ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~ 作:幻闇
大陸中央部の大樹海浅部を貫くように作られた新街道。
遥か上空の成層圏からその姿を見てみると東西南北にある国の大樹海に接した街をそれぞれ頂点とした菱形の様な形として視えるだろう。
対して古くより使われてきた旧街道。
こちらは四国のそれぞれの中心部を頂点としたより大きな菱形として視えるはずである。
利便性の面から新街道を利用する者が増えてきたとはいえ、そもそも旧街道一本しか道が無かったのだ、目的により使い分けられる二つの街道はどちらも四国に住む人々にとって大事な大陸の大動脈と大静脈といっても過言ではないだろう。
セーヌの街を旅立った荒神夫婦は街から繋がっている新街道では無く、内陸部に通じる小街道を進んで旧街道へ出る為に旅をしていた。
魔竜の革と鱗で作られた軽鎧にそれぞれ身を包み、黒斗は漆黒の鞘に納まった黒刀ハガネ断ち改を腰に差し、鱗華は魔竜の牙を削り出し磨き上げて素材とした禍々しい七支の槍、魔竜牙槍を背負っている。
装備を受け取った後に新装備の試しがてら、樹海の深部の縁に狩りに行った二人であったが小型の爪竜種程度であれば骨ごと一刀両断にしてしまう程の黒刀の斬れ味と、甲殻竜の背甲ごと貫く魔槍の威力に驚愕と感動に震えてバルガスの腕に感謝した二人であった。
「もうすぐ旧街道との合流地点だったか? 大きめの宿場町があるんだよな?」
「そうだね。そこから先は暫らく宿場町が無いから、皆そこで準備を整えるんだよ」
のんびりと周りの風景を眺めたり、時折りすれ違う商人や冒険者達と挨拶を交わして情報交換を行ったりしながらのどかな旅を楽しむ二人。どうやら間もなく大きめの町に辿り着く様である。
「成程な、暫らくは野営になるって事か……俺達はあんまり関係ないが、なんか買っておくものとかあるか?」
「とくに必要なものは無いかなぁ……さっき挨拶した冒険者さん達が言ってた料理の美味しい酒場に行ってみたいくらいかな」
「それは賛成だ、先に宿を取ったらいってみよう」
先程、情報交換をした冒険者達から聞いた話で一番興味を惹かれた美味い飯と酒の店、旅先で一番の楽しみといえばやはりご当地メシなのは間違いないだろう。
そこまでセーヌから離れた場所ではないとはいえやはり多少の違いはある、どのようなものが食べられるのかを楽しみに二人は宿場町へと向かうのだった。
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冒険者達や旅の商人、町で働く男達で賑わう大きな酒場、ガヤガヤと皆楽しそうに明るい雰囲気で酒と語らいを楽しんでいる。
そこそこ高級な宿を確保できた二人は貴重品等を除いた荷物を部屋に置いて、話に聞いた酒場へと繰り出してきたのだ。二人を迎えたのはそんな賑やかな雰囲気の場所であった。
「へえー、凄く良さそうな雰囲気の店だな。こんな店は大体当たりなんだよな」
「間違いないね。料理の香りもすごく美味しそう、嗅いでるだけでお腹が悲鳴を上げてるよ」
二人は腹の虫が大きく騒ぎ始めるのを感じながら給仕に案内されて空いたテーブルへと腰を落ち着ける。
卓上に用意されたメニューを仲良く頬をくっ付け合いながら眺めていく二人、そんな二人を微笑ましく見やりながらおしぼりと冷たいレモン水を配膳した給仕の女性は、注文が決まったらベルを鳴らす様にと一言告げて卓を離れていった。
「とりあえず肉だな……串焼き盛り合わせは鉄板だよな、ここは魔牛の肉もあるのか」
「魚も干物ならあるよ、脂の乗った大きいヤツみたいだね」
「まぁバランスよく被らない様に色々頼んでみるか。酒は芋の蒸留酒があるから俺はこれだな」
「ボクもそれにしようかな、ボトルで頼んじゃおう」
頼む物が決まった二人はベルを鳴らして給仕を呼ぶと次々に食べ物と飲み物を注文していく。
明らかに体格の良い男と亜人族の女、歴戦の冒険者といった風体のカップルであればそれほど異常な量ではないだろうと、凄まじい量の注文を涼しい顔で復唱して確認する給仕の女性。
やはり人気の店はスタッフの質も一味違うようである。
注文した料理を待つ間にこれからの旅程を話し合う二人、この宿場町を出てから次の宿場町までは暫らく距離が有るが所々に簡易的な柵や堀に囲まれた野営地が存在する様だ。
そういった野営地で野宿をしつつ宿場町で消耗品を補充して旅を続けるといった感じである。
まずは大陸北部にあるジェノガルド選王国を目指して進み、いくつかの名所を廻ろうといった話をしていた二人のテーブルに注文していた料理や飲み物が配膳され始めた。
「おおっ!メチャクチャ旨そうだぞっ!魔牛のステーキはちゃんと中まで火が通ったレアで焼いてあるな、ライスもあったからどんぶりで頼んでおいたが大正解だったぜ!」
「野菜も凄く新鮮だね!ドレッシングは胡麻かな? さっぱりしてるけど濃厚でボク大好きなんだよね。とりあえず乾杯しようか」
「ああ、二人の旅に乾杯だな」
グラスではなく蒸留酒の入ったボトルをそのまま手に持って乾杯する二人、どうやらボトルで頼むというのは本当にボトルのまま飲むという意味だったようだ。
豪快な乾杯をした二人はそのままラッパ飲みでボトルの中身を胃の中に落とし込んでいく、半分程空けた辺りで卓の上にボトルを置くと盛大なげっぷをお互いに吐き出して笑い合う。
「染み渡るぜ……至福の瞬間ってやつだなぁ……」
「たまんないよねぇ……空きっ腹に強い酒をぶち込んだ時の快感……♡んはぁ……」
「無駄にエロいんだが……――さて何から食うかねぇ」
卓の上に並ぶ様々な料理、どれもとても美味そうである。
採れたての新鮮な葉物野菜や瑞々しい根菜を丁寧に刻んで盛りつけられたサラダにはさっぱりとして濃厚な胡麻のドレッシングがたっぷりと掛けられている。
様々な種類の肉の串焼きが山のように積まれた皿は二枚、それぞれタレと塩で分かれているようだ、適度な焦げ目がついた串焼きの肉は艶めかしい脂の汁を内側からにじませて光り輝いていた。
時間のかかる料理や煮込み料理などはあとから来るのだろう、これがないと始まらないとでもいうようにどんぶりに盛られた白米を片手に料理を猛然と片付け始める二人。
「もぐっ……ガッ!ごくり……ガツガツ……ばくり……ごくっ……ぷはぁ!!旨すぎる!!」
「はむっ……んぐんぐ……もがぁー……ごくん……はふっ……んはぁ……大当たりだったね!!」
肉や魚を堪能しつつ白米や酒で胃の中に流し込むように食べる、呑む、食べる、サラダで口の中をさっぱりさせては新たな料理に挑んでいく、二人。
合間に交わされる会話で店の味を褒めちぎりながら、夢中になって皿の上の料理を平らげていく二人を周りの一般の客たちは驚いたように見詰めて胸焼けをした様な表情を浮かべていた。
あっという間に料理を片付けていく二人のペースに負けまいと給仕が新たな皿を運んでくる。
どうやらオススメ料理である煮込み料理が出来上がったらしい、深めの大皿に盛られた料理を見た二人の顔色が変わる。
「おおおっ!!もつ煮込みかっ!味噌の香りがやべえっ!セーヌだと醤油はたまに使われてたけど味噌料理はあんまりなかったよな、こいつぁ嬉しい不意打ちだぜ」
「これ美味しいよねぇ……お酒に凄く合うし、下処理がダメな店のはほんとに不味いんだけどここならそんな事はないでしょ、そりゃ名物にもなるよね」
味噌の香りとネギの香りが至高のレベルで調和して二人の鼻を直撃する、丁寧に下処理を施された魔牛の内臓と根菜やネギをたっぷり時間を掛けて煮込んだもつ煮込みだ、この店の名物料理で、態々近隣の町から食べに来る猛者もいる程の一品である。
「ずずっ……――ゴクリ…………日本で食べたものと変わらない……いやそれ以上か……?」
「あむっ……――ごくん……里のもつ焼き屋と比べても遜色が無いね……旨すぎだよ」
名物料理を至福の表情で味わいながら酒を干していく二人、そんな二人に近くのテーブルにいた冒険者達であろうグループが声を掛けてくる。
「あんた達、この店は初めてかい? ここの煮込みは絶品だろう。見た所相当腕の立つ冒険者とみたがどっちから来たんだい?」
「ああ、初めてだな。ここのもつ煮込みは最高だな……キチンと処理されて内臓の臭みが一切無いし、噛み締める度に内側から旨味が溢れ出してくる」
「ボク達はセーヌから来たんだ、ウルバス共和国に向かう途中でね、途中で出会った冒険者達にこの店を教えられたんだけど大当たりだったよ」
黒斗の答えに満足したように、そうだろうと頷く隣のテーブルの面々、続いて鱗華が答えると今度は興奮した面持ちで瞳を輝かせて二人に問い掛けてくる。
「セーヌの街の腕の立つ冒険者夫婦って事はもしかしてあんた達が黒刀と狂龍妃なのか? どうみても竜種の素材から作られた装備をしているからそう思ったんだけど、間違っていたら申し訳ない」
「ああ、そう呼ばれているらしいな、うちの嫁さんは二つ名が可愛くないとややおかんむりだったんだが……リンカ、実際に呼ばれてみてどうだ?」
「ううーん……恥ずかしいのはあるけどそんな憧れの眼差しで呼ばれたら仕方ないよね、悪口じゃないんだし、嬉しいかもしれない」
酒が入っておおらかになっているというのを差し引いても、満更でもなさそうなリンカの様子に黒斗は安心する。もし嫌なようであればこれから何度も呼ばれる事になるのだ、その度に不快になられてはあとのフォローが大変なのである、どうやら大丈夫なようだ。
「凄い! 本物だ! 魔竜討伐者本人に会えるなんて夢みたいだ」
「奥さんも凄い強いんだろ? 女の身で魔竜にトドメを刺すなんてすごいね、私も同じ女として負けてられないな!」
「すいません色々話を聞かせて頂きたいのですが、勿論報酬は――」
「いらんいらん、武勇伝ならいくらでも語ってやるさ。ほれテーブルくっつけちまおう、皆で飲もうぜ!!」
そう彼らを促して、卓を合わせて改めて乾杯をするとそれぞれに自己紹介を始める。
どうやらこの宿場町で生まれ育った幼馴染同士で男2女2の銅級四人のパーティの様だ、大樹海が近い事も有り、皆かなり鍛え上げているようである。
もうすこし自身が着いたらセーヌの街を拠点に頑張りたいとの事であった。
「私はエルフ族の弓使い、ライナだ、筋肉には自信が有るぜ」
逞しい筋肉を見せ付けつつも、豊かな胸部は女性的な柔らかさに溢れている。
スタイル抜群でシックスパックに腹筋を綺麗に割ったエルフ族の女性、野生的な美女といった見た目である。
「僕は人族のティム、剣と盾をメインに使ってパーティの盾役として動いてます」
一見、なよっとした優男風に見えるが露出した腕などは細身ながら引き締まった筋肉質で、いわゆる細マッチョといったタイプの爽やかな若者である。
「ドワーフ族のシャララなのです、斧最高ですよね!バトルアックス使いなのです!」
身長130cm程であろう小柄な体であったがドワーフ族は男女問わず怪力を誇る種族だ、彼らは巨大な戦斧や戦槌を好んで扱う者が多かった。
シャララは三つ編みの髪を左右に垂らした可愛らしい美少女であった、どうみても子供にしか見えないがドワーフ族の女性は成人しても人族の少女にしか見えないので、彼女も立派に成人しているのだろう。
「うおおっ!憧れの二人と乾杯できるなんて感動だあっ!俺はバッシュ! 人族の戦槌使いだああ!」
やたら熱血な感じを振りまく短髪のマッチョな男、いかにも荒くれ冒険者といった風体の男であったが誰よりも黒斗と鱗華に憧れを抱いているようだ。
「知ってるとは思うが改めて、俺はクロト、刀使いだ。皆よろしくな!」
「リンカだよ、龍人族の槍使いかな、よろしくね」
「俺が誘ったしな!今日は俺達が奢るぜ、なんでも好きな物を頼んでくれ。遠慮なんかすんなよ?」
黒斗の言葉に歓声を上げて盛り上がる若手の冒険者達、リーダー役であろうティムはやや申し訳なさそうにしていたが、断る方が失礼だろうという事で皆を促して二人に口々に礼を言わせていた。
飲み、食らい、語らいあう六人。
黒斗と鱗華が武勇伝を披露すれば瞳を輝かせて聞き入り、ティムらが武器の扱いや戦いの心得などを訪ねれば自分たちなりのアドバイスを行って感謝され、セーヌの街に出る予定の彼らの為に美味しい食事処の説明等、尽きることない話題と共に小さな出会いの宴は続く。
「でもあれだよね、男女混成のパーティは珍しいよね、幼馴染同士とはいえ大変なんじゃない? それとも、もう一歩進んだ感じなのかな?」
鱗華が四人に興味津々といった感じで質問をするとやや不思議そうな感じで黒斗が疑問を口にする。
「そういうもんなのか? 確かにあんまり男女混成のパーティって見ない様な……」
日本にいた頃に見ていたアニメや漫画で登場した冒険者達は皆当たり前の様に男女混合のパーティが多かったため、てっきりこちらの世界でもそうなのだろうと単純に考えていた黒斗。
「あー……そうですね、確かに恋人同士ではありますね。黒斗さんは漂流者という事でしたのでご存じないのでしょう、男女混成でパーティを組むというのは余程親しい間柄でない限りはそうそうないんですよ」
一度、町の外に冒険に出掛ければ野宿や水浴び、用を足す時など無防備な時間は沢山ある。
そんな時に近くに待機して見張りや警戒をしてくれる存在が良く知らない男だったとして安心できる女性はこの世に居るのであろうか? 余程の剛の者か女を捨てている者でもない限りそんな事は無いだろう。
パーティメンバーを募集して結成する際は基本的に同性同士で組むのが基本なのだ、混成のパーティは恋人同士であるとか彼らの様に幼馴染同士等の親しい間柄で組むのが殆どなのである。
「成程なぁ……確かによく考えたらよく知らない男達だけと命懸けの環境に身を置く女なんていないよなあ……」
ティムに詳しい説明を受けた黒斗は納得した面持ちで呟く。
「そうさね。私達だってこの二人以外の男と組む気なんて無いよ、異性とパーティを組むってのは結婚と同義……とまでは言わないけど少なくとも恋人より深い関係になるって事と変わんないからねぇ……危険な環境で寝食を共にするんだからね」
弓使いのライナがさも当たり前だという顔つきで宣言すると、やや照れた様な面持ちでティムとバッシュが頭を掻く。
「そりゃそうかぁ……――んっ? つー事はもしかして……会ったその日にパーティを組みたいってリンカに言ったのは……かなりありえない提案だったのでは……」
この世界に落とされて鱗華と出会ったその日のうちにパーティを組みたいと申し出た事を思い出して呟いた黒斗、その言葉を聞いた四人は驚いた様な顔で鱗華と黒斗を見つめる。
「ええっ!? お二人は出会ったその日にパーティを組んだのです? 気になりますですね、リンカさん怖くは無かったなのですか?」
おずおずといった感じでシャララが尋ねると、満面の笑顔を浮かべて鱗華が答えた。
「んふふー、確かにちょっとビックリしたけどボクも一目惚れしちゃってたからねぇ、漂流者でよく解ってないんだろうなって思ったけど、既成事実を作ればこっちのモノだからね♡ 逃がす気はなかったんだよ」
「見た目に似合わず肉食系なんだねぇ!リンカの姐さんは、カッコいいなぁ。うちらは皆ガキの頃から一緒で気付いたらそいう関係になってたってだけで一目惚れなんてロマンチックな事は関係なかったんだよねぇ」
「ほえー運命の相手なら時間なんて関係ないってやつなのですね! でも昔から家族同然の皆の事は大好きなのですよ。惚れ直す事も有りますですね、愛してるなのです」
女三人寄れば姦しい、色恋話であれば特にそうであろう。
女性陣三人で盛り上がっているのを横目に男達も三人で語り合う。
「マジかー……俺は会ったその日にプロポーズしてたようなモンだったのか……もう正式に結婚してるし、今更とはいえ……恥ずかしい事やってたんだなぁ……」
「まぁまぁ、結果が良ければ良いではないですか。この土手焼きも絶品ですよ、どうぞどうぞ」
「アニキも尻に敷かれてんすねぇ……うちと変わりませんね! ささっお注ぎするっす!アニキっ!」
「おぅ、サンキュー。まぁ惚れた弱みってヤツだよな、お前らもそうだろうけどな」
いつのまにか黒斗をアニキと呼んで慕うバッシュであるが当人も含めて余りにも違和感が無さ過ぎた為にツッコミを入れる者は誰も居なかった。
一人っ子であった黒斗は内心満更でも無い様でやや年下の、似たような体格の男に酒を注がれる度に嬉しそうに口許を綻ばせて応えていた。
すっかり打ち解けて酒と美味い食事を楽しんだ彼らは店の閉店時間までよく食べてよく呑み、その日の店の売り上げは過去最高を記録したとかなんとか……。
「クロトさん、今日はありがとうございました、新婚旅行楽しんできてください。僕らも春先にはセーヌの街へ出ようと思っているのでその時はまたお会いしましょう!」
「リンカの姐さん! 今度はもっと色々聞かせておくれよ、次は女子会といこうじゃないか!」
「ああ、また来年会おう!バッシュにはもっと酒を鍛えておけといっといてくれ、ハッハッハッ」
「女子会いいねぇ! ライナはいい筋肉だからあとは柔軟性を上げておくともっといい筋肉になれるよぉ、頑張ってね」
完全に潰れてしまったシャララとバッシュをティムとライナが背負い、別れと再会を祈った挨拶をして帰っていく。
そんな彼らに力強く返事を返しつつ、ややふらつきながらも意識はしっかりとした酒豪二人も取っておいた宿に向かうのだった。
「もしかしてずっと筋肉の話してたのかよ……」
「半分くらいだよ、あとは男達の筋肉についてかなぁ」
「それ全部筋肉じゃねーか……まぁティムとバッシュもタイプは違うが良い筋肉だったけどよ」
とても女子同士の会話とは思えない内容で盛り上がっていたようだ、そこそこ酔いの廻っていた二人は宿に戻るとすぐに鎧を脱ぎ捨ててベッドに身を投げ出し、アルコールの酩酊感に身を委ねて泥の様に眠りにつくのであった。
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翌日の昼頃に起き出してきた二人は朝風呂を楽しんだ後に、準備を整えて宿の一階の食堂で遅めの朝食を摂り、宿場町から旧街道に入る門を出る。
「いい所だったな、特に何もないが飯が美味いのは最高だった。面白い奴らにも出会えたしなぁ」
「セーヌに帰って来た時が楽しみだねぇ、ギルドカードの番号も交換しておいたし。帰ったら連絡しなきゃね」
冒険者同士はギルドを通して連絡を取り合う事が出来る、お互いの番号を知ってさえいれば伝言などを請け負ってくれるのだ。二人の自宅の住所も教えている為、何事も無ければ春には再会できる事だろう。
リリアーヌやユニーと仲の良い鱗華であったが冒険者仲間の女友達が出来たのは初めてなようで、とても嬉しそうである。
「でも結局、どの組み合わせでくっついてるのかは解んなかったなぁ……次に会った時の楽しみにしておくとするか」
男女二人ずつ、併せて四人のパーティの恋人同士の組み合わせが解らないままだった黒斗がそう呟くと、少し意地悪そうに微笑んだ鱗華が言葉を返す。
「やっぱりクロト、気付いてなかったんだねぇ……あの子たちは多分、特定の組み合わせとかは無いと思うよ? 流石に同性同士では無いだろうけど、女子二人は男子二人にそれぞれ抱かれてるのは間違いないかな」
「えっ?! それってつまり……いわゆる多夫多妻ってやつか? マジかー……全然気付かなかったぜ」
「特定の地域とか種族ではたまに見られるけど、確かに都市部では少ないかもね。四人ともお互いに気遣い合ってたし、筋肉の話で女同士で盛り上がってた時も二人ともティムとバッシュ、両方の筋肉に詳しかったしねぇ、凄く幸せそうに話してたし四人とも小さい頃からの付き合いみたいだから上手くいってるんだろうね」
多様な種族が暮らすこの大陸では地方によって様々な文化がある、婚姻文化などは多様性を示す最たるものであるかもしれない。
一夫一妻制の国や一夫多妻、一妻多夫を認める国、集落全体で子供を作り育てる乱婚の風習を残す地方もあるのだ、彼らの様な二夫二妻の組み合わせはどちらかというと乱婚の形態に近いのであろう。
「夜は楽しそうだなぁ……基本4Pって感じなんだろうか? ベッドが相当デカくないと厳しそうだな……相手を変えて別々にしてるのかもな」
「流石にそこまでは聞けないからねぇ……次会った時に聞いてみようかな♡」
旧街道を朝食の腹ごなしを兼ねて軽く走りながら、昨夜出会った冒険者達の話をする二人。
本人たちにとっては軽くであるが時折りすれ違う商人や冒険者達がギョッとした表情で二人をみやっている様子からもわかる様に凄まじい速度で、風の様に旧街道を疾走していた。
二人の動体視力をもってすれば馬の速度で掛け抜けても景色は十分に楽しめるのだ、大きな街についたら何日かゆっくり観光していく予定ではあるが、特に見るべきものもない通過点たる旧街道はウキウキと旅の高揚感にはしゃぐ彼等の前ではただの走り易い道でしかなかったのである。
先程出た宿場町から次の宿場町までは野営地を三か所経由して到着する距離であった、常人であれば四日、冒険者であれば三日、荒神夫妻であれば……一日でも踏破できる程度であろうか。
ただ旅立った日が遅く起きた日で午後からの出立であったため二つ目の野営地あたりに着いた頃にはすっかり陽も落ちて夜となっていた。
「今日はここで野宿だな、なかなか広いじゃないか……おっ! 先客がいるみたいだぞリンカ。挨拶してくるか」
「大型馬車三台に屈強な男達、キャラバン隊かな?」
簡単に魔導テントの設営を終えた二人は先客であろう、大きな馬車の近くで幾つものテントや天幕を張った集団に近付いていく。
焚火の傍で話し込んでいる男達が恐らくリーダー格であるのだろう、纏う雰囲気が明らかに下っ端では無かった。
「こんばんは、旅の冒険者です。お隣使わせて頂きますね」
「これはどうもご丁寧に……キャラバン隊を指揮させて頂いてる者です、同じ場所に冒険者の方がいるのは心強いですね、どうぞどうぞ」
やはりキャラバン隊の集団であった様だ、街から街、国から国を股にかけて移動しながら商売を行う彼らは全員が屈強な武装商人たちだ。
猛獣や魔獣、山賊や野盗等といった外敵から命や積み荷を守るために武器の扱いに精通し肉体を鍛え上げた彼らは下手な冒険者達よりも遥かに強く、逞しかった。
「なにやら話し込んでいたようですが、何かありましたか? 魔獣等が原因であればお役に立てると思いますが」
やや真剣な雰囲気で話し合っていた為、なにか困り事かと思い、尋ねてみる黒斗。
「いえいえ、そんな大した事ではないのです。下世話な話なのですが、契約して同行して頂いている娼婦の方々が同時に月のモノが来てしまいましてな……ハッハッハッ! 暫らく我慢しなければと話していたところです」
「成程、そういう事でしたか……」
(なんだろう……見えないけど、後ろで眼を輝かせてるリンカが見えるぞ……)
「それならば余計、私達の出番のようですね……――うちの妻を一晩、貸し出しますので娼婦さんたちの代わりに如何ですか?」
「へっ?」
背後からひしひしと感じる期待感に応えるように、商人たちにそう切り出す黒斗と、流石に理解が追い付かずに呆けた声を出してしまった商人。
そんな二人を横目に、期待するような眼差しで周りにいる様々な種族が入り乱れる屈強な男達を見渡して、淫らな欲望に心と体を疼かせる鱗華であった。