※この作品はR-18です。

ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~   作:幻闇

59 / 123
本日あと一話、投稿予定です。


幕間
57話 アルフェンとリル~二人の旅の終わり~


 これは時を二か月ほど遡り、黒斗と鱗華の二人がジェノガルド選王国にて王に謁見する為に王都キャメロンへと出立した時期、秋も深まり、冬へと季節が移り替わる頃のお話……。

 

 心と身体に深い傷を受けた幼馴染のリルを救い出したアルフェンは、彼女の傷を少しでも早く癒す為に魔素のより豊富なセーヌの街へと向かっていた。魔人族の特質として魔素の濃い場所では身体能力や治癒力が高まるという能力が有る為だ。アルフェンの自宅があり、なおかつ大樹海にも近いセーヌの街はまさにうってつけの場所であった。

 

 アルフェン一人であれば獣の速度で五日と掛からぬ道程であったが勿論リルにはそんな芸当は出来ない。辺境伯に囚われる前は銅級冒険者としてそこそこ腕の立つ部類であった彼女だが、一年間の監禁生活によって衰弱している肉体では一般人とさほど変わらぬ戦闘能力しか持ち得なかった。

 

 リルの肉体を気遣い、彼女の速度に合わせてゆっくりと旅を進めるアルフェン。リハビリも兼ねてある程度は軽く走らせたりもするものの少しでも辛そうな素振りを妹分が見せれば、即座に抱き抱えて最寄りの宿場町や野営地にひた走るといった過保護ぶりである。

 

「今日はここいらで休むとするかァ、適当に狩ってくるからよォ……リルはテントの中で待ってなァ、何処も痛くねぇか? 獲物は何か食いてェモンはあるか? 何でも狩ってくるぞォ」

 

「大丈夫…………。鳥……」

 

「おうッ! 確かさっきの荒地に戦槌嘴鳥(ウォービーク)のデケェのが居たな……アレでいいか。行ってくるぜェ」

 

 到着した野営地に魔導テントを設置したアルフェン、黒斗達の魔導テントにいたく感激していたリルの為に、酒と食い物と女くらいにしか金を使わない彼が貯め込んでいた大金貨を惜しげもなく放出して即座に購入していたのである。

大金貨30枚ほどの出費を強いられたが幼馴染に快適な旅をさせる為でもあるので必要な出費だったのだ、彼の中では……、一般的には過保護と言われてもおかしくないであろう。

 

 テントの中にリルが入った事を確認したアルフェンは疾風の速度で来た道を駆け戻り、夕飯の材料を仕留めに向かう。ちなみに戦槌嘴鳥(ウォービーク)というのは湾曲した硬く大きな嘴が特徴の羽根の無いダチョウの様な鳥である。成体になると五メートルを超える程の大きさに成長しその嘴は分厚い鉄板すらも貫通する程の威力を誇るのだが……――。

 

「おっ! まだ居たな、あらよっと」

 

 視認した獲物の首をすれ違いざまに一閃。音すら立てず、その刃に血の一滴、脂の一筋すら残さずに大鳥の首を斬り落としたアルフェン。やや遅れてだばだばと切断面から鮮血を噴出し始めた戦槌嘴鳥(ウォービーク)の尻尾を掴むやそのまま五メートルの巨体を肩に担ぎあげて野営地へと駆け戻っていく。

 

控えめに見積もっても二トンは下らないであろう巨体を担いでいるというのに来た時とまったく変わらぬ速度で戻っていくアルフェン。心なしか来た時よりも早いかもしれない、自分の為だけではなく、リルの為に狩りを行うという事が単純に嬉しく、その気持ちが表れているかのようだ。

 

 テントの前に戻ってきたアルフェンは両腕に装備した魔竜双爪を閃かせて、手慣れた様子で大鳥の解体を行った。美味な部分を選別して剥ぎ取った後は野営地の傍の平原に残った部分をそのまま打ち捨てる、後は恐る恐る近付いた魔獣達が片付けてくれるであろう。

 

 本来であれば魔獣やスカベンジャー達が集まってくる為に危険な行為なのであるが……魔導テントの中は安全であるし、なによりこの野営地にはアルフェンがいるのだ。野生の獣は勿論、魔獣ですら彼の匂いが濃い場所には決して近付かない、わざわざ捕食者の前に出てくる獣など存在しないのだから……。

 

「待たせたなァ……戦槌嘴鳥(ウォービーク)の肉、持ってきたぜェ、今日は何を作ってくれるんだ?」

 

テント内の台所で料理の下拵えを行っていたリルに声を掛けるアルフェン、彼女の作る料理は素朴な家庭料理ではあったが、懐かしき故郷を思い出す、心温まる美味な料理であった。

 

「ん……内緒…………お肉ありがと……アル兄」

 

「そいつは楽しみだぜェ、酒でも呑んで出来上がるのを待つとするかァ」

 

 料理が出来るまでの間、手酌で酒を飲みながらキッチンに立つリルを眺めるアルフェン。

ともすれば仏頂面にも見える表情で調理を行う魔人族の幼馴染、故郷に居た頃となんら変わらぬその様子に昔を思い出したアルフェンは心地よく響く包丁の音に耳を傾けながら、大切なものを取り戻せた安心感に包まれるのであった。

 

(あいつらのお陰だぜェ……しっかし数年振りだってのに全然変わってねぇな……――いや胸はメチャクチャ育ってるな……ゴクリ……いやいやアイツは今、深く傷ついてる……大事に守ってやらねぇと……嫌われたら俺ァ生きていけねェ……)

 

 雰囲気や仕草などはまったく変わっていないのに身体は見違える様に立派になった妹分。

思わず邪まな感情を抱いてしまったものの、即座にかぶりを振ってその妄想を振り払ったアルフェン、別れ際にこっそりと鱗華に耳打ちで忠告された言葉を思い出す。

 

『リルちゃんはアルの事をちゃんと好きみたいだけど、だからこそ傷ついた身体を見られたくないみたいだよ。ちゃんと治ってから襲うようにね♡ 嫌われたりはしないだろうけど、女の子の気持ちも理解してあげないとだからね』

 

(まぁ、そうだよな、俺は全然気にしないけどよォ……商売女くらいしか相手した事がねぇからどうやって接したらいいのか解んねぇし、リンカは……参考にならねぇ、昔通りでいいのかァ? でも惚れた女として意識しちまったしなァ……)

 

 うんうんと唸る様に懊悩するアルフェン、冒険者達の間で蛮族殺しと綽名され怖れられている彼であるが久しぶりに逢えた幼馴染に対してはまるで迷子の子犬の様におろおろと悩み戸惑ってしまうのだった。

 

「どうしたの? ……ご飯出来たよ…………アル兄」

 

「うぉわっ! ってもう出来たのか、さすがリルだぜ、早いな」

 

「結構掛かったけど…………ずっと考え事……してた」

 

「そっ、そうかァ……リルの事見てたら幸せ過ぎてなァ、時間を忘れちまったぜェ」

 

「……――頂きます……」

 

 ぽりぽりと頭を掻きながらそう答えたアルフェン、不意打ちを喰らったかの様に頬を仄かに紅潮させたリルが食前の挨拶を小さく呟いて食事を始めた、表情に変化が無い為に解り辛いが照れているのだろう。

 

 今日の夕食は戦槌嘴鳥(ウォービーク)の肉をトマトをメインにして各種野菜やキノコと共に煮込んで作られた二人の故郷の郷土料理であった。本来は飼育された食用の鶏肉を使うのだが引き締まった野生の怪鳥の肉は滋味深く野趣に溢れてとても旨いのだ、にんにくと生姜も加えられている為、臭みなどはほぼ無く、とろけるような野菜の食感と肉々しい歯応えを残しつつも柔らかく仕上げられた肉の旨味が調和した至高の一品である。

 

「懐かしい味だ……昔はよく作ってくれたよなァ、ウチは男所帯だったからよ……ホントに助かってたんだぜェ」

 

「…………二人共……そのまま食べてた……」

 

「狼人族は基本そんなもんだァ、作ってもらうならまだしも自分で作るのは面倒くさいしな……」

 

 まだ故郷で平穏な暮らしをしていた頃、アルフェンとその父の食生活は狩った獲物をその場で喰らうといった有様であり、いくら男所帯で狼人族の二人とはいえ余りにも野性味あふれる――というかもはや野生そのものの二人の様子に、流石のリルも驚愕し、よく食事を作りに来てくれていたのである。

 

「身体の方は大丈夫か? 大きな街によって治療院に寄った方が良いかァ? 食い物も魔素が濃い方が良いのか? なんだったらひとっ走りして適当な魔竜でも仕留めてくるかァ? 小さい奴ならなんとかなんだろ」

 

 リルを失ったと思い込み、その絶望と悲しみにどんぞこまで落ちたアルフェンはすっかり心配性の過保護兄貴分となってしまった様だ。今度こそ絶対に何があろうとも護ると誓った彼にとってリルの健康状態は目下最大の関心事であった。

 

「アル兄……心配し過ぎ…………必要……無い」

 

「おぅ……すまねぇな、酷い傷だからよ……クソっあの野郎、もっと苦しめてやるべきだったかァ? リルの綺麗な眼を片方潰してくれやがってよォ……治りそうかァ?」

 

「眼の周りは良くなってきた……眼はまだ……解らない……」

 

「そうか……まぁ心配すんな、俺様が何とかしてやる。これでも金級冒険者だし、なんたってリルの兄貴分だからなァ。くははは!」

 

「………………うん、ありがと」

 

 やや落ち込んだ雰囲気のリルを慰める様に、強気に笑って元気づけるアルフェンであったが余り効果はなかった様だ。どことなくぎこちない雰囲気の二人、互いに憎からず思っているのは間違いないのだが別々に重ねた時間や経験のせいか、すぐさま昔の様に屈託なく触れ合うとはいかないのであろう。

 

 傷ついたリルをまるで壊れ物を扱うかのようにビクビクと慎重すぎる程に過保護になってしまうアルフェン。長い監禁と拷問の末に願っていた相手に助け出されたが、それ故に嬉しさや愛しさが心の中で膨れ上がり、上手く表に表すことが出来ないリル。不器用な二人はそれでも少しずつ、暗闇の中を手探りで探求する様に互いの距離を埋めていくのであった。

 

 

 食事の片付けも終わり、それぞれに入浴を済ませた二人は寝室で眠りにつく。最初の頃は気を遣い別々に寝る事を提案したアルフェンだったが兄貴分の体毛を掴んで離そうとしないリルに折れて結局は一つのベッドで寝ている様だ。

 

 アルフェンの後ろからその背中に抱きつき、暖かく白いもふもふの体毛に包まれながら眠るリル。ともすれば夢なのでは無いかと今の幸せな状況を未だ疑ってしまう彼女は眠る時が一番不安なのだ、目が覚めれば泡沫の様にアルフェンが消えてしまうかもしれない、あの薄暗い牢獄で目を覚ましてしまうかもしれないという恐怖に彼女は未だ囚われていた。

 

(牢屋に居た頃は、幸せな夢ばかりだったけど……今は逆に怖い夢ばかり。でもアル兄のもふもふに包まれてる時は怖い夢は見ない……あったかいなぁ……)

 

 幸せそうに眼を閉じるリル、元々もふもふとした体毛の動物が好きなリルにとって大好きな兄貴分の柔らかでふさふさな毛並みは至高の癒しなのだ、織物職人の手による高級なボアやファーコートすらもこの感触に比べれば擦り切れたボロ雑巾と変わらないだろう。

 

 そしてそんな風に妹分に背後から抱き着かれているアルフェンはといえば。

 

(ヤベェ……リルのパイオツ滅茶苦茶柔らけェ……さっき風呂場で五回ヌいといて良かったぜェ……いやまぁビンビンだけどよ、まだ耐えられる範囲だ。とにかく眠るぞ……寝れば大丈夫だ)

 

 ここ暫く禁欲生活が続いているアルフェンには相当の試練となっている様だ。背中に当たる信じられない程の大きさと柔らかさの感触に本能を刺激されて下半身に血を集めつつも事前に己を慰めていたお陰で耐えられている。安心を妹分に与えつつ、その心を癒す為に暫くの間は抱き枕としての地位を甘んじて受け入れようとする涙ぐましいアルフェンであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(ん……あれ……私なんだか……ふわふわしてる……)

 

 朦朧としていた意識が徐々に明瞭になってゆく感覚、何処だ――いや私は誰だ――そんな途切れ途切れの思考が意識を掠めている彼女の目の前に一つの景色が浮かび上がってきた。

 

 どこか懐かしい雰囲気を感じさせる街並み、朧げでモザイクの様な顔の人間達が行き交う街の通りを暗く沈んだ表情の一人の少女がとぼとぼと歩いている。段々とズームされてゆくその少女の顔を認識した瞬間に、彼女のふわふわとした意識が記憶を取り戻した。

 

(あれは…………私だ……そうだ、私の名前はリル。これは……夢……? ――そうだ、夢だ)

 

 アルフェンのもふもふとした体毛に抱かれながら眠っている己が見ている夢だと状況を認識したリル。囚われの身であった頃にも何度か見た事の有る夢――己にとって何よりも大切な宝物。一年間もの間過酷な拷問を受け続けながらも耐えられたのはこの夢のお陰でもある事を彼女は思い出していた。

 

(ああ……私の宝物……アル兄と初めて逢った日の……記憶)

 

 リルの両親はとりたてて有名ではないがそこそこの実力を持つありふれた冒険者夫婦であった、彼等はある程度の資金が貯まったのを機にアルフェンが暮らしていた故郷に家を建てた。拠点が出来れば街に腰を落ち着けて仕事が出来る、リルももう少し大きくなれば学校に通わなくてはいけない、街に拠点を持つ事は両親の目標であったのだ。

 

(でも……パパとママは……家を買うのに無理して……買った途端に気が抜けたのか……あっさり魔獣に殺された……)

 

 幼くして孤児となった少女を哀れに思ったのか養女として引き取ろうという者達は何組か現れた、中には両親の残した遺産目当ての下種な輩も居た様だがベテランギルド職員の眼を誤魔化せる筈も無く、リルは親切そうな人族の、子供の居ない年配の夫婦に引き取られたのであった。冒険者夫婦は万が一の事を考えてある程度の貯金を残し、ギルドに対して娘の事を頼んでいたのである。

 

 

(あの人達も優しかったけど……結局、蛮族の襲撃で……亡くなった……――ああ、私、虐められてる……辛かった……大好きなもふもふに拒絶されたんだ……)

 

 先程まで街の通りをとぼとぼと歩いていた幼いリルは街の子供たちの集まる公園にいた。この街は獣系亜人種の比率が9割を占めており、魔人族である彼女は普通の人種とも大分違うその見た目の為に、子供たちの眼には奇異に映ったのであろう。

 

『ん…………楽しそう……』

 

 近所の公園で遊んでおいでと送り出されたリル、両親を失ったばかりで塞ぎがちな養女に友達でも出来ればと送り出した養親であったが、時に子供たちの無邪気さゆえの残酷さは大人の想像を上回る物だ。

 

『なんだこいつ、毛が無ぇぞー、きもちわるっ! 目も別々の色で変だし、あっちいけよ!』

 

『肌の色も変だぁー! なんかのビョーキなんじゃねぇか? 一緒に遊んだら伝染るぞー!』

 

 公園に入ってきて遊んでいる自分達を羨ましそうに見ているリルに対して容赦のない言葉の暴力を浴びせる子供達、口々に自分達との見た目の違いをあげつらっては囃し立てる。

 

『……あう……もふもふさん達……遊んでくれないの……? それに病気じゃないよ……パパとママと同じ色だもん……』

 

『親もビョーキだったんじゃねーの? うわっ! こっちくんなよ! 青虫女めっ! えいっ!』

 

 近寄ってきた少女を厭う様に手で突き飛ばした猫人族の少年、尻もちをついたリルは何が起こったのか解らない様子であったがすこし遅れて突き飛ばされた事を理解し泣きだしてしまう。

 

『……うぅ……痛いよぅ……うええっ……うぐううっ……』

 

『泣いた泣いた! やーいやーい! 涙の色も違うのか? おいっ顔を見せろ』

 

 手のひらで顔を覆って泣き出したリルの手を無理矢理掴んで泣き顔を見ようとする少年だったが、いやいやと抵抗する少女に苛立ったのか幼さゆえの暴力性を如何なく発揮し、地面に無理矢理突き倒して馬乗りになるとその両腕を無理矢理に開かせて涙でぐちゃぐちゃになった顔を見る。

 

『なーんだ、涙は同じ色かぁつまんねぇの』

 

『そいつって本当に毛が無いのかぁ? 裸んぼうにして確かめてみようぜ』

 

『ちょっと止めなよあんた達~大人に叱られるよ? やるならはじっこの外から見えない所でやれば~?』

 

 リルの服を無理矢理脱がせようとしていた少年たちに近くで笑って見ていた女の子が意見する、止める気はさらさらないその様子に理不尽な暴力に怯えていたリルは更に恐怖を感じて縮こまり必死に身を護ろうと体を丸めて抵抗を続けていた。

 

『やめでよおお……ひどいよぉ……服やぶけちゃう…………うあ゛あ゛あ゛ん!!』

 

(…………この時は怖かった……知らないおじさんとおばさんの家に住むようになって心細かったし……動物たちは可愛いのにこの子達は同じもふもふなのにとっても怖かった…………――でもこの後)

 

『てめぇらなにしてんだっ!!』

 

 公園に響き渡る怒声、リルに馬乗りになっていた少年がその声にびくりと体を震わせて何か言い訳をしようとした瞬間。

 

――ドガァッ!!

 

 突如現れた大柄な狼人族の少年が馬乗りになっていた少年を蹴り飛ばして吠えたてる。

 

『女を虐めるなんてクソみてぇな事しやがって! お前らぶっ飛ばすぞ!』

 

 既に笑って眺めていた女の子達は蜘蛛の子を散らす様に逃げており、リルを虐めていた二人の少年は、一人は腹を抑えて蹲りもう一人は尻もちをついて驚き竦んでいた。

 

『あ、あ、アルフェン……別に虐めてわけじゃ……こいつすぐ泣くんだよ、毛も無いし目も変でさ……――ぐえっ』

 

 尻もちをついて言い訳を並べていたもう一人の苛めっ子にも同じように蹴りを食らわせたアルフェンと呼ばれた少年、仲良く腹を抑えて蹲った二人の苛めっ子を脅かす様に怒鳴りつける。

 

『もう一発喰らわされたくなかったらさっさとどっか行っちまえ! クソどもッ!』

 

のろのろと半泣きで立ち上がってほうほうのていで逃げていく二人の苛めっ子を仁王立ちで見届けた狼人族の少年がすすり泣いているリルに近付いて、服の汚れを手で払い落し声を掛ける。

 

『大丈夫かァ? お前見ねェ顔だけどよ、最近越してきたのか? もう怖い奴らは追っ払ったからよォ、怪我とかしてねぇか?』

 

『ひっぐ……ぐす……ありがとう…………優しいもふもふさん……』

 

『俺はアルフェンてんだ、もふもふなんて名前じゃねぇぞ……――ハンカチなんて上等なモンはねぇが……今日はまだ家出たばっかで汚れてねぇからな、これで……』

 

 上に着ていたシャツを脱ぎ捨ててハンカチ代わりにリルの顔を拭ってやるアルフェン、乱暴そうな見た目に似合わず繊細で優しい手付きで泣き崩れていた少女の顔を綺麗に拭いていく。

 

『こんなモンかぁ? おっ笑ったな、お前の眼綺麗だなぁ……金色と銀色に輝いて宝石みてェだ』

 

『……ん……パパと同じ事言ってる…………服……汚しちゃった……ごめんなさい……』

 

『くははは、どうせ遊んでたらいつも泥だらけにしちまうんだ、気にすんなっ! よしお前を子分にしてやる、一緒に遊ぼうぜ』

 

『……うんっ!アルフェンの子分になるっ!』

 

 花が咲いた様に笑う幼いリルと宝物を手に入れた冒険者の様に得意そうな顔つきのアルフェン。脳裏に焼き付いている幼かった頃の思い出の光景を、宙に浮かんだような視点から眺めていたリルは徐々に覚醒していく意識の中で記憶の続きを思い出していく。

 

(あれから私は……何処に行くにもアル兄と一緒で……大好きなアル兄……今も護られてばかり……――強くならなきゃ……アル兄を護れるくらい強くなって一緒に戦える様になりたい……護られてばかりは……もう嫌…………ん……もふもふしてる……これはアル兄のもふもふ……)

 

 薄れていく夢に代わるように現実の感触がリルの感覚に反映されていく、包まれて眠っていた体毛の感触に幸福感を感じながらリルの意識が覚醒する、夢の時間は終わり新たな朝が来たのだ。

 

 ぱちりと目を覚ましたリルは未だ野太い鼾をかいて眠りこけている愛しい男の背中から離れて起き上がるとベッドから降り、愛しい男の正面に回り込んでその顔を覗き込む。普段はとても頼もしく凶悪な程に猛々しい狼そのものの顔も、今はだらしなく牙と舌を剥き出しにして涎を垂らしながら眠りを貪っていた。

 

「……ふふっ……可愛い……。……強くならないと……いつか絶対……背中を預けてもらう……」

 

 決意の言葉を囁く様に呟いたリルは眠りこけている兄貴分を起こさぬ様にそっと寝室を出て、彼に美味しい朝食を食べてもらう為にキッチンへと足取りも軽く向かうのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 当初はぎくしゃくとしていた二人であったがセーヌに向かって旅を続けるうちに、段々とその距離も昔の様に縮まっていく、アルフェンの余りの過保護ぶりにリルが珍しく感情を表して怒ったり、身体に気軽に触れる事も出来なかったアルフェンが徐々にスキンシップを行えるようになったりと、幼い頃の様に仲の良い兄妹として触れ合う二人。

 

 リルの怪我も大きなものや古傷となってしまったものを除いてはほぼ治り、今は体力を取り戻す為にトレーニングも始めている様だ。その様子をまだ少し心配そうに見ていたアルフェンであったが、幼い頃の様に護られているだけの存在では無いのだと証明するかの如く唇を引き結んで鍛錬を行う姿に時の流れと妹分の成長を感じ、自然と口許が綻び、微笑みを浮かべてしまう。

 

(ちっちぇえ頃は俺の後ろを付いて来るだけだったリルがこんなに立派になるとはなぁ……それに――スクワットの度にぶるんぶるん揺れてて最高だぜ……こっちも立派になりやがったな)

 

 どうやら微笑みを浮かべていた要素の半分は下心の様である……。然も有りなん彼は黒斗の親友なのだから……つまりはアルフェンもドスケベ野郎であった。

 

 そしてそんなアルフェンにリルが気付いていないわけも無く、上下に体を屈伸させる度に己の胸部に釘付けとなって同じ動きを繰り返している兄貴分の視線に複雑な想いを抱いている様だ。

 

(また私の胸見てる……早く綺麗にして見せてあげたいけど……今はまだ……――早く抱いてほしい……きっと我慢させちゃってる……あいつらに汚された身体だけど、せめて綺麗に治れば……)

 

 未だ視力の戻らぬ白く濁った片眼と引き千切られたまま古傷となってしまった片方の乳首、男を受け入れる為の女穴は何度も巨大な人工の逸物で拡張され続け断裂と再生を繰り返した結果緩み切ってしまい、膣口はぽっかりと開いたままで、未だ治る気配は無かった。

 

 叶うならば好きな男であるアルフェンと結ばれたい、しかしこんな身体で抱かれたくは無い……、とはいえいつになれば治るのか、そもそも本当に治るのか、答えの出ない葛藤に心を乱されながらもそれを振り払うかのように鍛錬に没頭するリル。

 

(強くなれば隣に居られる……女として役に立たなくても、せめて隣で戦いたい……お嫁さんになれなくてもいい、アル兄にはもっとまともな身体の女の人と結婚して貰って私は冒険者仲間として居られればいい……そうだそれがいい)

 

 悲壮な決意を胸に秘めて鍛錬を続けるリルであったが、その決意の相手となる男は……。

 

(ぐへへ……パイオツが跳ね回って柔らかそうに波打ってるぜェ……ムチムチの太ももに浮かぶ汗もエロ過ぎるなァ……ちょっとトイレで抜いて来るかァ、辛抱たまらねェ) 

 

 彼女の揺れる乳房と汗に濡れた太ももに夢中であった……――色々と台無しである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ジェノガルド選王国の辺境伯領を出てから三週間、無理をせずに一般人と同程度の速度で旅をしたアルフェンとリルはようやくアストラ王国の前線都市セーヌへと辿りついていた。

 

 街に着いた時の二人は、アルフェンはいつも通り急所のみを護る防具に両腕に付けた双滑刀という恰好で勿論街に入る際は刃の付いた小手を外している。連れであるリルは途中の宿場町でアルフェンが買ってくれた可愛らしい花の装飾の施された眼帯を付けていたが、防具は一般的なレザーの防具であった。

 

 過保護なアルフェンが武器も与えず防具も最低限の装備しか買わなかったのは意外かも知れないがそもそも彼は今回の旅でリルに戦わせるつもりは毛頭無かったのだ。実際魔獣には何度か、野盗らしき一団に一度襲われている彼等であったが、魔獣は一撃のもとに狩られ、野盗らしき一団はアルフェンの魂すら凍り付かせる咆哮を聞いた瞬間に恐怖に囚われ蜘蛛の子を散らす様に逃げ去ってしまったのだから。

 

 そして装備を揃えなかった一番の大きな理由は……今彼等の目の前にいる男であった。

 

「うおあっ! スゲェ別嬪の嬢ちゃんを連れて来たじゃねーか! アルフェン! 嫁探しの旅は大成功だったみてぇだなぁおい! ったく数か月でこんな美女を探してくるたぁ隅におけねぇなぁ」

 

「くはははっ! 流石バルガスの旦那だぜェ! リルってんだァ、俺の幼馴染でよ、話すと長くなるんだが………………――――って感じでなァ……黒斗と鱗華にゃあ感謝してもしきれねェ……」

 

 リルを助け出せた時の話を掻い摘んでバルガスに説明していくアルフェン。友人でもある得意客が連れて来た女性の余りの美しさに驚いていたバルガスであったが話を聞いていく内に哀しみ、怒り、喜びと様々な表情を見せながら話を聞いていく、最後には感動の余りおいおいと泣き出してしまう有様であった。

 

「良かったなぁ……嬢ちゃんよぉ……今まで辛かった分コイツに死ぬほど幸せにして貰いな! よっしゃあ! 俺からの祝いだぜ! 使う武器はなんだ? 俺が最高の武器をタダで作ってやる、防具も作ってやるがこっちはアルフェン持ちでいいよな」

 

「勿論だァ、金はいくら掛かってもいいからよォ……リルは片手半剣(バスタードソード)と腕に嵌めるタイプの盾を使う、俺の手持ちの魔竜素材も出すから良いモンを頼むぜェ」 

 

「……ありがとう……バルガスさん……アル兄の友達は皆良い人……凄く嬉しい」

 

 最高の装備を作れる鍛冶屋の友人が居るのだ、その辺で手に入る装備などを買う必要は無かったのである。口下手なリルを手伝う様に装備に関する細かい希望をバルガスに伝えていくアルフェン、採寸も済ませて装備に関する話を終えた彼等は、後日知り合いで集まってリルの歓迎を兼ねた宴を行う事を決めて鍛冶屋を後にする。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 続いて二人は冒険者ギルドに立ち寄った、街に返ってきた報告と、既に伝わっているであろうが北部での出来事を本人たちの口から報告する為である。

受付でいつも通り座って微笑んでいるセーヌ支部サブギルドマスターという肩書にはとても見えない、ツインテールに髪を纏めた幼い顔立ちの巨乳受付嬢ルーシャ。勿論彼女は全ての事情を把握しており、受付まで歩いた来た二人に気付くと神妙な顔付きで立ち上がり言葉を掛けてきた。

 

「リルさん、今回は誠に申し訳ありません、所属する全ての冒険者を護る立場であるギルド、そのマスターが一人の冒険者を陥れるなど有ってはならない事です。既にアルフェン様の手で断罪されたと聞きましたが、彼の罪は我々ギルド役員にも責任があります、謝って済む問題では御座いませんが出来うる限りの便宜を図らせて頂きますのでご容赦下さい」

 

 謝罪の言葉を口にして深々と頭を下げたルーシャ、面食らったように驚いていた二人であったがルーシャが頭を上げる様子が無い事に気付き、慌ててアルフェンが言葉を掛ける。

 

「ちょ! ルーシャの姐さんッ! 頭を上げてくんなァ! アンタが悪い訳は無ェ、俺達は只、報告に来ただけなんだ、あの件はもう向うでカタが付いてる。姐さんにそんな真似させたなんてバレたら俺ァこの街の冒険者の野郎共になに言われるか解ったモンじゃねぇ、頼む、頭を上げてくれ」

 

 既婚者であろうが彼女はこの街のギルドの看板娘なのだ、セーヌのギルドに所属する冒険者の男達に絶大な人気を誇り、裏では非公式のファンクラブまで結成されている程である。リルに対しての謝罪なのだが、事情を知らぬ者が見ればアルフェンが何かやったのだろうと勘違いされてもおかしくない状況である。

 

「……貴女は悪くない……悪い人は皆アル兄が殺してくれたもの……私はもう平気」

 

「了解致しました、以後このような事がない様に内部の監察を徹底する様に致します、勿論ギルド本部の方にも意見を上げておきます。辛い事は早く忘れた方が良いでしょう、これ以降、我々からはこの件には触れぬと誓います」

 

 頭を上げたルーシャが二人の意を汲み取り、いつも通りの微笑みに戻って受付の椅子に腰を下ろす、続けてアルフェンの自宅の管理の解除手続きを行い、管理の為に預かっていた家の鍵を返還したルーシャ、鍵を受け取った二人は礼を言って冒険者ギルドの建物を後にし、次なる目的地へと向かうのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 セーヌの街の高級住宅街、官僚や高位の冒険者達が多く住む区画にアルフェンの自宅はあった。

そして友人である荒神夫妻やボルボルとリリアーヌの住む家も同じ区画に存在しているのだ、自宅へと帰る途中で最後の目的地である友人の家に寄ったアルフェンとリル。白皙の美丈夫にして元豚人族の大将軍、人と豚人のハーフたる存在のボルボルとその母にして妻たる、たおやかな淑女リリアーヌ、今は平和にこの街で暮らしている筈の二人の家を訪ねた所……――どうやら留守の様であった。

 

「まぁ平日の夕方だしなァ……なにか仕事でも見つけて働いてるか、夕食の買い出しで出かけてるんだろうな。仕方ねェ、ボルボルん所は明日また出直すとして、家に帰るかァ……今日からはリルの家でもあるからよォ。部屋も沢山余ってる、好きな部屋を好きに使いなァ」

 

「……うん、でも寝室は一緒…………これは譲れない……絶対」

 

「わあったよォ……幸いベッドはでけェからな……二人で寝るには十分だぜェ」

(こりゃ暫くは生殺し確定だなァ……――昼間に娼館にでもいっとくかァ?)

 

 自分で行うオナニーにも限界がある。女体に直接触れて弄繰り回し、挿入して、胎内で射精するという自慰では絶対に得られない快感。それを毎晩、惚れた女であるリルに抱き着かれたまま何か月も過ごすという生殺しの生き地獄で我慢し続けるのだ、控えめに言っても凄まじい拷問でしかない、こっそり娼館にでも行かなければとても耐えられそうにないだろう。

 

 

 そして当初は別荘扱いとしか感じていなかったセーヌの自宅であるが、リルと二人で住むというだけで、長年住んでいた今は無き故郷の自宅に帰ってきたような気分になるアルフェン。

 

 自宅に着いた二人は魔導テントから生活用具や食料を取り出して冷蔵庫や部屋に収納していく、服などはまだ最低限の物しか無かった為、後日買い出しに行く事が決まった様だ。

 

 家の中を好奇心の赴くままに探索し始めたリルを微笑ましく眺めながら、リビングルームのソファーで酒と予め買っておいたつまみをだして寛ぎ始めるアルフェン。もう以前の様に風来坊になって各地を放浪する生活は出来ないだろう、その事に一抹の寂しさを感じなくもない彼であったが……――。

 

(俺が本当に護りたかったモノ……今ははっきり解るぜェ、俺ァ他の何よりも、リルの笑顔を一番護りたかったんだなァ……。失くしたと思った時にそれに気付いたバカな兄貴分だけどよォ、もう二度とお前を悲しませたりはしねェ……愛してるぜ、リル)

 

 己が真に護るべき何かを理解した男は固い決意に満ちた瞳で手の中の酒杯を見つめ……にやりと牙を剥きだして笑うと一息にその琥珀色の液体を呷るのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。