ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~ 作:幻闇
其処にいる誰もがソレを美しいと思った。
生き物の命を絶つ殺しの技、賛否はあるだろうが素晴らしいモノだと手放しで称賛されるべき
それは明らかに獣では無く、同族たる人を殺す為に鍛え上げられた技術の結晶、殺人剣と称されるモノであった。対魔獣、化け物相手に通用する様に変化が加えられてはいるが、元は明らかに人間を殺す事に特化して作り上げられた技であるのは疑いようもない。
だがそれでもその技を見た者は皆こう云うだろう――――美しいと。
漆黒の鞘に納められた黒き刃が透き通る様な鞘鳴りの音と共に迸る。
――リィン
音が鳴った。
振られた筈の刀身すら常人には見る事も叶わぬ程の神速の抜刀術、その結果のみが後に残る。
名状し難い化け物の首筋にうっすらと浮かび上がった横一文字の朱線、一拍遅れて喜劇の様にころりと落ちた首、その数三つ。斬られた事すら認識していない首を失った化け物たちの体が立ち尽くす中、血脂の一滴すら付着していない黒刀が音も無く鞘に納まった。
「御美事。全く以て恐ろしい技の冴えであるな」
「綺麗だな……、クロトの戦ってる所は初めて見たけどそれしか感想が思いつかねぇや」
未だ残心の構えを解かぬ黒斗を眺めつつボルボルとアマナがそれぞれに感想を漏らす。大樹海に分け入ってはや数日、深部を進む一行は襲い来る肉食の竜種達を退けながら温泉を目指して進んでいた。
「……これも……竜種? 凄く気持ち悪い……」
自らのすぐ横に立つ夫に、襲い掛かってきた化け物の正体を尋ねるリル。深部に分け入るのは初めてであるリルにとって見聞きする全てのものが新鮮な未知であり、そして恐ろしかった。
「四ツ手熊って呼ばれてるヤツだ。ちゃんと学者が考えた名前があるらしいが解りづれぇから誰も呼んでねぇ、よく解らないバケモンは皆竜種だからコイツも一応竜種だな」
黒斗の一刀にて転がり落ちた首を観察しながらそう答えたアルフェン、深部に生息する生き物であれば首を落としただけで死ぬとは限らないのだ。今になってやっと、倒れた胴体も含めて動き出す気配の無い事を確認した黒斗が構えを解く。
「俺は初めて見た奴だったし、どんな戦い方をするのか興味もあったんだが……今は護衛が最優先だからな。遊びは無しだ、襲ってくる奴は即座に殺す」
斬り落とした首を軽く蹴り転がして観察する黒斗、悍ましいその顔は横では無く縦に大きく割れた巨大な口と顔の左右に分かれた大きな眼球しか無い。鼻や耳すら何処に付いているのか解らぬその顔は口から覗く無数の乱杭歯と合わさって此の世の存在とは思えぬ造形だ。
倒れ伏した毛むくじゃらの胴体は熊というより悪趣味に捏ね繰り回した人体を髣髴とさせ、見る者に生理的な嫌悪感を呼び起こす。なによりもその呼び名の通り四本存在する腕が正常に進化した生物とは思えないほどに奇形染みていた。
「まあ見た目はキモチわりぃけど雑魚だ。深部にいるとたまに襲ってきやがるが……ちっと撫でてやったらバラバラになるし、タダの見掛け倒しだぜ」
冒険者時代に何度か戦った事のあるアマナがリルの不安を打ち消す様に笑い飛ばす。確かに彼女にとっては脅威になり得ぬ相手なのだろうが勿論只の雑魚では無い、万一樹海の外にでも出れば即座に軍隊が派遣される程の存在なのである。
「次はボクにヤらせてよ~。リルちゃんにカッコいい所見せたいな」
「わかった、先頭を替わろうか。所でコイツ旨いのかな?」
「いやこれ喰うのかよ……俺とリルはいらねぇからな」
和気藹々と深部を進む一行、普段と変わらぬ掛け合いが続くが彼等の発する尋常ではない鬼気や殺気がその本気を示している、恐ろしい存在が居る事を知らせて無用な戦いを回避するためでもあるのだろう。隊列の中央にアマナとアルフェンに護られたリル、一行随一の堅牢さを誇るボルボルが殿を受け持ち先頭には黒斗か鱗華、時折り交代しては余った一人が周囲を索敵し偵察を行う。
日中は万全の陣形を崩さずに慎重に歩を進め、夜は魔導テントの中に入ったリルと付き添いの鱗華を護るためにテントの四方を固めた四人が交代で休む。何度か肉食性の竜種や化け物の襲撃を受けてはいたが、大陸最高峰の実力を持つ冒険者達の手によりあっさりと屠られ、その命を儚く散らしていく。
亜次元に隠れ潜んで魔導テントに近付こうとした次元歪曲獣は空間のひずみに気付いた黒斗によって隠れていた亜次元空間ごと両断され、醜怪極まりないその本体を白日に曝されて息絶える。
正体不明の腐った人の様なハエの様なコウモリの様なそれでいてそのどれでもないような巨大な飛行生物、ワニの顔と皮膜の羽根からコウモリ竜と呼ばれているそれは闇夜の上空から影に紛れて襲い掛かって来たが、即座に察知して迎え撃ったアマナの天を破るかの如き闘気の放出によって爆散。いっそ哀れですらあった。
過去に西の砦を襲った魔竜、その元となった肉食竜である暴竜タイラント。縄張り内の獲物を喰らい尽くす度に住処を変えて生態系を破壊し尽くす暴君は、縄張り内に突如現れた剣呑な気配を放つ小さきもの達の存在に気付き、これに激昂する。不敬であるとでも言いたげにその巨体を重戦車の如く暴走させて四角錐の物体とその周りの矮小な四体の生物に襲い掛かる。
その翌日、とても美味しそうな脂の焼ける香りと共に巨大な肉塊を鉄板で焼き上げて舌鼓を打つ六人の姿が在った。組み合わせれば全長15メートル程になるであろう大骨をゴミの様に無造作に積み上げ、去って行く一行。如何な暴君とはいえ弱肉強食の掟からは逃れられぬ定めであった。
数日掛けて深部をゆっくりと進んでいき、目当ての温泉の存在する森林地帯に到着した一行。森林地帯にはビューネの魔法により魔に侵された存在は入ることが出来ぬ上、敏感な獣達はビューネ本人である岩山の異常な存在感に恐怖し近寄る事も無い。人たる彼等のみが何の影響も受ける事無く進むことが出来るのである。
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「見えてきたぞ。あのデカい岩山がビューネさんだ、本人曰く数千歳だそうだ」
樹々が深く絡まり合う密林の只中に突如出現する灰白色の岩山、それは温泉を囲むように寝そべるビューネの肉体そのものだ。その威容を初めてみた四人は感嘆の声を上げてその雄大な姿に見入っていた。
「これはなんたる威容……とても生物とは思えん」
「凄い…………まるで大自然を司る…………神様」
「ひょえー! でっか! これを狩るのは無理だろうな」
「ヒト種の使う魔法が子供だましみたいな大魔法を使うんだろォ? ムリムリ」
四人の
「ビューネさん、言っておいた友人を連れてきたぞー!!」
「にゃははは。ぶち速いのう、束の間まどろんだちー思うたらもう会えたわい」
呼びかける黒斗の前に気配もなく突然現れたビューネの幻体。勿論黒斗は驚かない、いまその場にビューネがかりそめの肉体を現出させただけの事なのだから。
「まあビューネさんにとっちゃあほんの瞬き程度だよなぁ、一応一月弱くらいは空いてるんだが」
「そこまでじゃないき。普段は意識を眠らせちょるけん、短く感じるというだけじゃ。しかしまんた随分と連れてきたのう」
元来人間好きの彼女の言葉は呆れるというより、むしろ楽しくて堪らないという様な弾んだ声音であった。そんなビューネに飛びつく様に抱き着いた鱗華が一人の少女を示しながら声を掛ける。
「やほー! ビューネちゃんまたよろしくね。皆で入るけど一番の目当てはあの子なんだ、魔人族の女の子で古傷を治したくてね」
アマナとアルフェンに護られていたリルがおずおずと進み出てビューネに深々とお辞儀をする。フードを取り去った彼女に鷹揚に笑い掛けながら近づいたリルであったが。
「ほむ、魔人族け、んなら大抵の怪我は………………――」
突然無言になり立ち尽くしたビューネ、数秒ならまだしも数十秒もの間リルの顔を穴があく程に凝視し続けるビューネ。失礼が無い様にじっとしていたリルであったが流石に異常を感じ、躊躇いがちに声を出した。
「あの…………なにか……失礼でも……」
「ビューネちゃんどうしたの? リルちゃん可愛いけど食べちゃダメだよ?」
「ッあっ……――えあっ! すまん! って食べぬわ! いやそんな事よりもそこのおまん、リルゆーたか。頼む、おまんの顔を……いやおまんを抱き締めさせてもらうてもいいじゃろか……」
「…………? 問題ない……です……」
「あいがとぉ……あいがとぉな……」
本体は全長一キロを優に超える巨大な肉体であるが、幻体としての肉体は精々身長150センチ程の可愛らしい美少女であるビューネ。身長170センチ程のリルを抱くには少々――とビューネの幻体がふわりと浮かび上がりリルの頭を己が胸元に抱き寄せた。
「リルっちゅうんか……うんうん……わっちにまかせぇ、綺麗にしてやるきに……うんうん、うんうん、そこに居たんじゃのう……ううっ……うあ……うぐううううっ……」
空中でリルを抱いたまま、感極まったかのように泣き出すビューネ、ある程度察しの付いた仲間たちは二人の様子を暖かく見守っていた。
「ねぇクロト、もしかしてリルちゃんて……」
「アロケンさんの遠い遠い子孫なんだろうな、相当血は薄まってるだろうけどビューネさんには解るんだろ」
黒斗の推測は的を射ていた。魔人族中興の祖として大陸中に魔人族の存在を知らしめ、その後の種族繁栄の基礎を担ったアロケンは魔王らしく沢山の子孫を作ったのだ。数千年の時が経ち大陸中で繁栄する魔人族達には濃淡の違いこそあれどほぼ全てに
「すまん、少々取り乱してしもうた。姿形は似ていなくとも間違いなくアロケンの血に連なる者よ、わっちは愛しい……あやつの生きた証であるおまんがのう。迷惑かもしれんが許したもう」
「……ん……大丈夫……です。ご先祖様の事も……聞きたいです……」
「ほうかほうか、ゆるりと聞かせてやろうぞ。さぁ、疲れたろう、湯に浸かって心身ともに癒すがええ。此処はわっちが護りし奴との思い出の地、何物にも脅かされる事は無いぞ」
抱き締めていたリルの頭から手を離し、その手を引く様に自らの本体で護るアロケンとの思い出の地に案内するビューネ。感動的な場面に弱く、涙脆いボルボルが分かり易く嗚咽を押し殺していたが大なり小なり胸に響く物があったのだろう、各自も瞼を擦りつつ親子の様に睦まじく先頭を歩く二人のシルエットを、滲んだ視界で捉え微笑んでいた。
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ビューネ本体の長大な巨躯に囲まれた温泉地。中央部の温泉の回りを囲むようにいくつかの魔導テントや普通のテントを設置していく黒斗達。普通のテントは温泉に浸かる際の脱衣所であり、魔導テントは滞在の拠点だ。
なにはともあれ温泉だろうという事で全員で入ろうということに成ったのだがボルボルのみがやや難色を示している様だ。
「妻以外の乙女達と混浴など……私には出来ぬのである……」
「皆、良いっていってるしパーティーメンバーなら当然だぞ? 別に下心もないだろう、全員既婚者なんだから気に済んなって」
「くはははッ! かてぇなぁボルボル! そういうとこまだおこちゃまだよなぁ! くあっはっはっ! 一緒に入るだけだし冒険者なら慣れておかないといかんぜェ」
「俺はまだ婚約者だけどな。四の五の言ってないで早く来いよ! それとも短小で恥ずかしいのか?」
うんうんと頭を抱えて唸っていたボルボルであったが仲間達に次々に責め立てられて決心がついたのか、端正な唇を噛み締めつつもえいやっとばかりに服を脱ぎ捨て叫ぶ。
「わかり申した! 私も一角の武人! 煩悩に打ち克ちますぞ!!」
叫ぶやいなや温泉に向かい走り出し、跳躍! ザブウウンと水音を響かせて全裸で温泉に突撃したボルボル、一番乗りであった。その様子を囃し立てながら見ていた残りのメンバー達も次々に口笛を吹き鳴らしながらボルボルを褒め称え、自分達もと次々に温泉に飛び込んでいくのであった。
仄かな白き煙の舞う、天女が住まう神仙境もかくやといわんばかりの秘境温泉。巨竜に護られた其処は壮観という言葉が陳腐に思える程の幻想的な光景である。
いずれ劣らぬ超絶の美女たち。真白き肌と黄金の毛並みも美しい虎人の女、まさに白虎そのものといった逞しい美しさのアマナ。頭部に捩じれた角を具えた薄蒼い肌の、華奢でありながら一部は豊満な男の劣情を刺激する肉体のリル、一部古傷があるがそれも間もなく治るだろう。そして雪の様な柔肌に深紅の鱗が宝石のように散りばめられた神が定めた黄金比の如き肉体を持ち、小さな龍角と艶めかしい龍尾を揺らす鱗華。
そして雄々しい男達。引き締められた野生の筋肉そのもの、狼そのものの頭部に絶対の意思を灯した気高き漢、アルフェン。角ばった巌顔だが糸の様に細い眼は時に冷徹な光を灯し敵対者を赦さない、鍛え上げられた肉体と千年の昔より伝えられる殺人剣の使い手でもある黒斗。この星の創生より連綿と降り積もった雪の結晶、それを時空を超えて束ね合わせて圧縮し人の形にしたらこうなるであろう美しき男、ボルボル。
それぞれ筆舌に尽くしがたい魅力を持つ男女六人はゆったりと温泉に浸かり、日頃の心身の疲れを癒していく。
「くあー! 疲れや心の澱が溶けだしていくようだ……」
「オレは元々風呂好きな方じゃねぇが……それでもこれは別格だぜェ」
「人の街に来てから風呂に入る様になったであるが、野外の湯とはこれほど趣深いモノであったか。かあさまも連れてきて差し上げたいが……」
大きな手足を伸ばして大自然の湯を堪能する男達、女達も感嘆の声を上げてそれぞれに秘湯を味わっている様だ。ボルボルの呟きを耳聡く聞きとがめたアマナがからかう様に声を掛ける。
「なんだ、ボルボルはマザコンか? 嫁さんの事も考えてやれよ」
「むっ、いや失礼、言っていなかったでござるな。我が母は我が妻でもありましてな……色々と事情が――」
リリアーヌとの馴れ初めを簡単に説明されたアマナは感心したとでも言わんばわかりに腕組みをしながらうんうんと頷く。
「人にドラマ有りだな、つーかアンタ12歳だったのかよ。種族の違いとはいえたいしたモンだ、実の母親を救い出して娶る為に強くなったとかカッコいいじゃねぇか」
「そ、そうであるか? 当時は無我夢中であったからな……」
「それに……短小なんて言って悪かったな、立派なイチモツじゃないか。うひゃひゃ」
リリアーヌとの馴れ初め、つまり夜毎母を抱いていた当時を思い出して無意識の内に股間を滾らせていたボルボル。コバルトブルーに煌めく透明度の高い温泉は雄々しく屹立したその逸物をしっかりと透過させていたのだ。
「むはっ! こっこれは失敬……見苦しいモノを御見せ致した」
「冒険者なんてしてたらそんなモン見慣れてるぜ、勿論受け入れたのはグレイスのモノだけだけどな。気にすんな」
からからと笑いながら貫録を見せるアマナ。六人が和気藹々と温泉を堪能していると一糸まとわぬ姿となったビューネの幻体が混ざりにやってきた。
「楽しそうではないか、わっちも仲間にいれてつかぁさいな」
なだらかな曲線を描く未成熟な肢体は、少女趣味が無い男でもゴクリと生唾を呑み込むほどに美しい。悠久の時を過ごす老成した魂とそれに見合わぬ未成熟な青き肉体が齎す在り得ざるべきギャップが妖艶でいて
「うわぁ! ビューネちゃん可愛いのに凄くエロいよぉ♡ 服はどうしたの?」
「ありゃ元々星気で見せとる幻じゃからの。この幻の体はアロケンの好みに合わせてつくったんじゃ、おまんらと比べると色々違うのぉ……胸と尻とはそないにおおきゅうなるんじゃな」
アロケンもまさか自分の死後数千年の未来に己が性癖を暴露されるとは思ってもみなかったであろう、ましてや子孫もいる場で。能天気な鱗華以外の面々が過去の英雄たる魔王アロケンに同情するかの様に顔を歪めて天を仰いだ。
「アロケンさんロリコンかよ……いやまぁ趣味は人それぞれだけど」
「ギリギリセーフではないか? リリアも体形は変わらぬし」
「リリアーヌさんは顔は大人じゃねぇか、ビューネの姐さんは……どうみても12、3位だぜェ?」
顔を見合わせてぶつぶつと相談し合う男達を不思議そうな眼で眺めるビューネ。人間の女など数千年で数えるほどしか見ていない彼女は愛する男が少女趣味であった事など知る由も無いのだ。
「ろりこん――とはなんじゃ?」
「おうふっ! いやまぁ……アレだ、胸と尻が小さい女が好きって事だよ。うんうん別に何もおかしくはない、好みは人それぞれだからな」
小声で言ったつもりであった黒斗だったが相手は見た目通りの存在では無いのだ。超感度センサーの如くあらゆる事象を感知しうるビューネの幻体にはばっちりと聞こえていたのである。しどろもどろになりつつもそれらしい事を言って誤魔化した黒斗、成程と頷きながら納得したビューネを見て心の中でほっと安堵の息をつく。どうやら恩人の過去の思い出を台無しにせずに済んだ様である。
「うむ、もっとようけ話を聞きたいがまずはリルじゃ。そない端でなくこっちゃきんしゃい」
温泉のへりに背中を預けながら楽しそうに仲間達を眺めていたリルをビューネが手招く。おずおずと頷いてビューネの立つ場所、温泉の中央に歩み寄ったリルを座らせたビューネが、後ろからその傷付いた身体を慈しむ様に抱きしめた。
「ひゃっ! ビューネさん……?」
「
愛する男の子孫であるリル、彼女にとっては我が子も同然なのだ。後ろからしなだれかかる様に抱き締めたリルのおとがいに軽く手を添え、軽く振り向かせたその顔を幼子をあやす母親の様な優しい笑顔でみつめるビューネ。そんな彼女の笑顔に幼い頃に死に別れた本当の母の幻影を重ねたリルは絶対の安心感ともいうべき心地の良い感覚に包まれる。
(……懐かしくて……凄く安心する…………本当のお母さんみたい……)
ビューネの腕に抱かれて身を委ね、瞳を閉じてリラックスしたリルは気付いていなかったが。夫であるアルフェンや仲間たちは驚くべき光景を目の当たりにしていた。
「温泉が……光ってる?」
陽光を反射しコバルトブルーに輝いていた温泉が更に光を強め始めたのだ。ビューネを中心にまるで水素原子そのもの一粒一粒が輝き始めたのではと錯覚する程にその光量を増していく。
「眩しいくらいだけど嫌な感じは全然しねェ……むしろ逆だ。とても優しく感じるぜェ」
遂には温泉の湯だけでなく周囲の空気すらも光り輝きリルの体を優しく愛撫する様に波打つ。
「星の内海よりいずる
囁き掛けるような詠唱を終えると同時に、腕の中に抱いたリルの唇に優しく口づけたビューネ。その瞬間に周囲を満たしていた光が爆発的に輝きを増した。しかし不思議な事に視神経を灼かれてもおかしくない程の光量であるにも関わらず、その輝きは誰の瞳も傷付けなかったのである。
「眩しくも痛くもない……こんなに輝いてるのに良く見える。アルフェン、リルさんが……」
「ああ……リルの傷が消えていく、鞭の古傷が……なんて綺麗な肌だ。千切られた乳首も完全に……これがビューネの姐さんの魔法……なのか? 」
「凄い……ボクの再生力でもあそこまで早くは無理だよ」
「女神の御業としか思えぬ。なんという神秘的な光景なのだ」
「ほえー……ぶったまげてなんも言えないねぇ」
口々に感嘆の声を上げて神話の如き光景に見入る黒斗達、夫であるアルフェンは傷一つ無く癒された愛しい妻の姿に滂沱の如く涙を流し喜びに咽び泣いていた。
間もなく光も収まり、擽られる様な肉体の感覚に艶めかしげに肢体をくねらせたリルがゆっくりと瞳を開き――驚愕する。
――視える。
焼き潰されて光を失った筈の片眼が何の違和感もなく視える。
「あっ……あっ……眼が……視える――っ!………………あッ!……んぅ……」
瞬きを繰り返して広くなった視界を確認したかと思ったリルが己が体中を手のひらでまさぐり始める。失くしていた筈の乳首や女の聖域たる秘所の肉芽に恐る恐る触れてその敏感さに喘ぎを零す。一瞬の恥じらいの後に己が肉体が完全に修復された事を悟ったリルは、母の面影を見出した目の前の少女に顔を向け……感極まったかのように抱き着いてこちらも夫と同じ様に咽び泣く。
「あっ!……ああ……ありがとう……ありがとうござい……ます……」
「わっちがしたいからしただけじゃ、礼などいらぬ。うむうむ美しい瞳じゃ、アロケンと同じ金と銀の瞳じゃなぁ……まるで宝玉のようじゃ」
縋り付く様に咽び泣くリルの背中を優しく撫でながら、ビューネは己が愛し子が落ち着くまで、その体を抱き締めてやるのであった。