※この作品はR-18です。

ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~   作:幻闇

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112話 英霊の頼み事

 小屋から出てきた二人は、黒斗の目にはなんら変わりなく見えた。相変わらず鉄面皮の如く無表情なキュクレインと、黒革のコートに身を包んだやや仏頂面にも見える幼げな美貌のアルティマ。黒斗と麟華の許へ歩み寄ってくる二人の雰囲気は相変わらず仲間以上の物には見えない。だが、麟華には違って見えたようだ。

 

「ふふっ。大分仲良くなったみたいだねぇ。二人とも」

 

 麟華の言葉にキュクレインはピクリと眉を動かし、アルティマの頬に少しだけ朱が差す。

 

「麟華、ありがとう。やり方はどうあれ、貴女のおかげで我は想いを伝えることが出来た。心から感謝している」

「……感謝する」

 

 対照的な態度で礼を言う二人をニマニマと眺めながら、麟華は満足そうに何度も頷きを繰り返す。幸せそうなカップルを見るのが大好きなのだ。恐らく、悲劇の只中にあった妹分であるリルを救い出した経験が大きく影響しているのだろう。

 

「ねえねえ、今度ボクたちとスワッピングしてみない?」

「すわっぴんぐとはなんだ?」

 

 てっきり頼みたい事とやらの内容を聞くものだと思っていた黒斗が、麟華の横で盛大にズッコケる。先ほどの演技の際にあれほど怒り狂っていたキュクレインに対して、その提案は余りにもだろうと。

 

「お互いのパートナーを交換してセックスするの♡ アルティマちゃんはうちのクロトを使っていいよ♡」

「すまん。我は冗談はあまり得意でなくてな……」

「始祖はユーモアに富んだ男であったらしいのだが、今の私にはわからぬ。すまない」

「うーん。割と本気だったんだけど、まぁ仕方ないね。ところで、頼みたい事って結局何だったの?」

 

 どうやら冗談だと受け取ってもらえたようで、黒斗はホッと胸をなでおろす。状況や空気を読まずに暴走するのが麟華の得意技なのだ。もしも次に脱線しそうな事があれば俺が話の主導権を握ろうと、固く心に誓う黒斗であった。

 

「我らのフネ。フォーマルハウトの動力炉を破壊してほしい」

「えっ? どういう事?」

「フネって……。もしかして宇宙戦艦とか言わないよな?」

「戦艦という名称は正しくない。フォーマルハウトは超都市級恒星間移民魔導船。ただ一隻にて民を護り、敵を撃滅する為のあらゆる超兵器を搭載した究極のフネよ」

 

 アルティマの言葉を受けた黒斗の脳裏に、少し前の事件の際に想像した事柄が去来した。まさか今度は宇宙戦艦なんて出ないよな。などと冗談交じりに思ったものだが……アルティマ曰く厳密には戦艦ではないらしいが、正直似たような物である。

 

「でも貴方たちのフネなんでしょ? そもそもどこにあるのかとか、何で壊さないとダメなのかとか、教えてくれるんだよね?」

「勿論だ。少々面倒な話になるし、麟華も無関係ではない。座って話さないか? さっきみたいな小屋でもいいぞ」

「そうだね。って……あっ! ちょっと場所変えよう。大通りに障壁出したままなのすっかり忘れてた! 外は大騒ぎかも……」

 

 麟華の言葉に黒斗の表情が引き攣る。確かにその通りだ。いくら裏通りだったとはいえ、都市内にそこそこの大きさの謎の半球ドームが現れれば嫌でも目立つだろう。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 麟華が障壁を解除すると、周囲には都市の護り手であるサムライたちが驚いた表情を浮かべて待っていた。怪しげな障壁を調べに来ていたのだろう。

 

 運よくその中に顔見知りである雷牙が居た為、金級冒険者である事を知る彼に、失踪事件の調査の為に必要だったと説明して事なきを得た一行。スムーズに終わった事と、去り際に懐かし気に苦笑する雷牙の様子から、学生時代からトラブルメーカーであった麟華の仕業だと半ば確信していたに違いない。

 

 もちろん、亜人奴隷売買に関わっていたであろう失神したままの男たちを突き出しておくのも忘れない麟華。地下に囚われているはずの子供たちの保護も頼み、アフターフォローも完璧だ。麟華はデキる女なのである。その後ろで、黒斗が隊員たちに麟華が破壊した道路などの修理費を負担すると約束したりしていたのであるが。まぁ些事である。

 

 ちなみにであるが、郷の法において他国人が龍人族を拉致、国外に連れ出した場合の刑罰は例え未遂であろうとも斬首刑だ。当たり前の様に首も刑場に晒される。いわゆる打ち首獄門であり、開祖の影響である事は間違いない。そして誘拐犯の彼らはその前に、さっさと殺される方がマシだと思えるほどの拷問を受け、情報を洗いざらい吐かされる事になるだろう。

 

 アルティマとキュクレインをつれて実家へと戻った二人は、二人を意気投合した友人だと両親に紹介して麟華の部屋に設置してある魔導テントへと入った。空間拡張の施されたテント内は実家そのものよりも大きく、もはや麟華の部屋は完全なテント置き場としてしか使われていないのであった。

 

「先ほどの女性。麟華の母親は臨月だな? これは少し、急いだほうがよさそうだな」

「なにっ? 義母さんが何か関係あるのか? どういう事だ?」

 

 応接間のソファに座って開口一番。アルティマが口に出したのは火燐の事であった。その言葉に、皆に出す飲み物を用意していた黒斗が耳聡く反応する。当たり前だ。火燐の腹の子は彼の実子なのだから。

 

「落ち着いてくれ。まずは説明する。それに危険があるというわけでもない。むしろ逆に安全かもしれない」

「わかった。とりあえず客には玉露だ。熱いのが苦手なら冷まして飲んでくれ。まずは話を聞くぞ。リンカ、余計な茶々は無しだ。義母さんが絡んでるとなればな」

「そうだね。黙って聞いてるよ。母さんが関係してるならボクもふざけてられないのは一緒だからね」

 

 アルティマの口から、事のあらましが語られ始める。それは要約すれば、この様な内容であった。

 

 

 かつてヴォイドの異形に滅ぼされた母星から新天地を求めて星の海を渡り、この惑星にたどり着いた人々がいた。彼らはその驚異的な科学力と、この星に存在した豊富なエーテルを利用して魔導術を発見。それと科学を組み合わせた魔導科学を発展させ、レムリア神王国と呼ばれる二千年王国を築いた。

 

 そして、彼らは母星を滅ぼした脅威に対抗するために様々な手段を創り出したのだ。人造の神であるツァトゥグァや、彼らと融合して究極幻想となる闘神システムなどがその代表例である。その中にはヴォイドに滅ぼされた母星の時の様に、外宇宙へと人々を逃れさせるための魔導船もあった。

 

「同型の魔導船は七隻が建造された。いまでもこの星の地下深くにて眠り続けている。だが、この都市の直下にある我らがフネ、フォーマルハウトは目覚めてしまった。ヴォイドの力を持つ者――つまりは麟華の接近によって……」

「私のせい!?」

「途中から嫌な予感がしたんだ……。まったくウチの嫁は……邪神に惚れられるわ宇宙船を目覚めさせるわ……なにやってんだ一体」

「いやどっちもボク被害者じゃない? あー……もういいや。ごめんね、話の腰折って。さすがにびっくりしたからさ、続きどうぞ」

「いや、無理はない。そもそもこちらが簡易スキャナーで誤認したせいだ。キュクレインも先走ったしな。詳細なスキャニングでもう疑いは晴れているのだ。一基を除いて……な」

「一基? 一人とかじゃなくて?」

「ああ。再び説明させてもらおう」

 

 アルティマは語る。魔導船の制御を司る魔導頭脳はかつての星渡りの英雄であり、アルティマの始祖であったアリーの上司が元になった人格で、名はエイネス。

 

 だが、魔導船にはもう一つ、最重要区画である動力炉を司る魔導頭脳が存在しているのだそうだ。こちらはヒトの意識を転写したエイネスとは異なる純粋な人工知能による魔導人格であり、それ故に、今回はヴォイドの脅威と誤認した麟華への勘違いを認めず暴走、魔導船の起動シークエンスを実行し続けているとの事であった。実行シークエンスとはつまり、転送魔導による周囲の人類種の保護。及び外宇宙への避難――である。

 

「あー……。つまり、融通の利かないAIが暴走して、この都市の人間を片っ端から集めて宇宙へ飛び立とうとしてるってコトか?」

「そうだ。そして、いまだ目覚めたばかりのフネにこの都市の全住民を保護するエナジーは無い。幼いもの、命を育むもの、または育んでいるもの、若き種を蒔くもの、そういった者たちを選別して、保護するのだ」

「命を育んでいるもの……。つまり妊婦だね! じゃあこのままだと母さんが宇宙に飛んでっちゃうじゃない!」

「それだけではない。この都市の直下にある巨大な魔導船が、大気圏を離脱する為に地中から飛び立てば、上に載っている都市はどうなると思う?」 

「都市が消えるな……。残された都市民はほぼ全滅か」

「うええええっ!? 大惨事じゃん! 避難させないと……」

 

 余りの未来予想図に、さしもの楽天家である麟華も狼狽えまくりである。故郷の都市がすべて灰燼に帰す。しかも少しは自分のせいで。となれば当然であろうが。 

 

「今すぐというわけではないが、猶予は一週間ほどしか無いだろう。その間に全都市民を避難させられるか?」

「無理っぽいなぁ……。そもそもこの都市がガレキになったらみんな生きていけないよね。魔獣の防備も無くなるし。ならもう、最初に言ってた通りアルティマたちのフネの動力炉をぶっ壊せばいいの? 爆発したりしない?」

「正確には揺籃炉――ああ、動力炉の名前だが、揺籃炉の管理魔導人格を破壊すればよい。まかり間違えて炉心を破壊したとしてもあの動力炉は仕組み上、破壊したとて爆発する心配は無い。ただ停止するだけだ」

「アルティマたちも強いよね。二人で出来ないの?」

「無理だ。我らはフネを守護する為の英霊。当然の帰結としてフネを害することは機能的に不可能なのだ」 

「それもそうか。だからボクたちに頼みたいって事なんだね」

「その通りだ。だが、勿論断ってくれても構わない。揺籃炉はただ破壊されるだけの存在ではないのだ。幾重にも張られた攻性防壁に護られ、我らの仲間たる英霊を再現し、人造神の技術を流用した戦闘用外殻を依り代として揺籃炉に繋がっている。いざとなれば、揺籃炉が産み出すエネルギー全てを用いて敵対者を滅ぼそうとするだろう。家族や知人、親しいものを連れてこの都市を逃げ出したとて、誰も咎めるものか」

 

 つまりは都市を見捨てて逃げろという事だ。咎めないというアルティマの言葉にも嘘は無いだろう。たった二人で、レムリア神王国の技術を結集して造られたフネの動力炉を破壊する。到底不可能だ。ただ同じ都市に住むだけの百万人を見捨てて逃げて当たり前なのだ。それが、黒(・)斗(・)と(・)麟(・)華(・)で(・)無(・)け(・)れ(・)ば(・)。

 

「ヒュウ……いいね。アンタたちの同輩に本拠地を守るトラップ。そして、あの間男邪神が使った神の依り代か。それを麟華の故郷を守る為に……かつての俺の同郷人が造り上げたこの都市を守る為に……ぶっ飛ばすだって? 滾りすぎてもう武者震いが止まらねぇぜ」

「うふふ……あははははははっ! 逃げる? ボクたちが? あり得ない。そんな面白そうな相手と闘えるなんてさぁ……もう興奮しすぎて子宮が燃えそう。本気――出していいよね♡」

 

 身に纏う雰囲気を一変させた二人の様子に、アルティマとキュクレインがごくりと息を呑んだ。二人は今、悟ったのだ。先ほどの戦闘など、彼らにとっては遊戯でしか無かった事を。

 

 我ら英霊を凌駕する存在? 否。彼らの強さの底はもはや計り知れないほどだ。揺籃炉が再現する英霊にはオリジナルの記憶が無い。ただ戦闘効率を優先するために手足の如く動かす英霊たちに、揺籃炉は人格を求めなかったからだ。その事に心の底から二人は安堵した。目の前に在る、深淵の奈落の如き雰囲気を醸し出す二人に対する仲間たちが、恐怖を感じる事の無い意思なき操り人形で本当に良かったと。

 

「なんという凄まじいオーラ……。これならば確かに……。心配は要らなかったかもな。キュクレイン」

「ああ、疑似でしかない心魂が冷え切りそうだ。アルティマの眼に狂いは無かったな」

 

 今夜一晩は、奇縁に感謝して杯を交わし合い。ゆっくりと休んで英気を養おうという結論に至った四人。黒斗と麟華にとっては即座に向かってもよいくらいなのであろうが、ようやく想いを交わし合えたアルティマとキュクレインに配慮した結果なのだろう。

 

 二人の話が事実であれば、依頼を終えて役割が終われば、アルティマとキュクレインは今の肉体を失ってしまうのだ。そうして次に再現された時は、今ふたたび交し合った愛の記憶も、ただの記録としてしか認識できない別の二人に生まれ変わってしまう。であれば今この時に、少しでも大切な記憶を紡いでほしいという、黒斗と麟華から贈られた心ばかりの時間であった。

 

 記録となってしまう記憶に意味など無い。そう嘆いていたキュクレインであったが、アルティマと肉体を重ね合った今では違う。この記憶があればきっと、次なるかりそめの生においても己はアルティマを求めるだろう。そんな確信にも似た思いが彼にはあった。

 

 

「キュクレイン……無理をしてはいまいな」

「そんなことは無い。私とて君を愛しく思ってはいたのだ。だが、私たちは英霊で、かの始祖たちの記憶を受け継ぐ別存在。君への思いが、果たして本物なのか……自信が持てなかったのだ」

 

 宛がわれた魔導テント内の寝室で、ベッドに腰かけた二人は互いの心情を吐露しあっていた。

 

「わからなくはない。けれど、それでも我は……」

「良い。もう君の気持ちはわかっている。私の心も君はわかっているのだろう? ならばもはや語るのは言葉ではあるまい」

「あっ……――」

 

 アルティマの唇を塞ぎ、ベッドへと押し倒していくキュクレイン。互いに口づけたまま、もどかしそうに服を脱いでいく彼らは、まるで思春期の恋人たちの様に初々しい。

 

「あっ……明かりを……」

「駄目だ。また永き眠りにつく前に焼き付けておきたい。君の美しき姿を」

「ううっ……そんな台詞言う奴だったか? キュクレイン……」

「或いは彼らに影響されたのやもしれんな。だが紛れもない本心だ」

「わかってるいるさ……。けれどその……恥ずかしいのだ。我の始祖はもっとこう……色々出ていて大人の女だったから……」

 

 アルティマの言葉に、思わず瞠目したキュクレインが、ついで肩を小刻みに震わせて笑い始めた。

 

「んなっ! 笑うのはあんまりではないか?」

「くははっ……いや嘲笑ったわけではない。それを言ったら私の始祖は皺だらけの老人であったぞ。我ら英霊は肉体の全盛期をもって再現される。君のその肉体は、その時が最も美しいという事だよ」

「言われてみれば確かに……。そうか、キュクレインの始祖は天寿を全うしたのであったな」

「ああ、君の始祖の働きによってな。だが、そのお陰で彼の晩年は寂しいものであったぞ。子が育つまではともかく、それ以降は新たに妻を迎える事も無く、君の始祖の事ばかり思い出していたよ」

 

 互いにオリジナルの記憶を持つ二人だが、惑星入植に際して戦死した時点までの記憶しかないアルティマと違い、キュクレインにはその後の記憶もある。

 

 そんなキュクレインの言葉に俯くアルティマ。例え自分では無いとしても、アリーの記憶を持つ彼女は罪悪感を覚えずにはいられなかったからだ。

 

「嫌味のつもりで言ったのではない。事実、君の始祖たるアリーの戦働きの結果としてこの星はここまで繁栄したのだ。途中、一度の【終末】を迎えても、我らが守護せし人々はカタチを変えて生き延びた。それは紛れもなく君の成果だ」

「我だけでは無い。あの戦では多くの戦士たちが散っていった。我らの様に英霊となった者もいる」

「そうだったな。言い直そう。君を含めた、輝ける暁の戦士たちのお陰だ。黄昏を迎えた母星を飛び立ち、遥か星辰を超えたこの星で人々に再び暁を齎してくれた君たちを、例え最後を共にできなかったとしても誇りに思う」

 

 キュクレインの言葉に、アルティマは俯いていた視線を戻して彼の瞳を見た。その瞳の色に嘘は無い。

 

「だが、キュクレインの始祖を悲しませたことは――」

「だからだ」

「うん?」

「だからそれをこれから取り返すのだ。たとえ紛い物であったとしても、彼らの記憶を受け継ぐ私たちにしかできない事だ。これから先、永劫に君を愛そう。なんど永き眠りにつこうとも、それがとこしえに醒めぬとしても、目覚めの度に君を抱こう」

「あ……――」

 

 アルティマの唇が再び塞がれる。今後こそ……二人の間に言葉は必要なくなったようだ。

 

 その日、彼らの始祖たちが生きた時代よりはるかな時を超えて、再び彼らの現し身たちは交じり合う。一万年と二千年の時を埋めるように、かりそめの肉体と魂を震わせながら愛し合うのだった。

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