ファム・ファタール~寝取らせモノが大好きな剣士が異世界転移した場合~ 作:幻闇
93話 目覚め
この大陸に於いて最も危険な場所と云われる大樹海深部。だがそれは、決して他に危険な場所が無いという事には当然ならない。
極圏に存在する底無き奈落の孔は、這い出す深淵の魔獣や古き者に連なる眷属たちが近づく生物を狂気に堕とし贄とする禁忌の地。
太洋のいずこか、大いなる水神が眠りにつく、明らかに人類以外の手に依って建造されたと思しき非ユークリッド幾何学的な海底神殿都市。
これら樹海深部と比べても遜色のない危険地域を、各国の王たちは
そんな場所の一つに、アストラ王国の辺境に存在する古戦場と呼ばれる場所があった。そこは遥か一万年以上も過去に、古代人と外宇宙からの侵略者が存亡を賭けて大戦争を行った決戦の地。
遥か宇宙の最果てにあるヴォイドより星界を渡り来た
セーヌ王国南部の荒廃した砂漠地帯。
ガラス化した砂やエイリアンのモノと思しき兵器の残骸、つるりとした特有の光沢を持つレムリア人の魔導兵器の残骸などが半ば朽ちかけ、埋もれるその場所こそが、かの古戦場跡であった。
そんな、全てが死した大地の地下に、何十億トンもの砂に埋もれた一つの構造物が存在していた。
全てが曲線で構成されたその内部にて、この世界の文明とはかけ離れた理論で造り出されたであろう異形のメカニズムがその最後の成果を吐き出そうとしていた。
無機物と有機物を悪意によって合成した様な外観をしたメカニズムの表面に浮かぶ、名状し難い記号の羅列。それは、この星の言語に変換すればおよそこの様な内容であった。
『知性体殲滅プログラム 起動ヨリ12458年経過』
『虚空炉心出力低下 施設運営ノ危険域ニ達シマシタ 原因 燃料不足 解決方法 現時点デハ不可能』
『知性体憑依殲滅ユニット 基体生成完了 識別名 オメガ 付与 以後ノユニット生成 不可能』
『目的付与 成功 原生知性体情報付与 成功 既存生成個体ノ記録付与 成功 自己進化機能付与 成功 自己改変機能 封印』
『並列演算ユニットヨリ異議申請 許可』
『最終生成個体ニ対シ 自己改変機能ノリミット解除申請 理由 可能性ノ模索』
『承認 自己改変機能付与 オメガ 拘束解除完了』
『虚空炉心停止 施設運営不可能 原因 燃料不足 解決方法 現時点デハ不――――』
長きに渡り稼働していたメカニズムから光が消え、やがてその奇怪な外観の一部から闇色の靄が立ち昇る。
その厚みの一切存在しない靄はやがて人のような姿に形を変えて行き、頭部に当たるだろう部位に三日月形の亀裂を生みだす。
哄笑が響き渡った。
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レムリア神王国の遺産であるエロトラップダンジョン、アンダーレムリアランドの一件から一月。黒斗と鱗華の二人は相変わらずセーヌの街で、肉欲と食欲に塗れた日常を送っていた。
もはや場末の酒場とは呼べぬ程に改装されて真新しくなった酒場。
定期的に行われる肉欲の宴で使われる酒場は、二人が通い始めた当初の廃墟じみた面影は微塵もなく、客として来ていた職人たちが腕を振るった結果、貴族街の酒場と言われてもおかしくない程に立派な建物となっていたのである。
宴の主役として皆に供される、魔性の美女に相応しき建物を造りたい。彼等を衝き動かした想いはただそれだけであった。
派手ではないが落ち着いた色合いで統一された外観の酒場に入れば、そこにはさながら闘技場の様に円形に配置されたテーブルとイスが幾重にも輪を作っていた。
その中心部、やや高い段差の上に造られた、闘技場であれば舞台がある場所には直径5メートルはあろうラウンドベッドが設置され、普段はカバーが掛けられている。
月に二回程度の頻度で行われるイベントの為だけに造られたとしか思えぬ内装は、まるで彼等の熱意を代弁しているかの様であった。
さて、そんな我らが主役。荒神夫妻の現在はというと――どうやら夕食中であるようだ。
「美味しぃぃぃ! なにこれホントにあの硬くてゴムみたいな猛角竜のステーキなの?」
「柔らかくて旨いだろ? それも脂身みてぇに柔らかいんじゃなくて赤身の肉肉しさをちゃんと保った上での柔らかさだぜ。肉を歯で噛み千切るのが楽しくなってくるよな」
「うんうん! 流石ボクの最高の旦那だね! 肉料理なら父さんを越えたんじゃない?」
「流石にそれは無いと思うが、でも大分自信が付いてきたのは確かだな」
珍しく二人だけの夕食を自宅で楽しんでいた鱗華と黒斗。
最近は仲間たちと連れ立って酒場を兼ねた食堂でバカ騒ぎしながら飲む機会が多く、自宅でも友人達を招いて宴を開くのが常であった。
夫婦水入らずで夕食というのはなかなかに久しぶりだったのである。
「猛角竜の引き締まり過ぎた肉は普通に焼いても硬くなりすぎちまうからな。短時間だけ表面を焼いてアルミホイルに包み、余熱でじっくりと火を通す過程を繰り返すんだ」
「良くわかんないけど美味しくなるなら何でもいいや、料理の出来る夫って最高だね♡」
巨大な肉塊に無心になってかぶりつく妻を微笑ましく眺めながら、自らも切り分けたステーキを口に運んで満足そうに笑みを浮かべる黒斗。中々に会心の出来であった様だ。
「うん、旨いなこれ。我ながら上手くなったもんだ」
「おいしー! お米とお酒が進んじゃうよこれ! ご飯お代わり!」
「あいよ! 沢山炊いたからな、腹がはち切れるくらい食え食え」
特注の魔導炊飯器の蓋を開け、ピンと隙間なく立っている白米を受け取った茶碗によそっていく黒斗。木製のしゃもじで掬い取り、盛り付け、掬い取り、盛り付け、形を整えて再度掬い取る。
それは茶碗というにはあまりに大き過ぎた……。大きく、分厚く、重く、そして大雑把過ぎた――それは正にどんぶりだった。
職人に依頼して作らせた100合炊の魔導炊飯器。それだけで大金貨が数枚吹き飛ぶような代物から、どんぶりと仮定しても大きすぎるソレにこんもりとよそわれる白米。優に10合《重さにして3.4キログラム》はあるだろう一杯の特盛ご飯があっというまに鱗華の胃袋に消えていく。
出る所は出過ぎているとはいえ、華奢な肢体の何処にそんなスペースがあるのだろうか。亜次元空間の胃袋を持つと云われる魔獣【
「もぐもぐ……明日は何か予定あったっけ?」
「特にないな。久しぶりにギルドに顔を出してみるか?」
大きなテーブルの上に所狭しと並べられた大量の料理を平らげながら、明日の予定を話し合う二人。常人であれば見ているだけで胸焼けを起こしそうな光景である。
「最近は討伐依頼ばっかりだったからな。たまには探索依頼や護衛依頼でも受けてみるのも悪くないしな」
「いいね! 護衛依頼で他の街に行くのも良いよね。イイ男いるかなぁ♡」
「まぁ程々にな……解ってるだろうけど、フリーの男だけにしとけよ」
「わかってるよ、ボクだって女の人に刺されるのは嫌だからね」
「刺されたくらいじゃ殺せないしなぁ……」
「心臓と脳を同時に刺されたら流石に死ぬよ」
「おっ、おぅ……せやな」
仮に本物が存在したとして、それを聞けば顔を真っ赤にして怒り狂うのは間違い無いだろう。あそこまで化け物ではない……と。
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その翌日。
起き抜けのベッドでの運動を5ラウンド程こなして朝食を摂り、身支度を整えた二人はセーヌの街の冒険者ギルドに顔を出していた。
「あれ、ルーシャさん居ないね」
「珍しいな。いつも受付に座ってるイメージだったが、そりゃ休日が無い訳はないか」
いつも通り受付に向かおうとした二人であったが、看板人妻であるサブギルドマスターの代わりに他の職員が座っている光景を見て顔を見合わせる。
何はともあれ当初の目的を果たそうとクエストボードに向かった二人であったが、掲示板の前で何やら話し合っている冒険者の一党を見て表情を綻ばせた。
「よおっ! お前らこっちに来てたのか」
「久しぶりー。ボク達の事、覚えてるかな?」
そこにいたのは男女各二人ずつの四人組の冒険者達であった。
去年、新婚旅行で里帰りする途中の二人と宿場町で意気投合した、人族の戦士ティムをリーダーとする若手の一党である。
一党の盾役として軸となるリーダーのティム。
エルフ族のライナ。
ドワーフ族のシャララ。
人族の熱血漢バッシュ。
憧れの冒険者である黒斗と鱗華の二人を見掛け、酒場で声を掛けて来た彼等が二人の事を忘れている筈もなく、振り返った彼等は歓声を上げて二人との再会を喜ぶのであった。
「うおおお! 兄貴ィ! やっと会えたぜええ!」
「久しぶりです。黒斗さん、鱗華さん。前に話した通り今はセーヌの街を拠点に活動しています」
「姐さんまた強くなってねぇか? なんかこう……雰囲気が別物なんだが」
「お久しぶりなのです~。シャララは嬉しいのですよ」
ひとしきり近況を報告し合い、互いの連絡先を交換して、近い内に六人で再会を祝う宴をしようと約束を交わしたティムらと黒斗達。
受ける依頼を決め、受付に向かう彼等を見送った二人は、改めてクエストボードに目を向けた。
「また楽しみが増えたな。さて、何か面白そうなのはあるかな?」
「元気そうで良かったね! 出来れば他の街に行ける依頼がいいなぁ」
「解ってるよ。どれどれ……」
冒険者ギルド内に設置されているクエストボードには様々な依頼が掲示されている。
常時依頼が出されている討伐系の依頼は別として、商人の護衛であったり街中での清掃依頼であったりと雑多な依頼が殆どだ。
冒険者は受けたいと思った依頼票の番号を控えて受付に伝えれば、職員がその冒険者の階級と戦力を基準に鑑みて、判断を下すという方式である。
カテゴリー毎に掲示されている依頼票の中でも、他の街に行けそうな依頼を順繰りに眺めていく黒斗。その瞳が、とある依頼票を見て細められた。
「リンカ、これなんか面白そうだぞ」
「どれどれー? ふんふん……アストラ王国の辺境の街、レイダースからの依頼だね。内容は――」
黒斗が示した依頼票の内容を確認していく鱗華。
その天上の美を体現したかの様な華のかんばせが、凶猛な表情に歪んでいく。
「へぇ……
「金級冒険者を含む四人の冒険者が消息を絶ったとあるな。詳細を受付で聞いてみよう」
受付に向かい依頼票の番号を受付に伝えると、途端に職員の表情が曇る。
「そちらの依頼ですか……クエストボードを見て頂いたならわかっていると思いますが、相当に危険な依頼ですよ?」
二人の実力を理解しているだろう職員ですら真顔で確認してくる程の依頼。普通であれば尻込みしてしまうか、冷や汗を浮かべてもおかしくないであろう。
「面白そうだな」
「ね。最近刺激が足らなくてさぁ……丁度良かったね」
にやりと口角を上げて笑みを浮かべ、互いに視線を交わす二人。
その様子を見た職員はその後、同僚に語ったと云う。まるで凶悪な魔竜が目の前で牙を剥いている様であったと、その視線を受けていないにも関わらず冷たい汗が背筋を伝う事を抑えられなかったと――
「では詳しい説明をさせて頂きます。今から一月ほど前、レイダースの街から古戦場の異変調査依頼がアストラ王国の冒険者ギルドに依頼されました」
「一月前か……例のダンジョンを攻略した少し後だな」
「アレは愉しかったね♡ また今度行こうよ」
「この依頼を片付けたらな。すまない、話の腰を折った。続けてくれ」
「いえいえ、あの件はこちらも助かりました。説明を続けさせて頂きますね」
職員が分厚いファイルを開き、幾つかの資料を二人に見せながら説明を続ける。
アストラ王国の辺境の街レイダースは、
彼の街は古戦場砂漠とも言われる土地で発掘される古代兵器の残骸や金属類、異星人の遺した未知技術の産物などを他の街へ売る事によって生計を立てていた。
ある時いつもの様に発掘作業に向かった一団の内、最も奥地へ向かった一班が街に戻らなかった。当然、街の自警団や若い衆で構成された捜索チームが組織されたが、その中で最も武力に優れていた筈の元銀級冒険者が含まれたチームも戻る事は無かった。
これは只事では無いと判断した街の代官が冒険者ギルドに依頼を出して暫らく、アストラ王国首都に滞在していた金級冒険者率いる歴戦の一党がレイダースの街に到着し、街の代官はほっと安堵の息を吐いた。大樹海を探索可能な金級冒険者が来てくれたのであれば、もう安心であると。
だが、彼等が戻ると約束した一週間が過ぎても彼等が戻る事は無かった。
その時の代官や街の重鎮達の抱いた感情は、筆舌に尽くし難い恐怖であったという。
自分達の街を単身で制圧し得る絶対強者たる存在。常人が千人束になろうとも足止めにすら成らぬ超絶の冒険者たちですら古戦場に喰われてしまったと。
中には自分達の一族を連れて街を逃げ出した者すら居たのである。
それまで街に一切の被害は無かった。しかしそれ故に、正体不明の未知なる恐怖が街の住人たちの心を蝕んでいく。人の精神は理解できる存在に対しては恐怖こそ覚えど耐えられる。だが、理解出来ぬ存在には耐えられぬのだ。
「結局、古戦場跡で何が起きたのかは不明なままです。今回の依頼は異変の正体を暴き、可能であればこれを排除する事になります。セーヌを代表するお二人であれば問題ないと思いますが……本当に宜しいので? アルフェン様もお誘いになられては?」
セーヌに居住している金級冒険者三人が一党を組めば、より確実に依頼を遂行できるのは間違いない。職員の言葉も当然であった。だが――
「今回はボク達二人で行くよ。それで良いよね? クロト」
「ああ、問題ない」
「了解しました。手続きを行いますのでギルドカードをお願いします」
それ以上は食い下がらず、依頼受諾手続きを進め始めた職員。人理の超越者たる彼等に常識は通用しないのだと理解しているのだ。
「手続きが完了しました。それとボルボル研究主任から預かり物がございます。こちらをお納めください」
「ん? なんだ……傷薬か?」
「アンダーレムリアランドのシャロ様から提供して頂いた薬品などを解析して創られた試作傷薬です。すでに治験を通った物で副作用もありません。よければ使って感想をくれ。との伝言があります」
「ほうほう助かるな! 良く効きそうだ」
「ボクはあんまり必要無いから黒斗が多めに持っときなよ。二本くらいでいいや」
「あいよ、じゃあ行くとするか」
手続きを終えた二人は依頼の遂行にかかる時間を考慮し、職員にハウスキーパーの手配や知人への連絡を頼むと、ギルドを出て自宅に戻り支度を行う。
三次元空間拡張術式の施された魔導テント内に食材や消耗品、探索に必要だろう魔道具などを収納して武装を整えると、久方ぶりに歯応えのありそうな依頼に胸を弾ませながらセーヌの街を出発する二人であった。
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