はあはあ。俺は薄れゆく意識の中、走馬灯を見ていた。そうだ、俺がこんなことをしてしまったのもアイツのせいか。俺はあの男に出会わなければ…
それは今から五、六年前のことだ。俺こと日高良司はごく一般的なサラリーマンだった。三十路を過ぎたその頃の俺は自分磨きにボディービルを始めめたこともあって、元々抑えていた男に対する欲求が再び芽生えてきた。今まで行く勇気すらなかったハッテン場にも通ってみたが、俺は除け者だった。
なんせ俺のイチモツは通常時で既に二十三センチもある超長物だ。こんなものを勃たせて後ろにぶち込んだりしたらどうなるかは火を見るより明らかだ。ハッテン場にいた男達は俺を避けることこそなかったが俺のイチモツを愛でてくれることはついぞなかった。
ゲイのカップルはレズのカップルと比べ心中をする確率が高いらしい。何故ならゲイはレズにはできない「セックス」ができるから。肉体的にも精神的にもより深い関係が築けるからだ。俺とハッテン場にいた男達は次第に距離が開くようになっていた。
そんなある日のことだ。その夜も特に行くあてもなく誰も相手のいないハッテン場へ出かけた。いくつかのカップルが雄叫びをあげている横で一人裸でスルメをツマミに酒を飲んでいる俺より少し年下ぐらいの男が俺に声をかけてきた。
「よう。ぼっけー兄ちゃん。調子はどーじゃ」
男は流暢な岡山弁で俺に話しかけてきた。この男の名前は知らないが、トラックの運転手か何かをしているらしくここらのハッテン場には仕事で寄ったついでにたまに来ることは知っていた。スカトロを好む変態で慕われている反面恐れられている変な男で物好きなやつらに人気がある。
「調子も何も会社じゃ上司に怒られてばっか。彼女もいないわ。最低だよ」
そうか。と言うと男は俺にスルメと紙を差し出してきた。
「昨日、埼玉の方のハッテン場によったんじゃがそこにエエ男がおったけーわりゃに紹介してやろうと思ったんじゃ」
男に渡された紙を見てみると地図が書いてあり真ん中辺りにバツ印がされていた。
「なんで俺なんかに紹介してくれるんだ」
「わりゃがいつも誰とも盛っとらんけー、溜まっとるかと思ったんじゃ。そいつはわりゃほどじゃないがぼっけーもん持っとるけーお似合いかと思ったんじゃ」
ケラケラと笑って男は立ち上がった。
「なんだかありがとうな。明日行ってみるよ」
「そうや、今から糞遊びせんか。糞まみれでやり合うと気持ちええぞ」
「遠慮しとくよ…」
俺は男の誘いを断って家路についた。
次の日、仕事が終わったあと俺は男に渡された紙に書いてあった場所まで行ってみることにした。そこは東京のオフィス街ではなく町工場が立ち並ぶ下町だった。自分の着ているスーツに若干の違和感を覚えつつ道を辿っていくと公園が見えてくる。
「随分と広いな」
公園は木で囲まれていて真ん中に総合遊具と砂場があり、隅の方に後付のような花壇とトイレがあった。
そのトイレの横のベンチで街頭に照らされた青いツナギを着た男が煙草を美味そうに吸っていた。
逞しい肉体と整った顔つきのその男の姿はまさに絵のようで美しかった。思わずイチモツが疼く。
その時だ。男はツナギのホックを外しだした。あろうことかその下には何も着ていないらしく整った戦艦の装甲のような厚みがある胸筋、板チョコ状に割れた逞しい腹筋が次第に顕になってゆく。
思わず「いい男」と口から漏れる。
男はホックを下まで下ろしあろうことかとうとうイチモツを露出させた。それは俺のモノに比べたら小さいが比較的大きい綺麗なイチモツだった。
「なあ、そこの君。俺とやらないか」
その男は阿部高和と名乗った。近くの自動車整備工場で働く青年でオールラウンダーのバイ(本人談)らしい。彼はそのワルっぽい外見からは想像できないほど紳士的にトイレの個室へ俺をエスコートしてくれた。
個室に入ったあと気づいたら俺は服を全部脱がされていた。どうやら俺が阿部に見とれている間に全部剥かれてしまったらしい。
「なあ、名前はなんて言うんだ」
「俺は日高良司」
「じゃあ良司。こいつを咥るぞ」
阿部は俺のモノを愛おしそうに撫で回すと…
俺が返事をする間もなく阿部はイチモツを咥え慣れた舌遣いで舐めまわしてきた。それによって与えられる快感は相当なもので俺は既に絶頂に達する寸前であった。そして本能的に阿部の頭を持ってもっと深くモノを咥えさせようとしてしまった。
「ゴホッゴホッ」
「すまない。大丈夫か」
通常時で二十三センチあるモノが勃起をしたらどれほどのものになるかは説明するまでもないだろう。俺のイチモツは阿部の喉につっかえてしまったようだ。
「大丈夫だよ。それにしてもコイツは相当デカイな。顎が外れるかと思ったぜ。だけどこれぐらいデカいと咥えがいがあるってもんよ。そら、直ぐにイかしてやるからな」
阿部は舌遣いを荒くした。俺は高まる絶頂へのカウントダウンに身を任せ、彼の口内に一気に射精した。
「あおおーっ!」
「じゃあ今度はコッチだ」
俺に余韻を楽しむ暇も与えず阿部が言ってきた。だが逞しく引き締まったヒップは再び刃を尖らせるには十分なすぎるもので、思わず俺はそのまま阿部の尻を串刺しにするところだったが、
「俺の…」
「どうした。ひょっとしてはじめてなのか?男は度胸、なんでも試してみるものさ!」
「そうじゃなくて…」
「そうじゃなくて?」
「いや、こんなに大きいの入れたら裂けるんじゃ」
そうだ。俺はこのデカすぎるイチモツのお陰で男の味をあまり知れれないのだ。はじめての時も相手は渋々って感じだったし途中で痛いと止められてしまった。
「いいさこれぐらい。それとも俺じゃ不満か?」
「じゃあ、い…いれます」
俺はイチモツを握って菊門に照準を定めたが中々入らない。
こんな時にやってはいけないのが焦ることだ。何故なら興奮が冷めてきて勃たなくなってくるからだ。もし、それが相手に伝染すれば一気に雰囲気を壊すことになる。
だが中々照準が定まらなかった。そしてどうしてか目元が滲んできた…
「おい良司大丈夫か!?嫌だったのなら謝る」
「そうじゃなくて…」
俺の声は震えていた。
「なんで阿部さんは俺をそんなに受け入れてくれるんですか。みんな俺を避けていくのに、みんな俺のコレを恐れて近づいてこないんだ。別にそれだけが目的じゃないし仲良くしたいのにどうしてなんだ!」
「そんな俺を…どうして阿部さんは受け入れてくれ…」
そこから先は言葉がつっかえて出てこなかった。涙が次々と頬を伝って落ちてゆく。
阿部は俺を抱きしめてゴツゴツした優しい手で俺を撫でてくれた。
「お前は誰からも避けられていたと俺は聞いた。そんなお前をわざわざ呼びつけて拒絶する奴なんかいるかよ。まー、興味半分だったのは認めるがお前は良い奴だ。そんなお前を泣かせた俺は男として失格だな」
彼は俺が泣いている間ずっと抱きしめて続けてくれた。
その後公園を出た俺と阿部は近くにあった居酒屋へ向かった。最初は滞っていた会話も酒が入るにつれて次第に増えていき気付くと俺は延々と会社の愚痴を言い続け阿部がそれを親身に聞いてくれるという構図が出来上がっていた。翌日は休みということもあり、時計の短針が頂上を超えても酒宴は終わる素振りも見せず、酒に弱い俺を眠らせるには十分だった。
「なあ良司。起きろ起きろ」
俺は阿部の声に気付いて起きた。大学生の頃からしばらく縁のなかった頭痛と吐き気が襲ってくる。
「調子はどうだい」
「最高だね…」
ははっ。と阿部は笑い煙草に火をつけた。うっすらと見える顔は少し赤みがかかっていた。俺の記憶が正しければ酒瓶をを一人で四~五本空にしていたはずなのによくシラフでいられると俺は感心した。
「清酒なんざ水のうちさ。ウイスキーとかウォッカあたりじゃないと俺は酔わねーよ」
「阿部さんには俺じゃとても適わないな」
しかし阿部は、
「俺はお前をすごいと思う。少なくともこんな下町でその日暮らしの生活やってる俺より一人前の会社員やってるお前の方がずっと立派だ」
俺も本当はそっち側の人間だったんだがな…
「それは…」
「別に良司を妬んでる訳では無い」
そして阿部は煙草を灰皿に置いてポツリと話し始めた。
俺は中学の時かな。具体的な年齢は忘れたが不良の集団にボコボコにされたことがあったんだよ。しかも女。金を奪われて全身痣だらけにされて俺は女を信じれなくなってしまった。今思えば反撃したら勝ったかもしれないがその時の俺はただ目の前の状況を理解することすらできなかったのさ。
割とよかった成績も落ちてゆき最終的には偏差値の低い工業高校に行くしか無くなってだな。しかもその間俺を慰めてくれたやつはただの一人も居なかった。両親ですら俺を汚い目で見た。俺に一切の非はなかったのにだ。
高校に入って俺はやっと落ち着きを取り戻すことが出来た。学校は楽しかったし中学の時には知らなかったことも沢山知った。空手部にも入って心身共に自分を鍛えあげようとした。そんなある日の放課後に俺はある奴に突然路地裏で絡まれた。そいつは俺を空き地まで引っ張って行ったんだ。そしてそこには俺を中学の時ボコボコにした女数人と男の取り巻きがいた。明らかに人数が違ったがその時の俺は強くなっていたからな。自慢にもならないことだが全員を地面に這いつくばらせて特に俺をかつて虐げた女は念入りに拳を叩き込んだ。そして聞いたんだ。俺のことを覚えてるか、と。だが聞いて呆れたぜ女郎俺の事覚えていなかったんだよ。
もう完全に頭にきた俺はもう一周奴らを殴って回った。手が切れて制服が汚い血や唾液で汚れたが一向に構わない。心ゆくまで殴ったさ。まるで正義の味方を叩きのめすモヒカンの悪役レスラーのように。
その後は言うまでもないだろう。その事が問題になって俺は学校を辞めてあちこちを転々とすることになった。両親はこの頃になってやっと俺を引き留めようとしてきた。だが俺の心にそれは届かなかった。
そして今の仕事に落ち着いた頃二人とも逝っちまった。頼りなかったが曲がり内にも俺を育ててくれたわけだしな。いい人達だったと思う。しかし親孝行はついぞできなかった。葬式の時もそればかり考えてた。親族は俺の過去を知らなかったからなのか俺を責めなかったのが唯一の救いだ。そしてしばらくして落ち着いて遺品を整理してた時だ。親の銀行の通帳を見てびっくりしたよ。なんと俺名義の口座にほとんどの金が送金されてたんだ。その口座の存在はその時初めて知ったのだがそれはどうやら俺が大学に行く時の為に俺が幼い頃からコツコツと貯めてた金らしかった。俺が放浪していた間も貯められたいた事を考えると俺は愛されていたんだとその時初めて思ったよ。こんな人間でも愛されていたのだと。
だがもうその愛を返す親はいなかったからな。俺はハッテン場で悩む男達を救おうと決心した。男に興味があったのは確かだが、自分も含めてあそこらに集う男はそれなりの悩みを抱えてるからな。
俺は皆を救う大仏みたいな優しい存在になりたいんだ。
再び煙草を吸い出した阿部の目はとても綺麗だった。