ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~ 作:幻闇
辺境伯領へと入る関所、そこより立った伝令が領都に到着したのは黒斗達に遅れる事およそ半日、荒神夫妻がベッドの中で眦を決して話し合いをしていた頃であった。
領主館に夜分遅く到着した伝令は門番の兵士に、関所の兵士長からの手紙を渡すと、明けの休みを満喫するべく街の酒場に繰り出していく、久しぶりの街での休日である、関所勤めも楽ではないのだ。
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明けて翌日、門番の兵から手紙を受け取ったゴルザック辺境伯は封を開けて文を確認すると、醜悪な顔を狂気に歪めて一つの指示を門番の兵に与える。
「冒険者ギルドに前の様に依頼を出す、ギルドへ手紙を届けろ……なぁに受けなくとも良いのだ……あそこのギルドマスターとは懇意だからな……受けた事にすればよい……見つけ出して連れてこい、男は殺せ」
「はっ、了解です、用済みの女は我らに?」
「勿論だ、看守の真似事などもさせているからな、今後はお前達で使うがいい」
自分達の、昏い欲望に満ちた楽しい未来、捕えた新たな亜人の女を嬲り、痛めつける愉しみを期待して邪悪に染まった瞳で頷き合い、嗤い合う主従。
彼らは知らない……破滅を刻む運命の懐中時計、そのゼンマイを自ら巻いてしまった事を……。
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――コンコン……
「入れ」
重厚な紫檀の家具やインテリア、執務机はマホガニー製の年季を感じさせる逸品である、そんな高級品が並ぶ室内にノックの音が響き、机でなにか書類仕事をしていた男が顔を上げて許可を出す。
ゴルザック辺境伯領の領都冒険者ギルド、そのギルドマスターの部屋であった。
「失礼します。……ギルドマスター、辺境伯から直々のご依頼との事で兵士の方から手紙を預かりました」
入室してきた職員の男から手紙を受け取ったギルドマスターは眉をピクリと動かすとやや憂鬱そうな顔で頷く。
「そうか……解った、受け取ろう。後ほど中身を確認して、私の方で依頼処理を行っておく、領主様直々の御依頼だからな……」
「はい、では失礼いたします」
――パタン……
扉を閉めて出て行った職員の背中を見送った執務机に座る壮年の男、白髪が混じり始めた銀髪を総髪にした精悍な肉体の偉丈夫である。
辺境伯領の冒険者ギルドマスター、名をピックマンというこの男、若い頃は銀級の冒険者として名を馳せた男であった。
投擲の名手である彼の主な得物は巨大な偃月輪で、例え何処に投げようとも持ち主の手に戻るといわれる魔技の持ち主であったのだが、或る時、狙った魔獣の首筋を切り裂き戻ってきた刃を受け止めた時に指に数ミリの裂傷を負ってしまった彼は、技の衰えを実感し引退、後進を育てる為にギルドの職務に着き、この街のギルドマスターとなったのである。
「また……なのか…………あの時の俺は……どうかしていたのだ……権力に屈し……金に眼が眩むなど……しかし……辺境伯と事を構える訳には……クソっ……」
苦悩する様に頭を抱えてぶつぶつと呟くピックマン、そんな彼に、彼以外誰も居ない筈の室内から声が掛けられる。
「その話……詳しく聴かせて貰いたい、騒げば……解るだろう?」
ぞくり…………声を聴いた瞬間に感じた莫大なプレッシャーに思わず手にしていた手紙を落としてしまうピックマン。
心臓を素手で掴まれた様な……氷柱を脊髄に突き込まれた様な……凄まじい迄の怖気が彼の心を縛り付けていた……、百戦錬磨の俺が……偃月殺法のピックマンと呼ばれた俺が……声すら出せずに恐怖している……否……その様な生易しい代物ではない……怖い……怖い怖いコワイ恐ろしい死にたくない助けいやだころさないでかぁさんたすけ…………――耐え切れずに狂い掛けた精神が現実を拒絶するかの様に意識を切ろうとする。
「なんだ……見掛け倒しか? 気絶しても良いが、起きた時に五体が揃っていると思うなよ?」
突如目の前に現れた鬼人の如き体躯の大男、鋭く細められたその瞳に見詰められた瞬間に魂が悲鳴を上げる。
失いかけた意識を視線の力だけで強制的に引き戻されたピックマン、気を失う事も許されず、さりとて動く事すら叶わない、ただ短く断続的に浅い呼吸を繰り返しながら縛り付けられた様に椅子に座るのみであった。
床に落とされた手紙を拾い上げて中身を検めていく鬼人の如き大男、まぁ黒斗なのであるが……、読み進めるうちにその顔が鬼人よりも遥かに恐ろしい……悪鬼の如き形相へと変化していく。
「俺とリンカを嵌めろと……予想出来ていたが……この部分だ、
悪鬼そのものに顔を変貌させた黒斗がピックマンに視線を向け、放っていた鬼気を声が出せる程度の状態にまで緩めて質問をする。
「詳しく話せ……さもなければ死よりも辛い生を味合わせてやろう……」
元より精神を浸食される程の恐怖に曝されて廃人一歩手前であったピックマンに話さないという選択肢など無い。
一年前の罪の記憶、自らの裏切りの行為、その全てを洗いざらい話していくピックマン。
聞いている間、怒りの余り、握り締めた拳から鮮血が滴る程に怒髪天を突く黒斗、しかしこの裏切り者を処断するのは決して自分では無い……、この憤怒すら真相を知った友の怒りに比べれば生温いくらいであろう……と。
白髪交じりであった銀髪を全て白髪と化させてぺたりと尻もちをつくギルドマスターである男、話を聞き終えた黒斗はもう用は無いとばかりにその姿に見向きもせずに姿を消して去っていく。
放心したままのギルドマスターが職員により発見されたのはおよそ一時間後の事であった。
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宿の部屋に戻り魔導テントの中に入っていく黒斗、やや落ち着きを取り戻しはしたがその心は未だ鎮まることなく荒れ狂っていた、室内で己の妻に膝枕をして貰いながら耳かきをして貰っているアルフェンを見た時までは…………。
「ちょ!! ……――いやまあ膝枕耳かきといえば癒しの代名詞だからな……うん、必要な事だ……羨ましくはないぞ……でも俺……して貰ったことないな……」
「あっ……お帰りクロト! どうだった?」
「真っ黒だった! 確定だ、奴自ら
「……あーそこいいぜェ……――んっ? どうした? クロト」
「アルフェン、落ち着いて聞け。リルさんは生きている可能性が高い」
それを聞いた瞬間にアルフェンの表情が百面相の如く様々な表情を浮かべる。
怒り、悲しみ、猜疑、希望、絶望、切望、願望、様々な感情を瞬く間にその面差しに映した狼人族は、絞り出すような声で友に告げる。
「クロト……いくらお前でも……いや……慰めてくれてるんだよな……俺が不甲斐ないからよォ……」
「俺の眼を見ろ、アルフェン!!」
信じきれぬ、慰めなどいらぬ、とでもいう様に下を向いて嘆く友に向かって叫ぶ黒斗。
ゆっくりと
「ああ……ああっ……ホントなんだな……お前の眼が……その輝きが……何よりも真実だと語ってやがる……俺は希望を持っても良いんだなァ……」
「クロト、詳しい事を教えて、もしもまだチャンスがあるなら絶対に掴み取らないとだから……」
「解った、アルフェンも落ち着いて聞け、絶対に激怒して我を忘れそうになると思うが、今は助けられるかどうかだ、生きていてくれるかも不明だが、俺はその可能性が高いと思ってる、絶対に先走るな!!」
「解った……今は心を殺すぜ……すべてが決するまではなァ……」
ピックマンから聞いた話を二人に説明していく黒斗。
一年前にふらりと現れた、リルという名の魔人族の女、彼女を見かけた領主が王の趣味に触発され彼女を捕える事を画策する、嘘の依頼を出し、ギルドマスターが情報を操作し彼女が受けた事にして依頼中に死亡した事にする。
一緒にパーティを組んだ冒険者など存在しないのだ、全てはギルドマスター、ピックマンによる記録の改竄であった。
手下の私兵を使い攫わせた女冒険者を監禁して領主ゴルザックは拷問を加えて愉しんでいるらしい、今回新たな女が欲しいという事で鱗華を狙ってきた。
「そんな感じだ、少なくとも代わりが見つかるまでは命に危険は無いだろうが、今回リンカという代わりが見つかった。関所で俺達を見た兵士達が報告したらしい……な」
隠しているのだろう、抑えているのだろう、その憤怒を…………全身の体毛を逆立たせて震えるアルフェン、牙を剥き出しにして魔狼の如き凶相で虚空を睨みつけている。
「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す……欠片も残さねェ……ギルドマスターと領主……兵士共は全員殺す……俺の妹分に手ぇ出しやがって……だがその前に……――頼む二人共、助けてくれ……」
「当たり前だ……その為に調べて来たんだ。策は考えてある」
激発しかける怒りを押し殺し、確実に思い人を助け出す為に協力を要請するアルフェン。
胸をドンと叩いてそれが当然とばかりに快諾する黒斗。
「…………………………」
気付いていたがあえて何も言わずにお互いだけを見つめる二人……恐ろしかったのだ……何故か当人であるアルフェンよりも恐ろしい気配を放って激怒している鱗華を見るのが……。
龍眼を細めて全身から怒気を瀑布の如く噴出させた女、逆鱗に触れられた龍神の如き雰囲気を発して能面と化した貌を見せている鱗華。
「アルフェンの妹分ならボクの妹も同然だよね…………ボク一人っ子だったからさ……楽しみだったんだよね……リルちゃんと会って仲良くなって、ホントの姉妹みたいになりたいってさ……」
「おっ……おう……そうだな、アイツも喜ぶと思うぞ」
「そんなリルちゃんを……どうしたって? 王様のマネして痛めつけたいからだって? ふざけてるのかな? …………――クロト」
「はいっ! ……俺達を狙ってきてるなら分かり易い、リンカが単独で動けば必ず引っ掛かる筈だ、囮になったリンカと共に隠れた俺が内部に潜入、アルフェンにはギルドから借りた通信の魔道具を渡しておく、リルさんを確保したら連絡するから堂々と来い」
完全にキレている妻に慄きつつ、策ともいえぬ強引な作戦を提示する黒斗、三人の力を考えれば最善の策であるのは間違いなかった。
互いに無言で頷き合うと、彼らは粛々と行動を開始する、アルフェンは装備を整えて領主館近くに待機し、黒斗も装備を整えて姿を隠し鱗華に張り付く、私服姿に着替えた鱗華は買い物に向かう形で囮となり獲物が掛かるのを待つ。
動き出した三人の処刑人達。執行者の断罪の刃は今、振り下ろされたのだ。
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「なに? 女を捕えただと? 早いな、流石はわしの兵達だ。ぐふふふふ」
「街中で一人で買い出しをしていたのでしょう、無防備にも丸腰で路地を歩いておりましたので簡単でした」
領主館の中でも一際大きな一室、豪奢な家具が揃えられた執務室で部下の報告を受けているゴルザック辺境伯。
予想外の吉報に、その醜く肥え太った肉体を揺らしながら蟇蛙の様な顔を歪めて笑い出す。
「早速見てみたいな、関所からの手紙では絶世の美女との事であったが……やはり自らの眼で確かめねばな……今は何処に?」
「そう仰るだろうと思いまして、地下の部屋の拘束台に括り付けておきました、ご確認ください」
「解っておるではないか……ぐふふふ、後で褒美を出してやろう、地下に出向くとするか」
部下の私兵を伴い地下の拷問室に向かったゴルザック、そこの壁面の拘束台に括り付けられた女を見るやいなや狂喜に顔を歪ませて笑い出す。
「ぐふふふ! 確かに美しい……しかしその分、心は醜いのであろうな……どうせそのカラダで男を惑わして利用しているのであろう、夫の男も哀れなものよ」
括り付けられた女はキッとゴルザックを睨みつけると次々と罵声を浴びせかけていく。
「なによアンタ! こんな事してタダで済むと思ってるの? すぐにギルドが探しに来るよ!!」
「そのギルドに協力してもらったのだよ……わしは辺境伯、この地を治める領主なのだからな」
「そんな……嘘だよ……嫌……あなた……助けて……」
答えを聞いた女が項垂れ、絞り出すような声で助けを求める呟きを発する、捕えられた時のまま私服姿で張り付けられた鱗華は内心の怒りを押し殺して男から情報を引き出すべく、演技を続けるのであった。
「一介の冒険者風情がわしの館に入れる訳がなかろう、助けなど来るものか。ぐふふふ」
「どうせボクのカラダが目当てなんでしょ? 部下の力を借りて捕まえないといけないなんて……余程モテないのかな? その顔じゃ仕方ないよね……」
「なっ!! 貴様ぁ!! 自分の立場が解っていないようだな……死にたいのか?」
「愉しむ為に捕まえたんでしょ? なに? それとも死体とヤるのが趣味の変態なの? 犯したいなら犯せば? 罵倒されるのが嫌なら口でも塞ぎなよ」
挑発を繰り返し、男の怒りを煽っていく鱗華、このタイプの男ならば必ずムキになってこちらを脅かそうとするはずだ……そうなれば……――
「この亜人の糞女が……そんな口をきいていられるのも今だけだ、貴様の末路を見せてやろう…………おいっ! あの女を連れてこい」
来た!! と心の中で快哉を上げる鱗華、狙い通りの行動に、今だけはこの度し難い屑のような男に感謝しても良いと思った鱗華であった。
「誰を連れてくるって……アンタまさか……」
「貴様の先輩の女を見せてやろう……いずれ自分がどうなるのか、その眼で確かめるがいい……ぐふふ」
地下室から出て行った私兵の男が暫くしてから囚人服の一人の女を連れてくる。
美しかったであろう顔、無惨に焼かれたその左半分を、拘束された壁から鱗華が見た瞬間。
――キィン
全てが凍り付い…………いや……違う、無表情であった顔をきょとんと不思議そうにして、時が止まった様に硬直している領主と部下の男を見ている連れて来られた女性。
室内全域に放たれた絶対零度の殺気、魂すら凍り付かせるそれは、守護すべき対象である囚われの姫君には一切触れる事は無かったのだ。
龍神の逆鱗に触れた矮小なヒトが如く、震える事すら許されずにただ硬直する男達。
原初の本能が励起され始原の記憶が呼び起こされる、竜種の足元を、隠れ這い廻っていた記憶、深淵の如きわだつみで奇怪な海の生物に呑み込まれた記憶、自分よりも大きな不定形の生物に取り込まれていく記憶、遺伝子に刻み込まれた被支配者としての記憶が次々に脳裏に去来する、意味など分からなくとも理解できる、同じだ…………理だ…………権力を持とうとも、財力を持とうとも、絶対的な強者の前では何の意味も無いのだ……恐ろしい……怖ろしい。
――ぶちり……ぶち……ばきり……ぼき
四肢を拘束する丈夫な革ベルトを拘束台の木材ごと引き千切り、破壊する鱗華。
たかが魔獣の革で作られた程度の拘束具など紙切れも同然なのだ、囚われのリルの無事を確認する為に大人しくしていたに過ぎないのだから。
不思議そうな顔で、固まった男達を見ていた女性が驚きの表情で鱗華を見つめている。
軽々と拘束をといた鱗華は恐らくリルで間違いないだろう女性を怖がらせない様にゆっくりと近づきながら優しい声音で話しかけた。
「もう大丈夫だよ……キミを助けに来たんだ……アルフェンという名に心当たりは無いかな?」
鱗華の口から出た名を聞いた瞬間に囚われていた女性の片方しかない瞳が、限界まで見開かれる。
口をぱくぱくと声にならない叫びを上げるかのように動かして、涙を溢れさせたその姿に、正体を確信した鱗華がゆっくりと近づいてそのカラダを抱き締めた。
「やっぱり、キミがリルちゃんなんだね……怖かったよね……遅れてごめんね……もう大丈夫……今からボクの夫とアルフェンを呼ぶから怖がらないでね……――クロト出てきて」
「……――ああ……今アルフェンに通信を送った、間もなく来るはずだ」
(……メチャクチャ怖かった……魔竜の時はオレは気絶してたからな……ガチで怒るとああなるのか……絶対怒らせない様にしよう……)
冷や汗を流しつつ姿隠しを解除して妻に報告する黒斗、相当恐ろしかったようである。