ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~ 作:幻闇
研ぎ澄まされて漆黒に塗られた暗殺者の刃の様に、領主館の庭の茂みに隠れ、気配を断っていたアルフェン。
懐に入れていた通信魔道具が開戦を報せる鐘の音の如く、振動してその時を持ち主に伝えた。
――ヴヴヴヴヴ……
「やってくれたか…………ありがてェ……ありがてェ……今、迎えに行くからな……」
気配を殺す事を止めたアルフェンが茂みから立ち上がり、堂々と屋敷の正面に向かっていく。
時刻は午後、ランチを食べるにはやや遅目といった時刻である、真昼間の襲撃など予想していなかった、いやそもそも襲撃自体が予想出来ていなかったのだ。
この街でゴルザック辺境伯に逆らう者など居る筈も無かったのだから。
「なんだ? 貴様……ここを何処だと思っえげぼっ……」
「へっ?……――ヒィィィィ!!! たすげぶひょ……」
堂々と近付いてきた狼人族の男を誰何した瞬間……――全身を輪切りにされバラバラになった同僚、一瞬あっけに取られるもすぐ我に返り悲鳴を上げたもう一人の門番も、同じように全身を寸断されて崩れ落ちる。
――ヅガアアァァン!!!
館が揺れる程の凄まじい衝撃で蹴り破られた玄関の大扉はエントランス正面にあったので在ろう当主の彫像と共に、破壊された奇怪なオブジェと成り果てて奥に転がっていく。
「なんだっ!! 何事だっ…………これは……」
「一体なんだってんだ……扉が…………誰かいるぞ!!」
異変を察知した私兵たちがエントランス近くに有る詰所からわらわらと飛び出してきたが、広間の余りの惨状と破壊痕に声も無く立ちすくんでいるようだ。
そんな彼らに地獄の底から響いてくるような冷たく重々しい声で最後が告げられる。
「てめぇら、全員皆殺しだァ……俺様の妹分に手ェだしやがって……――アオオオオオオオン!!!」
破壊された入り口から入ってきた純白の体毛の狼人族、両手首に装着された白銀の篭手から伸びる禍々しい爪のような刃、研ぎ澄まされたその刃は極薄の刃でありながら信じられない程の強靭性をもっているのだ。
私兵達が侵入者に対してようやく武器を構え始めたタイミングで、魂を軋ませる程の圧を伴った咆哮が狼人族の喉から迸る。
「ひいいいい…………怖いっ怖いぃいいい……」
「化け物だ……逃げろっ!! 殺されるぞっ!!」
魔狼の如き咆哮に恐慌をきたした男達が慌てて体を反転させて我先にと逃げ出そうとして…………――ヒュパッ
恐怖の余り尻もちをついて逃げ出す事の出来なかった男達は見た、見えないものを見たのだ。
ほんの一瞬、瞬きの刹那で目の前から掻き消えた狼人族の男……慌てて周囲を見回した彼等が見たものは館の奥に何事も無かったかのように進んでいく狼人族の男と、時が止まった様に動かない、逃げ出そうとしていた同僚達…………。
「アレは……間違いない、白狼だ……双滑刀を使う白き体毛の狼人族……なんで奴がここに…………それと、なんで生きてるんだ? 俺達」
尻もちをついていた一人の男が襲撃者の正体を理解して呟く、そして、その白狼が先程の台詞とは裏腹に、男達を放置して奥に進んでいった事に疑問を抱く。
その疑問に対し、近くにいた別の男が答えを示す。
「俺達は助かったのか? 見逃して貰えたのか? …………――助かっあああイきィおぉォォボっ」
――ドチャ……
命が助かった喜びに歓喜の叫びを上げた同僚の胸に走る横一筋の斬線……言葉にならない奇怪な断末魔と共に上半身がズレて滑り落ちていく……。
部屋を通り過ぎ、交差する一瞬で既に斬られていたのだ。
それを固まったまま見ていた残りの男達、彼らはその有様から己の末路を悟ったのである……。
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美しかった…………この地獄の底の如き、一抹の希望すら抱く事の許されない地下の拷問室、己を幾度となく苦しめさせ束縛していた拘束、消えぬ傷を心と体に刻み込み続けた男達、その全てを物ともしない、否、路傍の石ころ程の障害にすらなり得ていないのだろう……己を救いに来たという女性……その太陽の女神の如き微笑み……地下室の黴臭い空気ですら……なにか厳かな……古の大神殿の如き静謐な……特別な香りの様に感じてしまう程に…………――彼女は美しかった。
「あ…………お名前…………知りたい……です……」
鱗華の腕に抱きしめられていたリル、やや落ち着きを取り戻した彼女は、今、黒斗が用意していた全身をすっぽりと隠せる冷暖房術式の付与されたフード付きのローブに身を包んでいた。
ローブを身に着けたリルが鱗華に向き直るとその能面の如き顔の頬を薄桃色に染めて問い掛けた。
「ボクかい? ボクは鱗華、荒神鱗華だよ。よろしくね!」
「リンカ様…………あの……アル兄ぃとは……」
「アルフェンはボクとクロトの……――ああっクロトはボクの夫ね! ボク達夫婦の親友だよ!! だからキミはボクの妹も同然なのさ」
「わたしが……リンカ様の…………あのっ! リンカお姉様とお呼びしても…………その……駄目でしょうか……?」
能面の様であった顔を少しだけ、はにかんだ様に変化させて上目遣いに鱗華に問うリル。
そのいじらしさと可愛らしさに、鱗華は心臓を撃ち抜かれたような衝撃を感じて仰け反ってしまう。
(なにこの娘……メチャクチャ可愛い……お姉様だって……きゃああああ!! 可愛すぎるよぉぉぉ!!)
無表情ではあるが元々そういうタイプなのだろう、感情が表に出づらい人間は少なくはあるが居ない事は無いのだ。
「嫌でしょうか……?」
「全然OK!! どんどん呼ぶといいよ、ボクはリルのお姉様だっ!! 何が有ろうともリルの味方をしよう!! 我が妹よ、安心するがいい、ふふ、ふあははははは!!」
「リンカお姉様……嬉しい……」
「テンションたけぇな……リンカ」
和気藹々とした雰囲気を醸し出す三人の近くで、未だに恐怖に骨がらみ縛り付けられている男達、呼吸すらまともに出来ず、泥の中に沈み込んでいるかの様な息苦しさに顔を紫色に変化させている。
ときおり鱗華が意図的に殺気を緩めて呼吸をさせていなければ、とうに窒息死していたであろう。
「あー……一応、事情を聴くとか問い質すとか、しておくか?」
肉の毬のように顔を膨らませて目玉を半ば飛び出させながら苦し気に呻いている領主であろう男と部下の男、全身からあらゆる液体を垂れ流してチアノーゼを起こしている……――を一瞥しながら妻に問う黒斗。
「別に必要ないでしょ、どんな理由が有ろうとも結末は変わらないし……下手に命乞いでもされたらアルフェンが来る前にボクが反射的に殺しちゃうもの」
「そりゃそうだな…………――っていうか来たな」
黒斗がちらりと部屋の入り口に視線を向けると涙で顔をくしゃくしゃにした狼人族の友の姿があった。
肩を小刻みに震わせながら三人に近付いて来るアルフェン、その姿が靄の様に時折りぶれる、まだ気付いていないリルに鱗華がアルフェンの存在を報せる、慌てて振り返り、夢にまで見た愛しい男の姿を捉えたリルの瞳、こちらからも滂沱の如く涙が零れ落ちていく。
どちらともなく歩み寄って抱きしめ合う男女。兄妹同然に育った幼馴染の二人、女は意識し、男は無意識に、互いを好き合っていた二人は二度と離れる事など有り得ないとでもいうように強く、抱擁し合うのであった。
「すまねェ……遅れちまった……俺ァてっきり……お前が死んじまったと……騙されちまった……すまねェ……すまねェ……バカな兄貴分を許してくれ……」
「もう……逢えないと…………夢じゃない…………アル兄ぃの毛……あったかい……」
苛烈な凌虐に肉体と心を削られる日々、眠りにつく間だけの不確かな夢でしか逢えないと思っていた……もしやこれも夢なのではないか……拷問に耐え切れず死に瀕した己が見る、末期の夢なのではないか……? ついそんな疑問を抱いてしまうリルであったが、昔と変わらぬモフモフとした温かい白き体毛の感触と優しい匂いに包まれて、夢では無いのだとはっきりと理解する。
彼女の永く辛い、終わりの無いと思われた悪夢は今、醒めたのだ。
「よがっだよぉ…………ぐすっ……うぇ……ふぐう……うあ゛あ゛ん!! 二人どもお゛……ほんどに……ぅえ……あえでぇ゛……うわ゛あ゛あ゛あ゛ん」
「あー……危うく俺もヤバかったが……リンカが感激しすぎてかえって落ち着いたぜ……とりあえずこんな辛気臭い所からはさっさと出よう、リルさんの治療や食事も必要だろう」
何故か当人達よりも涙と鼻水で美しい顔をぐちゃぐちゃにして感動に咽ぶ鱗華を横目に、しっかりした口調で場を仕切る黒斗。
勿論嬉しいのは皆と同じなのだ、一人は落ち着いた者がいなければ収拾がつかないだろうと冷静さを保ち話を進めていく。
「おぅ、クロトの言う通りだな、帰ってメシだァ」
抱きしめていたリルを横抱きにして抱え部屋から出ていくアルフェン、未だにぐすぐすと鼻を鳴らしている鱗華を連れて同様に出ていく黒斗。
「あっ…………あいつら…………は?」
抱えられた腕の中で安心したように身を任せていたリルが、ふと疑問を漏らす。
部屋の中に立ち尽くしていた憎い男達、彼等はそのままで良いのかとでもいう様に。
「大丈夫だァ……リルは気にするな……もう何も出来ねェ……」
「うん……わかった」
アル兄ぃがそう言うなら、そうなのだろうと納得して、暖かい体毛の感触に身を任せるリル、その顔はとても安らぎに満ちて、幸せそうであった。
「リンカ、見えたか?」
「24回だね、二人併せて。今頃大きめのサイコロステーキみたいになってるんじゃない? お肉食べたくなってきちゃった♡」
部屋に入ってきたアルフェンの体が霞んだ時、すでに処刑者の刃は振るわれていたのだ。
神速で振るわれた双爪を認識出来ていたのはこの二人だけであった。
時間にして数秒も無いであろう、余りにも速過ぎるアルフェンの絶技である。
妹分を捕らえ傷付けた許し難い男達、たとえ一秒でも、此の世で生を享受する事が許せなかったのだ、疾く死すべし憎き怨敵……。
部屋から四人が出て行った一分後、全身に大量の斬線をようやく浮かばせた二人が一瞬で砕け散る様に床にぶちまけられて血と肉と臓物のスープと化す……。
怖ろしきはその迅さよ……斬られてから死ぬまでの数分間の猶予を狙って与える絶技……。
超速で振るわれた切れ味鋭い刃には血脂の一滴すらも付いておらず、斬られた細胞すらそれを認識できていなかった……。
ただ動けば死ぬ……そう思い動けなかった二人の男……わずかな呼吸を行うたびにピチリ……ピチリと音をたてる肉体の音色に恐怖しながらも、少しでも此の世にしがみ付くべく耐えていたのだ。
助け出した妹分に汚いモノをみせまいとしたアルフェンの気遣いである。
その結果、自らの命のカウントダウンを体内から響く音に知らされる事になった男達……、最初の一分で髪の毛が真っ白になる程の恐怖に震え、発狂仕掛ける程の濃密な恐怖の末期の時間を過ごす事になったのであるが……至極当然の結果であろう……、彼らは触れてはならぬモノに触れてしまったのだから……。
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館を出た四人を待ち受けていたのは正門の前に集まった数十名の町の衛兵達であった、領主館より聞こえた凄まじい衝撃音は近隣にまで鳴り響き、衛兵たちが集まってきていたのだ。
蹴り破られた正面玄関とその付近に転がる二つの人であった何か、余りの惨状に突入する事も出来ずに遠巻きに観察していた衛兵達は館より出てきた四人の男女を認めて色めきだつ。
「たっ、隊長!! 何者かが館より出てきました! 捕縛いたしますか?」
「待て…………そんな……まさか……嘘だろ…………――お前達!! 絶対に抜剣はするな!! 絶対だ!! 彼等に戦う意思を示すな!!」
衛兵達の集団の戦闘で部下から報告を受けた部隊長、四人の姿を確認した途端に驚愕に目を見開くと慌てて部下達に命令を下す。
彼は知っていたのだ、ついこの間誕生した新たな金級の冒険者達の特徴を……。
ギルドから各国に報告が為されるとその知らせは各街へと伝えられる。
絶対に敵対してはならぬ存在、その行動を縛ってはならぬ存在、人類種族の限界を遥かに超えた戦闘力を持ち大樹海深部を探索可能な超越者たち。
「白狼だっ!! 黒刀と狂龍妃も揃っている!! 間違いない、あの武威と特徴……我らが束で掛かっても数秒で殺されるぞ!! 絶対に敵対するな!!」
部隊長の悲鳴染みた命令に揃って体を硬直させる衛兵達……当たり前だ、彼等も軍人であるのだから……知らぬ筈が無いのだ、その恐ろしさを……。
「なんかえらい怖がられてるんだが……別に無差別に殺したりはしないんだけどなぁ……」
「顔が怖いからじゃない? 二人共いかついもんね♡」
「どっちかっつーとよォ……リンカが一番怖がられてる様にみえるんだけどよォ……」
衛兵達の恐怖の視線を多く集めている鱗華、さもあらん……魔竜にとどめを刺した、狂える龍の化身の逸話は大陸中の酒場で今一番人気のある話題なのだから……。
「あーあーキコエナイキコエナイ」
「まぁいいさ、三人はここで待っててくれ、俺が話を付けてくる」
耳を塞いで聞こえない振りをする鱗華をスルーして衛兵達の方に進んでいく黒斗、もう用事は済んだのだが後始末は大事であろう。
近付いて来る黒斗に対して逃げ出したりはしないものの、やや及び腰になる衛兵達、刀を抜かずに両手を上げたまま近付いたお陰でそこまで怯えられてはいない様だ。
先頭に居た部隊長に軽く事情を説明していく黒斗、時折り驚愕したり頷いたりしながら話を聞き終えた部隊長はおずおずと黒斗に問い掛ける。
「王都にも連絡をしなければなりません……、勿論貴方がたを罪に問う訳では無いのですが……明日でも良いので衛兵本部の方に来て頂いて、詳しい話を聞かせて頂けないでしょうか……」
「勿論構わない、ちなみに……この後もう一人、先程話した男の事だ……処断する予定だが問題はあるか?」
「何も問題ありません!! 御協力有難うございます!!」
ほぼ直角に腰を曲げて最敬礼を行いながら返事をする部隊長、その姿にやや苦笑しながら礼を言って三人のもとに戻っていく黒斗。
(即答かよ、まぁ長い物には巻かれろともいうし、仕方ないんだろうけど……金級ってすげーんだなぁ……やっぱり、今回は事情だけに仕方ないが……やはり普段は隠しておきたいな)
各国の王と同等の扱いである金級冒険者、当然その身内もそれに準じた扱いを受ける。
今回の件は分かり易くいえば王族を貴族が傷付けた様なモノなのだ、明確な反逆罪である。
むしろこの程度で済んだのは衛兵達にとっても僥倖であった。
「話は付いたぞー、さっさと帰ろう」
黒斗の言葉に頷いて、堂々と道を開けた衛兵たちの前を通って宿に戻っていく四人。
「アレが金級なのかあ……凄いなぁ……憧れちゃうな……」
「囚われの家族を助けたんだってよ……あの抱えられてる女性だろうな……」
「滅茶苦茶カッコいいな……おかしな領主だったけど、まさかそんな事を……自業自得だな」
去っていく四人の後ろ姿を見つめながら話す衛兵達、英雄譚の如きその行いに誰もが心を震わせながら、憧憬に満ちた視線を送り続けるのであった。
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「凄い…………これが魔導テント……なんて広さ……」
宿に戻り、部屋の中に設置した魔導テントの中に入った四人。
存在自体は誰でも知っているが実際に所持している者は僅かだ、初めて見た魔導テントの内部に驚嘆し、思わず感動の言葉が出てしまったリル。
「そこそこの家くらいあるんだよ♡ 凄く高かったけど荷物も仕舞っておけるし、とっても便利なんだよね。さぁリルちゃんはボクとお風呂に入ろう、綺麗に洗ってあげる」
「はい…………お姉様……」
「クロトとアルフェンは御飯の支度しといてよ、適当に屋台とかで買ってきてね」
「ああ、リルさんは何か好きな食べ物とかあるのか?」
「なんでも…………好きです……」
「リルは好き嫌いはねぇんだよな、まぁやっぱ肉だな。怪我を直すには肉が一番だしよォ」
一年に渡る過酷な生活により感情を失ってしまったのでは無いかと黒斗と鱗華が心配してしまう程に、表情が無く言葉も訥々としているリル。
アルフェンによると元々この状態が素らしい、感情や言葉を表に出すのが苦手だが、きちんと感じて考えて話してくれるとの事だ。
「成程……いわゆる無口無表情系クール美女というやつだな、綾〇レイタイプか!」
何か勝手に納得してうんうん頷いている黒斗であった。
浴室組と買い出し組に分かれてそれぞれ行動していく、男達は買い出しに出掛けていき、鱗華とリルは浴室へと入っていく。
「あの……お姉様……わたし…………酷い体なので……」
「酷いよねぇ、女の子のカラダにこんな事するなんて……アレ? まぁいいか、ちょっと見せてね」
浴室のマットに横たわったリルの肉体を調べようとする鱗華、自らの壊されたカラダを見られる事を羞恥しているリル。一部引っ掛かる事が無くも無い鱗華であったが気にせずに続けていく。
「うーん……ボクも医者じゃないから解んないけど魔人族って結構治癒力高いよね?」
「魔素が……濃ければ…………です」
「なるほど~、樹海に近い方が治りが早そうだねぇ……セーヌの街なら丁度いいか……」
リルの全身の傷の具合を確認した鱗華、自分の体であれば三日と掛からずに完治してしまう程度であったが他種族の事はよく解らない。
此処よりも樹海に近い前線都市であるセーヌであれば回復が早いだろうと考える。
「じゃあ体を洗おうか、お姉さんが洗ってあげるね♡」
「ふぇ……? ひゃん…………あっ……ふぁ……んっ……お姉様ぁ…………」
全身にボディソープをたっぷりと掛けた鱗華が寝そべっているリルに圧し掛かっていき全身を使ってカラダを擦り合わせていく。
豊かな双丘や柔らかい肢体の感触に翻弄されて同性といえども魅力的に過ぎるその肉体の感触に溺れていくリル。
「リルちゃんのおっぱい柔らかいねぇ……♡ マシュマロみたい……ふふっ♡ ちゃんと綺麗に治してアルフェンに見て貰おうね♡」
「ふあ……そんな……恥ずかしい……です……それにお姉様のおっぱいも……弾力が凄いです……張りがあって羨ましい……」
鱗華の双丘が張りのある肉毬のような巨乳ならば、リルの双丘はまるで蕩けるマシュマロの如き柔らかさの巨乳である、やや垂れ気味ではあるがそのだらしのない淫靡で我儘な乳房こそが至高という者も多いだろう。
双方タイプは違えどその山々がぶつかり合う様はまさに桃源郷の如き至福の光景…………――
それは正に此処……安宿の部屋に設置された魔導テント、その浴室内は今、馨しき百合の花園の如き美しさの、人類の夢そのものたる空間……、神々ですら膝を折り涙を流して歓喜するであろう程の美と愛に満たされた至福の地であった。
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浴室から上がり、着替えを終えた二人の美女、鱗華はいつもの下着と夜着であるがリルはスウェットタイプの寝巻きである、傷を見られるのが嫌なのであろう。
出来合いの物であるが男チーム二人で屋台や持ち帰りの飲食店で購入してきた食事はまだ暖かく食卓の上で湯気を立てている。
「おぅ、来たか。用意してあるぜェ……食べながら話そうや」
「リルさんの顔が赤いけど、大丈夫か? のぼせたりしてないよな?」
「大丈夫……です…………お姉様……すごかった…………」
「リンカお前…………何したんだ……?」
顔を上気させて蕩けた瞳で鱗華を見ながら呟くリル、その様子に呆れた表情で鱗華を問い詰める黒斗。
「洗ってあげただけだよ! もう、ヘンな誤解しないでよね!」
「お、おう……そうなのか……まぁ仲良くなるのは良い事だしな……そんな事よりメシだな、冷める前に食っちまおう」
和やかに食事を始める四人、皆リルを気遣う様に様子を見守りながら今後の事を話し合っていく。
「リルちゃんの傷だけど、魔素が濃い場所なら回復も早いみたいだよ、傷の程度はボクなら三日で治るくらいかな?」
「滅茶苦茶重傷じゃねェか!! ならとりあえずセーヌに戻るのが良さそうかァ……つーかリルは人なんだぞ? 基準がおかしいだろ」
「えっ!? ボクも人なんだけど?」
「鱗華、真面目な話なんだからふざけるのは……」
「そうだよね……ごめんね――ってアレ?」
どうやら黒斗とアルフェンの中では鱗華は人のカテゴリーには含まれていない様である……冗談はさておいてこの後、アルフェンとリルの二人はセーヌに向かい治療に専念することにしたようだ。
四国の中でもっとも医療技術に優れたアストラ王国、樹海に近くて魔素も濃く、アルフェンの自宅もある為リルの治療にはもってこいの環境であろう。
なるべく出立は早い方が良いだろうという事で明日、ギルドハウスと衛兵本部で諸々の雑事を片付けたらセーヌに向かうという二人、暫らく会えないであろうリルと離れ難い鱗華。
今夜は男女別でそれぞれ寝るという事で落ち着きを見せたのである。
「ううーリルちゃん…………クロト、里帰りが終わったらすぐにセーヌに帰ろうよ、観光は来年でも出来るよ!!」
「まぁそうだな……確かに気になるしな。寄り道せずに帰れば一週間くらいで帰れるだろ」
「うんうん! 傷が治ったらリルちゃんを鍛えてさ、皆で狩りに行きたいね! じゃあおやすみ♡」
「まぁほどほどにな……おやすみ」
食事も終わり、リルも疲れているだろうと早めに床に付く事にした四人、寝室に女子二人、ゲストルームに男子二人と別れてそれぞれ眠りにつくのであった。
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領都にある冒険者ギルド、そこそこの広さを持つこの施設は朝からぴりぴりとした緊張に包まれていた。
衛兵たちによって齎された報せ、領主自ら亜人の女性を監禁して甚振っていたという事実、それだけでも大事件であるのにそれを手引きしていたのがギルドマスターで更に被害者は金級冒険者の身内の女性…………。
絶望と諦念に満ちたギルド内、ギルドマスターの独断であり職員の誰もが知らぬ事であったとはいえその理屈が通用するのであろうか……。
遺言をしたためる者や家族の写真を眺めて涙する者、年配の職員だけで受付を固めて年若い者や女達は奥に留まらせなんとか自分達だけで怒りを鎮めようと覚悟を決める者達……。
そんな雰囲気のギルドに四人の男女が入ってきた瞬間にその場にいた全職員が地面に頭を擦り付けて土下座を敢行する。
「なんか……凄くいたたまれないんだが……」
「ギルマスだけの独断だったんだろォ? おまえら普通でいいぜェ! 別になんもしねぇからよ!!」
あまりの事態に苦笑しつつ零す黒斗と大声で怒ってはいない事を伝えるアルフェン、ほっとした職員達が胸を撫でおろしていると受付まで来た三人がリルの冒険者カードの再発行を求める。
「死んだ事になってるんだよね? リルちゃんのカード作り直して貰えるかな?」
「はい! すでに用意は出来ております! こちらに! このような事で怒りが治まるとは思っていませんが賠償として大金貨30枚を口座に振り込ませて頂きました! ご確認ください」
報せを聞いた時に予め用意しておいた冒険者カードを手渡す職員、今年度の予算の半分に近い金額を拠出して賠償金も既に振り込み済みである。
「わぁ! 速いね! 所でいまからちょっと一人殺させてもらうけど、いいかな?」
「ギルドマスターならば執務室に居ます! 入り口を封鎖して逃げ出さぬ様に固めていますのでお好きにどうぞ!」
「まぁ、もう既に行ってるんだけどね」
受付の職員が廻りを観察すると確かに白狼の姿が見えない、どうやらギルドマスター一人で済ませて貰えるようだと安心する職員。
――「おぎぃあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
建物中に響き渡るのではないかと思える程の叫び声が聞こえてくる、その恐ろしい断末魔に思わず耳を塞いでしまう職員達、暫らくして階段から降りて来たのは口元を紅い血で染めた白狼の姿であった。
「終わったぞォ……裏切り者の始末はつけたからよォ……そっちは終わったのか?」
「ああ、問題ない。次は衛兵本部だな、ギルドの方で後の片づけは任せても良いか?」
「はいっ! 今回は誠に申し訳ありませんでした!」
職員の返事に頷いてギルドを出ていく四人の男女、全員が最敬礼で彼等を見負った後、荒事に慣れた職員達が執務室へ後片付けに向かう。
そこで彼等が見たモノ……無惨に四肢を引き千切られて達磨と化したギルドマスターピックマンが、狼の牙で喰い破られた腹から零れる臓腑と血液の海でのたうち、苦しみ呻く姿であった。
「まだ……生きてるのか…………トドメは……止めておこう、彼等の怒りに触れたくないからな……」
「ああ……息の根が止まるまで待つしかないな…………」
「お゛ぼえ゛え゛!!い゛だい゛ぃ……ぐる゛じい゛いい……た゛す゛げえ゛ぇ……ま゛ま゛……こ゛ぼぉ゛……マ゛マ゛あ゛あ゛じにた゛く゛う゛…………お゛け゛え゛え゛」
血の海の中で臓物に塗れながら口から大量の血と呻きを発し続ける肉塊……頼むから早く死んでくれ……死んでくれ……と願う職員達に介錯される事も無くただ見られ続けながら、かつて北部にその人ありと謳われた偃月輪の使い手ピックマンは、裏切り者としてただ……、ただ無様に死んでいったのである。
彼の死体はその後、辺境伯やその兵士達と共に埋葬される事も無く街の外の森に打ち捨てられた、人の皮を被った獣に相応しく、ただ野の獣たちに喰われるに任されたのである。
死体を片付けられた執務室は壁に飛び散った血痕や絨毯に染み込んだ大量の血液も全てそのままに保存され、以後、このギルドの教訓として残される事になる、金級冒険者の怒りを買った裏切り者の末路として…………。