※この作品はR-18です。

ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~   作:幻闇

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68話 魔王竜

「なんて深い碧なんだ……」

 

「うん、凄く綺麗……。なんだろう、見つめてるだけで特に襲ってくる雰囲気もないね」

 

「というか魔素も未だに感じないぞ、本当に魔竜なのか? 竜種では無く?」

 

「こんな大きな竜種聞いた事も――待って、特徴だけなら王竜ブラキオスに似てる……大きさは10倍じゃ効かなそうだけど」

 

「王竜って……確か名も無き愚者の王国の? ギルドの歴史資料で見たやつか?」

 

 深い碧色に輝く双眸の巨竜、見つめるだけで襲い掛かって来たり威嚇してくるわけでもないその様子に、やや困惑しながらも視線を巨竜から外さずに会話をする黒斗と鱗華。

 

 冒険者ギルドの資料室で閲覧した竜種の資料を思い出していく黒斗、確かにその大きさを除けば地球の白亜紀に生息していた四つ足の雷竜に似た容姿である王竜に近いだろう。

 

 王竜ブラキオス、群れで暮らす草食性の比較的おとなしい種族である、近寄らなければ危険性はほぼ無いに等しい。確認された中には100メートルを超える個体もいるが自分から他の生物に襲い掛かる事はまず無い、彼等がその脅威的な肉体の破壊力を存分に発揮するのは仲間に危害が加えられた場合に限られるのだ。

 

 かつて大陸のとある場所に一つの王国が栄えていた。いまはその名すらも伝わっていない――否、あえて残されていないのだ。愚かな行い故に名も無き愚者の王国と呼ばれたその国は、当時でも有数の肥沃な土地と精強な軍隊を抱えてその地域一体を支配していた強国であった。

 

 或る時、奢った王が愛娘である王女の我儘の為に竜種のペットを望み、冒険者達に触れを出した。竜種の幼体、又は卵を持ち帰って孵化させた者に金貨千枚を与えるという内容だ。余りの大金に眼が眩んだ冒険者達が先を争って樹海へと挑み――殆どの者が帰ってこなかった。

 

 今でこそ樹海深部の恐ろしさは人々の間に浸透しているが、その当時はまだ深部の恐ろしさを伝えられるほどに開拓は進んでおらず、また栄えていた王国の人々は自分達の力を過信し樹海を軽んじていたのである。

 

 やがて一組の冒険者達が、積み上げられた数多の犠牲の末に一体の竜種の卵を持ち帰った。人の身の丈程もあるその巨大な卵は不幸なことに有精卵――新たな命を宿した卵であったのだ、もしも……もしもこの卵が只の無精卵であればこの後の結末も変わっていたのかもしれない。

 

 卵から孵った四足の竜種の幼体を献上された王はその幼いながらも勇壮かつ神々しい雄姿に大変喜び、金貨千枚と名誉ある勲章を冒険者に授けて、これに報いたという。

 

 早速、その幼体の世話をさせるべく国中の生物学者や家畜の専門家達が呼ばれたのであるが、彼等は一目見るなりその竜種を樹海に帰すべきであると主張した。卵から孵化したばかりの幼体ですら、すでに人と変わらぬの大きさなのだ、つまりこの竜種の成体は……どれ程の巨体を誇るのかも想像が出来ない、未知の生物に手を出すのは危険であると進言を行う。

 

 だが諫言する識者達の声を一笑に付した王は彼等の言葉に耳を傾けず、愚王に阿(おもね)った一部の学者達の意見を受け入れて幼体を新しく作らせた専用の檻に入れ、愛娘の鑑賞用の愛玩動物とした。

 

 甲高い高音で啼き続ける竜種の幼体の様子に、言い知れぬ不安と恐怖を感じた生物学者や畜産を生業とする者達は、どうにか説得した身内や親しい者達を連れてその日の内に貴重品のみを身に着けて王国を出た。着の身着のままに慌ただしく国を出る彼等を門を守る兵士達は臆病者の集まりだと嘲笑いながら見送っていたという。

 

 

 

 そしてその日、王国は一夜にして亡び、その姿を地上から消した。

 

 

 

 着の身着のままに逃げ出し、王国を見下ろす小高い山の上から月明かりに照らされた全てを見ていた逃げ出した者達、彼等の手によって残された貴重な資料には記されている。

 

 樹海より山津波の如く溢れ出して押し寄せた巨竜の群れ、城壁よりも高く、貴族の家よりも大きな体が雲霞の如く王国を蹂躙した。文字通り全てを踏み潰し、圧し潰し、轢き潰した彼等はただ一体の幼竜を見つけると歓喜の咆哮を上げてこれを保護し、樹海へと帰っていった。時間にして一刻もないであろうその間に、王国の全ては灰燼に帰したのだ。城も街も人も、貴きも賤しきも、有象無象の区別なく――全て。

 

 年代記に大海嘯と記されたこの過ちを、二度と繰り返さないためにこの王国の名は忌まわしき名として葬られた。名も無き愚者の王国として歴史に刻まれたこの国であるがその正確な位置すら意図的に抹消されたのか現代には遺されていない――ただその愚かしき行いのみが書物や石板、様々な口伝として後世に語れ継がれているのみである。

 

 

「大海嘯ねぇ、正直眉唾っぽいけど……ただブラキオスの生け捕りが禁止されてるのは確かだね。群れごと相手にするのはしんどいから狩る奴はそうそういないだろうけど……」

 

「確かに特徴は一致してるが……バカでかいにも程があるぞ!!」

 

「デカすぎだよねー、食べ物どう考えても足りないでしょ……」

 

「あんまりデカいデカい連呼しないでくれんとね……そりゃあホントの事だけんども。というかおまんら全然こわがっとりゃんねぇ、めずらしか」

 

 突然二人の会話に割り込む様にやや高めの女の声が響き渡った。

 

「はぁ?! 誰かいるのか?! いやまさか……アンタ喋れるのか?」

 

「うそっ?! えっ?! でも口動いてないけど……」

 

 もうもうと立ち込めていた土煙が治まっていく中で、目の前の巨大な顔を睨みつけていた二人の顔が驚愕に染まる。どう考えても今の声は巨竜が話した内容にしか思えないが……念話などといったモノでは無くきちんとした大気の振動を伴う音として聞こえたその声は巨竜の頭の上から響いたように感じ、二人はすぐに視線を上方に向ける。

 

 晴れていく二人の視界に視えた影、巨大な頭の上にすっくと立ちあがった人影は軽やかな足取りで飛翔するように跳び上がると二人の目の前に華麗に着地を決めた。

 

 やや古めかしいデザインの貫頭衣の様な衣服に身を包んだ小柄な女性、巨竜と同じ深い紺碧の瞳の美少女――に視える存在。不思議な事に一切の気配を感じさせないその少女は好奇心たっぷりにその瞳を輝かせて二人に話しかけてきた。

 

「わっちはビューネっちゅうんじゃ、この姿の方がおまんらと話すんは便利じゃきに。星気(エーテル)をちょちょいっと弄って作っとるんじゃ、ちょくちょくおまんらみたいにここらに来るヒトと話すんがわっちの楽しみでのぉ。とって喰ったりゃあせん」

 

「すげぇ訛りだな……なんとか聞き取れるが……。アンタは間違いなく後ろのデカいの本人で、人と話す為にその体を何かの力で作ってるって事か?」

 

「ビューネちゃんだね! 魔竜なの? 温泉入ってもいい? 食べ物足りるの?」

 

 少女の言葉は様々な地方の訛りを一緒くたにしたような滅茶苦茶な英語ではあったものの各国を旅してきた二人にはなんとか聞き取る事で出来た。話が通じると解った瞬間にマシンガンの如く質問攻めを始める鱗華と物怖じしないその様子に嬉しそうに早口に答えつつ、負けずに質問を返してくるビューネ。

 

 二人の様子を苦笑しながら眺めていた黒斗であったが危険が無いと解るや武器から手を離し、その場にどかりと降ろした荷物から魔導テントを取り出すとその場に設置を始める。

 

「ビューネさん、アンタその体でメシ食ったり酒を呑んだりは出来るのか?」

 

「感覚の共有度はある程度変えれるけん大丈夫じゃ、注ぐ気を増やしゃあ実体と変わらんきに」

 

「俺達もアンタとやり合う気は無い、会話が目当てってんなら旨い酒と食い物でもてなすぜ。中でゆっくりと話そうじゃないか」

 

「おお! そりゃあええこつばい! 湯も好きんだけ浸かるがええ! ヒトは皆気持ちよさそうに浸かるんじゃ……わっちはそれを見るのがげにたのしゅうての」

 

 快諾したビューネを魔導テントの中に案内する黒斗、鱗華は先に温泉で汗を流してから合流してくる様だ。黒斗はテント内に案内したビューネに冷蔵庫からある程度作って保存してあるつまみやハムなどの簡単な肴と銘酒を出してきてダイニングのソファーで寛いでいる少女の前のテーブルに並べていく。

 

「とりあえずそれを摘まんでてくれ、さっとシャワーで汗と汚れを落としてくる。そしたらもっとうまいモン作ってやるぜ、温泉はあとでゆっくり楽しませてもらうつもりだ」

 

「くるしゅうない、くるしゅうないぞー! わはははははは、凄いテントじゃあ! 酒と食い物も美味であるけりぃ! 旨い旨い……くぅぅぅ、沁みるのお」

 

 ソファーに座ったまま飛び跳ねる様にはしゃぎ、生ハムの巻かれたチーズを口に放り込んで瞳を輝かせ、グラスに注がれた酒に口を付けて恍惚とした表情で息をつく少女。あの巨竜の化身とは到底思えぬ可愛らしい仕草にさしもの黒斗といえどついつい頬が緩んでしまうのを抑える事が出来ない。ちなみに黒斗はロリコンの性癖は持っていない為、純粋に微笑ましく思っているだけである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 これから客人をもてなす為の料理を作るという事でやや念入りに汚れを落として浴室を出た黒斗、ダイニングから聴こえる姦しい騒めきに一足先に鱗華が戻ってきていた事を察する。

 

「温泉はどうだった? 気持ち良かったか?」

 

「あっクロトー! すんごく気持ち良かったし、お肌がつるつるになったよ! 更にボクの魅力が天元突破してしまったね♪」

 

「そいつぁ愉しみだ、ビューネさんとりあえず追加の酒を持ってくるから待っててくれ、嫌いな食べ物とかはあるのか?」

 

「本体は星気を喰らっとる、この肉体は好き嫌いなどありゃあせん、何でも食えるでな」

 

「了解! 適当に作って持ってこよう。リンカと話して待っててくれ」

 

 そう言い残してキッチンの方で手早く料理支度を始める黒斗。腹も空いている為、手間の掛からぬかつそれなりに自身の有る旨いモノを提供しようと気合を入れて料理を始める。

 

 すぐ隣のキッチンで真剣な顔をして腕を奮い始めた黒斗を頼もしそうに見ていた鱗華とビューネは酒杯を互いに酌み交わしながら楽し気に会話を続けていく、どうやら早くも仲良くなってしまったようだ。

 

「ビューネは人の言葉どうやって覚えたの? 訛りが酷いけど、凄いよね」

 

「此処に来るん人らは数十年に一度くらいかのぉ? それぞれ短い時間であるが教わってきたんじゃ。数百年かかったがなんとか覚えたぞい」

 

「色んな人に教わったからそんな滅茶苦茶な訛りなんだねぇ……魔竜ってさっき聞いたけどなんで襲ってこないの? 魔素も感じないし」

 

「おぅ! それは俺も気になるな、教えて貰えるのか?」

 

 すぐ近くで調理中の黒斗も手際よく素材を切り分けながら会話に参加する、料理の腕も大分上達しており、作りながら喋る事など造作もないのである。

 

 魔素によって変異した生物は魔素を得る為に他の生物を捕食する。これは元が草食性の生物であっても例外なくそうであると人類種には認識されていた。

 

「わっちはこれでも数千年生きとるんじゃ、温泉から湧く星気(エーテル)だけで十分生きていけるしのぉ。それにわっちが魔竜化した時に影響を受けたのは脳じゃった、只のトカゲでしかなかったわっちが智慧をもってのぅ……。そこからは思索と試行の日々よ、星気を操れる様になり体内に留める事を覚え、言葉や気で分け身まで作れるようになった。お陰でおまんらとメシも喰える、ええこつじゃ」

 

「ほうほう、成程。幾つか気になる所もあるが魔素の変異化が頭脳に働きかけたと……ちなみにエーテルってのは、温泉から湧いたり大気中にあったりするエネルギーって解釈で良いんだよな? 俺達は魔素と呼んでるんだが」

 

「ほうじゃ、おまんらはマソいうとる奴はわっちは星気(エーテル)っちゃ呼んどる。星の内側より溢れ出す星のエネルギーじゃな、操作に慣れてくると色んな事ができるぞい。まぁ脳が変異した魔竜であるわっちにしかできんがのう」

 

「ビューネは凄いんだね! ボクなんて手から火を出すくらいしか出来ないよ」

 

「おまんらヒトは星気(エーテル)の影響を受けても変異せん代わりに細かな操作は出来ないからのう。だのにこんな場所まで来れるんじゃからほんにすごいこつじゃ」

 

「筋肉を鍛えてるからな、鍛えた肉体こそ至高だぜ。さぁ出来たぞ、流石に新鮮な野菜とかは用意できてないから偏っちまうが……好きなだけ食ってくれ」

 

 会話をしている間に手早く調理していた黒斗が出来た料理をテーブルに並べ始める。程好く熟成した肉と、野菜をふんだんに使ったBBQ風の串焼きやステーキ、脂の乗った大きな魚の干物を豪快にグリルしたものや冷凍しておいたにんにくたっぷりの餃子も大皿に盛られて置かれていく。

 

「ほわあああっ!! なんじゃこの食べ物は……。乾燥させた肉や麺麭とかいうモノは喰ろうた事があるがこげなもんは見たことも無いぞ」

 

 迷い込んできた冒険者達に分けて貰った食べ物を思い出してそれらとの落差に驚愕を隠せないビューネ。樹海の深部で手の込んだ料理を作る者などそうそういる訳もなく、この辺りに人が来ること自体が稀なのである。干し肉や日持ちするように硬く焼きしめた麺麭と酒しか味わった事の無い彼女にとって黒斗が作ってくれた料理の数々は正に未知との遭遇であったのだ。

 

「好きなだけ食ってくれ。足りない様なら追加で作ればいいしな、温泉に入らせてくれるってんなら安いもんだ」

 

「むぐ……むぐむぐ――――うみゃあああああ!! こんな味があるんじゃなあ! 干した肉も旨かったがこれは比べ物にならん、酒の味も引き立っておる」

 

 夢中になって黒斗の手料理を手掴みで味わいながら酒瓶をラッパ飲みで空けていくビューネ。大蒜とニラのきいた肉餡がたっぷり詰め込まれた餃子は特に気に入った様だ、黒斗の作るそれは餡にしっかりと下味が付けられている為とくに調味料等を付けなくてもそのまま食べられる特製餃子である。

 

「ギョーザを食べたらすかさずこっちの冷えたエールで流し込むんだよー、これホントにやみつきになるから試してみて」

 

「ほうほう、このしゅわしゅわする酒か――むぐむぐ……ごくごく――うあああああああっ!! ぶちうまかとねっ! おまんらもうここに住まんかね」

 

「流石にそれは無理だが……温泉にはちょくちょく入りたいからな。知り合いも連れてきたいんだがいいか? 年に何回か寄らせて貰いたいし、その時で良ければ作るぞ」

 

「よかよか! こんなうみゃーモン喰わして貰えるなら好きんだけ入りゃええ! わっちが居る限りこのへんにゃ他の生きもんは近寄らんでな、いくらでも連れてきぃや」

 

 実体の有る幻影の様な存在であるビューネは酔っぱらうという事は無いが、純粋に料理と酒の味に魅了されてしまったのだろう。上機嫌で黒斗の頼みを了承して皿の上の餃子を平らげていく、競う様に鱗華も餃子を食べているので間違いなく足りないと悟った黒斗は追加の餃子を焼くべくキッチンに戻っていった。下拵えさえしておけば焼くだけですぐに食べられる餃子は鱗華にも人気で常に冷凍庫に1000個単位で用意されているのである。

 

 大きなフライパンに凍った餃子の上から熱湯を廻し入れて半分ほどを湯に沈める。中火にして蒸気穴の開いた蓋を閉めて五分少々、フライパンの水分がなくなってきたら胡麻油を少しだけ回し入れて強火で焼き上げていく。完全に水分が飛び生地の焦げる馨しい香りとしてきたらフライ返しをフライパンと餃子の間に差し入れてゆすり、餃子の上に被せた皿ごとフライパンをひっくり返せば完成だ。旨そうな焦げ目を上に向けたぱりぱりの餃子がテーブルに置かれると、待ってましたとばかりにビューネの手と鱗華の箸が伸びてあっというまにその数を減らしていく。

 

「愉快だのう、ほんに愉快じゃ……これほど楽しいのはいつ振りかのう、おみゃーさんらみてぇなヒトはたまに来るけんども皆、どこかこわごわでにゃあ……こわがらんかったのはおみゃーさんらとアロケンくらいなもんじゃ」

 

 おかわりの大皿も空にして度数の高い酒をちびちびとやりながら感慨深げに呟いたビューネ、その呟きに出た名前を聞いた黒斗はやや驚いた様な顔で幻影の少女に問い掛ける。

 

「もしかして魔王アロケンの事か? 魔人族で数千年前に国を作ったっていう」

 

「ああ、そんな事もいうとったなぁ……国を作ったやらなんやら、ヒトの言葉を教えてくれたのもアロケンじゃった。あやつは来るたびに大怪我をしとってなぁ……温泉に浸かるとあっちゅうまに治ってくんは中々の見物じゃったわ」

 

「お父さんの話は本当だったんだねぇ、じゃあここはアロケンさんが使ってた温泉なんだね」

 

「どうやらそうみたいだなぁ、苦労して探した甲斐があったもんだぜ。なぁビューネ、アロケンは強かったか?」

 

「いくさしちょるんは見てにゃーけん、よぅわかりゃせんがおまんらと同じくらい肉体に星気が馴染んどったのう。ここらの竜や魔獣はみやすかねぇ……ばってん星獣相手にはちっくときちぃかもしれんなあ」

 

「ん? んー……竜種や魔獣は倒せるがせいじゅう? てのは苦戦するって事か? そいつはどんな奴なんだ?」

 

「妙に長い顔の鳥とか、沼地におる気持ち悪い色のヤツらじゃな。あのへんの奴らはわっちは星獣ってよんじょる。完全に星気に馴染んで使いこなしとるやつらじゃあ。真ん中のでかい結界の奥の大樹の辺りに沢山おっての、ヒトの言葉を喋りはしないんじゃが頭も良くてな、仲間内で会話したりしとる」

 

「あのあたりか、竜種とはまた違う生物なんだな。思わぬ所で貴重な情報が手に入ったぜ」

 

「ほへぇ……世界は広いんだねぇ……もっと筋肉鍛えて仲間も鍛えて皆で探索しに行きたいなぁ」

 

「そうだな、今夜はゆっくり休んで、明日俺達の家に帰るよ。ありがとうビューネ、仲間を連れて近いうちに又くるぞ。勿論餃子とか他にももっと旨いモノを持ってくるぜ」 

 

「あんがとなぁ! ほんに楽しみじゃ、ここ数十年はずっと一人で寂しかったんじゃ……あんがとうよ、クロ坊に鱗嬢ちゃん」

 

 余程嬉しいのだろう。寂しかった頃を思い出してしんみりとしていたかと思えば喜色満面の表情で二人に礼を言ったビューネ。もてなしの宴も無終わり、一緒に温泉に浸かりながら樹海の夜空を見上げる三人。地球とはまったく違う星々の配置や煌めき、見続けているとどこか名状しようのない恐怖心を掻き立てられそうな深淵も、この三人にとっては只の美しい星辰のざわめきでしかないのだろう。

 

 その中でも一際大きく輝く、地球の何倍もの大きさの蒼褪めた月の明かりに照らされて、黒斗と鱗華は温泉を心から堪能したのであった。

 

 

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Tips

 

魔王竜ビューネ

 

 元々は只の雌のブラキオスであった彼女は或る時、とても暖かく気持ちの良い場所を見つけそこを巣穴に選んだ。長い間をそこで過ごすうちに段々と温泉の魔素に影響を受けていき、遂には魔竜化してしまったのであるが、魔素が働き掛けたのは頭部の中に納まった頭脳であった。

 

 魔素による変異進化によって有り得ぬ知性を獲得した彼女は魔素さえあれば無限に成長を続ける不老の存在と化したのだ。迷い込んできた魔王アロケンと交流し友誼を結んだ二人は無二の親友同士となる。アロケンは戦で傷を負うたびに彼女のもとに向かい、戦乱の時代の中で束の間の平穏を過ごしていたのだ。

 

 彼亡き後も数千年間の間、ときおり迷い込む冒険者達と交流し言葉や大陸の情勢などを教えて貰いながらアロケンとの思い出の場所である樹海深部の温泉を守り続けてきた。

 

 本体である全長三キロほどの巨体は動かすには不便なのでもっぱら幻体で人と交流しているビューネ、ブレスも吐けず、巨体故に素早く動く事も不可能であるがその頭脳が考え編み出した魔法の数々はもはや天候を変え大地の形すら変えるだろう。彼女が守る温泉は食事である魔素を生み出す場所という事以上に友との大切な家である、もしこの土地を侵そうという存在があれば彼女は数千年に渡って磨き上げたその大魔法を躊躇いなく行使するだろう。

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