ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~ 作:幻闇
神秘の最奥たる地で眠りし竜――
己が思い出の地を護る彼女は遥かな過去の思い出を胸にまどろむ――
生きている間の殆どの時間を
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よぉ! ビューネ、元気……に決まってるよなぁ! ハッハッハッ!」
【彼】の言葉と共に暗闇の空間に光が満ちる。世界が生まれ、星々が生まれ、森が生まれ、暖かな湯気を立ち昇らせる温泉と、まだ100メートルも無い大きさの竜が見えてくる。そうして彼女のあやふやでぼやけていた意識が、爽やかな声によって吹き飛ばされ明瞭な意識を取り戻した。
「げんき、じゃ。おんしまた酷い怪我じゃの、湯に浸かって癒すがええ」
「あんがとよぉ、ちっくと世話にならあな」
【ああ、いつもの夢じゃ……わっちがいっとうしゃーわせだった時じゃ……宝物じゃ……アロケン……もう会えぬアロケン……わっちがせめて人ならば……子を成せたものを……】
「いつまで居れるんじゃ」
「周りは一通り平らげたばい、すこしゆっくりできるかのう……二週間ほどじゃ」
「おうおう嬉しいのう……たっぷりと話をきかせぇ」
【たしかこの時は……そうじゃ周りの国々を制圧して小康状態になった時期じゃったか。ここから同盟や輸出やらで魔人族と他種族の融和に注力するとかいっちょったな、いつもより長くいてくれるアロケンが嬉しゅうてなぁ……アレを完成させた時じゃな】
過去の記憶に浮かび上がるビューネは幻体こそ出しているもののその幻体はやや半透明で声だけが明瞭に聞こえるといった拙い状態であった、まだこの当時は現在ほど研鑽と洗練が足りていなかった時期なのだ。
「酒と干し肉もぎょうさんもっちきたど、湯から上がったら一杯やろうや」
「おお、あんがとなぁ、おまんの持っちくる赤い飲み物はげにうまいからの」
「さて浸からせてもらうかのぉ……――うっくはぁあああ!! よか湯じゃあ! 染み渡るようじゃ! よかよかぁ」
甲斐甲斐しくアロケンの世話を焼くビューネ、アロケンは傷だらけの肉体を温泉にゆっくりと沈め、染み渡る微かな痛みとこそばゆさに気持ち良さそうに溜息を漏らしている。
【楽しそうじゃのぅ……守っておいてよかったのう……わっちはこの星ある限り不滅じゃ……長く生きるうちに過去の記憶など摩耗しちまう……大事な記憶だけに魔法を掛けて固定化しておいてよかったのぅ】
当時のままの時間が流れる自らの夢の世界。その場には本来居ない存在として過去の記憶の世界に入り込みながら、懐かしく輝かしき何よりも大事な宝物を眺め続けるビューネ。二週間という時間の流れを飽きる事無く、追体験するかのように好きな視点からみずからの記憶を鑑賞し、感傷に浸るのだ。まもなく彼女にとって一番大事な場面がくるだろう。
夜の天幕の中、折角アロケンが来ていたというのに一週間程まともに顔を出さなかった友が入ってきた気配に、横たわって酒と干し肉を楽しんでいたアロケンに声を掛けた。
「明日 けぇるんだべ……。次はいつじゃ、死ぬまでにゃこれるんか」
「わからん、まだまだ魔族憎しのやつらや攻め寄る国もある。魔族と共存できるっちゅんを教えたいが……生きちょる内にそんなもン出来ねっかもしれね」
「ほうけ…………今回はあんま相手できんくてすまんな……大急ぎで完成させたんじゃ……わっちの方を見いや」
アロケンが億劫そうにのそりと体を動かし、暫らく会えぬのに薄情な奴だと思っていた友の姿をみて――驚きの余り呼吸を止めた。
「おみゃー……なんちゅう美しさじゃ……本物の人みたいじゃ……」
現代の様にくっきりとした、実体と見違えんばかりの幻体のビューネがそこに居た。前までの触れても霞を掴む様なあやふやなモノではない、質量を備えた生物に限りなく近い肉体を持ったビューネが其処に存在して居たのだ。
溢れる思いを隠そうともせずに顔を歪めてアロケンの胸に飛び込んでいくビューネ。友への想いは彼女の中でいつしか純粋な愛へと変わっていたのだ。
「アロケン……わしゃあ、おみゃーの子がほしい……でも無理じゃ……。せめて偽物でも良い、人のやり方で愛しちょう……後生じゃ……愛してくりゃれ」
「その体を作る為に集中しちょって頑張っとんたんか……うい奴じゃ……よかおなごじゃ……抱かねば男の恥じゃのう」
重なり合う二つの影は情熱的に溶け合い交じり合う、勇ましい益荒男の呻きにも似た叫びと
「ああっ! ああ……んッ……アロケン……良いぞ……もっとじゃ……んはぁ……」
「ビューネ、おまんは永劫に在るのじゃろう、俺とは違う……だが刻み込もうぞ。たとえまぼろしでも構わぬ、おまんの魂を孕ませてやろう」
「嬉しい……ありがとう……おおっ! きておる……熱い熱いおんしの塊が……んあああっ!!」
【まるで今生の別れの様にまぐわおうとるが……アロケンの奴め普通にこの後も数十年通っちょるからのう。じゃが初めての時の思い出は特別じゃき】
愛しい男との初夜を大切に保護して微睡の中で思い出に浸るビューネ。勿論初夜だけではない、アロケンとの思い出は全て彼女の中で魔法によって厳重に保護され守られているのだ。過去に執着する未練がましい女だと思う者もいるかもしれない、しかし永劫に近い時を生きる彼女にとって、ソレの持つ意味は儚き存在である人とは大きく異なるのだ。
【しかしこの間喰ろうた、ぎょうざとやらは美味かったのう。クロトとリンカ、あやつらすぐに来ると言っちょったが……楽しみじゃ】
一番大切な思い出の再生を終えたビューネは一番新しい記憶に出てくる二人のヒトに想いを馳せながら、再びまどろみに揺蕩う。幾つもの思い出を大切にその魂に抱きながら……――
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜の闘技場で行われた鱗華主役の敗北闘技から早一週間、身内を集めて行われたささやかな宴やメンテナンスに出していた装備の受け取りなども終わり、いよいよ樹海深部へと湯治に出発する日を迎えていた黒斗達一行。
完全武装でセーヌの街門に集まった荒神夫婦とアルフェンとリル、ようやく大恩を返せると鼻息も荒いボルボルの五人は頼もしい六人目の助っ人と合流するべく待ち合わせの時間まで街門近くの広場にてまったりと時間を潰している様であった。
「温泉までのルートの危険度はどんなもんなんだァ?」
「俺達が帰ってきたルートは所々に魔素溜りや肉食竜の縄張りなんかがあったが、まぁ危険って程でも無かったな」
「まぁお前らはそうだろうけどよォ……二人の脚で四日くらいだったか? 十日は見積もっといた方がいいな」
本来であれば中部ですらまだ探索するには早いリルがいるのだ。環境の変化の激しい樹海はただそこに居るというだけで多大な体力を消耗する場所でもある、彼女の為に万全の準備を整えたとはいってもまだまだ心配なアルフェンであった。
「安心めされよ、アルフェン殿。本国との往復などで深部の地理は私もある程度把握している、確かに一月で地形の変わる様な場所もあるが比較的環境変動の少ない場所もあるのだ。ルート策定に関しては私も関与しているし問題無いであろう」
「まぁボルボルがそう言うなら……安心だけどよ」
「ちょっとアルフェン、ボク達の事信用してなさすぎじゃない?」
自分達が何度も大丈夫だと言っても心配そうであったアルフェンがボルボルの一言ですぐに安堵した様子を見た鱗華が唇を尖らせて文句をつけると、そんな彼女とその夫に対してやや胡乱気な視線を向けたアルフェンが即座に切り返す。
「いや実際お前ら脳筋夫婦の基準ほど当てになんねェモンはねぇだろ……」
「アルフェンに言われたくないんだけど?!」
「お姉様……大丈夫です……信頼してます……」
ぎゃあぎゃあと喚き合う鱗華とアルフェンを見ながらはにかんだ表情でぽつりと呟くリル、その言葉に勝ち誇ったように胸を張った鱗華とため息をつくアルフェン、仲間たちの騒がしさに苦笑しながら街門に視線を向けた黒斗の眼に、雪の様に白い肌と陽光を浴びて黄金色に輝く体毛を帯びた虎人族の絶世の美女の姿が映り込んだ。
「よう! クロト! リンカ! 相変わらず騒がしいなぁ」
「アマナ久しぶりー! 時間ぴったりだね」
「お久しぶりです、アマナさん。遠い所ありがとうございます」
快活に片手を挙げて挨拶をするアマナに、親友である鱗華も気安い口調で挨拶を返す。友とはいえ目上であり未来の王妃でもある相手なのでつい堅苦しくなってしまう黒斗とは対照的だ。
数か月ぶりに再会した
「貴方がたがアルフェン様とリル様ですね。辺境領での件、誠に申し訳御座いません。私と此処に来る事の出来なかった我が王に代わり謝罪致します」
普段の明け透けな雰囲気を即座に消し、王家に嫁ぐ者として相応しい立ち居振る舞いで深々と頭を下げたアマナ。こうなる事は予測済みであったアルフェンがすかさず声を掛ける。
「あー……頭を上げてくれ。アンタ達には何も思う所は無ェ。獣人種にとって英雄にも
「……うん……私……いま凄く幸せ……大丈夫……です」
事前にアマナの性格、公私をしっかりと分ける彼女の一見、二重人格にも見える程のギャップのある口調等を説明されていたアルフェン達は驚く事も無く淡々と考えていた答えを返す。元々勘違いしていたような愚王そのままであればともかく、黒斗達に知らされた堂々たるグレイス王とその武を支える女傑であるアマナの本質を聞けば感心こそすれ逆恨むなど有り得なかった。
「そうかい、そう言ってくれると助かる。狼の兄ちゃん、気が済まなかったらアンタに何発か殴られるくらいは覚悟してたんだぜ、こっちは。今からでも遅くない、殴っとくか?」
「くははッ! オレ様は女は殴らねぇ主義でなァ、闘いならともかく一方的になんざありえねェ。まぁ一発ベッドでお相手願えるならお願いしたいがねェ」
粛々と謝罪をしていた態度から一転、相好を崩してからかう様に提案したアマナに、アルフェンがにやにやと下衆めいた笑いを浮かべながら言葉を返す。
「えっ……あっ……流石にそれは……勘弁してくれねーか……」
流石に予想外だったのだろう、明るかった表情を一変させて困惑した様に懇願するアマナ。
「うちの嫁は散々クズ共に弄ばれたんだけどなァ……ぐへへ、旦那には黙っといてやるからよォ」
「うっ……あっ……くぅ……解ったよ…………ううっ……ごめんよグレイス。謝罪の一環なんだ……仕方ないんだ……許してくれ」
頬を紅潮させて言葉に詰まる様に唇を噛み締めながらも男の言葉通りであると、目の前にいる無表情な女性を見つめながら思い直すアマナ。その今でも十二分に美しい顔に残る傷痕、白く濁る光を失った瞳をみれば男の要求も
婚約者であるグレイスに対しては強気に出る肉食系女子であるアマナであるが、自分達の行いが元で起きた悲劇の犠牲者であるリルを目の前にして、強く出る事も出来ず己が身を捧げる事を決意する。冷静な時であれば理不尽な要求と助け船も出してくれない親友の態度に不信感を抱いても良いのだろうが、突然の性的な要求に混乱してしまったのであろう。
流石に見かねた黒斗が助け舟を出す。
「あー……アマナさん、冗談だ、ドッキリって奴だ。ちなみにやれって言ったのはリンカだ」
「えっ……?」
黒斗の言葉に仄かに瞳に涙を浮かべて色々と覚悟を決めていたアマナが素っ頓狂な声を出し――ギギギと擬音すら聞こえてきそうな動きで首だけを廻し、親友の顔を見る。
「ぷっくっ!……ダメ、もう我慢出来ない。あはははははっ! 引っ掛かった!」
吹き出す様に笑い始めた鱗華の前で担がれたと悟ったアマナの表情が般若のソレに変化していく。全身から質量を持った金色の
「あっ! ボクちょっと危険が危なく無いか先に樹海偵察してくるねー! またあとでー」
不穏な気配を察した鱗華は片手を振りながら凄まじい脚力で街門を抜け出して樹海方面へと遁走していった。後に残された般若の顔に金色のオーラを纏ったアマナは両手を地面に着け四足獣の体勢になると先程の鱗華を上回る脚力で残像すら残しながら後を追う様に飛び出していく。
「あー……まぁああいう人だから……皆も気安く接してあげてくれ」
「了解した、絶対佳人たる美に国士無双たる武、正に一国の王妃に相応しきお方であった。このボルボル勝てぬやもしれぬ、そしてとても心優しいお方なのだろうな」
「私の……事……凄く優しい目で……護るって意思が伝わってきました……頼もしいです……」
「俺これ大丈夫だよなァ……リンカの案に乗っただけなんだがよ、殺されねェか?」
「まぁワンパンくらいは覚悟しとくんだな、アルフェン。はっはっはっ」
樹海浅部の方から聞こえてくる大型魔獣が木々を薙ぎ倒す様な破壊音、間違いなくアマナの仕業だろう。それを聴きながら戦々恐々とした面持ちで二人に遅れて出発した三人に付いていくアルフェンであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「むんっ!」
ズシャリと重く鈍い音を軋ませた漆黒の大剣の一振りで、灰色の毛皮を纏った巨大な牡牛の首が斬り落とされる。体高5メートルはあろう牡牛はその巨大な肉体に比してもなお、いびつに捩子くれ生えた双角を振るう事すら叶わずにその命を奪われた。人里に出現すれば村程度なら簡単に壊滅させてしまうであろう大型魔獣ですらも彼等の前では只の昼餉の材料でしか無いのだ。
出会い頭に大剣を横薙ぎにして前脚を骨ごと斬り飛ばし、返す刃で地に付いた頭部を斬り落とす。口で言うのは簡単であるがこれを確実に実行できる者はそうはいないだろう。わざわざ綺麗に首を飛ばしたのはこの後の解体と食料になる事を見越してであった。
ボルボルが仕留めるやいなや全員で解体ナイフを片手に群がった結果、わずか数分で綺麗にバラされてしまった巨大牛は黒斗が魔導テントから取り出したBBQセットの上に並べられ、香ばしい牛肉の焼ける臭いを辺りに振りまいている。
「お肉まだ焼けないかなー? 朝ごはん全部ぶちまけちゃったからボクもうお腹ぺこぺこだよ」
「鱗華殿……先程まで死にそうな顔で反吐を吐いていたが、もう食べられるのであるか」
キレたアマナによって制裁され、朝食を全て地面の栄養にしてしまった鱗華であったが、肉の焼ける臭いで即座に食欲を取り戻した辺りアマナも手加減はしたのだろう。内臓がでんぐりがえる程度の腹パンで許されたようだ。ちなみにアルフェンは笑って許された、そこまで冗談の通じない女では無いのだ。鱗華への制裁もじゃれ合いのようなモノだろう。
「腹パンは慣れてるからね! 内臓の一個や二個破裂してようがご飯は食べられるよ!」
「左様であるか。流石は鱗華殿であるな! 可憐なる容姿の女人とは思えぬ金剛不壊ぶりよ!」
「まったく、笑えないドッキリなんざかますんじゃねぇよ。まぁ二人共過去の事は気にしてないみたいで助かったけど、温泉にいけば肉体の傷も全快すんだろ?」
仏頂面で採れたての生き血滴る生レバーを噛み下しながらアマナが周りの仲間達に問い掛ける。
「ああ、それは問題ないだろう、心の傷もアルとリンカがもう治しちまったしな」
「ふぅん……とっても
「うんうん! ボクも手伝うからね、温泉で回復しながらやればすぐ強くなれるよ! がんばろっ!」
女同士で話し合うにはやや脳筋にすぎる話で盛り上がっていた女子チーム、そんな彼女たちに焼き上がった肉がどんどんと渡されていく。猛然と食べ始めたリル以外の二人、負けない様にとリルも大口をあけて沢山食べようと頑張る。男達の参戦もあり、あれだけ沢山あった牛肉はあっという間に皆の胃袋に消えていくのであった。
食事も終わり後片付けも終えた一行は樹海中部の拓けた場所で食後の運動を兼ねた軽い模擬戦を何度か行い、互いの闘い方や得物の間合いなど連携に必要な情報を擦り合わせる様に相手を変えて闘い合っていた。
どの程度の腕前なのか、互いの闘い方を知れば邪魔せぬ程度に戦える、慣れれば互いを利用しあった連携も可能だろう。これはとても重要な戦士達の挨拶に他ならないのである。
「ぬぅん!」
ボルボルが振るう大質量の鉄塊が唸りを上げてアマナに襲い掛かる。模擬戦とは思えぬ本気の一撃は、直撃すれば如何に歴戦の美闘士であろうと容易くその美しい肢体を両断されてしまうであろう事は想像に難くない程に鋭く重い斬撃であった。
「覇ッ!」
バガンッ! しなやかな猫科の脚力から繰り出される蹴撃が唸りを上げて襲い来る鉄塊を迎え撃つ、金属同士がぶつかり合う轟音を響かせながら漆黒の大剣と銀色に輝く足甲が激突し互いに弾き合った。
在り得ない、もしこの光景を見た者が武の心得の無い一般人であればそう思うだろう。ニメートル近い巨躯の男がその身の丈と同じくらい大きな大剣を両手持ちで斬り込んだのだ。回避や受け流すならまだしもその重い一撃を華奢にも見える美女が一蹴りで弾き返すなど在り得ないと――。
「ぐぅ……――なッ! ぐおおっ!」
弾かれた大剣を反射的に引き戻そうとしたボルボルの眼に、弾いた衝撃を利用して竜巻の様に回転するアマナが映る。
(剣でのガードは間に合わんな――ならば)
「ちぇりゃあ!」
ズシンッ! 剣を引き戻す事を諦め、重厚な
旋風の如き猛虎の一撃は驚くべきことに装備品も含めた200キロ近いボルボルを数十センチ後退させる程の威力を発揮した。剣の牙のアマナ、生ける伝説とも評される彼女の実力が垣間見える。
「なんたる重さかっ! 魔竜と化した暴竜の一撃にも匹敵するやもしれぬ!」
「アンタも凄ぇなぁ、大抵のヤツは今のでブッ飛ぶんだけど。耐えられたのは久しぶりだぜ」
下手に斬り込めば強靭な脚力から放たれる蹴撃で弾かれ、続く連続攻撃で追い込まれる。手数の少ないボルボルにとって両手両足から放たれる様々な技の引き出しを豊富に持つアマナとの相性は絶望的に不利であった。
「まことの強者との闘いほど滾る事は無い、まだ終わりではござらぬっ!」
そう叫ぶや否や間合いのひらいたアマナへ向かい
長物の利を捨て、愚直に距離を詰めてくるボルボルを面白そうなモノを見る瞳で見つめながら好戦的な笑みを浮かべて迎え撃つアマナ。
魔竜の甲殻と竜鱗を組み合わせた
「真っ向勝負! いいねぇ! そうこなくっちゃ!」
正面から受け止めるのは不可能、ならば受け流すか回避するか――いや或いはアマナであれば……。模擬戦を眺めている仲間たちの誰もが固唾を飲んで見守る中、訪れた結果は――
――ズドォン!
果たして鳴り響いた音は一つ――いや二つであった、大地を震わす震脚とほぼ同時に着弾した拳撃の轟音がほぼ同時に鳴り響く。アマナの絶招たる、星の力を借りて生み出される寸勁が発動したのだろう。震脚によって巻き起こった砂煙の中で確認する事は出来なかったが、その身をもって超絶の破壊力を体験した事のある鱗華は早くもボルボルの無事を祈り出す始末であった。
「すげェ衝撃だなおい……一瞬地面が揺れたぜ」
「マトモに喰らった鱗華が全快するのに十日かかった技だ。だが……」
思わず、といった様子で感嘆の声を上げたアルフェンに黒斗が言葉を返す、何かを言いかける様に言葉を続けようとした黒斗であったがその必要は無かったようだ。土煙の中から気迫のこもった雄叫びが周囲に響き渡る。
「うぐおおおおおおおおっ!」
「ぐっ! なんてタフネスだよ……頑丈過ぎるだろ」
どさりと漆黒の大剣が地面に落ちる音が聞こえるなか、左腕をだらりとぶらさげたボルボルが残された右腕でアマナの胴体をがっちりと抱え込む様に締め上げていた。インパクトの瞬間を狙って手放した大剣を己が左腕とアマナの拳の間に挟み込み超絶の破壊力を緩和したのだ。
現代の技術では再現する事も不可能な材質で作られた漆黒の大剣はアマナの必殺の一撃を受けてなお傷一つ無い、それでも殺し切れぬ衝撃により左肩を脱臼してしまったボルボルであったがその対価としてアマナを捕らえる事が出来たのは快挙と言っても良いだろう。
「私の勝ちでよろしいかな?
「まだ結婚はしてないんだけどよ……、ちなみに負けを認めなかったらどうするつもりなんだ?」
「むっ、いやそれは……このまま締め上げるわけにもいくまいが……」
模擬戦である、そのまま負けを認めてくれると思っていたボルボルは悪戯っぽい笑顔を浮かべたアマナに間近からそう問われ、はたと困惑してしまう。戦いの高揚のままに抱き締めていたものの冷静になってみればやや絵面がよろしくないのは間違いない。
「えっ!? ボルボル凄い! アマナさんに勝ったの? ていうか情熱的すぎない? ボクがモーション掛けても靡かないのにアマナさんの事は気に入ったの?」
「あっ、いや……これはその……。私の負けで良いのである!」
慌てて右腕の拘束を解いたボルボルがやや赤面しながら照れ隠しの様にそう告げる。
「あっはっはっ! アンタそんなナリして結構
「ほぅ、あの寸勁そんな名前だったのか。滅茶苦茶カッコいいな! 流派の技は幾つかあるが俺もなんかオリジナルの技考えてみようかな、わざわざ叫んだりはしないが必殺技命名はロマンだしな」
「……二人共凄すぎる…………私……追いつける気が……」
アマナの奥義の名前に興味津々といった感じで頷いている黒斗と鱗華の横で、自分とは次元の違う強さを見せつけられて落ち込んでいるリル、そんな妻を励ます様にアルフェンが慰めにかかる。
「でも、見えてたろ? なら大丈夫だぜェ……それにあの強さの面々が指導してくれるんだ、リルならあっちゅうまに強くなる。オレ様が保障するぜェ」
「私……贅沢過ぎる……泣き言なんて……いらなかった……死ぬ気で鍛えて貰う」
「おぅ! 良い事だ! 死ぬ気でな、あくまで気だからなっ? 死んだら駄目だぞ? 俺も死んでしまう」
途中から情けない声に変わっていく夫の言葉に笑顔で返してその頭を撫でるリル、いつのまにか立場が逆転していた様――いや元からそうであった、荒神夫妻にボルボルとリリアーヌ、アルフェンとリルの幼馴染夫婦にジェノガルド国王夫妻、全カップル全て嫁の尻に敷かれている様な物だ。
「にしてもアンタホントに人間か? この大剣もヤバいな、見た所
「私は豚人族と人族のハーフでな、基本的な肉体と筋力は人種を超えておる。この武器は永久に朽ちる事の無い絶対金属で作られた剣で古代文明の遺跡から出土したモノだ」
「道理で……。つーかハーフなんているんだな、初めて見たけど滅茶苦茶美形だし、ああ、まぁ綺麗すぎて普通の人にもみえないか、まぁ俺の好みじゃないが」
「私も己以外にはついぞ見たことが無くてな……フンッ! ……よし、問題ないであるな」
バコンと鈍い音を響かせて嵌めた左肩を、ぐるぐると廻して問題無いとばかりに頷いたボルボル、流石の豪傑ぶりである。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「さて一通りやり合ったし、テント出して今日はゆっくり休もう。深部に入ったらゆっくり休めないからな。今の内に英気を養っておこう、旨いモン作ってやるから楽しみにしてくれ」
黒斗の言葉に歓声を上げる仲間達、先日のささやかな宴で出た黒斗の料理に皆早くも虜となっていたのだ。唯一その味を知らぬアマナだけが周りの熱狂ぶりにやや引いていたが、その彼女も数時間後にはその熱狂の意味を知ることになる。
魔導テントの中の大きな浴場で森歩きによって汚れた体を清めた黒斗達は、和気藹々と美味い料理と旨い酒を愉しんだ。冒険の醍醐味ともいえる時間を過ごす彼等の顔はいつにもまして明るく楽しそうだ。
間近に迫ったリルの傷を癒すための場所。家族も同然である彼女の喜びが、皆自分の事の様に嬉しいのだ。間近に迫ったその時を心待ちにしながら眠りにつくパーティの面々であった。
本日より一日一話ずつ、四日間投稿して五章完結となります。