦士の基本だからな」
昼食を終えた二人は食休みもそこそこに店を出て、それぞれに情報を集め始めた。即時消化してしまう鱗華はもとより、黒斗もいまやベテランの冒険者だ。食べてすぐに動けない様では素人も同然なのだから。