しかも、事情を明かした上で他人に丸投げして終わり。だなんて少々都合が良すぎるとは思わないか?
やるならば後始末の事まで考えてからやれ。
……残された存在を想うのならば。
だからその覚悟と願いを俺達は踏みにじる。その上で考えろ。
本当の幸せとは何か。
「さて、行ったわね。そしてやっと出したわね」
「そうですね。でもあのやり方と言い方は少しどうかと思うのですが。少し良心が…」
「あら、自らのサーヴァントに対しても本音も出せなかった臆病な人間に何を躊躇う必要があると言うのかしら?」
どういう事だ?突然に上姉様に携帯を持たされ、会話を聞いていれば突然の修羅場、そして最終的にはレイからこの人間にマスターの権利が移った。正直この事実に頭が追いついていない。
そして会話の内容からまさかこの2人、共謀して謀ったというような会話の内容だ。
「さて、メデューサ?突然で悪いわね」
「悪いではありません。どうして、どうして突然マスターを変えるような真似を…!上姉様!」
もし、この出来事が仕組まれたものだとしたら、いくら姉と言えど相当にタチが悪い。
私としてはレイが自らの選択で選んだ事ならば、何であろうと受け入れる覚悟はあった。だが、もしその選択が誰かによって仕組まれたものならば?
それは『選択』と言えるのだろうか。
答えは否。それは『選択』では無い。強制だ。強制された選択には私は流石に怒る。たとえそれが姉であったとしても。
「落ち着きなさい。私達がした事は貴方達のためよ」
「どこが私達のためなのですか!」
自分でも驚くほど低い声が出て来たが、気にする余裕は無い。
手に使い慣れた短刀を持つ。
マスター相手とはいえ、人間相手ならサーヴァントに適う可能性はほとんど無い。驕るわけでは無いが相手はその程度の人間だ。一瞬で殺す。
殺した後は正直行きたくは無いが、レイの元へ向かう必要があるだろう。何か言われるかもしれないがこの主従はそれだけの事をしたのだ。そう言い聞かせる。
しかし、前へ駆けようとした途端に途端に目の前に広がる弾。体をねじって弾の隙間から避ける。
何が起こったと思う前に声が響く。
「もう、だから落ち着きなさいと言ったのに。私がマスターをみすみす殺されるのを黙って見ていると思っていて?」
「上姉様…!」
気を逸らすための威嚇で、完全に避けたから傷は無いだろう。何の事は無い。再度、駆ける姿勢。
次は確実にそして迅速に手をかけてやる。
足を魔力で強化して駆ける準備をする。
しかし、魔力を使った瞬間に違和感を感じた。
どうやら殺す前に質問をするべき事ができてしまった。
「上姉様のマスター。質問があります。ですが質問には言葉のみで答えて下さい。少しでも動きをすれば、その時は容赦なく殺します」
「…質問とは?」
彼はソファーに座ったまま返す。その顔はこちらをまっすぐに見つめている。
どうやら本当に動きはしないようだ。しかしだからと言って警戒を怠る理由にはならない。
「先程、魔力を使用させて貰いました。もちろんレイの残りの魔力では無く、貴方の魔力です。それが普通の人間なら
「どこがおかしいと?俺は普通のどこにでもいる人間だけど?」
「普通では無いから言っているのです!貴方の魔力は
「当然でしょう、私の血を入れて、それでは体が耐えられないから変化した。そう考えれば自然じゃないかしら」
「だから尚更おかしいのです!」
私の予感が正しければ
今私のしている事は無駄となってしまう。
「貴方は何故それを受け入れられているのですか?どうしてそんなに平然としていられるのですか…?」
「さぁね…一体何を言いたいのかさっぱりだけど、これだけは言える。俺はステンノ様を信じている」
まっすぐ瞳を見て答えられた。
ああ、これからどうなるかもわかっていないし、自分の身に何が起こっているのかも把握できていないというのに、自らの体を変えた張本人のサーヴァントを信じていると、断言してしまった。
「何故…断言できるのです。私とレイはそこまで…」
「そうだなぁ、命の危機を救ってもらったのもあるけど…何より、別の世界からこの世界でしょうもなく生きていた俺なんかのためにわざわざ来てくれた。…それが理由じゃダメか?」
「マスター…」
何故そんなにも信じられるのか。私とレイはこれほどの信頼を築けていたのだろうか?いや、私はレイの悩みを見て見ぬふりをしていた。そして私が知っている事もあえて黙ってしまっていた。その結果が今回の事を引き起こしてしまった。
レイの個人の選択を尊重すると思ってはいても、その実やっていた事はレイを追い詰めていたのではないか?そういう疑問が出てくる。
「まぁまずはその武器を置いて、ソファーに座って、どうぞ。武器を構えられながらだとおちおち話もできやしない」
「…わかりました。ですが私はここにいるべきなのでしょうか…」
先程の会話ですっかり毒気を抜かれてしまったので仕方なく従う。しかし、内心は目を背けていた事にいっぱいだった。
謀ったのは事実。しかしそれは私のためだと言う。はっきり言ってわからない。どうしてそうなったのだろうか?聞く必要がある。
「うーん、これは思っていたよりも重症かしらね。メデューサ、今の貴女はっきり言って見ていられない状態よ」
「え」
「えって…やっぱりそこまで頭が回っていないのね。なんて愚図な妹なのでしょう。向き合うべき事から目を背けて、目の前の事だけに没頭し。先の事を考えているつもりでも、その実全く考えられていない。いつものガサツでダイナミックで、ものぐさはどうしたのかしら?ああ、マスターのせいにするのはナシよ。マスターは変わったのですから」
「ステンノ様少し言い過ぎでは…ま、まぁとにかく俺達が言いたいのは心配しているって事かな。何を隠しているのかはさっぱりだけど、その
「だとしたら何故あんな真似を…?」
「さっきの会話から考えてみなさい、言うのがめんどくさいわ」
言われてからしばらく考え込む。
考えられる理由...自分には分からない。レイが離れた理由はおそらく自分と共にいた場合の危険度に気付いた。もしくは戦力的に邪魔になると思ったのだろう…もしくはこのマスターの言う通り不信になったのか。
もし前者の場合レイの中身にいる《彼》の力を思う存分に振る舞うなら私はむしろ邪魔だ。レイがもう制御したとは思えないが、レイの中身には天王寺達也の魂...いやこの場合は記憶、意思と言うべきだろう。それが入っている。天王寺達也の記憶とそこから生まれる技術力があれば神霊の制御も可能かもしれない。
もし、レイが離れた理由がそれだとしたら彼らがそれを止める理由はなんだろうか。
戦いがレイ、いやエインヘリアル側が指示した時間帯とズレると予測してその場合の反撃が来ると思ったのか。いや、もしそう思ったとしてもレイからマスター権を移譲された状態だと英霊2騎を使役するというどう考えても中途半端な状態のサーヴァントが一騎増えた程度で何が変わるかと思っても何も変わらない。敗者の数が増えるだけだ。上姉様のマスターも流石にそれが分からないほど愚かではない。と、信じたい。
もしそれが違うとするなら上姉様のマスターが自分と共にいる利点...戦力は違う。なら考えられるのは情報か。天王寺達也の情報。おそらく最初に会った時にレイが天王寺達也の息子ということを明かしているだろうに聞いてこないのがおかしいと思っていた。交換条件。ということだろう。
何とか答えがまとまった。
「もしかして天王寺達也の情報ですね。いいでしょう。それならこちらも伝えなければならないと思っていました」
「はぁ…検討違いもいい所ね。どうしてそんな答えが出たのかしらね?今更ながら言うけど、私達は天王寺達也なんて存在はどうでもいいの。マスター、答えを言ってあげて。私からは言えないわ」
「あはは…まぁ代わりに答えを言わせてもらうと。先程も言ったけど、君達は隠し事が多すぎると言った所かな。たぶんそれが原因で君達2人は腫れ物を触るような感じ…いや、お互いに遠慮がちに行動をしているんだよね。だからレイにも正直に話せと言われてしまうし、レイ君もレイ君でそんな事だから自らの意思でサーヴァント相手ともいえど弱みも見せられない。まぁそんな状況じゃ今は良くても、これから長くは続けられないだろうね」
「何を知ったような口を…いえ、貴方達に何がわかると言うのですか。まだ出会って約1月なのに」
「いいえ、もう1月よ?それくらい行動を共にしていればなんとなくとはいえ、わかるものです。伊達にこの半年、ここに来る人間とサーヴァント相手に商売はしていないわ」
そういえばと思う。
この主従は種火を狩ってそれを売って資金を得ていたのだった。種火は今は謎が多い存在であり、使い道としてはサーヴァントの強化にも使えるという性能もある。
そんな性能を持つが故に求める人は多い。それこそ自ら狩りに来るという人もいるだろう。レイも使い道は少し違うが狩りに来たのは変わらない。
狩りに来た人の中には悪意を持った人もいただろうが、それでもこの主従が力も無いとまでは言わないが、生き残っている理由をもう少し考えるべきだった。
おそらく、その経験から来る人間観察力を武器にしたにだろう。それを利用されては信憑性が少しはあるかもしれない。
「そこまで断言されては…私の勝てる見込みは少ないですね…レイがどう思っていたのか分かっていなかったのも事実ですし。それでは…私は一体どうすれば…」
「ああ、それなんだけど、君をレイ君の元へ返そうと思う」
「……その理由は?」
考えたくは無いがもし、それが不純な理由ならば、レイを守るため手にかける必要がある。
「単純な話さ。君はレイ君のサーヴァントで、レイ君は君のマスターだ。召喚をした以上。おいそれとその絆はを投げ捨てられるものでは無いからね」
「……格好つけたつもりですけど、実際の所は?」
「2騎もサーヴァントを長時間現界状態を維持できる気がしません…ステンノ様もわかっているでしょうに」
「うふふ、変に格好つけるからよ。もう少し身の程を知りなさい。とまぁそういった所ね。むしろ行って貰わないと困るのよ。マスターが」
「魔力が現界するには足りないのですね?それならば私は霊体化していれば…」
「勘違いしないで、私はこう言っているのよ。
「ヒッ…」
この笑み、久しぶりに見た。
その昔幾度となく見たこの笑みは割と上位にあたる笑みだ。それでもと私の要求を通した事はあるが往々にして上手くいかなかったりしたものだ。
この経験からこの笑みをする状況というものが、わかってしまうというものだ。
仕方がない。不承不承ながらレイの元へ行くしか無さそうだ。
「……わかりました。私はレイの元へ行きます。こうなったら上姉様に逆らったら何をされるのかわからないですし」
「聞こえましてよ?メデューサ」
「ヒッ、違うのです。上姉様!」
「この事について問い詰めるのは後ね。今は別のお話もあるのですから」
「そういえばそうでした」
「あっちょっと待った」
そう言い、立ち上がろうとすると引き止められる。まだ何かあるのだろうか?
「?レイの元へ行くのでは?」
「残念ながら今じゃない。もし今行ったとしても行先は?何か検討があるとでも?」
「そんな事
「残念ながらそれは許可出来ない。先程も言ったけど俺は魔力が少ないからね。もしそれで見つけられなかった場合、魔力の無駄使いとなってしまうんだ。ただでさえ2騎の現界に魔力を使っているんだ。何かあった時に俺が動けなくなってしまう。ああ、誤解しないんで欲しいんだけどレイ君の元へ返したいのは本当だよ」
そこまで言われては納得するしか無い。確かに彼から供給されている魔力はレイの量と比べては少ない。防衛戦力が皆無なこの場所を守るにはある程度の魔力を残す必要がある。豪勢にとは出来ない。
「…だとしたらいつですか?」
「葛城財団の本部強襲の日…ステンノ様、あと何日あります?」
「あと数日ね。仕上げに入らないと不味いわよ?」
「ええ、わかっています。メデューサ、ついさっきレイは手の込んだ自殺と言った。それは覚えているね?」
「ええ、それが何か?」
「でも彼は『先に襲撃する』とは言ってないんだよ。もし本当に死ぬ気なら、単独で特攻でもすれば物量で死ねるぐらいなのは事前の情報で分かっているはず。でも言わなかった。だとしたら彼は襲撃の日、必ず来る。その時だ、君をレイ君に返すのは」
なるほどと思った。確かにレイはそうとは言っていないし、冷静に考えるとなかなか信じられそうな内容だ。だけどもう1押し、信じるに値する何かが欲しい。
「しかし、その保証はどこにあるのですか?私が言うのもおかしいと思いますが、レイは強いですよ。それこそ貴方達以上には」
「そこなんだよなぁ…残念ながら保証とかは全く出来ない…でも今闇雲に探すよりかはまだ現実味ありそうじゃないか?」
「それは…そうですね」
壁にかけてある時計を見ると時刻は夜になっていた。もう陽は落ちているだろうから探すのに、無理に
それにレイがここを出ていった時に正確な時間を見てはいない。きっと日が落ちる前だろう。それぐらいの時間があればレイなら割と遠くへも行ける。いや、行けてしまう。探す範囲が広くなるとそれだけ見つけるのも手間だ。
「わかりました。また明日探しましょう。明日ならばまだ陽も出ていますから探しやすいはずです」
「あー…それなんだけど…」
「突然言いよどんでどうしました?」
「よしんば見つけたとして、レイ君が激昴して襲いかかって来たら残念ながら、君の言った通り俺達じゃ対処出来ない。だからと言って君だけに対処させるとなると、余計に話がこじれる予感がするんだよね」
「そこまで気にしてもらう必要はありません。これは元々私とレイの問題だったわけですから」
「だから、メデューサ、君には特訓相手になって貰おうかと思う」
「…は?」
突然何を言い出すのだろうかこの人は?
「いやね、レイ君からコレもらったはいいものの、相手がいないんだよね」
上姉様のマスターが目の前のテーブルに置いてある篭手のようなものに手を触れる。
「相手ならあのシェルターの馬の賢者にでもなってもらえればいいのでは?」
「あのサーヴァントは今は数日後に向けて諸々調整中よ。そんな中でわざわざ個人的な事情で手伝って貰うわけにはいかないわ」
確かに度々情報のすり合わせ等行う時にレイについて行った時に忙しそうにしていた記憶はある。その中で練習相手に時間を取らせるのは少し難しい面がある。
「だから襲撃までこの数日、君に特訓相手を頼みたい。試運転にしろ種火相手じゃ経験が不足するし、実践練習も相手がいないんじゃ意味がないからね」
「…本気、のようですね。仕方ありません。ですが、もしこの数日間の間にレイが戻って来たら即刻パスをレイに渡して貰います。それで良いなら相手になりましょう」
「ああ、よろしく頼む」
「では私はレイの私物を見て来ます。もしかしたら行先がわかるかもしれませんから」
「ああ、あともうひとつ」
「はい?何でしょう?」
「レイ君に出会ったら必ず謝る事。それがレイ君とパスを繋ぐ条件だよ」
「…はい、わかりました」
当然だ。私はそれぐらいの事をしていたのだから。
ソファーから立ち上がって扉から部屋を出る。どうか行先がわかるようにと祈りながら駆け足で歩く。
どうか、生きていて
そして私に謝らせて
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「さて、マスター?もう行ったわ。もう立ち上がってもいいのよ?」
「はは…分かっているのに無茶な事を」
「ふふっ、ええ冗談よ。メデューサの殺気にあてられて腰を抜かしているのは分かっているわ。今だって足の震えを抑えているのに必死なのは見えているもの」
「やっぱりステンノ様には叶いませんね…ところで先程出した魔力弾、あれ普通よりも魔力込めてましたよね?牽制じゃなかったんじゃ…?」
「ええ、マスターに危害を加えようとしたのですから当然よ。変に手加減しようものならすぐバレるわ。だから
「……今のは聞かなかった事にしておきます」
「…?何が問題だったのかしら。まぁいいわ。動けないマスターの代わりに私が飲み物を持って来てあげましょう。紅茶でいいわよね?ちょうどいい茶葉を
「ええ、お願いします。……ところで、魔力弾の当たった壁。直して下さいね」
「……
「後で俺も手伝いますから直してください…」
「仕方ないわね、私はそこまで重たい物は持てないのは知っているわよね?お箸より重たい物は持てないの」
そんな他愛もないような話をして、陸の体が元に戻るまで夜の時間は進んでいった。
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「ふっ、はっ、遅いですね」
「いっ!ぐおっ」
「そこです!」
「ぐぅ!」
腹部に強烈な勢いを伴った蹴りを入れられ、吹き飛ばされる。幸い壁にぶつかる前に勢いは落とすことができたが、呼吸がままならない。
手に付けた
「……よくもまぁこの実力でドラゴン退治なんて出来ましたね。はっきり言って落胆ものです。上姉様からの話ではもう少しはやるかと思いましたが、これではサーヴァント1騎でさえも相手にできない程でしょうに」
「わかっていますよ…うん、俺が弱い事はわかりすぎてる」
「なら尚更」
「でも、それでも、諦められないことはある。それは
目の前が心臓の音と同時に、右へ左へ不愉快な移動を続ける視界を、落ち着つけながら返答する。
魔力回路はもう十分に回している。効率はもう体が勝手に節約するようにクセになっているから意識なんてしなくても勝手になっているだろう。
なら、なぜメデューサの動きについていけないのか。
答えは簡単、単純に何もかも追いついていないから。
反応速度も、強化速度も、移動速度も……文字通り何もかも。
だから翻弄される。目が回るような速度だけでコレなのだ。はっきり言ってダメダメの言葉につきる。
反撃は意図的にしないようにしているが、する前提で動いたとしても掴む手は離されるだろう。
「そんな事は百も承知です。ですが貴方はもっと強くなるべきのはずです。少なくとも、今の手加減の動きについてこれていないではありませんか」
「レイであれば先程の攻撃を避けますし、魔術で反撃までこなします。私を捉えなさい。レイの残したその
そんな事を考えながらも短刀は俺に飛んで来る。致命傷になる部分はなんとか弾くが、なり得ないところは速度に間にあわず、必要経費として受けるしか無い。その傷がじくじくと痛み、更に動きを鈍らせる。少しでも深くいったなら魔術回路にも傷が入りそうだ。
しばらく俺が一方的に防御の体制とはいえ飛んでくるものを防御する。もちろん反撃への思考は止め無い。何か無いか。
「……少し話しすぎましたかね。もうそろそろいいでしょう。これさえ耐えれば今日は止めると言った事で…来なさい」
傷が深く入り、魔術回路へ入った嫌な感覚がし始めた頃にメデューサの声が聞こえた。
いつの間にか地面に落ちていた血液が発光する。その血の魔法陣から現れたのは、血の赤色の穢れも知らないような白馬。その馬には翼が生えていた。
「えぇ、今回は少し抑え気味で。上姉様からも念を押されていますし、殺すわけではありませんので。…貴方も乗り気では無いのはわかります。今日はこれっきりです。終わったら水浴びでもしましょうね」
メデューサがペガサスに語りかけながらその背に乗る。
本能がヤバいと警鐘を鳴らしている。まさかこの場で宝具を使うつもりだとは少しも思ってはいなかった。幸いなのはこちらにも見えるように動いてくれている事だろう。その気になればこの手順をすっ飛ばして突進できるはずだ。
「この攻撃、たかが人間に防げるものなら防いでみなさい!『
空へ天馬が飛び上がる。それと同時に心臓が高く跳ね上がる。
どうすればいい。あの速度は先程とは段違いだ。空へ上がったから見えるだけで、近距離では瞬きするような速度だろう。
あの速度が俺へ向かって突進してくる?無理だ。防ぐ手立てなど、切り札も無い俺ではありようはずも無い。移動どうこうで防げるものでも無い。必殺とはあの事を指すのだろう。
血液が流入した魔術回路ではろくな強化なんてできない。つまり、いくら全身を硬くしようが現状、防ぐ手立ては無い。
先程、短刀を蹴って防ごうとした時に誤って突き刺さってしまい、傷が遂に魔術回路へ入ってしまった。じわじわといつも以上に足が痛みの警告を発している。
考えろ。
これを防ぐものは。
考えろ。
その方法は。
考えろ。
躊躇うな。
こうなれば一か八かだ、逃げるしか無い。痛い足に更に強化を重ねる。それと同時に感じる違和感。
光が見える。
もしやと思い、頭に近い部分の魔術回路、その端に負荷をかけ、
光しか見えなかった部分の向こう側の魔術障壁、その向こう側のペガサスとメデューサが見える。
見えなかったものが見える。これがどんなにアドバンテージを埋めるのか今までの経験から多少はわかる。ついでとばかりに体の一部分を割り、いくつか混ぜてみる。結果は…強化速度が明らかに向上した。
どんな原理でそうなったのかは自分でもわからない。しかし、これはこの状況を打破するのに足る。
そして、光が爆発した。
「……まさか、こんな形になるとは」
「……いや、自分でもびっくり。何でできたんだろう?」
「当事者がわからないのに、私に聞かれてもわかるはずないじゃないですか。はっきり言って、あの速度の
「……ハイ、以後気をつけます」
多少焼けすすを払いながら振り返る。
あの絶望的な状況をなんとかするには自分の力だけじゃ足りない。ならどうするか?答えは簡単だった。相手の力を利用する。
まず、メデューサの宝具は手綱、そしてそれをペガサスに騎乗し、全速力で突っ込む。だが、衝突時にはメデューサ本人とペガサスを守る必要があるため、魔術障壁が全力で稼働する必要がある。ならば、その前に懐に飛び込んでしまえば一か八かでなんとかなると思ったのだ。
まぁ結果はなんとかなったとはいえ、あの速度を見切った上でタイミングをを合わせなければ、確実に言う通りになっていた。その事実に身震いした。
「まぁそれはそれとして、今日はここまでにしておきましょう。私も休みたいので。あとレイの手がかりも見つけなければなりませんし」
「了解。まぁ正直、俺も限界…休ませて……」
そう言いながら、少しクレーターのできた地面に寝転がる。緩やかに吹く風邪を感じながら、空を見上げる。
レイ君は今どこで何をしているのだろうか?できる事ならさっさと帰って来て、メデューサの
ひとしきり呼吸を整えてから、ある程度痛みが引いた体を起こし、後ろから全てを見ていたステンノ様を連れて帰路へ着く。
しかし、この場にいた全員が、篭手から異音が発しているのを気がついていなかった。それが、後にあのような事になるとは誰も予想出来ていなかった。
するべき事は何か?
残された存在を見つめながら考える。
後悔は本当に無いのか?
残し、去った彼に届かない問いをかける。
女神の奴隷は貰ったものに触れ、覚悟を決める。
全てを賭ける、その闘いの幕開き。
『かたちのない世界』
リクエスト箱いる?
-
いる(鋼の意思)
-
(いら)ないです
-
そんな事よりおうどん食べたい