「ふう。やっと書けました」
とてもかわいい少年、道下正樹は山のように積み重なった原稿用紙の上にペンを置いた。
「どれどれ、読んでみてもいいか?」
「どうぞ」
道下の許可を貰った阿部は道下から受け取った紙束をパラパラと読み始めた。
始めのうちは真面目に読んでいるように見えた阿部だったが、だんだん顔が曇ってきた。
「おい、正樹」
「なんでしょう?」
「ちと話が暗すぎないか?」
しかし道下は得意そうな顔をし鼻をふふんと鳴らした。
「そっからがいいんですよ。まあ、全部読んでください」
阿部は仕方ない顔で続きを読みだした。
「おい…正樹。これは名作だと思うが、やっぱ万人受けはしないんじゃないか?俺昇天してるし。やっぱり俺の書いたこの小説を掲載するべきじゃ…」
だが道下は阿部さんから紙束を受け取るとそそくさと封筒にボールペンを走らせた。
「いいですか?これはくそみそテクニック初の合作同人誌に掲載するんですよ。阿部さんの書いたメルヘンな小説じゃだめです!!」
道下は椅子から阿部を見上げながら顔をしかめた。
「いや…まあ…正樹のは面白くない訳じゃないんだが」
「阿部さんのはすごくメルヘンでホワホワしてて途中で読むのを諦めましたよ。アレはコミケで配ったらえらいことになりますよ」
阿部は道下の露骨な批評を受けて崩れ落ちた。
「主催者のTさんにも〆切伸ばしてもらっているし、文字数的にも僕の書いたのを載せるべきです」
道下は封筒に原稿の束を突っ込んで封をした。
「なあ…ミク。お前は正樹により俺の小説の方がいいと思うだろ?」
阿部は台所で食器を拭いている初音ミクに声をかけた。
「そうですね…私はやっぱ私の書いた阿部さんと私のイチャイチャラブラブな生活を赤裸々にタッチしたエッセイが一番いいと思いす。そこの根暗文学オタクみたいなやつの書いたもんなんて」
やっぱ、俺のはダメだったか。と阿部は思った。
「ほう…やっぱ、カラオケしか趣味がない売れないバンドマン風情にはこの趣深い文章の良さが分かりませんか。非常に残念です」
「バンドマンじゃないっつーの。それに私ちゃんと仕事してるし。あんたなんて一浪中の予備校生じゃん。へっ、穀潰し〜」
ミクは道下にあっかんべーをした。
「なんだこんにゃろ、捨てられた子犬みたいに聖人君子の慈悲深い阿部さんに拾われてきたと思ったら、えらく大きな口叩くようになって。よし、僕が躾治してやる」
「それはこっちのセリフよ!」
「なんだこの泥棒女!」
そして道下とミクは取っ組み合いを始めた。
「おいおい、お前ら喧嘩は止めろ止めろ」
阿部が仲裁に入ったが、二人は構うものかと殴り合いを続けた。
「いい加減にしろっっ!!」
阿部が交互に道下とミクにゲンコツを振り下ろした。
「やっぱり阿部さんは僕の書いた小説の方がいいですよね!」
「やっぱ阿部さんは私の書いたエッセイを選びますよね!」
阿部は両腕に抱きつく道下とミクを交互に見た。
「「阿部さんはどっちの味方ですか!?」」
「そうだな…」
阿部は考えた。これは片方に肩入れすると片方が怒って大変なことになるのではないかと。要するに詰んでいるわけである。
よって導き出せる答えは…
「よし!お前ら。ラーメン行くぞ!」
「「は!?」」
全く別の話題を振ることで阿部は窮地を乗り切った。
「今日は俺の奢りだ!さあ、出かけるぞ」
そう言って阿部は玄関へ走っていった。
「それでは遠慮なくご馳走になります」
その後を道下がついて行く。
「あ…阿部さん…今給料日前なんじゃ…」
ミクは阿部の背中へ声をかけたが、阿部は既に道下と共に既にドアの外だった。
「おい、ミク。早くしないと置いてくぞ」
「今から僕は阿部さんとデートなんで来なくていいですよ」
ミクはハーっ。と溜息をついた。でもたまにはこうやって三人で出かけるのも悪くはないのかと開き直ることにした。
「私も行きますよ!」
この後、三人は仲良くラーメンを食べた。阿部は小遣いがゼロになり、道下はここぞとばかりに替え玉を三回して阿部の財布を更に軽くし、ミクは帰りに名物ネギギョーザEXを四人前を頼んで翌日の昼に一人で完食した。
(小説の方については後日、合作主催者との協議の末それぞれが書いたものが三作とも載ることとなりました)
めでたしめでたし。