ルフィ
ミホーク
マルコ
ロー
ドフラミンゴ
クロコダイル
イゾウ
線で区切ってあるだけです。飛んだりは出来ません。予めご了承ください。
【ルフィ】
クリマタクトをクルリと回す。それによりチャージされた電気のそれを纏わせたまま前に突き出してみるが、何かが違うと感じて動きを止める。
「なんか、違うんだよな」
「どうした?」
聞こえて来た声に振り向いて、それを誤魔化そうと曖昧な返事をすると突然拳を向けて来るそれに、慌てて身を翻す。そのまま躱し続ける俺にルフィは楽しそうに笑った。
「俺、雷も打撃も効かないぞ?」
その言葉にそうだったと思い出して、ならばとクリマタクトを構える。そんな俺に嬉しそうに笑ったルフィは、遠慮の欠片もなく攻撃して来た。
ルフィの攻撃を躱して行くと、次第になんで当たらねェんだと不満そうな様子を見せ始めるから、これが見聞色の覇気だよと教えてやる。それによりルフィは、それ使えるようになりたいと言い出して、互いに手合わせに夢中になってしまう。
とは言え見聞色の覇気、俺苦手なんだけどな。そう思いながらも次第に楽しくなってきて、ついのめり込んでしまう。いつの間にか集まっていた皆が、おいおいなんて言ってるのを聞きながら、俺はルフィに話し掛けた。
「ルフィ、強くなったな」
「相変わらず、1発も当てられねェ!!」
「受けたらその瞬間俺が負けるからな!」
「なら当たって負けちまえ!」
苛立ちを隠さずに叫ぶルフィに、可愛いなと思う。だが次第に俺の体力が尽きて来る。
そろそろ休憩をと言おうとした所で、眼に汗が入りそれに気を取られた為にモロにルフィの拳を受けてしまう。しまったと思った時には吹き飛ばされていて、覇気を纏って吹き飛んだ先でのダメージは無くした。
けど、モロに入ったルフィの1撃はしっかりダメージとして受けてしまった。その為に少し動けずに居ると、慌てた様子でルフィが駆け寄ってくる。
「だ、いじょ、ぶ……だ」
「どこがだよ!チョッパー!」
「大丈夫、心配すんなよ。……今回は、ルフィの勝ちだ、な」
そう言って笑うと、ルフィは眉根を寄せて悲しそうな顔をする。勝てたのにそんな顔しないで欲しい。
そしてフラリと立ち上がると、サニーの1部が欠損してるのに気付いてフランキーに謝る。そんな俺にフランキーは気にするなと言うけど、その時腕から水滴が落ちるとチョッパーとルフィが悲鳴をあげた。
「「腕、怪我してる!!」」
「舐めときゃ治るよ、こんなもん」
この程度なら、いつもの事だったのだから。そう思って笑ったら、ルフィに強く抱きしめられてしまう。
「頼むから、もう、1人で立とうとしないでくれ。今はもう、1人じゃねェんだって、分かってくれ!」
「ルフィ?」
悲痛な声でそう言われてしまえば、それを否定するつもりのない俺は頷くしか出来ない。チョッパーが俺の腕をそっと治療してくれて、その間も俺を抱き締めたままルフィは離れようとしない。
……期待してしまうから、離れて欲しい。声に出せない願いとは裏腹に、抱きしめられている今が幸せにも思えて、俺もまた動く事が出来ないでいる。
「好きだ」
「へ?」
「恋人になりたい。俺に、守らせてくれ」
真剣な顔で言われたそれに息を飲めば、ルフィは嫌か?と不安そうにその瞳を揺らす。それに対して、拒む言葉なんて言える筈も無かった。
「俺、男、だけど……?」
「知ってるぞ?」
「ルフィ、可愛い子が良いだろ?」
「お前より可愛い奴なんて、俺、知らねェ」
そんな事を言われて、拒む言葉なんて出る筈もない。だから笑う。
「ありがとう。恋人になってください。たださ、怪我は心配しないでいいよ。俺は大丈夫だか」
その瞬間重なる唇。その瞬間上がったサンジとブルックの妙な悲鳴は、ウソップとロビンによって鎮められた。
だが、どちらにしろ当人達にはその騒動は伝わってはいない。ただ互いに漸く触れ合えた相手の温もりに、溺れているから。
そんな騒動があったのも知らずに、ゾロは1人いつものように昼寝をしていた。これは変わらないようで少し変わった、ある日のサニー号の話。
─────☆
【ミホーク】
無人島にて測量を終えた俺は、身体が鈍らないようにとの理由付けをしつつ剣を取り出して、船からは死角になる場所で1人、基礎をなぞり始める。舞い散る木の葉を切り捨てながらも、どうにも納得行かずに溜息を落としてしまう。
どうにも心が落ち着かない。気を引き締めたいと思ってのそれなのに、心はざわめくばかりで……。
「……美しいものだな」
「ミホーク!?」
「舞い散るそれを斬れる腕前とは、知らなかった」
「俺には、山を崩せるような力は無いからな……」
情けない。こんなにも乱れた心を、見られてしまうなんて……。
「……心が、乱れているのか」
「嗚呼……」
「付き合ってやろう」
「え?」
顔を上げると、ミホークはその瞳を眇める。それにより咄嗟に剣に覇気を纏わせれば、何とかその手にしている夜からの攻撃を受け切れた。
だが……重い……!
「咄嗟の判断で、武器を持ち替えなかった事をまずは褒めよう。持ち替えようとしていれば、その腕、胴体から離れていただろう」
この……クソ親父……!なんだってんだよ!
そう思ってクリマタクトで自身の幻を生み出して、剣を構え直す。幻と同時に全員で1斉に襲いかかれば、ミホークが嗤う。
その様子に寒気を感じてその場を飛び退き、咄嗟にミホークから距離を取れば、幻が1瞬で消し去られる。……後半歩、引き返すのが遅ければ俺のこの身体は半分にされていた……。
「本体が分からぬよう接近戦に持ち込んだのは褒めよう。だが、それならば全員斬れば良いだけの事」
「……訓練じゃなくて、死にそうなんだけど?」
「死に直面せねば強くはなれん」
「心の乱れを落ち着かせたいだけなんだよ!俺は!」
心を乱しているのは、こんな物騒な男に惚れてしまったからだ。報われる筈も無いってのに……。
「……主だから、夜を用いて本気で相手をしている。失望させてくれるな」
その言葉にピクリと眉間が反応した。クリマタクトに覇気を纏わせ、剣を正眼に構え、地を蹴ればミホークは嬉しそうに嗤う。
この顔が好きだと思う余裕は、既に無い。判断を誤れば、即死ぬのだから。
そうなればミホークはその程度だったかと失望するだけだろう。そんなのは、耐えられない!
ミホークの夜を受け止め、その状態から首を狙って回し蹴りを入れようとすればミホークが夜から手を離し、俺の足を掴むと森の中へと私を投げ捨てた。覇気を纏い衝撃を消してはみたけど、纏いきれなかった足を多少痛めたのは自覚している。
情けねぇなと思いながら立とうとしたら、ミホークが少し焦った顔で駆け寄って来て俺を心配そうに見てくる。失望させたかな?
「すまぬ。予想外の動きに、咄嗟に本気で投げた。怪我は?」
「気にしなさんな。覇気を纏いきれなかった俺のミスだよ。大した事ない」
「主は、もう少し我が身を大切にするべきだ」
「殺そうとした癖に何言ってんだ」
矛盾するそれに笑えばミホークは真剣な顔で言う。冗談なんて、そんなに言う方でもないのは知ってるけどさ。
「主は死なぬ。俺が愛している存在がそれ程弱い筈も無い」
「……え?」
呆けたような顔をしてる自覚はある。だって、今、ミホーク。
「言った事は無かったか?俺は主を愛している。だからこそ、常に全力で相手をしているのだ」
「ミホーク……」
「怪我は大した事無かったのだな?」
「嗚呼」
「ならば、今宵返答を聞かせてもらう。……身体でな」
そう言って去って行くミホークに、怪我が理由では無く、俺はその場から動けなくなる。その場合、戦うって意味じゃ、ねぇよな?
んでもって、俺が攻めに回れる筈も無い。つまり……!
その場で椛より赤く染った俺は、湖にでも飛び込みたいと半ば本気で思いながら、夜なんて来てくれるなと1人呟いた。
─────*
【マルコ】
深呼吸して新調したばかりの剣を振り抜く。舞い散る木の葉は4枚。
その内の3枚を切り、けれども残りの1枚を逃してしまった。腕や剣が動く時に発生する空気圧の変化が風を生むのだから、集中できなければ斬れる筈もねぇよな。
「やっぱり、駄目か……」
「見事なもんだと思うがねぃ?」
声に反応して振り向けば楽しそうに笑う男がいる。その頭はパイナップルなのか、はたまたナスなのか、問い掛けたら人生が終わる気がして聞けずにいるけど本当に疑問だ。
「妙な事考えてないかぃ?」
「いつから、見てたのかなと……」
「1人で河原に座り込んで石を睨み付けてた辺りからかねぃ?」
つまりはモビーを降りた直後からずっと見られていたらしい。新しい研石が欲しくて河原にいたけど、その説明はいらないだろう。
代わりにまだまだ弱いから強くなりたいのだと呟くように言えば、マルコさんはそうかと言って頷き、突然膝が飛んで来た。咄嗟に躱して剣を片付けると溜息1つ。
「そこでどうして武器を片付けるんだよぃ。戦え!」
「だって、怪我させたくないですし」
「治るよぃ」
「治るそれには回数制限がありますよね。何より、痛みがある事を知っています」
そう言っては見たけど、戦いを辞めては貰えないのも理解してしまう。慣れない真新しい剣よりはとクリマタクトを取り出せば、成程ねぃと笑ってマルコさんは容赦無く攻撃を仕掛けて来た。
跳ねて枝に飛び乗れば、その枝ごと蹴りから放たれる鎌鼬で切られる。そんな事ができる時点で、やはり人間では無いと思わされちまう。
着地しようとしたその場所に拳を繰り出されて身を捻れば、容赦無く鳥の足が蹴りとして飛んで来た。慌ててガードしたけど空中にいた俺は、踏ん張ることが出来なくて飛ばされて行く。
木々を薙ぎ倒して岩にぶつかって止まったけど、どうしたものかと内心で首を傾げるしか出来ない。明らかに、覇気を纏うのに失敗したと気付けば自分が情けなくなる。
大した怪我じゃないけど、すぐに動くのは難しいよなぁ……。そう思って困っていたら文字通り飛んで来たマルコさんが心配そうな顔をする。
「怪我、してるなぃ」
「大した事ないさ。この程度、慣れてるよ」
笑う俺にマルコさんは泣きそうな顔をするから、どうしたのかと首を傾げる。直後強く抱き締められて、耳元で少し掠れた声が聞こえた。
「俺は、慣れねェよぃ」
「それは……」
「惚れた相手が傷つく姿は、慣れねェ!!それも、今回は俺のミスだしなぃ」
何を言われたのか理解が追い付かない。願望からそんな言葉を聞いているのだろうか。
男同士で、しかも相手は明らかにノーマルで……!そんな俺の混乱した様子にマルコさんはどうやら気付いた様子で、少し困ったように笑う。
「伝えて、無かったかぃ?俺は、ずっと前からお前に惚れてて、愛おしく思ってるよぃ」
驚き硬直する俺を見つめて、マルコさんは笑う。その笑顔に見惚れている隙に重ねられた唇から、逃げようなんて思えなかった時点で……俺の敗北は決まっていたのだ。
─────☆
【ロー】
無人島に到着してすぐ、測量をする為に降りた俺につけられた護衛はベポとペンギンだった。それを不要だと1蹴し測量を終えて戻る頃には、特に問題の無い島だとローが判断していると知らされる。
なので俺は、久々に自由行動だと喜び勇んで島の大半を占める森へと分け入る。ローは俺に対して、過保護が過ぎるんだよ……!
防御にしか使えないと思われがちな鉄扇だが、捕縛等にも使えるのだ。相手が居ないと少し練習には不向きだけど、やれない事も無い。
居もしない相手を想定して身体を動かしていたら、人の足音が聞こえて動きを止める。そして、姿を見せたローに視線を向けると薄く笑って俺を見詰めてきた。
「受けてやろうか?」
「……お願いしようかな」
「あァ、ただし……1度だけだ。その後は普通に相手しろよ」
その言葉に頷き、ローが上段に構えるのを見る。そして正面を切るように動かされるそれに合わせて俺も動く。
鉄扇で右手首を受け止め、右手首の上に鉄扇を移動させると、下から腕を通して鉄扇の先を掴み、その勢いのまま引き落として固めた。そんな俺にローは地面に倒れたまま、楽しそうに笑うと空いている手を使い、roomと呟くからサッと離れてサークルから離脱する。
「能力者相手じゃなけりゃ、いい技だな」
「鉄砲捕と呼ばれる技だよ、ちゃんとした武術のひとつなんだぜ?」
「鉄扇向けの武術なんかあるのか」
「鉄笛でも可能だが、鉄扇はちゃんとした武器だからな。俺のは少し改良もしてあるし」
笑いながら鉄笛も取り出してローの剣を受ける。けど両手を使ってるとは言え、剣に対して鉄扇と鉄笛では反撃は難しい。
何度も受ける事で筋力の差が大きく体力を奪い、少し体の動きも加えられた打ち込みに耐えきれずに俺は後方へと吹き飛んでしまう。体力の残りが少なくて、上手く覇気を纏え無かった為に、軽く二の腕を岩で切ってしまった。
この程度ならと思ったけど、他にも筋肉が衝撃に驚いて萎縮してるのか動けなくなっていると気付く。……情ねぇな。
だが、少し休めば問題ないと考えて身体から力を抜いた時、かけて来たローが心配そうにしていて優しいなと笑ってしまう。けど、ローは私の上着が赤く染っているのを見て即座に手を伸ばしてくる。
「大丈夫だ。この程度、舐めときゃ治る」
「医者に向かって民間療法で対決しようとするな。それに、二の腕を自分では舐められねェだろ。……それとも、俺に舐めて欲しいのか?」
「へ?舐められるぞ?肘や脇だと難しいけど、二の腕なら余裕だ」
首を傾げて答えると、ローは何故か苦笑してそのまま有無を言わさずに治療を開始する。その手が優しくて、胸が痛い。
過保護で、優しくて、これがもし俺の性別が違えば期待していただろう。ただ、喪う事に怯えるローだから過保護なだけだとわかっているのに……。
「……悪かったな。力加減を間違えた」
「俺が受身を取り損ねたからい「俺は、惚れてる相手を傷付けて喜ぶ趣味はねェ。……よし、終わったが……立てるか?」」
ローの言葉に遮られたからってだけじゃなくて、続いたその言葉に呆然と見上げた。ローはそんな俺を見て少し考えるようにしてから、言ってなかったか?と聞いてくる。
それに繰り返し頷くと、ローは俺と視線を合わせる為に座ってくれた。その状態で、俺が逃げられないように右腕を掴む。
「お前は俺の所有物だと、決めている。素直に頷くなら……恋人って地位をくれてやるよ」
傲慢なそれに息をのみ、俺は泣きそうになってるのを誤魔化す為にローへと飛び付いた。それを易々と受け止めて、ローが笑う。
2人の唇がそのまま重なったのは当然の事だろう。
─────*
【ドフラミンゴ】
短剣が空気を斬り裂く事で、俺の心に宿る女々しい感情も消えてくれたらいいのに。頭と心が出した答えの違いに戸惑い、それを誤魔化す為に、断ち切る為に剣を振り回す。
とは言えどうしても相手の居ない今、剣舞のような動きになってしまう。その時拍手が聞こえて動きを止めると、ドフラミンゴが俺を眺めている事に気付いた。
「相変わらず見事だな」
「ありがとう」
ちゃんといつも通りに、笑えているかな。笑顔は引きつっていないかな?
そう思ってドフラミンゴを見上げていたら、突然付き合ってやろうと言い出して足が飛んでくる。慌ててそれを躱して、剣をふるえば足から出されていた糸が当然のように襲いかかって来た。
必死になって胴体からの攻撃は躱して、糸は斬り裂いてと行動を繰り返していくけど、地力が違い過ぎて話にならない。正直に悔しい。
「まだ、本気は隠しておくつもりか……?」
「え?」
「本気のお前を……見せてみろ」
「ドフラミンゴ!?」
俺の焦りを無視してその言葉と共に繰り出された攻撃に必死で対応したけど、どうしたってそれが後手後手に回るのは仕方ないだろう。躱す事さえ出来ない至近距離から放たれた蹴りに、慌てて短剣で受け止める形を取ったが当然のように吹き飛ばされて王宮の壁に激突する。
瓦礫が降ってくるのに気付いて慌てて覇気を纏うけど、その瓦礫の1部が身体を斬り裂き赤い物が流れ落ちれば苦笑してしまう。やはり俺はまだまだ弱いのだと。
慌てた様子で駆け寄って来たドフラミンゴが俺の怪我を見て泣きそうな顔をするから、慌ててしまう。どうして妙な所で情緒不安定なのか。
「悪かった。力加減を間違えたようだ」
「気にしなくて良い。舐めときゃ治るし、傷があったところで問題になりはしねェよ」
そう言って立ち上がろうとしたらドフラミンゴが俺を強く抱き締めて、その巨体を震わせる。こういう事をされるから、期待してしちまうんじゃねェか。
勘違いしてしそうになる。男に興味なんかねェのは、分かりきってるってのに。
「好きだ」
「……ああ、俺もだよ」
「なら!……なら、怪我をするな。惚れてる相手が傷付く姿を見る趣味はねェ」
「……ほれてる?」
幻聴だろうか、それとも妄想だろうかと、思わず顔を上げるとドフラミンゴの素顔があって……まさか、と思う。それにより顔が赤くなるのを自覚した瞬間、ドフラミンゴが少し呆れた顔をした。
「鈍いんだったな。……こう言えば良いのか?」
「え?」
「お前を、愛してる。抱きたいと、その身体を貪って他の誰にも見せたくないと思うくらいにはな」
「俺、男……だぞ?」
「お前であれば、性別なんざ気にしねェよ」
その言葉に対する返事として、俺はその体に腕を伸ばして、そっと抱き着いた。そのまま唇が重なり合ったのは、自然な事だろう。
─────☆
【クロコダイル】
室内の他に庭等に出てもいいとは言えども、どうしたって身体は鈍る。有事の際、盾になる意味がないと言うのならば……せめて足手纏いにはなりたくなくて、俺は腰から静かに剣を振り抜く。
風を斬る音が聞こえて、それではダメなのだと、剣を振るっても音がしないくらいでなければ俺の腕力や実力では役に立てない。守られるだけなんて、もう嫌なんだよ。
武器は容姿だけってんじゃ、笑い話にもならねェ。叶わない想いだとわかってるからこそ、せめて彼の平穏を守りたい。
その時背後から足音が聞こえて振り向けば、楽しそうに笑うクロコの姿。それに首を傾げれば、付き合ってやろうかと言う言葉と同時に鉤爪が降って来て、それを思わず剣に覇気を纏い斬ってしまう。
それによりそこから落ちるのは猛毒。咄嗟に距離を取れば、その隙を突くようにクロコがニヤリと笑いつつ蹴りを繰り出して来る。
着地の瞬間を狙われた為にバランスが取れないどころか、受身さえまともに取れずに吹き飛ばされれば、水槽の硝子に激突してしまう。それに不味いと思ったのは、クロコが水に弱いからだ。
覇気を纏えば水槽が壊れてしまう。そう思ってそのまま激突した為か、軽い怪我をしてしまった。
それを誤魔化そうとしたのに、クロコから怒りの視線を向けられてしまい気付かれてると認識する。でも、水槽は無事なのにどうして怒るんだ?
「我が身を犠牲にして、水槽を庇う奴があるか!!」
「……だってよ、部屋が水没したらクロコ困るだろ?俺はこの程度慣れてるから平気だしな。それに、舐めときゃ治るさ」
「背中を、どうやって舐めるつもりだ」
「猫なんだから、届くに決まってるだろ」
巫山戯て答えればクロコに腕を掴まれて、そのまま抱きしめられる。その時、怪我に触れないように気を付けてくれてるのが分かれば優しい人だよなと思う。
「猫だってんなら、そういう扱いでも良いんだな」
「え?でも俺、男だけど?」
「……猫ってのは、男の場合に使われる言葉だろうが」
「へ?でも……クロコは俺の事別に何とも……?」
「……なんで俺がお前を隠してると思ってる。誰にも取られたくねェからだろ。ったく……1度しか言わねェぞ」
そう言ったと思ったら、言葉ではなく唇が降ってきてその想いを雄弁に伝えて来る。こんなやり方は狡いと思うのに、唇を塞がれている俺は何も答えられず……ただ、その背に腕を回す事で応えたのだった。
─────*
【イゾウ】
停泊しているその場所から、朝の日課を終えた俺はそっとモビーを降りて死角となる所へ進む。到着した所で呼吸を整えると、短剣を引き抜きそっと口付けを落とす。
これは、合図。剣舞を行う時は、いつも宜しくと言う意味を込めてキスをしてから始めるのだ。
その島ごとに舞い散る物は違って、だから速度も硬さも何もかもが違っている。それをわかっていて、俺は到着する島の植物を相手にいつもこうして剣舞をするのだ。
同じような木の葉でも、種類により大きさも違えば重さも違う。そのどちらかが違うだけで、落ちる速度等も変わってくるから、自然は良い訓練の相手となる。それに、木の葉も花弁も切り刻まれ踏み潰される事は必要な事でもあるから、自然破壊にはならない。
気持ちを落ち着けて、そうしなければ溢れてしまいそうになる。弟や隊員としてしか見てくれてないとわかっているのに、今の関係を壊しそうになるんだ。
同性である事を考えたら、同室になっている今も充分異質だ。それ以上を望むなんて、それこそ天罰が降りそうだよな。
困ったような笑顔を向けられるのも、突き放されるのも嫌で、俺はどうにも動けないでいる。なら、動かなくても大丈夫なように、今ある幸福を壊さない為に、俺には気持ちを抑え込む必要があるんだ。
けれども小枝が折れる音が聞こえて振り向けば、そこには想いを消したいと願う相手がいて、楽しそうに笑っている。それに慌てて頭を下げると、その手がそっと髪を弄り始めた。
「舞いの稽古か、武術の稽古か、どちらだね?」
「両方兼ねてました」
「付き合うよ。……構えな」
2人だけで会った時、イゾウさんは封印した筈のそれを抜いてくれる。その剣舞は美しく靱やか。
けれどもそれに見惚れていては、命さえ危うくなる。そういう意味では魔性と呼べるかも知れないな。
交わされる刃が、想いを伝えてくれたらいいのに。斬り裂く空気のように、想いを断ち切ってくれたら良いのに。
互いに次に相手がどう動くのか分かる。短剣と刀であるのにどうしてこう乱れる事無く、打ち合い、躱し、舞うように切り結び続けられるのか。
けれども足元にあった小石に足を取られてバランスを崩せば、イゾウさんからのそれを受け止めきれずに吹き飛ばされてしまう。少し離れたところにあった岩に背中を打ち付ける形で止まった俺の動きは、けれども呼吸さえ苦しくなるもの。
少し動くと痛む事から、何処かに怪我をしたらしいと知る。でも心配そうに駆けてくる姿を見れば、そんなの伝えられる筈もない。
いつも余裕の顔で笑ってるのに、こんな時だけ心配そうに顔を歪めるから期待してしまう。怪我したのが俺じゃなくても、イゾウさんは同じように反応するとわかってるのに。
「大丈夫かい?」
「えぇ、問題ありません」
「……怪我をしたのか。帰るよ。マルコに診て貰い「この程度、怪我のウチに入りません」」
俺が咄嗟に言葉を遮ると、イゾウさんは俺を強制的に抱き上げて歩き出す。それに抵抗しようとすると、指先から脳天まで突き抜けるような痛みが走り息を飲む事となり、それによりイゾウさんは顔を顰める。
「俺は惚れてる相手に怪我させて喜ぶ趣味は無いよ。早く治して貰いな」
「……はい?」
「…………まさか、気付いてなかった、のかい?」
「へ?」
「鈍いとは思ってたがね。予想外だよ」
そう言ってひとしきり笑った後、俺を抱き上げたその状態で掠める程度の口付けをしてくる。それに反応出来ずにいる俺に、そっと囁きを落として来た。
「続きは、怪我が治ってからな?」
「まっ!?俺、返事……!して、な「俺を、好きだろ。他の答えは有り得ない事くらいわかってるさね」」
艶やかな笑みを浮かべてそう言ったイゾウさんに、俺はオトコなんだけどとか、色々言葉は浮かぶ。なのに結局何も言えず、俺はただモビーまで連れ帰られる事となった。
顔を隠す方法が他にないからと理由をつけて、イゾウさんに強く抱きついたままで。触れられる理由がある事が、泣きそうな程に嬉しかった。